「あなっ、おまっ、おぬっ、みつっ、くそっ、きちっ……」
 頭をぽりぽりと掻いてお茶を啜る初代様に、カリンちゃんさんはこれまで何百年の言いたい事全てが口の中で大混雑しているようだった。
 指を差したまま、泣いているような笑っているような怒っているような照れているような、目をめいっぱい見開いて口の輪郭をふにゃふにゃさせ続けている。
「あー、んー、某って時代でもねーか。光年といっしょでいいな。俺だ俺。紛らわしいが間違う奴ァいねーだろう」
 そんなカリンちゃんを放置して、初代様はひらりと軽く跳んで光姫さんの隣に立つ。
 目線を彼女に合わせるように座り、顔を近づけてまじまじと眺め始めた。
「おお、これが瑙乃のイレギュラーのツラか。うーむどこを取っても美少女……花凛をもうちょい成長させたらこうなるんかね。うまそうだ」
 舌なめずりをする彼に、光姫さんは緊張を隠せない。
「しょ、初代様……なのですか……?」
 おずおずと尋ねると、初代様は待ってましたとばかりに美少女と見間違うばかりに長くなった髪の毛を振って、大見得を切る。

「おォよ。天下に名高い美男子祓魔、瑙乃光時たァ俺のこと。
 悪い妖怪、不貞フテた神さん、魔羅をぶちこみゃ俺のスケ、ってなァ!!
 あ、ちなみに女の事をスケって言うのは昭和時代からだから覚えておけ。テストに出るぞ」

 ししし、と笑う初代様は、背格好だけなら調子こいたジャリガキにしか見えないが。
 その風格? 雰囲気? 態度?
 全部微妙に異なる気がして、なんと言えばわからないながら。
『あ、この人英雄だ』って一発でわかる直感と。
『え、英雄ってこういう人なの?』っって疑問を感じざるを得ない印象。
 相反するようなそれらが同時に頭に入ってくるような、そんな不思議な人だった。
「しっかしお嬢ちゃん可愛いねぇ~。光姫ちゃんよ、おじいちゃん最近腰が悪くってさァ、介護が必要なんだよ介護。そういうわけでビンビンになった俺のチンポ、まずはちょーーーーっとその可愛いお口で咥えて……」
 突如、英雄から三十段くらい格落ちして典型的エロオヤジになる初代様。ズボンの上からでも形がわかるその勃起ペニィスを取り出そうとする、も。
「このっ」
「獄門狗牙ッ!!!」
 混乱の真っ最中だったので対応が遅れに遅れたカリンちゃんさんのひよひよパンチと、反射的に出してしまった僕の牙札(頭をガードできるやつを緊急用に家に入る前から引いていた)が挟み撃ちにした。
 とは言え。
「何だ、これは」
 受け止められたのは、カリンちゃんさんの方のみ。僕が顕現させた山狗の牙は、視線一つで止められていた。
 僕も咄嗟に出してしまったせいで殺すつもりなど毛頭なかったにせよ、牽制するつもりはあった。
 鋭い眼光に射貫かれて、ではなく。
 ちらと見ただけで、僕の身体は踏み込む事を恐れたのだ。
「いや、質問に答えてくれよ」
 黙りこくる僕に、初代様は、繰り返す。


「何だ、これは」


 そこでハッとする。
 僕は、喋ることができる、自分の口を持っていたのだった。
 今、気付いた。
 彼と言う『人間』を目の前にして、自分が単細胞生物か何かにでもなったような気がした。
「牙札――『獄門狗牙』……なんですけど……」
「ほーん。この造りは瑙乃製か。かっこいいもん持ってんじゃんみーの兄ちゃん。もっと上手く使いこなせるこったな」
 彼が怒っていなかった事に安堵する。
 急にテンションが平常になるから、もしかしてあれがガチギレ状態なのかと思った。
「いやぁ、悪りィ悪りィ。一応女が幸せな彼氏持ちと既婚者には手は出さねェようには心がけてるんだが、あんまりに美味そうだったからよォ。二人っきりのプレイに飽きてきたら俺もご相反に預からせてくれや」
 要するに半分冗談だったが半分は本気だったと言うことだ。あっぶねージジイ。
「わ、私たち……そんな関係、なの、かな……?」
 照れながらも訪ねてくる光姫さんに、僕が何か言うより早く初代様が食いつく。
「おっと、フリーだったか? そいじゃァ早いもん勝ちだな」
「この小僧と光姫はとっくの昔に相思相愛らぶらぶかっぷるじゃっ!!!!
 儂が認めた婚約者ふぃあんせから光姫を寝取ろうなど、舐めおるなこのっ…………」
 ようやく口が回るようになったカリンちゃんさんは拳を震わせ、ご近所によくよく聞こえるように大声量で罵った。

「……富士山級うんこ男がぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 色々言おうとした末の結果、小学生のような発言をかますカリンちゃんさん。
 に、対し。
「あーやっぱ性欲止まんねェわ。花凛で一発抜くか」
 と言って掴んでいた手をぐるんと捻って抱き寄せ、ずかずかと奥の部屋に引き摺っていった。
「おい、待てっ、この……」
「はいはい後でな後で」
 抵抗するカリンちゃんさんを適当にあしらい、ぴしゃりと襖を閉めた。
 ……と思ったらちょっとだけ開いて、僕たちに向かって言った。

「まぁ、さっきの詫びだ。見てもいいぜ」

 そして、喚き暴れるカリンちゃんさんの服を口笛混じりに脱がし。
 彼女の中へと、腰を押し進めた。

「ひぃ、やああああああああああああああああぁぁぁぁぁんっ!!!!!」
 
 最初の一突きを食らっただけでカリンちゃんさんの蕩けた嬌声が響き渡る。
 語尾に完全にハートマークが付いている甘いイキ声に、僕は一瞬で完全勃起した。

「はっはっはっはっは! いやァ、やっぱり花凛の穴は一番だ! 身体を触ってやっただけでぐっじゅぐじゅに溢れさせた汁が絡む、このせまっ苦しくてぷりぷりっとしたまんこ肉!
 俺のチンポも大喜びで震えてるわ! う~っこれこれっ、生き返ったって感じがすらァな!
 あ、俺のっつってもチンポは光年のか。なっはっはっは!!!」
 などと言いつつ、テンポもペースも関係ないとばかりに腰を高速で動かす初代様。
 カリンちゃんさんは、その一突きごとに断末魔じみたアクメ声を響かせる。
 水遊びでもしているかのような淫猥な効果音と共に。
「あーっ!!!」
「あ、ひーっ!!!」
「し、死ぬっ……!!」
「死んで、しまっ……!!」
 性交が開始してからの秒数の、何倍もの絶頂が彼女を襲っている。
 既にその身体に力はなく、小便を垂れ流しながらも止むことのない快楽に、完全に屈服させられていた。
「やべぇなこの熟成ガキマンコ、瑙乃の男俺のガキ共数十人に七百年間ほじくられ耕され続けて、美味さそのままに一層ねちっこくなってやがる。
 ひだ肉の一枚一枚からじゅわっとマン汁が染み出てきて、俺のマラをうましうましとしゃぶり尽くすはしたねェ肉筒よ。
 何人孕んでひり出しても締まりがゆるくならない、生まれながらの愛玩妖怪たァこいつのことだぁな!!」

 ……やばい。めっちゃシコりたい。
 欲を言うなら、ご相反に預かりたい。
 が、僕一人ならともかくここには光姫さんがいる。そんな事は……

 今、僕はふと思った。
 あっ、僕つい覗いちゃったけど光姫さんに軽蔑されやしていないだろうか。
 そして、その懸念は一瞬で消失する。
「……はぁ、はぁ……。
 あの、可愛らしい、お母様が……光年の身体を使った、初代様に……」
 僕の頭の上から、小声ながらも興奮した独り言が聞こえたからだ。

 ……やばい。めっちゃんこシコりたい。
 欲を言うなら、勢いで光姫さんとおせっせしたい。
 って言うかさっき展開の急さでスルーしたけど僕カリンちゃんさんに婚約者ふぃあんせにされてた。
 初代様の毒牙からガードするためとはいえ、親公認って事は……
 ……おせっせを致しても、許される……!?

 僕は完全淫靡ドスケベナイト空間スペースの中、自分の下腹部を触らないよう、どうにか自分を押しとどめた。 

「はー射精射精る」
「やっ……
 ら、え……」

 初代様が、カリンちゃんさんに瑙乃の種汁を吐き出した。
 もはや言葉にならない呻き声の中でさえ、語尾のハートマークは外れない。
 恐らく彼女の感覚だと、脳内をちんぽでかき回されているが如しであろう。

「ふゥ。まだやれるが……ま、とりあえず後回しだ」
 そう言ってこっちの方がいいとばかりに半裸から着流しに着衣を変え、痙攣するカリンちゃんさんのお尻をぺしぺししてから立ち上がる初代様。
 のしのしと歩いてくる彼に、出歯亀二人はあわあわと襖を開いて(特に示し合わせていないが僕が左で光姫さんが右だ)どうぞお通り下さい的なポーズを取った。
「うむ。くるしゅーない」
 どっかと座り、やっぱり立ち、台所へ行ってオレンジジュースをパックからガブ飲みしてから再度座り直す。そして思い出したかのように、
「そういや光年こいつ童貞だったか。あっはっは、まぁいいだろう。俺なンざ、だいたいいつ転生してても八歳くらいにゃァ情婦オンナがいたぜ」
 とかのたまい出した。なんてロックなジジイだ。
「初代様……その身体は、光年を、乗っ取っておられるの、ですか……?」
 不安そうに、光姫さんが尋ねだした。
 そう言えば急展開なので疑問が追い付かなかったが、彼の身体はどうなっているのだろうか。
 まさか、光年くんの意識が完全に消失した……なんてことは、多分ないとは思うが。
「あァ、そのことなんだけどよ……さっき大層に見得切っといてなんだが、俺正確には光時じゃねェのよ」
「うん?」
「え……?」
 汗ばんだ長髪……光年くんのそれより明らかに長いそれをそこらへんにあった輪ゴムで留めつつ、彼は続ける。
「瑙乃光時の魂は、花凛に喰われて完全にこの世から消えた。輪廻転生もしねェ。成仏したッてわけだな。
 今いる俺は、その花凛が喰った魂の記憶と瑙乃一族の集合意識が合わさって生まれた、いわば『なんちゃッてコピー光時』だ。
 光年と瑙乃の血が作り出した、光時のフリをしているなんか変な人格ってとこだ。ちょっとフルフロンタルみたいなとこあるかもな」
「僕UC最後まで見てないんですよね」
「見とけ見とけ。光年はフルアーマープランB全塗装で組んでたぞ。しかも三体」
「HG?」
「MG」
 マジかよ。
 金あんな瑙乃家って気持ちと光年くんその歳で結構ガチなモデラ―やねって気持ちがすごい。
 本筋に関しては、言わんとすることは概ねわかった。
 話の流れからすると、『光年くん』は無事。今ちょっと初代様の記憶を引き継いだ初代様っぽい人格が発現し、軽い暴走状態と言うか、制御できていない感じみたいだ。
 時間が立って落ち着けば、光年くんの人格が表に出てくる事だろう。

「……集合、無意識……? ……ふるふろ……??」
 一方隣の光姫さんはよく理解できていない様子だ。
 ガノタトークが邪魔だったとは言え、この人だいたいいつも首捻ってるよね。
「あァ、難しく考えなくていい。面倒だったら『ちょッとだけ光時の霊がお邪魔してる光年』ってことでも別に問題はねェから」
「わかり、ました……無事でよかった、光年……」
 光姫さんがほっとしてるから言わないけど認識としては全然ちゃうもんですよねそれ。
「まァ、本物か偽物かなんて大した問題でもあるめーよ。俺がこうやって出てきたのは、イレギュラーが重なったからだ」

 不測事態イレギュラー
 その言葉にだけ、これまでにない圧力が籠っている気がした。

「瑙乃光海の瑙乃家からの離反……これはまぁまァ、前例があるから大したことでもねェな。
 だが、花凛の一時脱走とみーの兄ちゃんの招待……これはあんまり、よろしくはない」
「……そ、それは……」
 口ごもる光姫さんと、心臓を捉まれたような焦燥感に陥る僕。
「よろしくないからあまりおいとくわけにもいかねェが……それより何より一つ。
 重大な、イレギュラーがあるよなァ?」

 彼の貫くような視線は。
 瑙乃一族の重大なイレギュラー……光姫さんを、捉えていた。
 冗談に塗れたテンションで発言していた彼が、静かに言い放つ。 

「みーの兄ちゃんがこの家に住まうのは認めてやる。セックスもしたけりゃすればいい。
 だがな……瑙乃の女は、祓魔の神髄を孕むための器。
 普通の人間でいようなど、本気で俺が認めるとでも思ったかよ」

 この人は、光年くんなんかじゃない。
 例えコピーであろうと、なんちゃッてであろうと。
 瑙乃の初代当主、祓魔の皇であることに異論など唱えられるものか。
 彼は最強にして最古の瑙乃。
 瑙乃光時、その人だ。

「なに、を……言っておる、おぬし……ッ!」
 そこでようやく、復活し着衣を整えたカリンちゃんさんが息切れながらに奥の部屋から出てきた。
 開けた襖の淵が凹み、ほとんど折りたたまれるようにめきゃりと変形する。
「光姫まで、儂と同じ目に遭わせるつもり、なのか……お前、は……!!!」
「ああ」

 瞬間、初代様がすごい勢いで何物かに殴りつけられ、外へふっ飛んで行った。
「お母様……!?」
 光姫さんには見えた、らしい。
 彼女が何をしたのかが。
「小僧を喰ってやれ、光姫。お主の中が一番安全じゃ」
「何を、なさるおつもり、ですか……!?」
 カリンちゃんさんは着物の裾部分を豪快に破り、ミニスカートの丈にして動きやすくした。
 そして腕をまくり、言う。
「決まっておろう」
 そして、歩く。
 向かう先……庭に、何事もなさそうに立っている、一人の少年がいる。
 不敵に笑う、原初の紫が。



「どうやら光年は、ろくでもない悪霊に取りつかれたようじゃの。
                   ――追い出して、その魂かっ喰らってくれる」

「たとえ修業不足でも落ちこぼれでも瑙乃が悪霊に憑かれるかっつの。
                 ――本気で俺に勝てると思ってんのか、花凛よォ」


 対峙する、はじまりの二人。
 挑発的な瑙乃光時に対し、濡尾花凛は長い髪を重力に逆らわせる程に猛っていた。

「お主が光時様を騙る痴れ者だったら、一万回殴ってからあの世に送ってやるわ。

 でも、もしも……

 あんたが光時のクソバカ腐れチンポ鬼畜外道男女男富士山級うんこ男女本人だったら……

 一千憶回ぶん殴ってから、あたしとあんたで共におっ死んで……
 
 地獄の果てでも永遠に殺し続けてやろうかねぇ……!!!!!!!!」


 僕は全く動くことができず、固まっていたところをひとかけらのチョコになって光姫さんに食べられる。
 彼女の一大事だと言うのに、彼女に守られる他なかった。
 

 おっさん、僕思うんだけど。
 やっぱり力、必要だよ。