Neetel Inside ニートノベル
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 「……うーん」
 昼食の片付けが終わった後マルカは自室に戻り、ベッドにうつぶせに倒れこむ。
 ハルは満月の弱みを握っているような言い方をしていたが、満月にはそのような様子は全く無かった。
 「やっぱり、私みたいに不幸な目に遭ってた所を助けられた、とかかな……」
 それにしたって、満月の忠誠心は異常だ。異常を通り越して意味不明の領域だった。
 マルカも同じくハルに恩を感じているとは言え、死ねと言われたら即死ぬ程の盲信はしていない。
 「やっぱり、気になる……」
 「マルカー。マルカはおるかー」
 ドアを乱暴にノックする音。間違いなくハルしかいない。
 「いますよー」
 「開けるぞー」
 「どうぞー」
 ガチャ。
 ドアは少しだけ開かれる。
 だが、ハルは入ってこなかった。
 「……?」
 マルカが訝しんでいると、ハルの顔が半分だけドアの陰から出てきた。
 「マぁぁぁルぅカちゃぁぁぁぁ~~~ん、あっそびっましょぉぉぉぉ~~~~ゥ」
 出した舌をレロレロと動かしながらゆっくりとドアを開き入ってくるハル。
 あまりの気色悪さに、マルカは顔をしかめた。
 「…………なんですか、それ」
 「エロ漫画とかに出てくる若干ホラー入った変態キモ親父の物真似。どうだった? 面白かった?」
 エロ漫画を見たことのないマルカにとっては面白さが全くわからなかった。
 「凄い気持ち悪かったです。ご主人様がまたおかしくなったのかと思いました」
 「また!?」
 ここに来てから二日目にして、ハルは『ちょくちょく頭がおかしくなる人』扱いである。
 「今のギャグは日本だとドッカンドッカン来るネタなのになー。文化の違いだわ」
 「そうなんですか……それで、何かご用ですか?」
 「んー。ロリを性的虐待しにきた」
 座り直すマルカをベッドに優しく押し倒すハル。
 だが言葉とは裏腹に、自分はその横に寝転がるだけだった。
 「ぐっ……ちんこが使い物になってれば今頃マルカは俺の毒牙にかかって泣き叫びながら許しを乞うていたところなのに。命拾いしたな」
 「怖いですねー」
 全く怖くなさそうにマルカは返す。
 「マルカさー、満月に勉強教えてもらえ。んで学校通え。あと友達作れ。ガキの内に色々やっとかねーと後悔するぞ。何か夢とかないのかお前は」
 天を仰いだまま言うハルに、マルカも同じく上を見ながら呟く。
 「私は……」
 自分は、何がしたかったのだろう。何を夢見ていたのだろう。
 両親に捨てられ、男達に慰みものにされていく内に、夢も希望も薄れていった。
 迎えに来て欲しかった。普通の女の子らしく過ごしたかった。考えていたのは、それだけだった。
 ……普通の、女の子らしく。
 そう、確か、私は……


 「恋、とか……してみたかった、です」
 「え、すればいいじゃん」
 何言ってるんだこいつ、とハルは疑問に思う。
 年頃の少女だ。そのくらい当たり前だし、今からでもすればいい。
 しかし、マルカの考えは違った。
 「無理ですよ。私はもう、汚れきっています。誰も私を……好きになんかなってくれません」
 身体の至る所には痣だらけ。女性器は黒く濁り、形は歪に変形している。そして、何十人、何百人と言う男に抱かれた売女である。
 そんな自分を愛する事ができる人など、いるわけがない。
 だが、ハルの見解は違った。
 「俺はお前の事好きだよ。性的な意味で」
 「ご主人様は……変態ですから」
 「えっ」
 マルカの容赦の無さがハルの心を抉る。
 と同時に、マルカはハルに身を寄せ、身体を密着させた。
 見ればその小さな顔は、仄かに赤く染まっている。
 「ありがとうございます……大好きです、ご主人様」
 「……何、お前俺に惚れてんの?」
 「自分でもわかりません。でも、最終的にはきっと……惚れると思います」
 「ばーか。俺は嫌がるお前にちんこ入れて喜ぶ変態キモ親父だ。エロ漫画に出てくるような、な。
 ちょっと優しくされた程度で惚れるんじゃねーよ。お前なんざ俺にとっちゃオナホール二号だ。
 お前は騙されたー騙されたーって俺の事を憎み続けて、助けに来たイケメンとでも恋に落ちりゃいーんだよ」
 そう言って笑い飛ばすが、マルカは真剣だった。
 「いませんよ、私を好きになるような変態なんて、ご主人様くらいしか」
 「アホか、この世界は変態だらけだ。だからお前は売られたり買われたりしたんだろーが。
 お前は何も知らないだけ。俺しか愛してくれる奴がいないと勘違いしてるガキんちょだ」
 「……そうなのかな」
 「そうなの。だいたい、俺は将来満月を元に戻して結婚してアメフトチーム作れるくらいガキを孕ませなきゃなんねぇんだ。
 お前あいつに勝てるか? あいつみたいな変態プレイできるか? 満月ドリンクバーできるか?」
 「ドリンクバー?」
 「どっちの乳首を押すかで下から出てくる飲み物が違うんだ。どういう仕組みか説明して欲しいか?」
 マルカはそのプレイ内容を想像し、即時に頭から振り払う。
 「……………いいです」
 「だろ」
 「……ご主人様、あまり食べ物や飲み物を粗末に扱うのは良くないと思いますよ」
 「うっせー貧乏人。いいんだよ俺達はちゃんと全部食ってるから。スペイン人とか見てみろ、トマトで町を汚してるんだぞ。まずスペイン人に文句言え」
 納得いかなさそうな顔をしているマルカ。反論を思いつくより先に、ハルは話を続ける。
 「ま、世の中にはもう少しまともな変態がいるんだ、ゴロゴロとな。お前の顔なら選び放題だよ」
 「じゃあ、その人が現れるまで……ご主人様を好きでいても、いいですか?」
 乞うような眼差し。
 バッサリ断ろうと思っていたハルは、つい情けをかけてしまいそうになる。
 「ダメだ。俺にはお前を幸せにはできない。
 ……どうしても諦めきれないってんなら、満月に相談しろ。殴られるかもしれないけどな」
 ハルは邪魔したな、と一言言って立ち上がり、部屋を出て行った。 
 これ以上この話をする気はない、と。
 そして、部屋の外でマルカに聞こえないように忍び笑いを浮かべた。
 「……殴らねーか。あいつもマルカ大好きだしな。
 それにしても、都合が悪くなると満月に丸投げする癖はマジでどうにかせんとな……」



 「……変な事言っちゃったかな」
 拾ったメイドに突然告白されて、困るのは仕方がない。
 自分でさえ、自分の気持ちがよくわからないのだ。
 ハルの事を好きになった、と言う感情は新しくできた家族に対するものなのか。それとも恋愛感情によるものなのか。
 恋の経験が無いマルカには、判断がつかなかった。
 ただ、一つだけ確かなことがあるとすれば――


 「――私は、今……幸せですよ、ご主人様」 

       

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