女中の袖に手を入れて(完結)

 「まあそんなわけで、今日から君は我が家の、と言うか俺のメイドだ。
 仕事は主に俺の性欲処理。掃除洗濯炊事は暇があったら手伝ってやってくれ。質問は?」
 「ええっと、その、あの……なんてお呼びすればいいか」
 「ご主人様、で」
 「わかりました。ご、ご主人様」
 少女のおどおどとした態度は、返答を間違えただけで……あるいは間違えてもいないのに、酷く怒鳴られ、時には殴られた経験からくる事が見て取れた。
 それも、一度や二度ではなく。
 「申し訳無いのですが……知っての通り今は私は、あの、女性器を使うことができないのですが」
 十代前半だと言うことを考慮しても随分と軽そうな細い体をした幸薄そうな少女、マルカ。
 アジア系に近い顔立ちは、両親からの遺伝なのだろう。その中にスラブ系らしい、輝きの無い緑色の瞳が印象的だ。
 ぼさぼさに伸びきった髪は短く切り揃え、清潔感が出ていた。
 彼女の性器は随分と雑に扱われていたらしく、性病こそ患っていなかったものの、酷く損傷していた。
 幸いにも治療を続ければ女性の機能には影響ないらしいが、当然しばらくの間は性交は厳禁である。
 「それに、あの、私は構わないのですが、その、見た目は戻らないってお医者さん言ってたので、気持ち悪いかもしれないです」
 「マルカが拒否しないなら俺は全然大丈夫だ。セックスは嫌じゃないのか?」
 「あまり好きじゃない、ですけど……生きるためにずっとやってきた事なので、嫌い、と言う程でもないです。
 でも、あまり痛いのや苦しいのはちょっと……苦手です」
 マルカがこれまで受けてきた苦痛は、『ちょっと苦手』で済む程度のものではないのは明らかだった。
 小汚いぼろ布を纏っただけの服から見える身体のあちこちに、痛々しい痣がいくつも刻まれていたからだ。
 今はおろしたてのメイド服を纏っているから身体の傷は見えないが、常に相手の顔色を伺う彼女の動向から、精神に負った傷は伺える。
 「わかった。なるたけハードなプレイは控えるようにしよう。相手は別にいるしな。なっはっは」
 「ありがとう……ございます」
 マルカはぺこりと頭を垂れる。
 「いやまあ、礼を言われるのもおかしいんだけどね。一応始めに言っておくと、俺は幼い女の子を手篭めにしたいからマルカを買ったんだからな。
 人身売買の未成年淫行のその他もろもろで普通ならムショ行きだからな。ま、そこら辺は全部満月が上手く処理してくれるから表沙汰になんないんだけど……げっへっへ」
 男はわざとらしく下卑た笑みを零す。
 「だから何ていうか、俺の事をいい人みたいに思うのはやめといてくれ。逆に罪悪感で死にそうになる」
 「でも、ご主人様は私を助けて下さいました……こんな服、お召し物まで用意していただいて……」
 「人の話聞いてた?」
 「あ、ご、ごめんなさい……!」
 慌てた様子でマルカが地面に膝を付いた。
 「謝られても困るわ。相当重症だなこりゃ……仕方ない、さっそく抜いて貰おうと思ったが今日はやめにしとこう。休んでていいよ」
 「は、はい……。失礼しました……」
 「満月ー。カモーンセーックス」
 とぼとぼと歩き出て行くマルカと入れ替わりに、別のメイドが部屋に入って来た。
 「失礼致します」
 「はやっ」
 銀縁の眼鏡をかけ、腰まで届く髪をたなびかせたやや長身の女性。
 歳は主人と同じく成人したてだが、その物腰と身に纏う雰囲気は、熟練の女中そのものだった。
 「相変わらず速すぎて怖いわ。どこで待機してんのお前……。まあいいや。マルカはまだ怖がってるみたいだから、いつも通り相手してくれ」
 「かしこまりました。本日はどのように致しましょうか?」
 「任せるわ。あ、後でケツ入れされて」
 「ではそのように……失礼致します」
 既に怒張していることがわかるそれを、満月と呼ばれたメイドはファスナーを下ろし丁寧に取り出した。


 じゅぽり、じゅぽり。
 部屋に、淫猥な水温が響く。
 「あーやっぱ満月の口は最高だわー……」
 椅子に座って彼女の奉仕を受けている男は、蕩けた表情で目の前の光景を眺めている。
 整った顔立ちのメイドが、自分の肉棒を咥えこんで離さない。
 喉元まで飲み込み喉奥に擦らせ、肉を絡ませ引きずりながら一気に引き戻し、鈴口に柔らかくキスをする。そして、再び喉元まで。
 主人の身体を知り尽くした満月は、上目遣いで男に目配せする。
 「このまま出すか」「出さない程度に加減して続けるか」「一旦止めるか」だ。
 射精のタイミングをコントロールすることなど、彼女にとっては文字通りに朝飯前だった。
 「ん、ちょっとストップで」
 男がそう言うと、満月はゆっくりとペニスを引き抜き、ちゅぽんと可愛い音を立てて放した。
 ハンカチで口元を拭い取る満月に、男は命令する。
 「手でちょっと焦らしてー」
 「かしこまりました」
 唾液にまみれて潤滑が良くなった陰茎を、小動物でも愛でるかのように、ゆっくりと、そしてじっくりと撫で上げた。
 満月は左手で逸物を優しく、包むように握り上下にしごくと同時に、広げた右手で亀頭を転がして柔らかい刺激を与える。
 いくらかくすぐったさが混じった快感が下腹部を襲い、腰が抜けそうになる。
 「あーやっぱ満月の手は極上だわー……」
 「お褒めに預かり光栄です」
 いつもなら右手は睾丸をいじるか、主人の気分次第では尻の穴まで指でほじりながら亀頭を咥え、眼鏡をかけたままの顔にたっぷりと精液をかけられる。
 白濁色に染められた頬に、亀頭を押し付けてしばし擦りつける。そして口の前に差し出されたら、全て舐めとって綺麗にする……ここまでが定番のパターンだった。
 満月は口を自由にした理由に、自分と話をしたいのだろうと考えた。そしてそれは当たった。
 「なんか聞かないの?」
 「……あの子の話ですか?」
 「うん。マルカちゃん。何故引き取ろうと思ったのですか、とか。メイドは自分だけで十分です、とかさ」
 手の動きを止めずに満月は答える。
 「ご主人様の判断に意を唱えはしません。私はご主人様の所有物、身体の一部、性奴隷、肉便器、オナホール、ダッチワイフ、ペニスケース、全自動おちんぽ掃除ロボ……」
 「もういいわ! って言うかどんどん長くなってるな……なんだ全自動おちんぽ掃除ロボて。初めて聞いたぞ」
 「説明しましょう。全自動おちんぽ掃除ロボとは」
 「いらんわ!」
 「失礼致しました。ともかく、私はご主人様の忠実なるメイド。死ねと言われれば死にますし、誰かを殺せと言われたら殺します。
 私がいる限り有り得ませんが、万が一にもご主人様が飢えに苦しむような事がございましたら、反省と謝罪の意も込めてこの身を火にくべて差し出しましょう」
 「発想が怖えーよ! 俺は仏陀か! ……じゃあもしも、もしもだぞ? もう一回言うが、もしも。『俺を殺せ』と命令したらお前はどうするんだ?」
 静寂の中に、ペニスを弄る音だけが響く。
 「……ご命令に背くことになります。かくなる上は切腹してお詫びを」
 「お前は武士か! 俺は仏陀か! 俺がホトケでお前がサムライ、かくもこの世は封建社会か!!」
 男は左手と右手で交互に自分とメイドを指差し、最後に両手の人差し指をメイドに突きつけた。
 「はい」
 「はいじゃねぇYO! 笑えYO!!」
 「あっははははははははは!!」
 命令された途端、無表情から極々自然な流れで笑い出す満月。表情がとても作り笑いには見えないのが恐ろしかった。
 「ごめん今のは流石に無茶振りだったわ」
 「お気になさらず」
 



 男……ハルが売春宿から少女を買い取ると言い出した時も、満月は眉一つ動かさなかった。
 そこが売春宿と言うには粗末すぎる建物だったのは、ある意味では幸いだった。金さえ積めばいとも簡単に商品を手放すからだ。
 なんでも、道端で見かけた時から気になっていたらしい。浮浪者のような格好に綺麗、とか美しい、とは言い難いにしても、確かに保護欲を煽る少女だった。
 メイド服も中々様になっている。主人の見立てが良かったのだろうとも思ったが、少し腑に落ちない点もあった。
 
 
 「では、恐れながら一つだけ質問をさせて頂いてよろしいでしょうか」
 「いいよん。あーいきそ」
 「……娼婦として働かされていた少女たちの中で、何故彼女を選んだのですか?」
 ハルの表情が、真面目になる。
 会話中も尚続く奉仕を、手で制止した。
「ご主人様の目を疑うわけではありませんが、あの中には彼女より容姿が優れた子もいたように見受けられました。
 確かに彼女も可愛い部類に入ります。が、メイドとしての適正はあまり優れないでしょう。
 彼女……マルカを選ぶ理由と言うのがおありでしたら、お聞きしたいと思案しておりました」
 「そう、目だよ。俺の」
 ハルは眼球を指で示す。
 「あの日鏡で見た自分と、同じ目をしていた。あの子はきっと、俺と同じだ」
 満月ははっと息を呑み、急いで床に手を付いた。
 「……申し訳ございません、私の思慮が足りないばかりに」
 「あーいいのいいの。気にすんな。ってかむしろ言いたかったんだよ。『あの子は……俺と同じ目をしていた』とか。超かっこよくね?」
 「世界で一番かっこいいです」
 頭を上げた満月は至って真面目な表情でそう言い切った。
 「ありがとー。いい子だねー満月は。もう大好き。結婚しよう」
 堂々と言い切った満月が愛おしいやら微笑ましいやらで、ハルは締りのない顔で彼女の頭を撫でた。
 「ご命令とあらば」
 「命令したいのは山々なんだけどね。とりあえず保留だな。後任を育てるまでは」
 「正直に申し上げますと、私のようにはならないと思われますが」
 「いいんだよそれで。お前がおかしいの。なんでそんなんなっちゃったのお前。全てにおいて助けられてるから文句は言えないけど」
 
 「御恩がありますので」
 これまでずっと鉄面皮を保っていた満月の顔が、ほんの少しだけ緩んだ……ような、気がした。


 「そうだそうだ、アナル忘れてたアナル。ご主人様に差し出せー。広げてみせろー」
 「かしこまりました、ご主人様」
 黒いレースのついたパンツを脱ぐと、彼女の菊座からはリング上の取っ手が生えていた。
 「ご用意はできております。お抜きになりますか?」
 「いや、自分で出してくれ。手を使わずにな」
 「はい。ではお見苦しいかと思われますが……失礼をば」
 満月は長いスカートの裾を口に咥え、ひと呼吸した後に立ちながら腹に力を入れ、踏ん張った。
 「んんっ……むぅ…………」
 彼女が唸ると、一つ、また一つと連なった球体が顔を出す。
 ゴルフボールより若干小さいくらいのそれが、八つ。
 満月の不浄の穴から、ごとりとひり出されて地面に落ちた。
 不浄と言っても、常日頃からいつでも主人を迎え入れられるように準備をしていた。
 雑菌などを考えると清潔とはとても言い難いが、便は付かないように気を遣っているために挿入は問題ない。
 「それでは……」
 「その前に、ちょっと味見させろ」
 そう言って椅子から立ち、代わりに満月の手を椅子の手すりにつかせる。
 主人好みの小ぶりな尻を突き出す格好になる彼女のその孔に、顔を寄せた。
 「はい……どうぞ、お召し上がり下さい。ご主人様」
 腸液がほのかに滴るそこをひと舐めし、彼女の身体が僅かに震えたのを確認すると、満足そうにハルは口の端を吊り上げた。
 「……ふう」
 肩まで湯に浸かり、マルカは一息をつく。
 「ここ、広いな……」
 合わせてテニスコート2つ分ほどの大きさの浴場には、三つの風呂があった。
 中心の大風呂と、テニスコート1つ分……つまり半分を占める露天風呂。
 そして、隅っこに設置してあるジャグジー風呂。いずれも、常に湯が供給されている。
 マルカが入ったのは、ジャグジー風呂だった。
 水流のマッサージで身体をほぐそうと思ったからではない。単純に、一番狭いからだった。
 風呂どころか、まともにシャワーすら浴びることも久々なマルカには、広い風呂は……と言うより広い家は落ち着かなかった。
 娼婦をしていた頃は、客の相手をしたら水浴びで身体を清めていた。
 凍えそうになるのを、肌の触れ合いと運動でどうにか誤魔化す。
 病気にでもなろうものなら、もうおしまいだ。客を取らない娼婦に、食料など与えられるはずがなかった。
 寝る時も、常に場所の取り合いだった。毛布一枚で殴り合いの喧嘩に発展していた事も珍しくなかった。
 気の弱いマルカは争いに参加などできるはずもなく、震えながら夜明けを待つ日々を過ごしていた。
 環境は、最悪だった。ハルに買われる事なく、あそこで娼婦……いや、性奴隷を続けていたら、遠からずマルカの身体には限界が来ていただろう。
 「私……助かったの、かな」
 だが、マルカの心にはまだ不安と、怯えが残っている。
 性欲のはけ口に少女を買う。それだけならまだ理解はできるが、よりにもよってこんなボロボロの奴隷を買う意図。それがわからなかった。
 表向きは行方不明扱い。闇から闇に消えるような、存在そのものが希薄な少女。
 どこでひっそり葬られようと、誰も気にも留めないような。世界から目を背けられた少女。
 そんなマルカを、大金をはたいても欲しがる男は……果たして彼女に、何を望むのだろうか。
 「…………」
 考えれば考えるほど、悪いイメージしか湧いてこない。
 殴る蹴る怒鳴るで済めば、まだいい。
 もしも、あの善人(マルカにはそう見える)面の下に、猟奇性を秘めていたなら……。
 傍らに立つ機械のようなメイドも、その恐ろしさに拍車をかける。
 あのメイドは、主人に口答えどころか質問すら一切しなかった。主人が紡ぐ全ての言葉に、二つ返事でイエスを返していた。
 あの人は男に、何をされたのだろうか。男はあの人を使って、私に何をしようとしているのか。
 やれと言われたら、彼女は躊躇うこと無く何でもするだろう。
 手足を切り取れと言われたら、鋸を持ってきて私の身体に刃を立てる。
 剥製にしろと言われたら、ナイフを持ちだして私の生皮を丁寧に剥ぎ取る。
 丸焼きにしろと言われたら、串を持ちだして私の身体に――
 一度疑い始めたら、もうマイナスの想像は止まらなかった。
 「に、逃げないと……」
 マルカが立ち上がる。と同時に。
 視界に入ってきたのは、ワカメのような独特な髪型をした痩せ気味の男と、服の上からはわかりにくかったが、存在感を強調する胸を持った女性。
 「あー、疲れた……お、見ろ満月。あんな所にロリがいるぞ」
 今、残虐非道の鬼畜なイメージが浮かんでいたその主人が。
 「そのようですね」
 そして、冷酷で感情の無い機械のような召使いが。
 共に全裸で浴室に入り、マルカに近づく。そして隣に座った。
 反射的に、慌てて座り直すマルカ。
 「汚れた体で失礼。出るとこだったか?」
 「い、いえ」
 「て言うかお前風呂……大丈夫なの?」
 「は、はい」
 体……主に女性器のことについて、だった。
 化膿はしていないのでなるべく清潔にするように、とは医者に言われたが、傷物になってる事には違いない。
 「どこもかしこも汚れていたので、全部洗い流しておこうと思って……」
 これまで酷使した身体とその記憶を綺麗さっぱり流したい一心で、痛みを誤魔化して丹念に清めた。
 この程度、日頃受けてきた陵辱に比べれば大したものではない。
 「そうなんだ。まあ大丈夫ならいいんだけど」
 と、そこで満月が口を開いた。
 「ご主人様、マットのご用意はいかが致しますか?」
 ハルを挟んで向こう側にいるメイド。マルカから顔は見えないが、豊満な胸はハルの後ろから飛び出ていた。
 「いらんわ。さっき散々絞られたからな。もう勃たねーよ」
 「左様でございますか」
 ハルは改めて、マルカの身体をしげしげと眺める。
 酷いものだった。
 幼く肌白い少女の、顔を除く全身に無数の歪が走っている。
 まるで、青いクレヨンだけ持った子供がキャンパスに落書きしたかのようだった。
 現代アートにしては趣味が悪すぎる。
 「あの、何か……」
 無言で見つめられたマルカは、恐々と主人に尋ねる。
 「あ、悪い。恥ずかしかったか」
 「いえ……慣れてますので」
 その繕ったような弱々しい笑みは、彼女の境遇を察するに余りあるものだった。
 マルカはまだ、『道具』だった。少なくとも、ハルにはそう見えた。
 ハルはほとんど無意識に、マルカの背中に手を回していた。
 「マルカ」
 「は、はい」
 「嫌な事があったらはっきり言え。お前のような偽善者ロリコン野郎になんか触れられるのもごめんだ、とか堂々と言っちまえ。
 俺は拒否されなければ普通にお前を犯す。好きだからな。拒否されれば何もしない。好きだからな。
 となりのねーちゃんがガンを飛ばしてくるかもしれんが」
 「そのような事はございません」
 「……それでお前を追い出したりとか、急に飯が粗末なものになったりとか、そういう事は一切しないしさせない。約束する。
 そんで、したい事があったら言え。学校行きたいとか、服買ってほしいとか、家に帰りたいとか。何だっていい。何だって聞いてやる。
 あ、思ってても死ねとか言うなよ。となりのねーちゃんがキレる」
 「そのような事は……………」
 「あるのかよ。まあともかく、お前はまだ子供なんだ。わがまま言っていいんだ。って言うかそれくらい聞いてやんねーと俺が自己嫌悪するんだよ。頼むから好き勝手してくれ」

 言われて、思い出した。
 自分はまだ、子供だったのだ。
 誰もそんな事は言ってはくれなかった。自分に課せられた役目は、性欲を満たすだけの道具だったのだ。
 人間である事すら、忘れかけていたのに。
 歳相応の『少女』として愛されたことなど、これまでに一度も。一度たりとも、無かった。
 マルカの精神が、揺れる。
 様々な感情が入り混じり。毒々しいような、それでいてどこか温もりを感じるような。そんな液体になって――
 「一つだけ……お願いします」
 「おう、言ってみろ」

 

 「……家族に………なって下さい…………」
 ――マルカの作り笑いを、溶かした。

 「もう家族だ。俺も、満月も」
 この男は、自分を騙しているのかもしれない。
 安心させた所で、非道な振る舞いをするのかもしれない。
 騙されていたとしても。この優しさが嘘だったとしても。
 今はこの優しさに、騙されていたかった。
 ようやく、少女は――泣くことができた。
 と、いい場面だったはずが――
 「む」
 「ひゃっ」
 マルカの太腿に、硬いものが当たった。
 「もう勃たないと思っていたが、ロリには勝てなかったか……馬鹿ちんぽめ。悪いなマルカ」
 「あ、あはは……大丈夫です」
 突然の感触に驚きはしたものの、嫌悪感はまるでない。
 むしろ、その温もりに親しみすら覚えるほどだった。
 「満月、やっぱりマットを――」
 「ま、待って下さい!」
 主人の命令を遮り、マルカが立ち上がる。
 歳と不釣り合いな、使い込まれて黒ずんだ陰唇が湯から出て露わになった。
 「わ、私でよろしければ……お相手致します!」
 「いや、しかしお前はまだ……」
 女性器を使うことは出来ない。
 今無理をすれば、本当に機能が失われてしまうだろう。
 「お、お口でならご奉仕できます! 是非私にやらせて下さい!」
 強がってはいるが、彼女の方からやると言い出した以上、ハルに止める理由は無い。
 「まあ、これからは飯を食うより頻繁に俺のちんぽを食うようになるんだからな。早めに慣らしておいたほうがいいか」
 「え゛……そ、そうなんですか?」
 覚悟したつもりではあったが、想定外の頻度にマルカはたじろぐ。
 その反応にくくっと笑い、ハルは手を振って宥める。
 「冗談だ。……もっとも、満月はそんな感じだが」
 「暇さえあれば私の方から咥えさせてもらっています」
 平然と言う満月に、マルカは圧倒された。
 「す、凄いですね……! 尊敬します!」
 「いやするなよ。まあ、毎日一回くらいはフェラすると思ってくれ。じゃま、頼むわ」
 湯に浸かったハルは両足を伸ばしてマルカの肩に乗せる。
 「は、はい! 失礼致します!」
 張り切ってマルカはそり立つ肉棒をぱくりと咥え込んだ。
 勢いづき過ぎて、入れた瞬間にむせこむ。
 主人のペニスを離し、ひどく咳き込んだ。
 「おいおい、大丈夫か」
 「ゲホッ、ゲホッ……も、申し訳ありません!!」
 「いやいいよ。落ち着け」
 涙目になりながらもマルカは再度口淫を試みる。
 必死でしゃぶりつくマルカ。
 幼い少女の舌が、茎に絡みつく。
 目を瞑りながらも、口をすぼめて精液を搾り取ろうと努力する。
 が、ハルの表情は半笑いのままだった。
 「ろうれすか、ごしゅひんさま?」
 「すっっっっっげー下手」
 ガーン。
 と、効果音が聞こえるレベルでマルカの表情が見る見る暗くなる。
 口からペニスを離し、しょぼんと俯く。
 「まず大前提として、歯を立てるな。痛いわ」
 「ごめんなさい……」
 「んで次に、攻めが単調。バリエーションが無さすぎる。未だ成長し続ける満月のフェラとは比べるのも失礼だ。
 満月はやろうと思えば舌だけで俺を殺せるからな。比喩ではなくマジで死ぬ。どこのくの一だお前は」
 「私にはそのような事はできません。ご主人様を殺害するくらいなら腹を掻っ捌いて死にます」
 試したことは無いがハル以外になら恐らく可能である、と言うのは二人の共通見解だ。
 「何度も言うが、お前本当に俺に忠実なら死ぬ前に許可取れよ? 絶対出さないけど」
 「……善処致します」
 「お前がいなくなるのが一番迷惑で困るんだよ……ああ悪いマルカ、まあそんなわけで、もうちょっと色々やってくれ」
 「すみません……」
 「あと必死なのはわかるが、必死すぎてかわいい。別枠でペットとして飼いたい」
 「申し訳ありま……せん……?」
 急に褒められてマルカは首を傾げる。
 「……満月、どう思う?」
 「私も飼いたいと思いました」
 「満月さん!?」
 至って真面目な顔で言う、満月。
 「間違えました。そうですね……マルカのフェラチオを見るに、彼女は男性に奉仕した経験が極めて少ないと思われます」
 「だが、マルカは散々男に抱かれたんだろ?」
 「はい。しかしそれは物として扱われただけで、自分から動くわけではない……彼女はほとんどイラマチオしかしていなかったのでは無いでしょうか」
 「そうなのか?」
 「そ、そう言えば……そうでした」
 言われてみれば、マルカはまともに自分からフェラチオした記憶が無かった。
 男共はみな無理矢理ペニスを口に突っ込んでは彼女が苦しがっても無視して腰を振り、勝手に喉奥に射精するか顔面に出すか。
 経験豊富と言うのは半ば強姦の形であって、彼女から求めるようなセックスの経験は皆無だったのだ。
 「ううう……こんな汚れた身体でもお役に立てると思ったのに……ごめんなさい……」
 ふえーん、と言ってマルカは泣きじゃくってしまった。
 「……満月、どう思う?」
 「犯したいです」
 「わかるわー」
 至って大真面目な顔で言う、満月。
 ハルと二人で号泣するマルカの頭を撫で始める。
 「大丈夫だ、お前の気持ちは十分伝わった。嬉しいやら可愛いやらでもうなんつーかお前まんこ回復したら絶対満月と二人がかりでアヘアヘ言わせてやるからな。覚悟しとけよ」
 「今から楽しみですね」
 「まあ、いいから続けてくれマルカ。歯さえ立てなければなんつーか精神的に満足するから」
 泣き続けるマルカの口を開き、ペニスを舌に乗っける。
 マルカはしゃっくりを繰り返しながらも、拙い奉仕を続けるのであった。
 
 「ここが、私の部屋……」
 案内された部屋の電気を付ける。
 ベッドの華柄といい、キャラクターものの学習用デスクといい、元の部屋主が女の子である事を伺わせる部屋だった。
 クローゼットを開けると、嗅いだことのない、それでいてどこか懐かしいような香りを漂わせ、色彩豊かな服飾が整列されていた。
 「このお屋敷、ご主人様が誰かから買ったのかな」
 屋敷にいるのはマルカを含めて三人。
 用がある時以外、満月は常にハルと共に過ごすようにしている(させている)ので、部屋は有り余っていた。
 三人……マルカが来るまでは二人。いくらお金を持っているとは言え、流石に人数に対して広すぎる。
 そしてこの、掃除が行き届いているが生活感がある部屋。新築ではない事は明らかだ。
 16畳の、豪華絢爛とはとても呼べないが、可愛らしくおしゃれな部屋。
 「……広いな」
 マルカにとっては、きらびやかな自室だった。
 そもそもマルカは自分の部屋を持ったことが無かった。
 両親の元にいた時も売春宿に売られた後も、雑魚寝の日々。
 プライバシーなんて概念は存在しなかったし、ゆったりと寝られる環境も存在しなかった。
 「マルカ」
 「は、はい」
 ベッドの柔らかさに衝撃を受けていた所、満月に呼ばれて振り返る。
 「お腹が空いているでしょう。夕飯です」
 焼けた肉の臭いが漂ってきて、ようやくマルカは空腹を思い出した。
 サービスワゴンに乗っていたのは、満月手作りの合挽ハンバーグ。
 フライドポテトに、コンソメスープ。それと、ボウル一杯の生野菜に白米。
 「まともなもん食ってない感じだったからな。とにかく野菜をたらふく食え。肉も食え。飯も食え。
 んなガリガリの身体じゃ狼さん達には相手にしてもらえないぜ」
 さっき勃起した事など棚において、ハルはにぃと笑う。
 「ご主人様の言うとおりです。いきなりものを食べ過ぎるとお腹を悪くしますが、よく噛んでなるべくたくさん食べなさい」
 「で、でも私、食事の作法が……」
 ナイフとフォークを出されても、食べ物を突き刺してそのまま口に入れる事くらいしかできない。
 申し訳無さそうに言うマルカにハルが呆れた口調で言った。
 「いーんだよ作法なんか。そんなん全部満月に任せろ。腹減ってんだろ、食いたいように食え。ガキがんなこまけー事気にすんな」
 「これからゆっくり覚えましょう。今日は私が食べさせてあげます」
 満月は丁寧に、マルカから見れば優雅に、ハルから見れば仰々しく、ハンバーグに切れ目を入れていく。
 「ありがとうございます、満月さん……いただきます!」
 「よく出来ました。はい、あーん」
 あーんと口を開けるマルカの口に、肉汁滴るハンバーグをそっと入れた。
 もぐもぐ、と言われた通りよく咀嚼し。
 ごっくん、と飲み込んで。
 ぱぁ、とマルカの顔は明るくなった。
 「こ、これ……すっごいおいしいですっ!」
 
 「ハァァァラショォォォゥ!!!」
 とびっきりの笑顔を見せられたハルは何者かに殴られたかのように後方に吹っ飛んでいき、派手に表舞台から退出した。
 「ご主人様!?……満月さん!?」
 見れば満月も、表情こそ変わりないものの、唇を噛み締めて必死に何かに耐えるようにプルプルと震えている。
 「中々やってくれますね、マルカ……私とご主人様を同時に殺しにかかるとは……」 
 「してません! してませんよ!?」
 戻ってきたハルは廊下をどれほど転げたのか、髪に服にと埃が付着していた。
 「満月……お前のガードが無かったら今ので俺は殺られてたな……まーた助けられちまった……」
 「お止め下さいご主人様……全て受け止めきれなかったのは私の失態です」
 「してませんってば!! いつガードしてたんですか!?」
 冗談とも本気ともつかない二人の会話に慌てるマルカ。
 「馬鹿な事をやってる場合じゃない、マルカはまだ腹を空かしている……ボテ腹になるまで突っ込め、満月……!!」
 「直ちにッ……!」
 二人のリアクションで食事に集中できない、とマルカは言い出すことが出来なかった。
 それでも尚、満月の料理は温かく、優しく、芳しく、美味い。
 一口食べるごとに、マルカは幸せを噛みしめる。
 美味しい食事そのものもあるが、自分がご飯を食べる事をこんなに喜ぶ人がいると言う事に、マルカは深い幸福感を得ていた。
 沢山あった料理は全て、気がつけばマルカの腹に収まっていた。
 「ごちそうさまでした。とってもおいしかったです」
 と、マルカが両手を合わせる。二人はと言えば、

 「貧乏薄幸奴隷美少女にたらふく美味い飯を食べさせて笑顔を眺める……。これ以上の幸せは、どこにもない……! ここだ! ここだったんだよ!! 俺はここにいたんだ!!! ずっと前から!!!」
 「私の役目はご主人様に仕える事私の存在意義はご主人様を満足させる事私の全てはご主人様のためだけに存在し他の如何なるものにも惑わされてはならない私は機械私は機械私は」
 壊れていた。




 「いやーしかし、とんでもねーもん拾っちまったな。兵器だありゃ」
 「ご主人様の慧眼に感服するのみです」
 闇の中。同じベッドの上で、主人とメイドが全裸で寝ていた。
 セックスもせずにお互い裸になっているのは、もはや習慣であった。
 今度こそ本当にペニスは勃たないだろう。自分の体力を考えるに、明日は久々のセックスレスになりそうだ。
 「流石に出しすぎた。悪いが明日はちんこ立たないから我慢してくれ」
 「承知致しました」
 好きな時に好きなように犯す。ハルが愉しんでいるのは当然ながら、それを求めているのは満月も同じだった。
 そもそも今の冷淡で従順な態度になった事さえ、ハルの指示ではない。
 彼女がハルの手足となるために自らを『改造』した結果であった。
 満月は、ハルを愛するあまりに、ハルを愛する恋人となるよりも、主人の命令で動く機械になる選択をした。
 「満月」
 「何でしょう」
 「マルカが仕事できるようになったら、それやめてもいいぞ」
 冗談では出てくる「結婚しよう」の言葉は、言えなかった。命令になってしまうのだ。
 「お気遣い感謝いたします。ですが、これは好きでやっているので」
 嘘と言えば嘘だし、本当と言えば本当だった。
 有能なメイドと言う仮面。半ば洗脳染みたそれを被らないと、ハルを支える事はできない。
 満月は、そう考えていた。
 「そっか。……ありがとな」
 「いえ」
 ごめんな、の言葉が出てこないのは彼女のため。
 そう心の中で言い訳する自分が、ハルは嫌いだった。

 そんな事を考えていると、小さくノックの音が響く。
 「ご主人様……」
 「マルカか? どうした」
 扉が開き、少女の影が映る。
 「……! し、失礼致しました!」
 廊下から差し込む僅かな光で見えたのは、裸で寄り添うハルと満月。
 情事の最中だと勘違いしたマルカは慌ててドアを閉めかけ、ハルに止められる。
 「いらん気を遣うな。幽霊でも出たのか?」
 「ゆ、幽霊?」
 マルカの顔が青く染まる。
 「そうだ幽霊だ。実はこの屋敷は、一家心中の末に空き家になった所を俺に買い取られたんだ」
 「そ……そうだったんですか!?」
 「嘘だ」
 「や、やめて下さいよぉ……」
 「ま、そんな所にいないでこっち来いよ。どうした?」
 「はい……」
 マルカはすっかり泣きそうな顔で歩み寄って来た。
 二人とは違い、ちゃんとパジャマを着ている。
 「広い部屋に一人で寝るのは初めてで……落ち着かないんです」
 「寂しん坊め。じゃ一緒に寝るか」
 「い、いいんですか?」
 「そのつもりで来たんだろ?」
 確かにその通りではあったが、マルカは躊躇する。
 二人の邪魔をしていいのかどうか、と。
 そんなマルカを無視して二人は同衾を薦めた。
 「ほれ、こっち来いと言うに」
 「間に入りなさい、マルカ」
 裸の男女の間に入るのはいかがなものか、と思ったがこのまま帰るわけにもいかない。
 「し、失礼します……」
 マルカは頬を仄かに染めつつ、二人の間に入れてもらった。
 「……あったかい……」
 「俺たちゃ裸がユニホームだからな。暖房消すか?」
 「あ、大丈夫です……」
 「そっか。暑かったら言えよ」
 はい、と返事をし、しばらくの間静寂が続いた。
 再び、マルカが口を開く。
 「……なんか、こうやって一緒に寝てると、私達本当の家族みたいですね」
 えへへ、とマルカが微笑む。
 「言ったろ、もうお前は家族だって」
 「ありがとうございます。とっても嬉しいです。
 ……私、お父さんとお母さんに嫌われてたんです。望まれない子、だったらしくて。
 あまり仲のよくない二人が結婚したのも、私が生まれたせいだってよく言われました。
 お前さえ生まれなければ、って。生まなければよかった、って。
 でも、私はお父さんもお母さんも大好きでした。ずっと一緒にいたかったんです。
 ……二人はそうじゃなかった。ドジでのろまな私は、あそこに預けられました。
 あそこで頑張ってれば、その内迎えに来る。私はそう、信じていました。でも……迎えは、いつまで経っても来ませんでした。
 私は預けられたのではなく、売られた……捨てられたのです」
 マルカの目が、涙に滲む。
 「……」
 「……マルカ……」
 「だから、私、自分を引き取る人がいるって事が信じられませんでした。
 てっきり、あそこより酷い扱いを受けるのかと勘違いしたくらいです。
 でも、ご主人様も、満月さんも、優しくて……
 ……私は、ここにいていいんだって、やっと思えたんです。
 ありがとうございます、ご主人様、満月さん」
 「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」
 と、突然叫びだしたハルに二人は驚く。
 マルカは勿論のこと、満月までたじろいだ。それほど急だった。
 「俺は……俺はこんないたいけな少女をうまくだまくらかして懐いた所を美味しくいただこうなんて……!!!」
 性欲が底を尽きた今、マルカに持つ感情は庇護欲のみ。
 そこでこんなことを言われては、ハルが自己嫌悪で発狂するのも当然といえば当然だった。
 「だ、大丈夫ですかご主人様!?」
 「ご主人様、落ち着いて下さい! 大丈夫です! いいんです両取りしても! マルカに欲情するのは至極当然です! むしろ欲情しない方が異常です!!」
 本人は冷静に宥めているつもりだが、傍から見た満月はどう見ても狼狽えていた。
 「俺はあああああああああ!!!!」
 「マルカ、貴方からも言ってあげて下さい!! ご主人様が死んでしまいます!!!」
 「えっ!? あっ、はい! えっと、ご主人様! マルカは大丈夫です! ご主人様も満月さんも優しいので、エッチな事も全然嫌じゃないですから!!」
 「ほ……本当か……?」
 「はい。むしろ少しでも恩返しになるのなら、私は嬉しいです」
 その言葉に、ハルは涙をぼろぼろと流し始めた。
 「天使だ……」
 満月も涙腺が緩くなるのをどうにか堪えながら、マルカを抱きしめていた。
 「俺マルカのメイドになるわ……何でも命令なさって下さいご主人様……」
 「では私はマルカのメイドのメイドと言うことになりますね……なんなりとご命令を、ご主人様……」
 「な、何言ってるんですか二人とも……寝ましょうよ……」
 「はい」
 「はい」
 夜は更けていく。
 こんな気持ちで朝を待つのは、マルカにとって初めての経験だった。
 「朝……」
 目覚める、マルカ。今日からメイドとしての日々が始まる。はずではあった。
 「起きたか、おはようマルカ」
 「ん……おはよう、ございます……今は……11時!? す、すみません!!」
 時刻はすっかり昼前。初日からメイドにあるまじき大寝坊をしてしまい、マルカは慌てて着替えようと部屋を飛び出す。
 も。
 「待てい」
 「あうっ」
 首根っこを掴まれ、マルカはずるずると部屋に引きずり戻される。
 「いーけないんだーいけないんだー。まーんげつーにーいってやろー」
 「ううう……申し訳ありませんー……」
 ハルは例の、わざとらしい下卑スマイルでマルカに迫る。
 「げっひっひっひ。寝坊する悪いメイドはご主人様から罰を与えねば」
 「罰、ですか……」
 酷い事はされないとわかっていながらも、その響きにマルカは身を固める。
 「そうだ。たっぷりと相手をしてもらおう。ご主人様のなー!!」
 「ひっ、お……お手柔らかにお願いします……」
 彼の意地悪な態度に戦々恐々としながらも、ハルを信頼できる相手と信じるマルカは覚悟を決めた。
 ハルが叫ぶ。
 
 
 「ぷよぷよで勝負だ!!」

 「…………ぷよぷよ?」
 「ぷよぷよ」
 聞きなれない単語に、マルカはしばし考えこむ。
 「えっと……とりあえず私は身体を洗ってきたほうがよろしいですか?」
 「隠語じゃねぇよ! ゲームだゲーム!!」
 「ゲーム……と言いますと、負けた方が服を脱ぐとか、勝者の性器を舐めるとか……」
 「エロから離れろ! 性欲の権化かお前は!!」
 (ご、ご主人様に言われた……)
 性欲の権化に性欲の権化呼ばわりされたマルカは地味に落ち込む。
 「昨日ハッスルしすぎてちんこが勃たねーんだよ。親睦も兼ねて、今日は普通に遊ぶぞ。ほらこれだ」
 と言い、ハルは棚からスーファミを取り出す。
 「もしかして、これは……あの伝説の、テレビゲームっ!?」
 「やったことないの!?」
 驚くマルカに驚く、ハル。
 カルチャーギャップ。この国でも大体の子供はやってると思っていたが、マルカの育った環境を考えると当然と言えば当然だった。
 「日本じゃやったことない奴なんざ年寄りくらいだぞ……そっかー、初めてかー……」
 「ご、ごめんなさい……」
 「え、ここ謝る所? まあいいや、ルールは簡単、同じ色の丸っこいのを四つくっつければ消える。ひたすら消す。基本はそんだけ」
 ハルはテレビを付け、スーファミの電源を入れる。既にぷよぷよのカセットは入っていた。
 「ま、やりながら覚えりゃいい。ほいマルカ2コン」
 「あ、はい。頑張ります!」
 渡されたマルカは、ボタンを押してゲームをするらしいと言うことを理解する。
 だが、その手に持ったコントローラーは、十字キーが右、ABXYボタンが左、コードは下から出ていた。
 逆。
 「そっからかー……」
 「え?」


 「はっはっはっはっは。八戦八勝、久々の勝ち越しだ。弱い、弱すぎるぞマルカ」
 「ご、ごめんなさい……」
 ルールは覚えたものの初心者と(自称)中級者。
 勝負になる程度の手加減こそしているものの、大人げない大人代表のハルが負ける道理は無かった。
 「あんまり謝んなって。いーんだよ俺はマルカいじめて楽しいから。
 満月相手だと手加減しまくってくるし、『本気出せや! 飯抜きにすっぞ! 俺の!!』
 って脅したら十六連鎖とか意味わからねーことされて瞬殺されたからな……
 ……あれ、もしかしてお前楽しくなかったりする?」
 「そ、そんなことないです! 楽しいです……とても」
 負け続けとは言え、初めて体験するテレビゲーム。
 楽しいのは当然だが、一番に楽しいその理由は、
 「私と遊んでくれる人なんて、誰もいませんでしたから。すっごい楽しいです!」
 ……と言ったものだった。
 これまでの人生の中で、今が一番幸せ。
 そんな笑顔に、ハルは手を伸ばした。
 「ちょろい……なんてちょろいんだこのロリは……このちょロリめ! ちょロリめ!!」
 右手で頭を、左手で顎を撫でる。
 「ふあー……」
 こそばゆそうながらも気持ちよさそうに、マルカは目を瞑って身を任せる。
 「飯を貰って遊んでもらって、そんだけですぐ懐く! 犬か! お前は犬か!! 犬耳犬尻尾つけてドギースタイルで犯してやろうか!!」
 「優しくして下さいねー……」
 もはや警戒心の欠片もないマルカ。
 ハルは深い溜息を吐き出す。
 「はー……お前は本当に人を疑うことを知らん奴だな。おじさん将来が心配だよ」
 「おじさん……? いえ、私が信頼してるのはご主人様、ハル様だからです」
 自信を持って答えるマルカに、ハルはむ、と唸る。
 「確かに、ご主人様一人に引き取られたのなら私はまだ疑ってるかもしれません。
 でも、満月さんも一緒でした。最初は、満月さんの事機械のような人だなと思ってたけど、全然違いました。
 あの人も、ご主人様と一緒で、優しくてあったかい人です。
 その満月さんがご主人様の言う事を何でも聞くのは、きっとご主人様が悪いことをできない人だから。完全に信頼してるからじゃないかって思うんです」
 どうですか、とハルの顔を見る。
 しかし。ハルの表情は少し、残念そうなものだった。

 「……半分正解で、半分ハズレだ。
 満月は確かにいい奴だよ。冷静で完璧な機械のフリをしてるが、一度情が移った奴には非情になれない。あいつは俺には勿体ない女だ。
 だが、俺は違う。俺は……ただのクズだ。性欲だけで動いて、お前らをその対象としか見ていない。
 満月が断らないって事につけこんで、あいつをメイドという檻から解放せずにセックス三昧。都合のいいオナホール女としか思っちゃいないんだよ。
 お前だってそうだ、マルカ。お前との約束……嫌がるような事をしないってのは、別にお前の事を大切に思ってるからじゃない。
 ……嫌われたくないんだ。お前に嫌われたら犯す時にいちいち嫌がって面倒だからな。
 そんな事考えている男なんだよ、俺は」
 どうだ、とマルカの顔を見る。
 しかし。マルカの表情は少しも、残念そうではなかった。

 「半分本当で、半分嘘ですね。
 満月さんの事をいい人だと思っているのと私に嫌われたくないってあたりは本当で、満月さんと私の事を大事に思っていないって言うのは真っ赤な嘘です」
 
 しばしぽかんとした後、ハルは笑いを堪えるのに精一杯だった。
 「……言うようになったじゃねぇか、マルカ。合ってるかどうかはともかく、馴染んできたのは嬉しいぜ」
 わしゃわしゃ、と今度は乱暴にマルカの髪をかき回す。
 「ふあああああ」
 「ま、誤解するなら勝手にしろ。俺はお前みたいなガキを犯せればなんでもいい。
 だがな、一つだけ事実を言っておく。お前があの売春宿でやらされていた事……
 ……それに似たような事を、俺は満月に強いている」
 「……!」
 「今のところお前にやる気は無いが、いつ気が変わるかは俺自身わからん。
 しょせんお前は俺に買われた身。ちょっと俺がその気になれば、約束なんて反故だ」
 「……嘘ですね。ご主人様に約束を破る気なんてさらさら無いです」
 マルカは強い意思を込めて、そう言い切った。
 「そう思いたいなら思えばいい。が、後になって俺が約束を破った時に『信じてたのに』とか言って泣き喚くのだけはやめろ。
 面倒は嫌いだからな」
 マルカが反論しようとしたその時、ハルのポケットから電子音が流れる。
 
 「『ジキルとハイド』さんがログインしました」
 
 「来たか……!」
 すぐさまハルは立ち上がり、ダッシュでその場から飛び出していった。
 「ご、ご主人様?」
 「マルカ、悪いがぷよぷよは満月とやってくれ! 俺はちょっと用事が出来た!
 おおおい満月ぅぅぅぅ!! 俺のパソコンどこへやったか知って……」
 
 一人取り残されてから十数秒後。
 部屋に入ってきたのは満月だった。
 「あ、満月さん……ご、ごめんなさい寝坊して……その上遊んで……」
 「構いませんよ、マルカ。ご主人様は急用ができましたので、私がお相手しましょう」
 満月は相変わらずの無表情だが、その言葉にはマルカへ対する気遣いが見える。
 マルカはほっと一安心し、胸を撫で下ろした。
 「ルールは教わったみたいですね。では、お手合わせといきましょう」
 「あ、は、はい!」
 

 「五、五戦五勝……満月さん、手加減上手いですね……」
 「いえいえ、マルカが強いのですよ」
 ……絶対嘘だ。
 マルカは軽く打ちのめされる。
 彼女は初心者故に、一戦一戦の成長が大きい。
 その成長の度合いに合わせて、満月は巧みにギリギリまで追い詰めながらも逆転敗北する。
 完全に、手玉に取られていた。
 「ご主人様以外とこうして遊ぶのは久しぶりですね……どうしました、マルカ? もしかして楽しくなかったですか?」
 当然、遊んでもらう事が楽しくないはずが無かった。
 勝って嬉しいと言う気持ちも勿論あった。
 だが、それはそれとしてものすごい手加減されていると言う事実は、勝負事の経験が少ないマルカには少しだけ堪えた。
 「ううう……とっても楽しいです……」
 「それなら良かったのですが」
 「満月さん、お仕事中なのに私と遊んでくれてありがとうございます。私も、何か手伝える事があれば……」
 「いえ、ご主人様に付き合って頂いてむしろ私が感謝したいくらいです。私では至らないばかりに、ご主人様に不快な思いをさせてしまいますから」
 「そんな事……」
 とまで言って、満月の絶妙極まりない手加減を思い出して少し考える。
 「…………な、ないですよ!」
 今の間はなんだろう、と思ったが、満月は聞かないでおいた。
 「ご主人様、満月さんに凄く感謝してましたもん。『俺には勿体無い女だ』って」
 「そんな……私はご主人様の所有物、身体の一部、性奴隷、肉便器、オナホール、ダッチワイフ、ペニスケース、全自動おちんぽ掃除ロボ、人の皮を被った醜く小汚い雌豚……」
 「長いですよ! 長いですよ満月さん! 雌豚じゃないです! どう見ても人間です!」 
 「説明しましょう。私は一見人に見えますがその実態は」
 「いいですいいです、説明はいいですから!!」
 満月はこほんと咳払いを一回。
 「失礼致しました。ともかく、私はご主人様の忠実なるメイド。それ以上でもなければ、それ以下でもありません」
 「そう、ですか……」
 満月はゆっくりとマルカの背中に両手を回し、優しく抱きしめた。
 「私を気遣ってくれてありがとうございます。
 ……いい子ですね、マルカは。ご主人様の心の穴を埋められるのは、私のような冷たい女ではなく……きっと、貴方なのでしょう」
 「満月さん……」
 そう囁く彼女の抱擁は、とても温もりに溢れたものだった。
 ご主人様も、満月さんも、どうして自分を悪く言うのだろう。
 二人とも、こんなに優しいのに。
 「……一つ、聞いてもいいですか?」
 満月はマルカをゆっくりと離し、頷いた。
 「どうぞ」
 「ご主人様が言ってたんです。私があそこでさせられてたような事を、満月さんに無理矢理させているって。
 ……あれは、嘘ですよね?」

 満月は、それを聞いて――




 「……?」
 ――首を捻った。
 「マルカがさせられてた事……半ば強姦に近い性奉仕ですか?」
 「多分、そう言う事だと思います。俺は何でも言う事を聞く満月に甘えて、オナホール扱いしてるだけのクズだ、って……」
 「……なるほど、分かりました。ただ、一言で答えるとどうしても誤解を招きますね……。
 まあ、いいでしょう。そんな事実はありません」
 それを聞いたマルカは、ぱぁっと明るい笑顔を見せた。
 「そうですよね! まさかご主人様がそんな事するわけ……」
 「性行為を含め、私とご主人様の間で起こっている全ては、お互いの合意の上です。
 裸にして目隠しをされ縛られた上に膣と肛門にバイブを入れて半日放置されたり、一日の間ご主人様のペニスから出るもの以外の飲食を禁じられたり、
 丸裸で四つん這い状態の私に跨ってお尻を鞭で叩きながら館を一周したり、フェラチオした後で精液をご飯に吐き出すように強要され、精液まみれの食事を手を使わずに這って食べながら後ろから突かれたり、そう言うプレイはありますが」
 「あ、あれ!? 結構酷い!? そんな事されてたんですか!?」
 「言い出したのはご主人様ですが、全て合意の上です。私も愉しませていただいてます。
 気持ちいいですよ。きっと、マルカにはしないでしょうけど」
 きっぱりと言い切る満月に、マルカは言葉に詰まる。
 「……断れない、んですか?」
 「断らないのです。断る理由がありませんので」
 平然と、満月はそう言う。

 マルカは理解した。
 この人達は、間違いなく良い人達だ。
 でも、間違いなく狂っている。
 それは人格が破綻しているとか、精神の均衡が危ういとか、そういう大袈裟な話では無い。
 数有る歯車の、一つのほんの一部が。ジグソーパズルのピースの一つの、一辺だけが。
 そこに無いのだ。恐らく、無くしてしまったのだ。

 「満月さん、もう一つ聞いてもいいですか?」
 「何でしょう」

 「ご主人様と満月さんの間にあった事を、教えてくれないでしょうか」
 
 マルカは、二人の家族として。
 ハルと満月の過去に踏み入ることを決めた。
 「そうですね。まず、私の身体について軽くお話しましょう。
 私は、ありとあらゆる性行為に応じるために自らの身体を改造しました。
 身体の感度……性的快感を受ける強さを、コントロールすることができるのです。
 直接ご主人様の手で触られるのと、道具で弄くられるのとではまた興奮も違いますが、基本的に敏感な設定にしてあります。
 その気になればお尻を軽く触られただけで絶頂に達したりすることも、また逆に、ご主人様の精巣が空になるまで丸一日逆レイプさせていただくことも可能です。
 その前提で、話を聞いてくださいね。
 ある日、ご主人様が裸になってベッドに寝ろとおっしゃるので私は言われた通りに衣類を脱ぎました。
 今日はどんな事をして下さるのかと胸の高鳴りを沈めていたら、ご主人様はロープ……SMプレイ用の綿素材のものです。
 それで私の身体を縛り始めました。私の身体に傷が付かないように配慮してくださるご主人様は本当にお優しい方ですね。
 正座の姿勢から足を90度開き、後ろに回した両手を動かせないように固定し、亀甲縛りの形で私を拘束なさりました。
 締め付けはキツすぎないか、と確認されたので、私は『はい』と答えました。
 胸にお尻に縄が食い込みハムのような豚肉になった私を、ご主人様は軽く撫で上げます。この時には既に、私はかなり興奮していましたね。
 股が濡れているのを見て、ご主人様が嬉しそうにバイブ……通称『ハル二号』と『ハル三号』を持ち出しました。
 そして、私の穴にゆっくりとねじ込みます。
 ぬぷり、じゅぬり。卑猥な水音を立てて、おまんこに多数の突起が付いたハル二号が埋まりました。
 お尻にはローションを染み込ませます。
 ひんやりした液体が肛門に触れると、私の身体はピクンと軽く跳ねます。間を置かずに、バイブが侵入してきました。
 私が小さく声を漏らす間にも、それはどんどん奥へと突き進んできます。
 ずぶり、と根本まで刺さった荒々しく頭部が回転するハル三号を、私のアナルはずっぽりと咥えました。
 二本のバイブはロープで取れないようにしっかり固定され、電源を入れられるのを待つのみです。
 眼鏡を外し鉢巻のような布で目隠しをされ、口元にはギャグボールをはめられます。
 その直前に、ご主人様はおっしゃいました。
 『この状態でバイブ入れて半日放置するけど身体大丈夫そう?』と。
 当然ですが、身体を固定された状態で長時間放置されると、それなりに苦痛があります。
 私は答えました。
 『はい』と。
 『そっか、なら良かった』の声と同時に、私の口は封じられます。
 もう嫌だと言っても無駄ですし、そもそも私は嫌だと言いません。
 明らかに身体に異常をきたし、ご主人様のお相手を努められなくなるであろう場合にはその旨をお伝えしますが。
 そして、そのままゆっくりと抱え込んで後ろに倒されます。正面から見て、私の陰部とそこに刺さってるものは丸見えですね。
 『じゃ、頑張れ』
 その言葉だけで、私は何日でもこのままでいられそうでした。
 そして、バイブのスイッチ音。
 ハル二号と三号は、私の両穴を食い破るかのように激しくその運動を開始します。
 「~~~~~~~~~~~~!!」
 声にならない声を上げ、ギャグボールを砕くかのように噛み締めます。
 私は早速エクスタシーを迎え、潮を勢い良く噴射しました。
 少し遠くで、扉の閉まる音が聞こえました。放置の始まりです。
 スイッチが敏感から切り替わってない私にとって、二本のバイブは飽きることのない悦楽。
 おまんこもアナルも、激しく動くそれらを美味しそうに貪ります。
 いえ、実際にそれらは美味しかったです。こうして思い返すだけで、私のいやらしい性穴たちがひくひくと歪動するほど。
 触ってみますか、マルカ? あなたの細い指も、中々美味しそうです。
 ……冗談ですよ。そんなに顔を赤くしちゃって、可愛いですね。
 ああ、本当に触りたかったらご主人様の許可を頂いて下さい。私はご主人様のものなので。
 多分、ご主人様は喜んで鑑賞なさると思いますよ。
 話を戻しましょう。
 半日……後で時計を見たら、約八時間もの間。
 私は休むこと無くバイブに犯され続けました。
 途中で電池が切れる……そんな事もない優秀な彼等は、私の穴を機械的に抉り続けます。
 止めどない快感。拷問と言っても過言ではないそれに、私は晒され続けました。気を失う事も無く。
 緩みきった尿道からは、我慢できずに尿が噴出されます。その時自分では見えませんでしたが、綺麗な放物線を描いましたね。
 尿だけではありません。失禁を切っ掛けとして、穴と言う穴から液体が漏れ始めます。
 濡れた、と言うより浸った……そんな段階まで、私はシーツに体液を染み付かせました。
 もはや、何度絶頂に達したのかもわからない。
 私そのものが快楽の余り液体となって、ベッドに溶けてしまったのでは無いか。そう思ってしまうほど。
 ああ、もうご主人様に奉仕することはできないのですね。
 申し訳ありません、ご主人様。どうかお気に病まないで下さいませ。
 もし最後のわがままをお聞きになさって下さるなら、どうか私の変わり果てた姿にご主人様の精液をかけて下さい、それ以上の事は望みません――
 ……今思い返すと頭のおかしい狂言ですが、あの時は真剣そのものでした。
 私の鍛え方がまだまだだったと言うべきか、ご主人様の意向に添えてよかったと言うべきか。
 完璧を追い求めるのも難儀なものです。
 もうすっかり脳がやられていた頃、満を持してご主人様がやってきました。
 予想以上に私が痴態を晒していた事に驚いたご主人様は、慌てて目隠しとギャグボールを取って下さいました。
 『え、ちょ、満月、大丈夫か?』
 『は……い……』
 私はご主人様のお顔を見れて、これ以上ない安心感に浸りました。
 ご主人様はすぐさま縄をほどき、バイブのスイッチを切ります。
 過呼吸気味になり、舌を出して痙攣する様は、とても完璧なメイドからは遠いものでしたね。
 バイブを抜こうとするご主人様の手を、私は発言で止めました。
 『まって……くださ……いま……ぬくと……うんち……でちゃい……ま……」
 ご主人様は頷いて私を抱きかかえ、トイレへと向かってくださいました。
 丸裸でどろどろになり、排便を我慢しているというロマンチックの欠片もないシチュエーション。
 ですが、ご主人様にお姫様抱っこされていた時の私は、世界で一番の幸せものでした。
 その後、ベッドに戻った私達。
 ご主人様は私にお謝りになりましたが、私はそれをお止め致しました。
 『お気になさらないで下さい……それよりも……よろしければ……私を……お使い下さいませ……』
 既にご主人様のおちんぽは昂ぶっておられます。
 いや、しかしと躊躇するご主人様に私はのしかかり……
 ……美味しくいただいてもらいました。
 
 後日、撮影していた映像を二人で鑑賞。
 私は自分の未熟さに身を引き締めながらも、ご主人様のペニスを愉しませるのでした」
 
 あの、と言いかけるマルカを無視して、尚も満月は話を続ける。
 「普通メイドの食事というものは、お仕えする人達が食べ終わってから取ります。
 ご主人様はお優しいので、『んなもん気にせんでいい』と仰ってくれました。ので、私やマルカはご主人様とご一緒に食事をすることになります。
 ですが、ご主人様の気分次第ではそうならない時もあります。あの日がそうでした。

 『満月、ちょっとしたいことがあるんだが話を聞いてくれるか』
 珍しく早く起きたご主人様は、私が朝食を作る前に呼び止めました。
 『はい、何のお話でしょう』
 『今日一日、俺のちんこから出たもの以外は何も食ったり飲んだりしないでくれって言ったら怒る?』
 怒るわけがございません。
 『滅相もありません。お望みでしたら、そのように致します』
 『そうか、いつも無茶言って悪いな。その代わりと言っちゃなんだが……本当に何様のつもりだって話だが、俺のちんこはお前が好きな時に使ってくれ』
 『かしこまりました』
 『ところで、朝の小便がまだだったな。トイレに行ってくるか』
 『お待ちくださいご主人様』
 『どうした?』
 くるりと私に背を向けるご主人様を、私はお引き止め致しました。
 『便器なら、ここにございます』
 ご主人様は、その言葉を待っていたかのように笑いました。

 半勃ち状態のご主人様を、私は口でお迎えします。
 服はそのまま。場所もそのまま。
 私は携帯用肉便器なので、ご主人様がいついかなる時に尿意を催しになっても、決して大事に至ることはありません。
 ご主人様がご所望でしたら私は喜んで大便器にもなりますが、流石にそこまでやる気は無い、とのことです。
 私はペニスに余計な刺激を与えて邪魔をしないように心掛けました。
 舌で味わいたいのをぐっと我慢し、便器の役目を努めます。
 ご主人様も、室内トイレ以外で出すのは感覚が違うのでしょう。少し時間がかかりました。私はただ、それを正座して待つのみです。
 『出るぞ』
 言うが早いか、私の口に温かい液体が流れこんで来ました。
 ご主人様のおしっこ。その日の私にとっては、大切な水分です。
 舌で味わいます。塩気の中に、僅かな酸味と苦味を感じられました。
 アンモニアの強い匂いが鼻を抜けていきますが、不快感は全くありませんでした。
 当然です、ご主人様のおしっこなのですから。毎日飲むことも苦ではありません。
 無意識なのか意識的なのか、尿の勢いは強くありませんでした。ちょろちょろ、と私の口に飛び込んできます。
 ですが、そのまま溜めこんでは私の小さな口はすぐに満杯になり、お漏らししてしまいます。
 喉を鳴らし、私はご主人様のおしっこを飲み始めました。
 喉元を、ご主人様の味が、匂いが通り抜けていきます。そして胃に到達し、やがて吸収されていくでしょう。
 私の身体が、ご主人様で満ちていくのを感じられました。考えただけで、身体が熱くなります。
 本当に、ご主人様の身体の一部になった気分でした。それは、私にとっての悲願でもあります。
 ……引きますか。まあ、マルカもその内わかりますよ。
 飲むのに抵抗があるのなら、飲ませてみるのはどうでしょう。
 ご主人様はどう仰るかわかりませんが、私でよろしければ飲みますよ。
 ご主人様のと味比べをするのも、楽しみです。
 さて、私は次から次へと押し寄せるそれを、むせないように気をつけながら飲み続けました。
 やがて水圧はどんどん弱まり、おしっこの終焉が近づいてきます。
 『ふぅ』
 ぶるっ、とおちんちんが口の中で震えたのがわかりました。
 残った尿を、私はしっかりと味わって全て飲み干します。
 と。そこでご主人様は私の頭をお掴みになりました。
 気がつけば、ご主人差様のおちんちんもすっかり勃起なさっています。
 『まだ足りないだろ?』
 その問いに、私は小さく頷きました。
 瞬間、喉の奥までペニスが差し込まれます。急な感覚に戻してしまいそうになるのを、私はどうにか堪えました。
 私の口に激しく腰を叩きつけになるご主人様。急に始まったイラマチオに、私は口をすぼめて対応します。
 ご主人様のおちんぽについて、私ほど詳しい人はいません。
 おちんぽの大きさと形をこれ以上無く把握している私は、それよりやや小さい穴へと口内を変貌させます。
 そうして私は、小便器からオナホールへ身体を作り替え、ご主人様から栄養を頂きます。
 口内を犯された私は秘部から疼きを感じました。
 いや、もっと前から。ご主人様に触られただけで、私はそこが濡れる身体になっているのです。すぐにでもご主人様を受け入れられるように。
 口淫中の自慰の許可は、前に取ってあります。
 私は濡れそぼったそこに指を這わせ、卑猥な音を立て始めました。
 ちゅく、ちゅく。
 ご主人様から頂いた貴重な水分は、すぐに消費され始めてしまいました。
 この身体は、ご主人様の一部。それなら私の手も、ご主人様の一部なのでしょう。
 私はお口とおまんこを、同時にご主人様に捧げました。
 脳が痺れるような快感に、女としての最上級の悦びを感じて。
 私は達しました。同時にご主人様も、私にご褒美を下さいました……。

 お昼。」

 「まだ続くんですか!?」

 「はい。
 私が昼食の準備……一人分のそれを作っていると、香ばしい匂いにお腹の音が鳴りました。
 お腹が空くのは当然です。まだ尿を一杯、精液を射精一回分しか頂いていないのですから。
 『へー腹減ったんだ』
 ご主人様も空腹でいらしたようで、私が料理してる途中もずっとお尻を触ってお待ちになられていました。
 『はい』
 『じゃ、昼は一緒に食うか』
 そういう事になりました。
 ご主人様がテーブルでご飯を食べ、私はテーブルの下でご主人様を頂きます。
 ご主人様が私特製のウィンナーを食べている最中に、私はご主人様のウインナーを頬張っていました。
 ご主人様は食欲と性欲が同時に満たされてとてもご満悦の様子でした。私も嬉しくなります。
 『食うか?』
 私の働きに、ご主人様は一本ウインナーを差し出しました。
 確かに私は空腹でした。ご主人様なら、それを食べてもお叱りになることは無かったでしょう。
 ですが、私は首を横に振りました。
 『よーしいい子いい子』
 ご主人様に、頭を撫でて褒めてもらえるからです。そのためなら、私は何でもできます。
 『じゃ、特別ルールって事で。下の口で食ってくれ。後で俺が食うから落とすなよ』
 私は頷いて、受け取ったウインナーを膣で食べ始めました。
 ご主人様のおちんぽより細いそれでしたが、ご主人様が後でお食べになると考えたら愛おしく思えてきます。
 それを摘んで、激しく出し入れを繰り返します。私の味を、匂いを、しっかりと染み付かせるために。
 何度も、何度も。おまんこで、ウインナーをしごき、私で汚しました。
 お口でのご奉仕も忘れてはいません。ご主人様が食べ終わるまで一回。食べ終わった直後に一回。精液を搾り取らせて頂きました。
 『満月』
 『はい』
 私は愛しいおちんぽから口を離し、テーブルからのそのそと這い出てきました。
 『じゃ、ここな』
 食べ終わった食器を隅にやり、スペースをお作りになるご主人様。寝ろ、と言う意味です。
 私はそこに身を預け、足を広げて秘部を丸出しにしました。毛はご主人様の意向で常に剃ってありますし、当然パンツなど履いていません。
 ご主人様が顔を寄せます。それを確認し、
 『どうぞ、お召し上がり下さい』
 そう言って力を入れると、私の膣がゆっくりと開き、ウインナーの先端が顔を出します。
 まるで、出産しているかのようでした。おちんちんが生えたようにも見えます。 
 恥ずかしさと、これを食べて貰えると言う嬉しさのあまり目元が熱くなり、少しだけ涙が出てきました。
 マルカ。引かないで下さい。逃がしませんよ。
 ご主人様はウインナーを、舌で持ち上げました。私の中が、ぐにっと変形します。
 『んっ……』
 予想外の刺激に、ウインナーがするりと半分以上抜けます。
 それをご主人様は歯で固定すると。
 『ひぁっ!?』
 なんと、私の中に押し戻して来たのです。
 ご主人様は私の陰唇と口吻し、密着します。そしてウインナーと膣内の間、肉壁に舌を這わせて来ました。
 『あぁ……っ』
 時折ツンツンとウインナーを突かれると、押されたウインナーは私の子宮を刺激して激しい快感に見舞われます。
 出る。入る。出る。入る。
 ウインナーは私の膣とご主人様のお口の間を何度も往復し、二人の体液で混じり合います。
 未知の感覚に私が恍惚としていると、ご主人様はこう仰ったのです。
 
 『満月のちんこ、美味いな』

 その発言を聞いた私は、人生で三番目の衝撃に襲われました。
 今ご主人様が咥えているのは、ウインナーではありませんでした。なんと、私のおちんぽだったのです。
 その事実を知った私は、きっと真っ赤な顔をしていた事でしょう。
 マルカ。私は正常です。あまり茶々を入れると貴女にも同じプレイをしますよ。よろしい。
 ご主人様はクンニと同時にフェラチオを行い、私の貧相なおちんぽを味わってくださいます。
 私の手は自然と、ご主人様の頭に伸びていました。はっとして止めるそれを、ご主人様は掴んで引き寄せます。
 そうして私は、ご主人様にご奉仕していただく形になりました。
 初めて体験する、フェラチオの感覚。自分でされると、こうも気持ちいいものだったとは思いませんでした。
 先っぽを、竿を、根本を、ご主人様が愛でる度に、私の身体は面白いほどに震えさせられます。
 未曾有の快感が身体を突き抜けて、頭が甘い刺激で満ちていきます
 完全に自分の一部と化したそれの感覚に身を捩らせているところでした。
 『そろそろ食うぞ』
 ご主人様はついに、ウインナーを、今は私の愛しいペニスでもあるそれを、食べてしまうのです。
 大好きなおちんぽとの別れ。自分の一部を喪失すると言う不安感。痛みに対する恐怖。
 それら全ては、何の意味も持ちません。私の存在は、全てご主人様の為にあるのですから。
 『はい……どうぞ……』
 そして、ご主人様に食べられてしまうと言うのは、ご主人様に身を捧げる私にとって至上の悦びでもあるのです。
 私はおちんぽを伸ばし、ご主人様に差し出します。
 ご主人様は、その先端を歯で挟むと――

 ――ぱり。

 「っっっ!!!」
 痛みはありませんでした。その代わり、痛いほどの痺れがペニスを伝わり、おまんこの奥を震わせます。
 ぱり、ぱり、ぱり。
 一口齧られるたびに、私の身体は大きく震えます。
 私のものが、ご主人様のものになる。
 胸は破裂しそうになるほど高鳴り、身体は痙攣し、テーブルは私の体液でびしょびしょになっていました。
 絶頂を……それこそ射精するかのような快感が何度も何度も襲い、私の頭はおかしくなってしまいそうでした。
 ……………。
 そして最後の一口が私の膣を離れ、ご主人様の口へと吸い込まれていきます。
 私は淫乱ふたなり被食願望ドMメイドから、ただの淫乱肉便器ドMメイドへと戻ったわけです。
 余韻に浸り、名残惜しさで一杯になっていた私にご主人様は手を合わせます。
 『ご馳走様でした』
 そして間髪入れずに、こう言います。
 『いただきます』
 そして私は食後のデザートとして、ご主人様の舌を愉しませるのでした。

  夜。」

 「もういいです!! 満月さん、もう結構です!!!」
 半分キレた口調でマルカは満月の言葉を遮る。
 「どうしましたマルカ。まだ夜がありますよ。ここからが本番なのに」
 「これ以上どんな変態プレイがあるんですか!!」
 「ご主人様のおしっこをお尻に流し込まれて栓を」
 「あーあー!! いらないです! ノーセンキューです!! 私が聞きたかったのはエッチな話じゃありません!!!」
 「まあ」
 わざとらしく驚く満月に、マルカは両手をぶんぶんと振り回して抗議する。
 「絶対わかってたでしょ!? 私が聞いたのは、ご主人様と満月さんがどうやって知り合って、どうやって今の関係になったかって事です!!
 「てっきりご主人様と私の間にあったプレイに興味があるのかと」
 「なんで真面目な顔して聞いたのにそう解釈できるんですか!! ……私は真剣に聞いているのに……」
 落ち込んでふてくされたマルカを、満月が頭を撫でて宥める。
 「はぐらかしてごめんなさいね、マルカ」
 「やっぱりはぐらかしていたんですか……」
 「でも、その問いにお答えすることはできないのです」
 「……何でですか?」
 「ご主人様は、きっと言って欲しくないでしょうから」
 満月は、全てにおいてハルの意思を優先する。
 マルカの頼みと言えど、許可無く話をするわけにはいかなかった。
 「その通りだ。よくわかってんじゃねえか、満月。流石だな」
 と、言いながら部屋に入ってきたのはハルだった。
 「う、ご主人様……」
 「お褒めに預かり光栄です」
 満月はいつも通りだが、マルカは少し引いている。
 「あれ、何かマルカの反応がよそよそしいような。何今の『う』って」
 「き、気のせいですよ。それより、ご主人様! 満月さんと出会った経緯を……」
 「今言ったろ。わざわざ話すほどのもんでもねーって。もう昼回ってんぞ、飯食え飯」
 そう言ってハルは部屋を出て、ダイニングへ向かって行った。
 「私も昼食の支度をしないといけませんね。料理はできてますから、マルカもいらっしゃい」
 満月も後に続き、部屋にはマルカが残された。
 「……」
 釈然としない。
 だが、マルカは自分の立場を思い出し、頭を切り替えようとはする。
 「……私も手伝おう」
 それでも、心に残ったわだかまりは消えることはなかった。
 
 「……うーん」
 昼食の片付けが終わった後マルカは自室に戻り、ベッドにうつぶせに倒れこむ。
 ハルは満月の弱みを握っているような言い方をしていたが、満月にはそのような様子は全く無かった。
 「やっぱり、私みたいに不幸な目に遭ってた所を助けられた、とかかな……」
 それにしたって、満月の忠誠心は異常だ。異常を通り越して意味不明の領域だった。
 マルカも同じくハルに恩を感じているとは言え、死ねと言われたら即死ぬ程の盲信はしていない。
 「やっぱり、気になる……」
 「マルカー。マルカはおるかー」
 ドアを乱暴にノックする音。間違いなくハルしかいない。
 「いますよー」
 「開けるぞー」
 「どうぞー」
 ガチャ。
 ドアは少しだけ開かれる。
 だが、ハルは入ってこなかった。
 「……?」
 マルカが訝しんでいると、ハルの顔が半分だけドアの陰から出てきた。
 「マぁぁぁルぅカちゃぁぁぁぁ~~~ん、あっそびっましょぉぉぉぉ~~~~ゥ」
 出した舌をレロレロと動かしながらゆっくりとドアを開き入ってくるハル。
 あまりの気色悪さに、マルカは顔をしかめた。
 「…………なんですか、それ」
 「エロ漫画とかに出てくる若干ホラー入った変態キモ親父の物真似。どうだった? 面白かった?」
 エロ漫画を見たことのないマルカにとっては面白さが全くわからなかった。
 「凄い気持ち悪かったです。ご主人様がまたおかしくなったのかと思いました」
 「また!?」
 ここに来てから二日目にして、ハルは『ちょくちょく頭がおかしくなる人』扱いである。
 「今のギャグは日本だとドッカンドッカン来るネタなのになー。文化の違いだわ」
 「そうなんですか……それで、何かご用ですか?」
 「んー。ロリを性的虐待しにきた」
 座り直すマルカをベッドに優しく押し倒すハル。
 だが言葉とは裏腹に、自分はその横に寝転がるだけだった。
 「ぐっ……ちんこが使い物になってれば今頃マルカは俺の毒牙にかかって泣き叫びながら許しを乞うていたところなのに。命拾いしたな」
 「怖いですねー」
 全く怖くなさそうにマルカは返す。
 「マルカさー、満月に勉強教えてもらえ。んで学校通え。あと友達作れ。ガキの内に色々やっとかねーと後悔するぞ。何か夢とかないのかお前は」
 天を仰いだまま言うハルに、マルカも同じく上を見ながら呟く。
 「私は……」
 自分は、何がしたかったのだろう。何を夢見ていたのだろう。
 両親に捨てられ、男達に慰みものにされていく内に、夢も希望も薄れていった。
 迎えに来て欲しかった。普通の女の子らしく過ごしたかった。考えていたのは、それだけだった。
 ……普通の、女の子らしく。
 そう、確か、私は……


 「恋、とか……してみたかった、です」
 「え、すればいいじゃん」
 何言ってるんだこいつ、とハルは疑問に思う。
 年頃の少女だ。そのくらい当たり前だし、今からでもすればいい。
 しかし、マルカの考えは違った。
 「無理ですよ。私はもう、汚れきっています。誰も私を……好きになんかなってくれません」
 身体の至る所には痣だらけ。女性器は黒く濁り、形は歪に変形している。そして、何十人、何百人と言う男に抱かれた売女である。
 そんな自分を愛する事ができる人など、いるわけがない。
 だが、ハルの見解は違った。
 「俺はお前の事好きだよ。性的な意味で」
 「ご主人様は……変態ですから」
 「えっ」
 マルカの容赦の無さがハルの心を抉る。
 と同時に、マルカはハルに身を寄せ、身体を密着させた。
 見ればその小さな顔は、仄かに赤く染まっている。
 「ありがとうございます……大好きです、ご主人様」
 「……何、お前俺に惚れてんの?」
 「自分でもわかりません。でも、最終的にはきっと……惚れると思います」
 「ばーか。俺は嫌がるお前にちんこ入れて喜ぶ変態キモ親父だ。エロ漫画に出てくるような、な。
 ちょっと優しくされた程度で惚れるんじゃねーよ。お前なんざ俺にとっちゃオナホール二号だ。
 お前は騙されたー騙されたーって俺の事を憎み続けて、助けに来たイケメンとでも恋に落ちりゃいーんだよ」
 そう言って笑い飛ばすが、マルカは真剣だった。
 「いませんよ、私を好きになるような変態なんて、ご主人様くらいしか」
 「アホか、この世界は変態だらけだ。だからお前は売られたり買われたりしたんだろーが。
 お前は何も知らないだけ。俺しか愛してくれる奴がいないと勘違いしてるガキんちょだ」
 「……そうなのかな」
 「そうなの。だいたい、俺は将来満月を元に戻して結婚してアメフトチーム作れるくらいガキを孕ませなきゃなんねぇんだ。
 お前あいつに勝てるか? あいつみたいな変態プレイできるか? 満月ドリンクバーできるか?」
 「ドリンクバー?」
 「どっちの乳首を押すかで下から出てくる飲み物が違うんだ。どういう仕組みか説明して欲しいか?」
 マルカはそのプレイ内容を想像し、即時に頭から振り払う。
 「……………いいです」
 「だろ」
 「……ご主人様、あまり食べ物や飲み物を粗末に扱うのは良くないと思いますよ」
 「うっせー貧乏人。いいんだよ俺達はちゃんと全部食ってるから。スペイン人とか見てみろ、トマトで町を汚してるんだぞ。まずスペイン人に文句言え」
 納得いかなさそうな顔をしているマルカ。反論を思いつくより先に、ハルは話を続ける。
 「ま、世の中にはもう少しまともな変態がいるんだ、ゴロゴロとな。お前の顔なら選び放題だよ」
 「じゃあ、その人が現れるまで……ご主人様を好きでいても、いいですか?」
 乞うような眼差し。
 バッサリ断ろうと思っていたハルは、つい情けをかけてしまいそうになる。
 「ダメだ。俺にはお前を幸せにはできない。
 ……どうしても諦めきれないってんなら、満月に相談しろ。殴られるかもしれないけどな」
 ハルは邪魔したな、と一言言って立ち上がり、部屋を出て行った。 
 これ以上この話をする気はない、と。
 そして、部屋の外でマルカに聞こえないように忍び笑いを浮かべた。
 「……殴らねーか。あいつもマルカ大好きだしな。
 それにしても、都合が悪くなると満月に丸投げする癖はマジでどうにかせんとな……」



 「……変な事言っちゃったかな」
 拾ったメイドに突然告白されて、困るのは仕方がない。
 自分でさえ、自分の気持ちがよくわからないのだ。
 ハルの事を好きになった、と言う感情は新しくできた家族に対するものなのか。それとも恋愛感情によるものなのか。
 恋の経験が無いマルカには、判断がつかなかった。
 ただ、一つだけ確かなことがあるとすれば――


 「――私は、今……幸せですよ、ご主人様」 
 「満月さんに相談、か……」
 ベッドに寝転がり考えこむマルカ。
 確かに、恋の相談をするなら同性にした方が適当だろう。
 聡明な満月なら、間違いなく的確なアドバイスをくれるはずだ……
 「でも……」
 気になる相手がハルじゃなかったら、そう言い切れただろう。
 満月がハルに恋愛以上の感情を抱いているのはもはやこの館では常識だ。
 ハルの為なら何でもするし、ハルの側に居ることを幸福としている。
 愛情を超えて盲信となった彼女の感情は、マルカの理解の範囲外にあるのだ。
 そんな満月に、ハルの事を好きになった、恋しているかもしれない……なんて言ったら。彼女はどんな反応を示すだろう。
 「……やっぱり、怒るよね」
 恋のライバル、なんて可愛いものではない。
 ハルを横取りする可能性が少しでもある相手に、満月はどんな仕打ちを下すだろうか。
 「…………」
 想像するだけで震え上がる。
 顔の形を欲情しないような形状に作り替えられるかもしれない。
 女性機能を根こそぎ奪いとって性交そのものを不可能にするかもしれない。
 最悪、邪魔者は事故として――
 「マルカ、夕飯何か食べたいものは……」
 「うわああああああああああああああああ!!!!」
 突然呼びかけられて、マルカはベッドの端まで高速で後ずさりをした。
 「……マルカ?」
 きょとんとする満月に、マルカは息を荒くして答えた。
 「ままま、満月さん、どうしました!?」
 「どうしましたはこちらが聞きたいのですが。扉が開けっ放しになっていたので、ノックせずに呼ばせてもらいました……大丈夫ですか?」
 ハルの仕業だ。
 「は、はい……」
 「失礼しますよ。何か悩みでもあるならお聞きしますが」
 やってきたのは、悩みそのものだった。
 (……でも、私の気持ちは……)
 渋るマルカに寄り、座る満月。
 ひたすら唸って考えこむ少女に催促するでもなく、彼女が喋るのを待っていた。
 「……例えば、の話ですけど」
 「はい」
 「ご主人様が、別の女の人を好きになったりしたら……満月さんはどうします?」
 目を合わせずに、尋ねる。
 今目を見られたら、全て見透かされてしまう気がしてならなかったからだ。
 「どうする、とは?」
 「満月さんはご主人様の事が好きですよね。でも、もしもご主人様が他の人と結婚したいと言ったら……
 満月さんは、相手に、ご主人様に、どう思いますか?」
 「どう思う、ですか。おめでとうございます、と思うでしょうね」
 あっけらかんとそう言う満月に、ついマルカは振り向いてしまった。
 「えっ!? ……満月さん、誰かにご主人様を取られてしまって大丈夫なんですか?」
 しまった、と思う前には満月は返事をしていた。いつも通りの口調で、表情。
 「マルカは勘違いしてるようですね。私はご主人様のメイド、それ以下ではあっても、それ以上ではありません。
 ご主人様の意思は即ち私の意思。ご主人様が誰かと結婚したいとおっしゃるのなら、止める権利などありませんし止めようとも思いません」
 権利が無い、と言うのは正確ではない。
 権利を捨てたのだ。満月が、自ら。
 「……だから、マルカがご主人様と結婚することになっても、ひどい事をしたりはしませんよ」
 僅かに微笑んだような表情を見せる、満月。
 「! ち、ちがいます! 私はご主人様を横取りしようだなんて、そんな……」
 「わかってますよ。でも、私に遠慮することはありませんよ、マルカ。ご主人様が幸せなら、私も幸せです。
 ご主人様がマルカを娶りたいとおっしゃるなら、マルカも私のご主人様となる。それだけです」
 語りかけるように優しい満月の口調は、マルカを安心させる。
 だが、問題はこれからが本番なのだ。
 「私は……ご主人様に、恋をしているのでしょうか」
 「あら、自分でわからないのですか?」
 「はい。これまで恋なんてしたことないんです。ご主人様に対する好きと言う感情が、どういうものなのか……
 新しい家族に対する好き、なのか。助けだしてもらった事に対する恩の好き、なのか。異性としての好き、なのか。
 私には、わかりません」
 ふむ、と考え込んだ末に、満月は確信めいたものを持った。
 「それはきっと、全部ですね」
 「全部……?」
 「はい。家族としても好き。この館で暮らせるようにしてくれた事も好き。ご主人様は魅力に溢れたお方なので、男性としても好き。
 少なくとも、今は色々な『好き』が混ざった状態でしょう。好きと言う感情は、無理に別々に分ける必要は無いのです。
 一緒に過ごしていく内に、どの好きが一番になるかはわかりません。自然にそうなったら、そう思えばいい。それだけの事です」
 満月の言うことはもっともだった。しかし。
 「でも、ご主人様は俺を好きになるな、って……。幸せにできない、って言ってたから、多分異性としての好き、だとは思うんですけど……」
 ハルから貰った言葉は、突き放すような。しかし優しさを込めた、拒絶だった。
 「恋をしたいならすればいい。でも俺はやめておけ……そう言ってました」
 「ご主人様も、恐らく同じです。マルカに対する好きは、一つじゃありません。
 マルカを性の対象として好きであると同時に、家族としても好きなのでしょう。
 マルカに奉仕を強いる負い目もあって、貴女を少しでも幸せにしてあげたい。そう、お考えになっている……のではないでしょうか」
 「私は……」
 満月がマルカを抱きかかえる。
 マルカは、こうやって抱擁されるのが好きだった。思わず、自分も背中に手を回してしまう。
 「ゆっくり考えていけばいいのですよ。今答えを出す必要はありません。
 まだマルカには、これからいろいろな出会いが待っています。そこで、恋をする事もあるでしょう。
 それでも、どうしても、ご主人様以上に好きな人はいない……そう心から思ったら、もう一度言えばいいのです。
 『貴方の隣に居ることが、私の一番の幸せです』と」
 「…………ありがとうございます」
 色々な意味を込めての、礼だった。
 相談に乗ってくれたこと。自分の心の靄を振り払ってくれたこと。
 そして、ハルを好きでいてもいいと言ってくれたこと。
 (……やっぱりすごいな、満月さんは)
 こんな女性が側にいてくれて、敬ってくれる。ハルが羨ましかった。
 (勝てないだろうな……こんな素敵な人には)
 そして、ちょっとだけ複雑な気分にさせた。
 「ところでマルカ」
 「はい?」
 「私の事は、好きですか?」
 心なしか、抱きしめる力が強まったような気がした。
 「はい、勿論です。満月さんも大好きですよ」
 「それは、どういう好きですか?」
 「うーん……ご主人様に対する好き、と似ていると思います。同じかどうかはわかりませんけど……」
 「私は、ご主人様がマルカに対して感じているであろう『好き』と、恐らく同じ感情です」
 「…………え?」
 急に。
 柔らかい肉質と甘い匂いが、マルカの口を満たした。
 「!?」
 口内に侵入する、満月の舌。
 身体でそうしてるのと同じように、マルカの舌をきゅっと抱きしめた。
 ゆっくりと、離す。
 「ま……満月さん?」
 マルカの顔は紅潮していた。
 拒絶の色は見えないが、それでも相当慌てている。
 「どこの世界でもそうですが、三角関係と言うのは辛いものです。
 誰か一人が、結ばれた二人の間から弾かれて、消えてしまう……。
 きっと優しいマルカは思うでしょう。自分は弾かれたくない。でも、私が弾かれるのも心が痛む、と。
 ならば全員、相思相愛になればいいのです。全員が全員を愛すれば、誰も弾かれない。幸せな世界が続くのです」
 もっともらしいことを言いながら、マルカの背中をまさぐるようにさする満月。
 「ででででも、私達女同士ですよっ!?」
 「何の問題があると言うのでしょうか。私はマルカの事を好きですよ。同性ですけど、性の対象として。
 ……マルカは、私とそういう関係になるのは嫌ですか?」
 顔が再び近づく。
 端正な、顔だ。女から見ても、目の前にあるとどきりとしてしまうような。
 「いや、じゃ……ない、です」
 そう言って、今度は自分から口吻を仕掛けるマルカ。
 満月の優しい味が、口いっぱいに広がった。
 「よかった。実のところ、私はご主人様の次に家族が好きで、その次に可愛い男の子と女の子が好きなんです。
 そして貴女は家族で、可愛い可愛い女の子。きっとご主人様もお喜びになるでしょう。早速カメラの用意をしないと」
 「え、これからですか!? 今おっぱじめる気ですか!?」
 「はい」
 意気揚々とハルの部屋に向かう満月。
 ゆっくりとドアが閉められて、マルカはほんの僅かの、一人の時間を迎えた。 
 
 「『マルカの頭が馬鹿にならない程度にな(ニッコリ』だそうです」
 三脚とビデオカメラをベッドの横にセットし、満月はメイド服を脱ぎ始める。
 「頭が馬鹿になるような行為もお手のものなんですね……」
 もはや逃げ場はない。マルカも不承不承と言った様子で同調する。
 「本当ならウォーターマットの上でねっとりオイルマッサージ風奴隷少女の公開連続潮吹きショーを行うところでしたが、
 どろどろになったマルカに二つの理由で挿入できないご主人様が生殺しになってしまうために、今回は軽ーいいちゃいちゃエッチです」
 理由の一つはマルカの性器の状態。もう一つは、ハルの性器の状態である。
 二人がダメな以上、挿入はおろかあまりに激しく変態的倒錯的なセックスなどすべきではない。そう満月は判断した。
 「今回は、ってことはその内するんですか、そんな事……?」
もうドン引きする事すら慣れつつあるマルカに、満月はしれっと返す。
 「あら、私はこれでもマルカの事を思ってやろうとしているのですよ。
 これまで道具として使われて、セックスで気持よくなんかなったことのないマルカに女としての悦びを教えて差し上げようかと」
 嘘だ。
 絶対自分達がやりたいだけだ。
 そう思ったが、マルカは黙っていた。
 確かに、ほとんど濡れてもいないのに有無を言わさずねじ込むように挿入して、膣内を傷つけるような連中に比べれば遥かにマシではあった。
 だがしかし、だがしかし。どうも釈然としない。
 下着姿になり、うーと唸るマルカ。
 「大丈夫ですよ。マルカが泣いたり叫んだりいやーとかやめてーとか死んじゃうーとか言うのは痛みではなく全部快感によってですから」
 「あまり大丈夫じゃなさそうなんですけど!?」
 満月が暖房のスイッチを入れる。
 裸になり、布団を被らなくても事に及べるようにだ。
 ハルが見る為の映像はしっかりと撮っておかねばならない。
 「さて」
 今日は下着を普通に付けている満月。
 ハルの趣味である少し派手なフリルの(と言っても、乳首や性器が丸出しになっているようなのもあるのでそれらに比べたら地味だが)付いたパンツとブラジャーに、手をかける。
 まずはブラジャーのホックを外す。と。
 ぷるん、とたわわな胸が露わになる。
 「おー……」
 マルカも改めてそれを見、感嘆の声を漏らす。
 「はー……」
 そして、自分のそれと見比べ、溜息を吐き出す。
 マルカの胸は、正しく平らであった。同年代の少女と比べても、やはり成長は遅い方であろう。
 「いいなー、満月さんはスタイル良くて……私なんかこんなに平坦で……」
 「気にする事はありませんよ。私もご主人様も、マルカみたいな未成熟の果実を無理矢理もぎ取って食べ散らかすのが趣味なのですから」
 「全然フォローになってないです」
 「それに、私の胸でしたら今日はマルカのものです。自分のだと思って好きなように扱って下さい」
 言いながら、パンツをするすると下ろす。毛はきちんと剃り尽くされ、ほとんど筋に近いぴっちりと閉じた女性器が露出する。
 「おまんこも綺麗……と言うか、ご主人様のお相手を何度もして、どうしてそんな形にできるんですか……!?」
 「そう言う身体になるようにしてますので」
 「……」
 自分の秘部をちらりと見るマルカ。
 少女のものとは思えない、浅黒く肥大した小陰唇。
 身体の痣は治るとしても、ここはずっとこのままだと考えると涙すら出てきそうになる。
 「いいんですよマルカ。こんな無垢そうで可愛い女の子のおまんこがこんな色をしていて、本人もそれを気にしているともなると、私もご主人様も逆に興奮します。幸せにします」
 「全然フォローになってないです」
 フォローになってないわけでもないが、マルカはそう言う。
 むしろ、引かれたり嫌悪されたりしないのは嬉しさすらある。照れ隠しで言っただけだ。
 「勿論、私のおまんこもマルカのお好きなようにいじって構いません。なんでしたら、これまでに犯された恨みを私にぶつけても構いませんよ。多少は丈夫にできてますので」
 「そんな事しませんよ……丈夫? どういうこと……?」
 満月の身体のメカニズムについて疑問を覚えるマルカ。
 そう言う身体、とはどう言う身体なのだろうか。
 「その辺りは、企業秘密と言うことにしましょう。マルカもご主人様の為に常時挿入可能な淫乱メイドを目指したいと言うのなら特別に」
 「いいです」
 即答。
 「……そうですか。では愛しあいましょう、マルカ」
 そう言って、満月は生まれたままの姿でベッドに転がる。
 「この次は私がマルカを美味しく食べてしまうとして、今日はマルカが拙い手つき舌つきで、私を食べて下さい。
 味の方は、ご主人様のお墨付きですよ」
 同性から見ても、彼女の身体は体躯も顔も全て魅力的だ。
 芸術品……まるで、古代ギリシャの彫刻のような。
 いや、彫刻にしては、その身体は肉感的すぎる。
 そしてそれを自由にしていい……そんな事を考えていると、マルカの鼓動はどんどん早くなる。
 「は、はい。じゃあ、その、よろしくお願いします」
 マルカもベッドに上り、四つん這いの姿勢で満月に近づく。
 真上まで来て目が合った所で、覆いかぶさるように、その身体をゆっくりと重ね合わせた。
 少女の軽い身体を、全身で受け止める満月。
 胸同士がぶつかり合い、満月の柔らかなそれが潰される。
 マルカは敏感な胸で押しつぶされる巨乳の圧を感じた。
 「す、すごい柔らかいです、満月さんの胸」
 「ありがとうございます。どうぞ弄くり下さい」
 満月はマルカの手首を掴み、自分の胸へと誘導した。
 「おおー……!」
 マルカの目が輝く。
 重量感があり、手の中で溶けるように形を変えるそれは記憶にあるかぎり初めての……
 いや、もしかしたら生涯で初かもしれない、母性との遭遇だった。
 「す、好きにしていいんですよね?」
 「はい、どうぞ」
 「じゃ、じゃあ失礼します!」
 マルカが積極的になり始める。
 温もりに飢えていた彼女にとって、満月の巨乳は性的にでなくとも、求めていたそれだった。
 双房の間に顔を挟んで、両の頬でそれを感じるように撫で回す。
 「はぁぁ……あったかい……やわらかい……」
 緊張をゆるめ、幸せそうに呟くマルカ。
 満月は彼女の背中に優しく手を回し、甘えられる感覚を楽しむ。
 「精一杯甘えなさい、マルカ。母乳は出ませんが、おっぱいを吸ってもいいんですよ。お母さんだと思って結構です」
 「お母さん、ですか……」
 満月の提案に、マルカはやや躊躇する。
 脳裏に、名ばかりの……しかし彼女にとっては唯一の母の顔が浮かんだからだ。
 おずおずとマルカは尋ねる。
 「お母さんはいるから……お姉ちゃん、じゃおかしいですか……?」
 「最高です」
 上目遣いに見るマルカにNOを突きつけられるわけもない。
 満月は自分の乳首を舌でちろっと舐めた後に口に含む妹の頭を撫でて、悦に浸る。
 「Ma soeur.」
 「へ?」
 「何でもないです。どうぞ続けて下さい」
 「あ、はい」
 目を瞑って、拙い動きで乳を吸うマルカ。
 「赤ちゃんみたいで可愛いですよ、マルカ。妹に欲情する変態でよければ、私はずっとマルカのお姉ちゃんです」
 「ありがとう、ございます……おねえちゃん……」
 喋りながらもそれを求める、飢えた少女。
 ハルの責めとはまるで異なる舌の動き。乳などまともに吸った事もないような、遠慮しがちな唇。
 マルカにとっては肉親のスキンシップであるそれは、満月にとっては性的興奮に繋がるものだった。
 実に十分以上もの長い間、マルカは満月の柔肉を口に含み続けた。
 満月もそれを、頭を撫でながら楽しんでいた。
 
 「……はっ」
 すっかり巨乳の虜になっていたマルカは我に返り、満月の乳房から口を離す。
 「す、すみません、つい夢中になってしまいました……」
 「いえいえ。私も気持ちよかったですよ。これからも、エッチしてない時でもいつでも好きな時に甘えていいですからね」
 「はい。お、お願いします」
 恥ずかしながらも頷くマルカ。
 「ご主人様にも尋ねてみて下さい。私が勝手に許可を出すことはできませんが、きっといつでも甘えていいとおっしゃるはずですから」
 「はい……満月さんがお姉ちゃんなら、ご主人様をお兄ちゃんと呼んだら……ダメですよね、ご主人様に対して」
 あははと笑うマルカ。
 「……それも聞いてみてはいかがでしょう」
 ハルがダメなどと言うはずも無かった。
 マルカは二人の妹である。
 例え彼女を見る目が性欲に塗れていても、その認識はもはや揺るがないだろう。
 そしてマルカも、そう見られている事を含めて二人の事が好きだった。
 「……ところで、満月さん頭のそれ取らないんですか? 眼鏡も」
 指さしたのはメイドのヘッドドレスだった。マルカが言った通り、眼鏡も付けたままである。
 「ヘッドドレスはメイドの証。寝るときも入浴するときも常にこれを被り、自分への枷とするのです。
 これを取る時は、メイドを辞める時か、外出時に普通の格好でいろと言われた時か、あるいは単に洗濯したりするのに交換する時です」
 「割と頻繁に取るんですね」
 「そして眼鏡は伊達です。ご主人様の趣味ですが、これは普通に寝るときや入浴時は取ります」
 「あ、そうなんですか」
 「外しますか?」
 「じゃあ……外して下さい。次は……ちゅーしたい、です」
 「かしこまりました」
 
 マルカは満月の上から下り、横に寝転がる形に移る。
 そして向い合って、ゆっくりと顔を近づけた。
 満月の端正な顔に見つめられると、満月は恥ずかしさに目を閉じてしまう。
 そのまま、口づけを交わす二人。
 「むぅ」
 「んっ」
 唾液を流し込まれ、マルカの口の中は満月の匂いで満たされた。
 甘く、とろけそうになるような味に、つい目を開けるマルカ。
 満月は優しく口を離した。
 「飲んでくれますか?」
 おずおずと、しかし明確に頷くマルカ。
 ごくりと喉を鳴らすと、満月の体液が食道を伝って身体に染み込む感覚。全身がぷるっと震える。
 「次は、マルカの唾液を私に下さい」
 言いながら、再び口を密着させる満月。
 マルカは多少困惑しながらも、口の中に貯めた唾を満月の舌へと送らせる。
 受け取った満月の舌がするすると縮み、マルカの唾液を喉に流し込んだ。
 満月の喉に動きがあるのを感じる。
 そして、また満月は口を離す。
 「ごちそうさまでした。マルカの体液はこれから私の体液となって、そして私の体液はご主人様の体液となり、更にご主人様の体液はマルカの体液となります。リサイクルですね」
 「うぅー……全然違います……」
 遠回しな言い方が、尚更想像を掻き立てる。
 マルカは辱めを受けながらも、どこか興奮するのを自分でも感じていた。
 「本当ならマルカの指や舌でフェラチオ講習を行いたいところですが、絶頂に達してしまうと少し性器に負担がかかるかもしれませんね」
 「指や舌で!?」
 「造作もない事です」
 マルカは満月の性技の巧みさに慄く。
 もはやメイドを通り越してくノ一か何かの領域だ。
 「かと言って焦らすのもそれはそれで可哀想です。自慰もできませんから。ので、今日はさっきと同じようにセックスと言うよりもスキンシップ的なキスをしましょう」
 「あ、確かにそっちの方がいいかもしれませんね……でも、満月さんはいいんですか?」
 「はい。今日はマルカの為に行ったものですから。それに、私は十分に興奮しています」
 それは別に言わなくても良かったです。
 そう思いながらも、マルカは頷いて自分から口吻を再開した。
 あまり積極的に動かない満月に、好きだ好きだと伝えるように唇を何度も付けては離し、ちゅっ、ちゅっ、と可愛らしい音を立てる。
 たまに、わずかながら舌を入れて、満月の口内の暖かさを感じた。
 彼女の香りが口いっぱいに広がるそれは官能的なものでもあったが、それ以上に心が満たされるのを実感する。
 手と手を絡ませ、家族のスキンシップにしては淫猥すぎる、そしてセックスにしては微笑ましすぎるそれを、マルカは気の済むまで堪能した。

 「……ありがとうございました、満月さん」
 長かった接吻もようやく終わった。
 すっかり緊張も溶けて、マルカの顔は明るくなっている。
 「いえ、お安い御用です。どうですか? 私の事、好きになりました?」
 言われてようやく、満月の事を好きになるように始めた行為だったと思い出した。
 「はい……どちらかと言うと、家族の方の好き、だと思いますけど。でも、大好きです。愛してます、お姉ちゃん」
 はにかむその顔は、少しは心の整理ができたようなすっきりしたものだった。
 「私もですよ、マルカ」
 そう言って、優しくちゅ、と口付ける満月。
 「でも、性器が回復したら次は本格的なセックスです。それが終わってからも甘いことを言っていられるか見物ですね」
 「優しい顔で不安になることを言わないで下さい……ふぁぁ」
 たっぷり甘えたら、急に眠気を感じてきた。
 安心感からか、瞼がどんどん重くなるのを感じる。
 「眠いです……すみません満月さん、寝てもいいですか?」
 「どうぞ。その代わり一つお願いがあります」
 「お願い?」
 「寝てる間、指を貸してもらって構いませんか?」
 「指……」
 薄目になりつつも、彼女の姿を見る。
 満月の股は、シーツに水溜りを作っていた。
 「何に使う気ですか……うーーーーーん……まあ、いいと思いますよ……」
 眠気もあって考えるのも面倒になったマルカは、満月に許可を出して目を閉じた。
 「おやすみなさい……」
 「おやすみなさい。そして、いただきます」
 薄れゆく意識の中で、マルカは右手の人差し指と中指が、生暖かい感触に包まれたのを少しだけ感じた。



 起きた時には、既に夜だった。
 照明の僅かな明かりの中、マルカは身体にかかっていた布団を上半身だけ剥がした。
 身体は裸のままだった。満月は、既にいない。
 「……」
 手探りの中に、シミになっている部分があった。先程満月が居た場所だ。
 両手を確認する。満月が使ったはずの右手は、乾いて綺麗になっていた。しっかりと拭かれた様子である。
 「……」
 マルカは右手の匂いを嗅ぐと、ぺろりとその指を舐める。
 少しだけ、しょっぱいような気がした。
 
 
 「ご主人様チンポ、復ッ活ッ! ご主人様チンポ、復ッ活ッ!!」
 朝からハイテンションな声が耳に入ってきて何かとマルカが瞼を開くと、そこには手拍子をしながら上機嫌になっているハル。
 そしてその股間にさも当然のように顔を埋めている満月の姿があった。
 「……おはようございます」
 「おはようマルカ。ほーら愛しい愛しいご主人様のチンポだぞ。しゃぶるか?」
 「いいです」
 「しゃぶってくださいよ!!」
 「はいはい、わかりました」
 未だ寝ぼけまなこのマルカは、満月が舌を這わす陰茎に顔を寄せる。
 烏賊のようなむっとする匂いの中に、満月の唾液の香り。既に一回射精した様子だ。
 「おはようございます、マルカ」
 「おはようございます、満月さん。朝からお疲れ様です」
 「私はご主人様にご奉仕するのが生き甲斐ですから」
 丹念に肉棒を撫でていた舌を、離す満月。
 代わりにマルカが、ぱっくりと咥え込んだ。
 (……間接キスだ)
 フェラチオそのものよりも、満月の唾液の残りが口に入ることに興奮を覚える。
 その液体を舐めとるかのように、丁寧に肉棒を舌でなぞった。
 (ほのかに、満月さんの味がする)
 「お、なんか上達してる。偉いぞマルカ」
 その感覚が気持ちよかったのか、ハルはマルカの頭をわしゃわしゃと撫でた。
 艶こそないものの、すっかりストレートヘアーになった短髪がくしゃりと散らばる。
 「ご主人様のペニスで講習をしようかと思いましたが、覚えが早いようですね」
 「そうだな。あまり満月に近づいてもどうせ満月以上にはならないんだし、若干拙さが残るくらいがいいかも」
 ペニスを離した満月は、ハルの小脇に抱えられている。
 メイド服から露出した豊満な乳房を鷲掴みにされ、感触を愉しまれていると同時に、自らも愛撫を愉しんでいた。
 「マルカもさー、ちんこって基本突っ込まれるだけで実物をゆっくり観察する機会なんて無かっただろ」
 「そう言えば……そうですね」
 一旦口から離し答えるマルカ。
 「俺のを色々弄ってみていいぞ。チンポトモダチ、コワクナイ」
 「……それ、ご主人様がしてほしいだけですよね?」
 「ったりめーだろ」
 「……ありがとうございます。ではおちんぽで遊ばせていただきます」
 堂々と言うハルに、マルカが呆れた顔をする。
 「マルカがなんか冷たい……」
 ハルの呟きを無視し、マルカはハルのペニスをまじまじと観察し始める。
 昨日しっかり休んだせいか海綿体は固さを取り戻し、マルカの顔面と向かい合うかのようにそびえ立っている。
 「ところで俺のちんぽって大きい?」
 「ビッグサイズです。ご主人様のもの以外で私は満足できません」
 「はははういやつめういやつめー」
 「…………」
 満月はそう言うものの、マルカにとってそれはせいぜい平均サイズだった。
 小さいと言うわけではないが取り立てて大きい、と言うわけでもない。
 「……とっても大きいです」
 マルカは処世術を身につけていた。
 「今すっごい気を遣われたような感じが……」
 「気のせいですよ、ねぇマルカ?」
 満月の発言には僅かに圧力が含まれている。
 「はい、気のせいです」
 マルカはにっこりと笑って大嘘をついた。
 「……なんか君たち昨日の一件から仲いいよね」
 昨日の一件とは、例のマルカと満月の緩い同性愛の事である。
 ハルは録画してあった一部始終(マルカが指を舐めるところまでしっかり撮影済みである)をじっくり拝見していた。
 (これは永久保存ものだわ。今度残月にも見せてやろうっと)
 ホクホクとその甘酸っぱいエロスを楽しんだ。楽しんだ、のだが。
 「はい。愛を育み合ったので」
 「またやりましょうね、満月さん」
 「マルカがしたい時に言ってくれれば、いつでも愛してあげます」
 「えへへ、約束ですよ」
 「…………」
 (満月に寝取られた気分だ)
 と言う半分冗談……にして半分本気の言葉を口にしようとしたが、満月が気に病みそうなのでハルは黙っておいた。
 自分に惚れるなとは言ったが、まさか満月に傾くとは想定外だった。
 (このまま二人が俺を差し置いて常時レズレズしだしたらどうしよう……まあ、満月が俺を放っておくはずはないが。問題はマルカだ。
 どうにか惚れさせることなく上手い具合に俺のちんこだけ好きにならないもんか……)
 繊細にして面倒なメンタルのハルが考えこんでいると、マルカはペニスを弄くりだした。
 指先で亀頭を擦ると、ハルの腰がピクンと跳ねる。
 「敏感なんですね、ここ」
 「うん亀頭はね」
 続いて傘の部分を弄り回す。ハルの声が漏れる。 
 「ご主人様、可愛いです」
 「あれ、マルカってひょっとしてS?」
 ほくそ笑むような黒い表情……とまではいかないものの、わずかに微笑むような素振り。
 少なくとも、嫌そうには見えなかった。
 「ち、違いますよ! 自分から進んで色々触る機会があまりなかったから……」
 少し頬を染めて反論。
 続いて、裏筋をつつっと撫でる。ハルがあふんと気持ち悪い声を出す。
 「どこ弄っても気持ちよくなるんですね……」
 「たりめーだサドロリ! ちんこだぞ! なめんな! なめてもいい!」
 「知りませんよ! 私はサドじゃないです!!」
 と言いながらも、今度は茎を手でしごく。
 手の中でハルがびくんびくんと脈動するのに、何か愛しいような楽しいような、変な感覚が芽生える。
 「なんか面白いですねこれ」
 「サドだ! この子隠れドSだ! これまで男達に散々弄ばれた恨みを俺で晴らそうとしてやがる!! ちょうどいい性欲馬鹿見っけみたいに思ってやがる!!!」
 「思ってないですよー!!」
 本人は気づいていないが、言葉とは裏腹にその表情は非常に楽しそうなものだった。
 満月はハルの口から制止の言葉が出ないため、主人が快楽攻めさせられても黙っている。
 「ありがとうございます! ありがとうございます!!」
 舐めますね、と一言断って手コキにフェラを付け加えたマルカに、制止どころか礼を言い始めるハル。
 どっちがご主人だかわかったものではなかった。 
 
 「ご主人様と満月さんって、こっちの人じゃありませんよね?」
 「ん、まあな。日本人だ」
 満月に一回マルカに一回出して休憩中のハルに、マルカは裸のまま問いかける。
 「でもロシア語お上手ですよね、二人とも」
 「俺はじーちゃんがこっちに住んでたからな。元から少しは喋れた。ま、ほとんど満月から教わったんだが。
 満月は完全に独学。ってか俺より早く覚えてたんだよな、こっち来る時に」
 「はい、必要になるかと思いまして」
 ハルの言葉に満月が頷く。
 「俺は晴れるって書いてハルなんだが、満月は実は本名じゃなかったりする」
 「え? そうなんですか?」
 「おう。まんこにけつで満月だ」
 「本当なら殴りますよ。冗談でも殴ります」
 「嘘ですごめんなさい」
 女性に付ける名前としてこれ以上なく酷い理由に、満月を好きなマルカは一発で激怒する。
 その握られた拳が振るわれる前に、満月が掌で包んで制止した。
 「マルカ、おやめなさい。ちょっとしたジョークですよ。笑うところです」
 と言いつつも全く笑ってない満月の顔を見て、マルカはうーと低く唸る。
 そして両手を前に出して身構えていたハルに、侮蔑混じりの視線を向けた。
 「……で、本当は何でですか?」
 「マルカちゃん怖い……いや、深い理由は無いぞ。本名と正反対にしただけだし」
 そうなんですか、と見るマルカに再び満月は頷く。
 「ええ。私の元の名は新月です。満月とは私が今の私になった際にご主人様からお授かりした、メイドとしての名前。
 私がご主人様に仕える限り、私は誇りあるこの名しか使いません。
 あと私は下半身だけが服を着て歩いているような存在なので、そっちの意味でも間違ってはいないと思われます」
 「間違ってますよ! それにおっぱいもあるじゃないですか!!」
 「え、そこ?」
 満月へのツッコミにツッコミを入れるハル。
 見ればマルカは満月の胸に顔を埋めている。相当気に入った様子だった。
 「満月さんー……」
 「あらあら、マルカは甘えん坊ですね」
 「……」
 主人を差し置いていちゃつくメイド二人にハルは危機感を覚えた。
 満月が自分を嫌いになる事や寝取られる事は絶対にあり得ない。断言できる。
 逆にどうやったらこいつを寝取れるのか教えて欲しいくらいの安心感である。
 だがマルカは違う。
 男達に何回も犯されてきた過去を持っている事から、男性そのものに少なからず嫌悪感を抱いているだろう。
 その上に頼れて甘えられて優しい姉のような存在が出来ようものなら、同性愛者になるのもおかしい話ではない。
 これから先、もしかしたらマルカは満月のみに懐き、自分の事は潰れた虫でも眺めるかのような目で見続けるかもしれないのだ。
 「それはいかん……それはいかんぞ……!」
 自分に惚れるなと言った優しさは何だったのか、ハルは満月に抱きついているマルカの背に手をやる。
 「ひゃっ」
 「げへへ、マルカの姉御。どこか揉みほぐす所はございやせんか」
 下品な下っ端キャラを演じつつマッサージに取り掛かろうとするハル。
 一応これでも彼女の好感を得るつもりではあった。が。
 「邪魔しないで下さい」
 「ごめんなさい」
 一蹴。
 満月に夢中になっているマルカにとって、ハルはもはや邪魔者扱いだった。
 「んー……満月さん……」
 恍惚の表情で乳首に吸い付くマルカ。
 満月はどうしたものかとハルに視線を向ける。
 「……」
 ハルはいぢけていた。
 全裸のまま体育座りになり指先でシーツを弄っているだけの存在へと成り下がっていた。
 忘れがちだが一応、彼はこの館の主人であり、絶対権力者である。
 満月は心を鬼にして、マルカを引き離す。
 自分は確かにロリコンだ。しかしそれはあくまで自分の趣味。ハルと言う存在意義より大切なものではない。
 「満月さん……?」
 目をぱちくりさせる少女に、満月は厳しく諭した。
 「マルカ、ご主人様をぞんざいに扱ってはいけません。あくまで貴女はご主人様に買われた身です。それを忘れていませんか」
 「う……」
 「おい満月、家族になるとか自由にしていいとか言っておいてそれを持ち出すのはちょっと……」
 少し言い出したい気持ちもあったけど、約束の手前言う事を憚られたそれを口にする満月にハルはやんわりと止めた。
 (いいのですご主人様、私はご主人様の為なら汚れ役も引き受けます)
 が、満月はハルの本心を理解していた。ハルはマルカに構われたくて仕方がないのだ。
 「確かにご主人様は好きに振る舞っていいとおっしゃいました。
 しかし、それはマルカの境遇を不憫に思ってのこと。本来なら性欲処理のためだけに買い取られたのです。
 その気になれば私に命令し、貴女を淫語しか喋れない肉便器二号にすることもできたのですよ。
 それを可能にしながら家族として扱おうとするご主人様の寛大なお心に、何か思うことは無いのですか?」
 (まあ元から家族が欲しかったから引き取ったんだけどな、マルカは)
 ハルは第一にその目的のために彼女を買ったので、満月の発言は微妙に筋違いではある。
 が、訂正するのも面倒だし満月も知っているはずなので、ここは放っておいた。
 「……ごめんなさい」
 しゅんとした顔で頭を垂れる、マルカ。
 「私に謝っても仕方ありません」
 「……申し訳ありません、ご主人様」
 「いや、まあ、そんな謝るような事でも……」
 「簡単に許してはいけません、ご主人様。恩を忘れるようなメイドには、罰を与えないと」
 珍しく自分からハルに物申す満月。
 彼女の企みは二つあった。
 一つは、マルカとセックスを含んだコミュニケーションを取りたいハルに対するトス。
 もう一つは、マルカが自分に甘えすぎてハルに構わなくならないように、適度に厳しい顔を見せる意図であった。
 マルカを甘やかしたくて仕方ない自分もいたが、それは二人の関係を無視して行う事では無い。
 満月にとって、ハルに比べればマルカすら些細な存在である。
 尤もハルに対する忠誠心が異次元なだけで、自分のことよりマルカを優先する程度には溺愛しているが。
 「罰……ですか」
 「そう、仲直りセックスです」
 「罰なのか仲直りなのかはっきりしろよ。って言うかそれが無理なんだって今現在」
 マルカの性器は大分良くなってはいたが、全快まではまだ少し足りない。
 今無理矢理に挿入でもしたら、また傷が開いてしまうだろう。
 当然、それを知らない満月では無かった。
 「おまんこは使いません。マルカ、お尻の穴の経験は?」
 「う」
 マルカは返答に窮する。
 いつかは聞かれると思っていたが、やはり答えなくてはならないのだろうか。
 両手の指を合わせてもじもじしながら、やがて小さく答えた。
 「……あります、けど」
 「では問題ないですね」
 「大アリだよ!!!」
 ハルが叫ぶ。
 「まだまともにセックスもしてないのにいきなりアナルとか順番飛びすぎだろ! お前と一緒にすんな!!」
 「これなら罰にもなる上にご主人様も気持ちよくなられて一石二鳥かと」
 「俺は調教に段階踏みたいの! 再会した時に既に自分の手で開発済みだった誰かの二の舞じゃねーか!
 って言うかマルカのアナルセックスはおめーが見たいだけだろ!!」
 「そのような事は………………」
 無い、とは言わなかった。
 「あるんだな」
 「……申し訳ございません」
 深々と頭を下げる満月。
 極僅かとは言え、私情を挟んだ事について深く反省する。
 「マルカ、お前は俺が一番変態だと思ってるだろうが、実のところ一番イッちゃってるのは満月だ。気をつけろ」
 「私も薄々そうじゃないかなーとは思っていました」
 ヒソヒソと喋る二人の視線に晒されながらも、満月は充実感のようなものを感じていた。
 (これでいいのです……私が悪者になって二人が仲良くなるなら、これで……)
 「そして今の顔は自分が犠牲になって二人が仲良くなればいいと思ってる」
 「不器用な人ですね」
 「全くだ。完璧メイドが聞いて呆れる」
 へっ、と笑うハルを見ながら、マルカも微笑む。
 (……不器用なのはご主人様もですけどね)
  
 「……おにいちゃん」
 特に性行為もしておらず着衣状態のままでベッドに寝転がり通販で取り寄せたと思しき雑誌を読み耽っていた所に聞こえるか聞こえないかくらいの声量でメイドが呟いたその一言で背筋のバネのみを使い起き上がって瞬く刹那に顔面同士を密着させる。
 「今なんと」
 ハル。
 おにいちゃんの『ん』が言い終わるかどうかのタイミング。
 あまりの速度に声が詰まったのは、今しがた主人を呼んだメイド。
 「…………………お、おにいちゃん、って言った……んですけど……」
 マルカ。
 まずかったですか、と顔を引き攣らせている。
 「誰が?」
 鼻同士を突き合わせながらハルは尋ねる。
 その迫力に圧倒されて身を仰け反らせながらも(ハルは密着したままそれについてくる)、マルカはどうにかそれに答えた。
 「………………………………ご、ご主人様が、です…………けd」
 マルカの口が塞がれた。
 ハルの唇だった。
 「んむっ!?」
 左腕で抱きしめられ、右手は頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。おまけに両足を絡めて逃げられないようにロック。
 D.K.H(だいしゅきかわいがりホールド)。
 ハルの愛情表現の中でも最上位に位置する抱擁により、マルカは拘束されて激しく揺さぶられた。
 「ん~~~!!」
 ぱっ、と口を離すハル。
 これまでマルカが見たことのないような、輝いた瞳をしていた。
 「マルカ」
 「は、はい!」
 「今度遊園地つれてってやる」
 (あ、怒られてるわけじゃなかったんだ)
 ハル相手のフェラチオには慣れたがキスの経験は僅かなマルカ。
 昂ぶる鼓動を抑えながらも、こくこくと小さく頷いた。
 
 

 ◯



 「んー……」
 「本当にマルカはおっぱいが大好きですね」
 「満月さんが大好きなんですー……」
 満月の乳房に包まれるのが癖になったマルカ。
 胸を露出しているかしていないかに関わらず、ことあるごとに顔を埋める。
 その光景を見ているのはハルだった。
 「俺の股間に顔を埋めてもええんやで」
 「それはいいです」
 「そっかー……」
 満月に諌められて態度はいささかマシにはなったが、相変わらず満月に抱きついている間は相手にされない。
 仕方がないので、ハルも満月の乳首に吸い付く。
 「ん……ご主人様……」
 満月の反応が変化する。
 負けじとマルカも乳首を口に含んで舌で愛撫し始めた。
 「もう、マルカ……そんなに吸っても、母乳は出ませんよ」
 「母乳……満月さんの、母乳……!」
 そのワードを聞いた瞬間、やる気に満ちたような顔をする。
 「ご主人様! 満月さんを妊娠させましょう!」
 「どんだけ母乳飲みたいんだお前は。そう言えばお前は生理もう来てるのか?」
 「私はまだですよ。ちょっと遅い方みたいです」
 「それでは中出しし放題ですね」
 満月の下衆い発言に、マルカは苦笑いで答える。
 「ま、満月を孕ませるのはまだ先の話だ。ミルクが飲みたいなら俺のちんこから」
 「それはいいです」
 「そっかー……」



 ◯



 「……………」
 尻だった。
 生の尻が、壁から生えていた。
 「……………………満月さん?」
 「その声はマルカですね」
 (お尻が喋った…………)
 ほとんど動かせるスペースも無く、ぴったりとした穴から露出した満月の尻は喋ると同時に僅かに揺れた。
 マルカが広い屋敷の探検から帰ってきた所、満月の自室(と言ってもほとんどハルは自分の部屋に常駐させているが)のドアが別物に変わっていた。
 先程までは何の変哲も無いドアだったのが、腰元の高さに女性の尻が生えている奇妙なドアへとすり替わっている。
 「……何してるんですか……?」
 答えなどだいたいわかっているし聞きたいわけでもないが、それでもマルカは尋ねずにはいられなかった。
 満月(の尻)は答える。
 「こうしていると、ご主人様が通りすがった時にかなり高い確率で使用して頂けるのです」
 「あ、命令じゃないんですね」
 「ええ。私はご主人様の肉便器ですので」
 「そうですね」
 この人バカなんじゃないかな、と思いつつもマルカは適当に相槌を打った。
 満月の姿は卑猥と言うよりは滑稽である。
 全てがおかしい。見た目が面白いの意味と発想が狂っているの両方で、おかしい。
 こんな顔も見えないような肉と穴に欲情する人なんて――
 「…………」
 ――尻を見つけるや否や、音を立てずに忍び足で近づいて来たこの人くらいだろう。
 口を開きかけるマルカを、ジェスチャーで制止する。
 「どうですマルカ、貴女もやってみますか? このご主人様を待っている時の胸の高鳴りは癖になりますよ。マルカ? 行ってしまいましたか?」
 黙り込んだマルカに話し続ける満月の尻。
 ハルは足音を殺してその前にしゃがみこんだ。怪訝な目で見るマルカを手招きする。
 (なんですか?)
 尻の前に二人の顔が並んだ。
 ハルは人差し指を立てて、突き刺すジェスチャーをした。
 (?)
 何をやっているのか意図が掴めない。
 首を傾げるマルカをハルは顎でしゃくった。
 (入れろと!?)
 そう。ハルはマルカに、満月の秘部を指で貫くように言っていたのだ。
 首をぶんぶんと振るマルカに、今度は立てた人差し指で「一回だけ! 一回だけ!」と笑った。
 (えぇ~……)
 「マルカ?そこにいますよね?」
 足音が聞こえなかった事からマルカが離れていないと判断した満月。マルカの事に気を取られ、気配を消したハルの存在には気づいていなかった。
 その不安そうに喋る尻を見ていると、悪戯心がにわかに芽生えてくる。
 (……どうなるんだろう)
 ごくりと唾を飲み込み、人差し指を立てるマルカ。
 さっきまでギャグにしか思えなかった満月の尻が、急に淫靡なものに見えてくるのが不思議だった。
 特別ボリュームがあるわけではないが、柔らかそうな肉付きをしている。
 アンダーヘアは綺麗に剃ってあり、毛の一本も見当たらず、シミの一つもない綺麗な尻だった。
 きゅっと閉まった肛門の下に、一本の縦筋。
 よく見ればそこはほんの少し湿り、光っていた。
 マルカの細い指くらいなら、抵抗なく受け入れてしまうだろう。
 「……」
 無言で目を合わせ、頷く二人。
 少女の指が、秘裂に伸びていった。
 「ひゃんっ!?」
 差し込んだ瞬間、尻がびくんと大きく震えた。
 膣道がキュッと締まり、マルカの細指に肉が齧りつく。
 締め付けに驚き、引っ込ませようとするマルカの指を、行かないでと懇願するように肉壁がしっかりと抱き包めた。
 「うわ、すごいですこれ! 吸い付きが凄い!」
 入れられる事はあっても入れた経験は皆無のマルカ。
 初めての男側の感触に、思わず声が出てしまった。
 「ま、マルカが指を入れたんですか……?」
 はい、と答えようとするが、その前にハルが無言でマルカの左手を掴み、満月の尻に優しく当てる。
 そして自分は右手で、満月の尻の右側に指先だけ触れた。
 ハルの行動の意味を数秒考えて、マルカは閃いた。
 (……なるほど!)
 「満月さんのおまんこに食べられてるみたいです……美味しいですか? 私の、おちんちん」
 「!?」
 意地の悪い笑みを浮かべるマルカ。顔が見えずとも、その声には嗜虐の色が含まれているのがわかった。
 彼女もすっかり、この館の住人であった。
 「マルカ? おちんちんって、え……!? ひぅっ!」
 深く考える前に、マルカは更に奥へと擬似ペニスをねじ込んだ。
 濡れそぼったそこは潤滑を増し、締りはそのままによく動くように変化する。
 そしてそこを、小さなペニスが往復を繰り返した。
 「んんっ……キツキツで気持ちいいです、満月さんの膣内……もっとほじくっちゃいます」
 見れば彼女は立ち上がり、右手を股間に密着させ、腰で満月を犯している。
 立ちバックの姿勢で満月を貪るその表情は、本当にペニスを挿入してるかと思えるほどの惚けたものだった。
 (やっぱりSだわこの子)
 マルカの才能と言うか性癖と言うか、そのようなものを開花させつつあるハルは静かにほくそ笑んだ。
 楽しいなら、それに越したことはない。
 「どうですか、私のおちんちん! 気持ちいいですか?」
 「はっ……あっ……まる、かっ……!」
 自分のより数段小さいそれに貫かれながらも喘いでいる満月。それを見て複雑な気分になる。
 (プチNTR、みたいな)
 自分のものである満月が他人に犯されて悦んでいる姿は、ハルにとって新鮮な光景だった。
 もっとも、他人と言ってもマルカだ。他の誰かならともかく、彼女ならどんどん犯せと言った所である。
 (ふんっ)
 「ひぁっ!」
 しぱーんと尻を叩くハル。いつものスパンキングとは違った角度と力の入れ具合で、マルカの責めを演出する。
 「黙ってちゃわからないですよ! ほら! ほら!」
 (ノリノリである)
 楽しそうに叫ぶマルカに、弱々しい声で満月が答えた。
 「きもっち、いい、ですっ……!」 
 「よく言えました。ご褒美です」
 叩く毎に、突く毎にきゅんきゅんと締まるその孔をごりごりと抉る。
 肉の襞を掻き毟るように、強く。
 「あっ、あっ、あ、っ………!」
 (あ、すげー)
 大きくびくんと震えて、満月が絶頂を迎えた。
 ひときわ強く締め上げたあと、弛緩する肉壷からそれを引き抜く、マルカ。
 指はすっかり涎にまみれていた。
 満足そうな表情をしたまま、無言でマルカは満月から離れた。
 アイコンタクトを受け取ったハルは、すっかり大きくなった自分のものを一気に突き入れる。
 「ひ、ああああああああああああああああああっ!? え、ご、ご主人さまっ!?」
 「マルカです」
 全く似ていない声真似を使い、激しく満月を陵辱し始める。
 マルカはそれを一瞥して笑うと、指を一舐めして自分の部屋に帰っていった。
 




 「…………私もバカになっちゃったのかな……」
 そして、自己嫌悪で頭を抱えるのであった。
 
 
 「満月お姉ちゃん! 僕のちんちんが大きくなっちゃったよ! どうしようどうしよう! ……あれ」
 全裸で居間に飛び込んだハルが見たのは、聖母のように優しく微笑んで膝枕をし、安らかに眠っているマルカの頭を撫でる満月の姿だった。
 「あらあら、それは大変です。今すぐ私がお口で鎮めて差し上げますね……マルカ、起きなさ」
 「ストップ! ストップですぜ満月ちゃん! そのままそのまま!」
 その美しい光景を危うく崩しそうになり、ハルは慌てて満月を制止する。
 自室に戻りちょっちゃと服を纏い、改めて居間へと戻ってきた。
 「なんだマルカ寝てるんなら別にいいわ。寝かせといてやれ」
 「しかしご主人様のおちんぽが……」
 「えーってえーって」
 満月の隣に座ると、背中をやや丸めて、くーくーと可愛い寝息を立てるマルカの頭が手の届く位置にあった。
 「なんやこいつかわいいな」
 「はい。猫みたいですね」
 そう答える満月は、表情以上に楽しそうだ。
 (満月が自然に笑う事も、珍しくなくなってきたな)
 マルカが来てから彼女は少し、ほんの少しだけ元の性格に戻ったような気がする。
 (体は器用な癖に精神は不器用極まりないからな、こいつは。もっとも……)
 それは自分を想ってのメイドである。ハルに文句など言えるはずがなかった。
 「満月」
 「何でしょう?」
 「俺のこと、情けなく感じたことはないか?」
 突然の質問に、満月はゆっくりと首を振ってから答える。
 「ただの一度もございません。ご主人様は、立派なお方です」
 「そうか。俺は毎日思ってる、お前に甘えて無理ばっかりさせて……」
 「ご主人様」
 ぴしゃり、と満月が言葉を切った。
 「ご主人様は、病気を患ってらっしゃいます。それはれっきとした精神の病です。
 甘えもへったくれもございません。気合でどうにかなるものではないのですから」
 満月はそう言う。しかしハルはそうは思わなかった。
 「俺は甘えだと思っている。普通逆だよな、本人が肯定して周りが否定しそうなもんだが。
 大の大人のそれも男が、ちょっとショック受けただけでセックス依存症だぜ? 情けなくて涙も出ねぇよ」
 吐き捨てるその口に、満月が優しく唇を重ねる。
 「……情けなくなどありません。ご主人様は、今この瞬間にも自分の病気から逃げずに戦っておられます。
 なんとかしないといけない、と。ご立派でいらっしゃいます。ですが、急ぎすぎは逆効果です。ゆっくりと治していきましょう。私がついてます」
 「……お前は本当に便利で馬鹿で都合の良い肉便器だよ、満月。もう少しだけ……甘えさせてくれ」
 「ありがとうございます、これ以上ない褒め言葉です。私は、ご主人様がどんな決断をなさってもずっとついていきます。ご安心下さい」
 ハルは安心したように微笑み、それはそうと、とポケットからおもむろに猫耳を取り出して、尚もすやすやと眠り続けるマルカの頭に装着させた。
 「にゃるか」
 「おお……」
 満月は口元を手で抑えてぷるぷると震えていた。
 
 

 ◯



 「少し大きいみたいですね」
 「むー……」
 部屋の元の持ち主はマルカと同世代だったが、彼女より身長が高かったらしい。
 と、言うよりは十分に栄養を取っていたとは言い難いマルカが小さいのか。
 どちらにせよ、彼女の部屋にある数々の衣類は大きすぎた。
 セーターの袖は余るし、ジーンズは裾が引きずる。
 「着てもおかしく見えないのは、こっちの引き出しの中だけですね……」
 前の持ち主が昔来ていたと見える服は、ほとんど処分されてしまっていたようだった。
 趣味は悪くない、というよりむしろ良いだけに、マルカは落胆を隠せなかった。
 満月にかかれば、仕立て直す事も可能であった。が。
 「折角ですし、これからでも買いにでかけましょうか」
 「え!?」
 「え?」
 マルカのリアクションの大きさに疑問を覚える満月。
 「わ、私が服を買っても……あ、ご主人様もいいって言ってたんだっけ……」
 「ああ、そういう事でしたか。大丈夫ですよ。好きなだけ買っても」
 「す、好きなだけ!?」
 「はい。お金ならいくらでも使っていいとのことです。『あいつは一回くらい甘ったれの金持ちボンボン糞ガキになってもバチは当たらん』とおっしゃられていたので」
 「そ、そんなにはいりませんよ……」
 と、言いつつもマルカは期待に溢れた表情をしていた。
 「ではお着替えなさいマルカ。流石にメイド服で外に出るわけにもいきません」
 「って事は、満月さんも着替えるんですか?」
 「当然です。準備ができたら呼んで下さいね」
 部屋を後にする満月。
 何を着て行こうか迷ったが、どうせすぐに買うのでそこまで考えても仕方ないと思い、シンプルな長袖のシャツにカーディガン、桃色のスキニーパンツを纏う。
 ここに来てからと言うもののメイド服と寝間着以外に着替えなかったマルカは、久方ぶりにごく普通の少女になった気分だった。
 (本当に……久しぶり)
 鏡で見る自分が、本当に自分なのかと疑わしくなるほどだった。
 服装もそうだが、血色の良さに、生き生きとした目と表情。髪の毛にも艶が出始めている。
 あの頃からは考えられないほどに、まともな生活を送っている証拠だった。
 (これもご主人様のおかげ、か……ありがとうございます、ご主人様)
 ばたーん。
 「お! こんな所になんか可愛い服着たロリがいるぞ! ねえねえお嬢ちゃん、その服に精子かけていい?」
 「調子に乗らないで下さい」
 「ひどくない!? 今のは俺もひどかったけどひどくない!?」

 屋敷の外に出たのも、思えば十数日ぶりだった。
 「わ、寒い」
 感想した外の空気は肌を刺すように冷たく、木々の葉も散って、すっかり冬の様相を呈していた。
 ダッフルコートに満月から貰ったマフラーと毛糸の帽子で、寒波に対抗する。
 「中もちゃんと厚着しないと風邪を引きますよ。大丈夫ですか、マルカ」
 「私は大丈夫ですけど……満月さんこそ、寒くないですか?」
 メイド服を着ていない満月は、タイトなワンピースにストッキングを履き、茶色いモッズコートを羽織っていた。ヘッドドレスは勿論、眼鏡も外している。
 大人っぽい、と言うより早く、寒そう、と言う感想が出てくる。
 「いえ、あまり。その気になれば全裸でも歩けます」
 「やめて下さいね」
 手袋を持ってくればよかった、と気づいたが、取りに行く前に満月から渡された。
 「ありがとうございます……あ」
 いい事を思いついたとばかりに片方だけそれをはめて、もう片方の手を満月に差し出す。
 「手、繋いでいいですか?」
 「ええ、もちろん」
 手が冷たい人は心が暖かい。そう言うけど、別に冷たい人に限ったわけじゃないんだな。
 マルカは今ある繋がりの温もりを、しっかりと握りしめた。
 
 バスでショッピングモールまで向かう。
 服もそうだが、アクセサリーにスマートフォン、果ては女児用の玩具に至るまで、マルカは目を輝かせながらそれらを眺めていた。
 足を止める毎に満月が「買いますか?」と聞くので、マルカは慌てて否定する。
 本当はどれもこれも欲しかったのだが、これまでの環境での経験からか、欲張る事は躊躇われた。
 だがそれを察知した満月が隙あらば買い与えようとするので、マルカは「今度買って下さい! 今日は服だけにしましょう!」と釘を刺すのだった。
 周りからはさぞかし変な姉妹に映っただろう。
 「随分頑なに断ってくれますねマルカ……次はご主人様も一緒に買物しましょう。私がマルカを抑えている隙にご主人様が片っ端から買い漁るフォーメーションで金に溺れさせて差し上げますので」
 「何ですかその甘やかし方!? ……私も、本当は欲しいんです、どれもこれも。でも……」
 「でも?」
 「拾って貰った身で、贅沢するのは気が引けます。それに、あまり欲張って多くを求めると……幸せが逃げていきそうな気がするんです。今でも十分に幸せなのに、あれもこれもって欲しがると……」
 不安がるマルカに、満月が微笑みを向ける。
 「マルカ。子供は甘えて遊ぶのが仕事です。みんなやってることですよ。一回だけ、一回だけ」
 「そんな薬物じゃないんですから……」
 「大丈夫ですよ。マルカがどれだけ聞かん坊で手のかかるワガママ娘になったとしても、私もご主人様も絶対に見捨てたりしません。私達は、家族です」
 「……はい!」
 笑顔になったマルカを見て、ここぞとばかりに満月が手を引っ張る。
 「と、言うわけで何か買わせなさいマルカ。一つ買うまで帰りませんよ」
 「普通逆ですよ!?」
 結局、エナメル製の赤くて大きな財布を買わせさせられる事になり、マルカは初めての私物らしい私物を手に入れた。
 明らかに子供が持つには多すぎる額を無理矢理突っ込まされて困ったような顔をしながらも、歩きながらずっとそれをまじまじと眺めていた。
 「あれ、あんたひょっとしてマルカ?」
 「え?」
 突然名前を呼ばれてそちらを向くと、二人組の少女がこちらを見ていた。
 高校生かそこらくらいの歳の、裕福ではないにしろ、それなりにしっかりした服の茶髪の少女。
 「あっ……」
 同じ娼館の、先輩だった。
 そこまで接点があったわけでは無かったが、マルカはそこでの生活を思い出して固まってしまう。
 少女はつかつかと歩み寄り、マルカの格好を眺める。
 「なんか金持ちに買われたって聞いたから、てっきり酷いことされてんのかなーと思ったらなんだ、元気そうじゃん」
 もう一人もそれに習って近づいてくる。
 「あらら、随分とまあ暖かそうな格好しちゃって……可愛がられてるんだ」
 「あ、あの」
 上手く言葉が出ないマルカを遮るように、満月が前に出る。
 「うちの子に……何か?」
 明らかに威圧的な態度。
 少女達は当然、マルカも自分に向ける優しい声より低いそれに少し慄いた。
 「え、な、何? この子の保護者?」
 「いや、別にうちら変な事しようとしたわけじゃ……」
 「ま、満月さん! 虐められてるとかそういうんじゃないんですから!」
 腕を引っ張って制止するマルカ。
 「す、すみません……お久しぶりです」
 「いや、ごめんね、なんか怖がらせちゃった?」
 「まさかこんな所で見かけるとは思わなくてさ。ちゃんとご飯食べてる?」
 彼女達に特に悪意があったわけではなかった。むしろ、僅かながら心配もされていたようだ。
 「はい」
 「変な事されてない?」
 「は、はい」
 「何で今どもったん?」
 「だ、大丈夫ですよ! それよりも、あの……私だけ、良い暮らしをさせて貰って、申し訳ない、と言うか……」
 気まずそうに言うマルカに、二人はからからと笑った。
 「そんなん気にする事じゃないって。良かったじゃん、よさそうな所に拾われたみたいでさ」
 「私達もあんまり面倒見なかったから文句も言えないよ。あんた要領悪かったからねー。あの糞親父に媚びすら売らなかったんだもん、あそこじゃ無理だよ」
 三人の会話を聞いて、満月も警戒を解いた。
 どうやら、そこではマルカは相当出来の悪い子だったらしい。
 「あんたが買われたおかげで糞親父の羽振りがよくなったからね。少しは私らや年少組も楽になったよ。感謝してるくらい」
 「すっかり人柱扱いだったからねえ、マルカ……」
 「そ、そうだったんですか……よかった……」
 「まあ、そういうわけだから、顔……は出さなくてもいいにしろ、元気でやんな」
 「もう戻ってくんなー。あんたの居場所はこっちにゃないよー」
 「あ……ありがとうございます!」
 笑い方は下品だが、彼女等の言葉には優しさが篭っていた。
 マルカは深々とお辞儀をして、先輩達の後ろ姿を見送っていた。
 小さくなった所で、ぼそりとマルカが呟く。
 「あの、満月さん。わがまま言ってもいいですか?」
 「何ですか?」
 「私がいた売春宿の人達を……」
 「マルカ」
 意図を察知していた満月は、静かにマルカに諭す。
 「人助けとは、他人の力を使ってするものではありません。そして、貴女のそれは一方的な善意の押し付けです」
 「!……」
 「人が困っている。助けたい。そう思うのは当然です。ですが、じゃあこの人も、あの人も、と言うわけにはいきません。いくらお金があっても、世界中の貧困に苦しむ子供を全員救うことなど不可能です。わかりますか?」
 「…………はい……」
 マルカの目元が、僅かに滲む。
 しばしの沈黙の後。満月は、彼女の頭を撫でて続けた。
 「でも」
 慈愛に満ちた、いつもの声で。
 「貴女は自分のために言わなかったわがままを、人のために言えた。とても優しい子です。
 一回くらい、甘ったれた考えの金持ちボンボン糞ガキになっても、バチは当たらないでしょう。
 流石に、家で全員養うと言うわけにはいきませんが……手を回して彼女達の生活が楽になる程度なら、十分可能です」
 「本当ですか!」
 ぱぁっと明るくなるマルカ。それに対し、満月は意地悪っぽく言う。
 「可愛い妹の頼みです、口添えしてあげましょう。ご主人様にこっぴどく叱られる覚悟ができているのなら、ですけどね」
 「は……はい! お願いします!」
 洋服の袋を抱えた二人は本当の姉妹のように、仲良く帰路へとついていく。

 「ただいまー、です」
 「ただいま戻りました」
 玄関を開ける。ハルの出迎えは無かった。
 マルカが外出したのは初めてだが、常に性欲を持て余しているハルなら発情した犬の如く、帰ったら真っ先に飛びかかってきそうだ、と思っていた。
 違和感を覚えながらも、マルカは居間へと歩いて行く。
 その時突然、満月の直感が嫌なものを捉えた。
 自分達と違う臭いがする。
 男一人、女一人。
 まさか。いや、その可能性は十分に――
 「マルカ、待ちなさい!」
 一瞬、遅かった。
 満月が言うより先に、マルカはその扉を開いてしまっていた。






 「…………お父さん? お母……さん?」


 マルカの表情が明るくなった。
 それに反比例して、満月の顔色が悪くなる。
 完璧なメイドが、暑くもないのに汗を滝のように流していた。
 可能性は、限りなくゼロに近かった。
 それでも、万が一にも、億が一にも……彼等がマルカを手放した事を本心から悔いていたとしたら。
 その上で、マルカが家に帰って両親と暮らしたいと言ったら。
 自分に、それを止めるなんて事はできない。彼女とはお別れだ。
 娘を娼館に売り飛ばすような人間の屑に引き渡すなど許せるわけがない……と言うのは、半分本音で半分建前だった。人間の屑などと言ったら、自分だって似たようなものだ。
 彼女を下卑た欲望の種に使おうと考えているのは、両者に共通している。
 正直に言って、相手が誰だろうと彼女を手放したくない。
 大金をはたいて買い取ったのに、まだ性交もしていないのだ。まだマルカの幼い身体は全然味わい足りない。
 尻穴だってまだ開発していない。指を入れた瞬間、あの懐いている少女がどんな顔をするか。楽しみで仕方ないのだ。
 他にもある。頭のてっぺんから足の爪先まで、時間をかけてたっぷり愛でないと気がすまない。
 そして何より、ハルはまだ……

 (……遊園地に連れて行ってやるって、約束したんだ)
 マルカの兄で、居たかったのだ。


 「生憎今は俺一人しかいない。茶が飲みたきゃ勝手に淹れてきてくれ。台所はそこを出て左だ」
 ささくれ立つ感情を押し込んだ静かな口調。そう言っても、動く者はいなかった。
 ガラス製のテーブルを挟んで、ソファに座って向き合う三者。
 ハルはマルカの両親をあらためて眺める。
 父親はスラブ系で、やや薄い金髪に鼻が赤く丸眼鏡をかけた、どこにでもいそうな男性だった。
 母親はアジア人……もしかしたら日本人なのかもしれない。
 彼女よりやや目が細く、長い首に真珠のネックレスをかけた細身の女性。見たところマルカは、母親似のようだ。
 「あの子……マルカは、確かにここで働いているのですね?」
 父親の声に、あまり悪びれた態度は無かった。
 「ああ、いるよ。今は外出中だけどな」
 両親の目線はチラチラと部屋の中を眺めている。元々あった調度品は、売ればそれなりの値段にはなる。
 こんな金持ちに拾われるとは思わなかった、と言った様子だった。
 「マルカは何か、ご迷惑をかけてはいないでしょうか?」
 言い終わると共に顎を傾ける母親。
 「いや、よくやってくれてる」
 ハルはそっけなく答える。
 (尋ねるのは、そんな事か……?)
 本当は、追い返したくて仕方が無かった。
 マルカの両親と名乗る二人組が訪ねてきて、ハルは一瞬戸惑い、家に入れる事を躊躇った。
 が、追い返す事はしなかった。
 ハルは1%にも満たないその確率を怖がり、そして同時に信じたくなったのだ。
 (マルカの本当の幸せ。それは……悪趣味な金持ちのペットとして愛でられる事じゃない。
 愛情を注いでくれる本当の家族と共に過ごすことだ。
 例え何一つ不自由しない生活から、今日の食い物に苦労する貧困に落ちたとしても……)
 
 「単刀直入に言う」
 ハルの声は震えていなかった。
 心は、震えていた。
 「要件はなんだ?」
 威圧はしていない。
 無感情を装い、ぶっきらぼうに尋ねる。
 「……貴方がマルカを金で買った、と言う事は知っています」
 マルカの父は、どこで、とは言わなかった。
 言う必要も無い。
 「ああ。それで?」
 無表情の仮面を被り、何でもないように答える。
 「実の所、困ってしまうのです。あの子を引き取られてしまうと……」
 
 
 (――ああ)
 ふ、と笑いが込み上げる。
 「私共はあそこからマルカの働き分を頂戴していましてね……」
 (そりゃ、ま、そうだよな)
 「お金が入らないとなると、借金も返せませんので……ははは……」
 「もう、あなたがギャンブルばかりしてるからでしょ……」
 「何を、お前の浪費だって凄いもんじゃあないか……」
 ハルは嫌悪した。
 目の前で笑いながら何か言っている二人に。
 それよりも、彼等の目的に安堵してしまった自分に。
 深く、嫌気が差した。
 (あいつには教えられないな……自分がいなくなって仲が良くなった両親、なんてよ)
 「そう言うわけで、あれの給金を私共に回して頂きたいのですが……」
 鏡を見れば、こいつらより醜いものが映るだろう。
 その現実が、ハルには耐えられなかった。
 
 (――殺すか)
 あまりにも自然に、そう思った。
 マルカの両親は、ここには来なかった。
 そして、未来永劫来ることはない。
 町中で顔を合わせる事もない。
 死んだことすら知るよしもない。
 それでいい。
 満月にメールの一本を打てば、30分で痕跡は消える。
 その間、自分はマルカと散歩にでも行けばいい。
 死体はどこにも見つからないし、警察が嗅ぎつける可能性もない。
 例えこの館に入ったのを見たと言う目撃情報があったとしても、それは変わらない。
 この世から、消す事ができる。
 

 『……ピストルか?』
 『はい。万が一にも私がいない時に危機に陥ったらお使い下さい。処理は私が行いますので』
 『っつっても俺引き篭もりだしな。使う機会ねーと思うぞ』
 『私を死姦しようと思った時にでも』
 『……(スチャ)』
 『申し訳ございませんご主人様! 冗談でございます、どうかお許しくださいませ!!』
 『……その台詞は普通、自分に向けられた時に言う言葉だろ』


 (俺の部屋に、あったな)
 ハルはゆっくりと立ち上がって、とても人間のものとは思えない顔をした二人に微笑む。
 「待ってな、今持ってきてやる」
 喜ぶ二人をよそに扉に向かおうとする。
 その扉が開いた。
 (――――――)
 そこから入ってきた少女の目は、今までに見たことがないくらい輝いていた。
 そこから出ようとしたハルの目は、深淵に吸い込まれている最中のそれだった。


 「…………お父さん? お母……さん?」

 横をすり抜けていくマルカ。
 二人に抱きつくような、ぽふんと可愛らしい音が後ろで聞こえた。
 「会いたかった! 会いたかったよ! 私、いい子にしてたんだから!!」
 「あら、マルカ久しぶりね」
 「元気そうで何よりだ、ははは」
 ハルには、振り向いてそれを見る事はできなかった。
 これから起こる出来事に、耐えられる勇気が無かった。
 「ただいま…………戻りました」
 ゆっくりと部屋に踏み入ってきた満月の顔もまた、ハルが見たこともないような絶望の顔をしていた。
 いつだって機械のように振舞っていた澄まし顔が、一気に二十年老けこんだような気さえする。
 「ああ……ご苦労だった」
 二人の間に言葉は不要だった。
 どうしてこうなったのか、これからどうなるのか、全てがわかる。
 これから一番辛い思いをするのは自分たちではない。
 世界が輝いたように見えている、あの幼い少女なのだ。
 「迎えに来てくれたんだね! また一緒に暮らせるんだ!」
 これ以上の幸せはないとばかりに、弾んだ声。
 を。
 「マルカ」
 「なにっ?」
 「これからも、頑張って働くんだぞ」
 



 「………………………え?」
 男が、凍りつかせた。
 「お母さんたちはね、これからあなたのご主人様と大人の話があるの。向こうに行ってましょうね」
 女が、打ち砕いた。
 何を言われたのか、マルカにはよくわからなかった。
 「私……またお父さんお母さんと一緒に……暮らせる……」
 心の奥底では理解しつつも、希望を捨てられない少女に。
 彼等は追い打ちをかけた。
 「聞き分けなさい、マルカ。お前はここで、精一杯奉公するんだ」
 「いい子だから、部屋に戻ってなさいねマルカ。大丈夫、あなたならちゃんと働いていけるわ」
 「あ……」
 存在そのものが消え行くような細い声が耳に入ると同時に、ハルは酷い嘔吐感を覚えた。
 
 何故だ。
 何故マルカが、こんな目にあわなければならない。
 俺がいけなかったのか?
 俺があの場で追い返してさえいれば、こんな事にはならなかった。
 こんな――

 「わたし……いい子にするから……!
 わがままも言わないし、何も欲しがらないし、泣いたりしないから……!
 捨てないで……下さい……!
 お願いします……」

 「マルカ……



 ……わがままを、言うんじゃない」





 その先も男は何か言おうとしていたが、それは叶わなかった。
 首から上が絵画に突き刺さっては、言葉を発する事はできない。


 「貴様らぁ……部外者の分際で……!!」
  
 
 満月の左拳が、マルカの父親だったものを部屋の奥まで殴り飛ばした。
 いや、今の彼女は冷静沈着のメイドである満月ではなかった。
 ハルの幼馴染である、おっちょこちょいな新月でもなかった。
 そこにいたのは、拳に血を滲ませて、鬼神をも震え上がらせる烈火の如き激憤の貌で敵を睨む……
 


 「よくも私の妹を……泣かせてくれたなッ…………!!!!」

 
 マルカの、姉だった。
 それがこちらを向いた瞬間、マルカの母親だったものは腰を抜かして醜く失禁した。
 「あ、あ……」
 「楽に死ねると、思うな……!!」
 一歩歩を進める毎に、びりびりとした威圧感が部屋全体を揺らすような感覚。
 尋常ではなかった。 

 「……やめろ、満月。マルカの前だ」
 その一言で、彼女は煮えたぎるような殺気を押し込めて、満月へと戻った。
 ハルはそちらを見ていなかった。へたり込んで泣きじゃくるマルカの傍らで、彼女の頭を優しく撫でていた。
 「……申し訳ございません、ご主人様」
 満月はこんな趣味の悪いオブジェはいらないとばかりに男の首根っこを片手で引っ掴み、女の前に放り投げた。
 鞄から分厚い札束を取り出し、それも投げ捨てる。
 「それを持って出て行け。二度とマルカの前に現れるな。理解できたら、今すぐ消えろ」
 まるで人間に向けて喋ってるようには聞こえないトーンで喋り、自らもマルカの元に向かう。
 顔を伏せて嗚咽する少女を、壊れかけの彫刻を扱うように優しく抱きしめて、耳元で囁いた。
 「ごめんなさいねマルカ。怖いものを見せてしまいました。大丈夫ですよ」
 膝の裏に自らの腕を運び、ゆっくりと抱きかかえて部屋を出ようとする。
 その背中に、ハルが一言投げかけた。
 「……悪いな満月。汚れ役を押し付けた」
 「いえ……私こそ止めて下さりありがとうございました」
 二人は顔を合わせることなく別れる。
 ハルは未だ立てないでいる女を一瞥し、興味なさげに自分の部屋へと戻った。 
 ハルは一人、ベッドに座って俯いていた。
 満月はマルカに付きっきりだ。マルカを一人にしてはおけない。
 むしろここでハルの方を慰めに来るようなら、彼自身が怒っていただろう。
 「何がしたかったんだ、俺は……」
 マルカは既に自分の所有物だったのだ。
 両親が来ようと警察が来ようと、追い返せば良かった。
 『そんな人間はうちにはいない』と。
 ハルは確かにマルカの幸福を願った。結果がこれだ。
 彼女を一人の人間として扱う。同時に、彼女の身体で一方的に性欲を満たす。欲を出しすぎてしまったのだ。
 いっそ性奴隷として人権など考えずに陵辱の限りを尽くしていた方が、彼女にとってマシだったのかもしれない。
 どっちつかずの姿勢が彼女に淡い希望を抱かせ、真に絶望させた。
 ハルは、そう考えざるを得なかった。
 (俺はどうすればよかった……? どうすればいい……?)
 性的な目で彼女を見ない。その選択肢は、選ぶことができない。
 ハルの心に潜む病魔が、それを許さないのだ。
 (そもそもマルカをペットのように簡単に拾った事自体、間違っていたのか……?)
 苦悩する、ハル。
 その扉を、控えめにノックする音が響いた。
 「満月か? 何やってるんだお前、今はマルカの方に……」
 がちゃり、と扉を開けて入ってきたのは、彼に忠実な下僕ではなかった。
 「……」
 「マルカ……」
 目をたっぷりと腫らせた少女が、無言でハルの部屋に入り込んできた。
 なんて声をかければいい。
 何をすればマルカの心は晴れるんだ。
 息を吸う事すら忘れて一瞬で思考を巡らせるハルに、マルカが歩み寄る。密着する。
 「――」
 唇を、貪る。
 数秒の求めるようなキス。
 「な……!?」
 突然の出来事に困惑するハルの前で、マルカは外出時からずっと着っぱなしだった服を脱ぎ始めた。
 「ご主人様」
 淡々と、脱いでいく。下着すら、入浴するかのように躊躇なく外して全裸になった。
 幾分はマシになったが、まだ体中の痣は消えきっていない。
 マルカは傷だらけだった。それは、身体に限った事ではない。
 「私を犯して下さい」
 彼女の瞳に光は無い。
 そして彼女は、瞳に濁った光を無理矢理に灯そうとしていた。
 「……どうしたんだ、マルカ」
 ハルの身体は、いとも簡単に少女の裸体に反応した。
 今すぐにでもマルカの言うとおりにセックスをしたい。
 待たされ続けてたんだ。こいつを無茶苦茶に犯して喘がせて性奴隷に変えて朝も昼も晩も四六時中幼い肉穴を抉り続けて初潮が来たらすぐに妊娠させてそのまま物のように犯しつづけて堕胎させてでも廃人にさせてでもこの少女を死ぬまで便器として使いたい。
 そう言っているハルの体を、ハルの心が押さえ込んでいる。
 「ご主人様に、おちんちんを入れて貰いたいんです」
 暗い表情のまま、彼女は自分の花弁を手で広げた。
 散々使い込まれて黒ずんだ、痛々しい性器が顔を出す。
 「傷なら、大丈夫です。ご主人様の好きなようにして下さい。おまんこも、お尻も、滅茶苦茶にして下さい。泣いて、叫んで、抵抗しても、決して止めないで下さい。お願いします」
 
 中途半端に情けをかけるから、あんな事が起こったんだ。
 もう道具として使ってしまえばいい。彼女だって、そう言っている。
 何も考えず、ただ身体だけ求めればいいのだ。それが主人と奴隷の関係。所有者と使い捨て肉便器の関係だ。
 家族でいたいと思う事こそが傲慢だったのだ。
 犯してしまえ。何よりマルカが、それを望んでいるのだから。
 そう言っている。身体が。脳が。
 一旦そう決めてしまえば、止める者はいない。
 どんな判断をしてどんな行動をしようと、満月はハルの全てを肯定する。
 止めては、くれない。
 (俺は――)
  
 






 「服を……着ろ」
 そう言うので、精一杯だった。
 「…………何でですか」
 マルカがぎゅうと拳を握りしめる。
 その目には、再び涙が滲んでいた。
 「私を……性欲処理に使うんじゃなかったんですか!? 何で、どうして…………」
 「嫌なことがあっても……セックスに逃げるようにはなるな」
 ぽろぽろと、大粒の涙が服の上に落ちる。
 「なんで、そんなこと……私を、必要として、くれないの……? 私、いらない子なの……?」
 「違う、マルカ……!」
 ハルの言葉は、もうマルカに届かない。
 マルカは服を脱いだまま、ハルの部屋から飛び出していった。
 
 (また、間違ったのか……)
 またしても、マルカは泣いてしまった。泣かせてしまった。
 それでも。その上でも、ハルにはこの選択が間違いだとは思いたくなかった。
 (俺は、最低の糞野郎だ……マルカを何回も傷つかせて、絶望させて……でも……)
 ハルは立ち上がる。出て行ったマルカを、どこに行ったかもわからない彼女を、追いかける事に、決めた。
 (まだ終わっちゃいない……。絶対に、あいつを、笑顔にしてやる……!)


 

 マルカは自分の部屋に戻らなかった。
 ただ明かりの無い、暗く長い廊下をひたすら走る。
 階段を登ったのか降りたのかすらわからずに、ただひたすらに逃げるように館中を駆けまわり、気がつけば知らない場所に立っていた。
 「……私、誰からも必要とされてなかったんだ……」
 ぺたんと床に尻をつけると、裸の身体にひんやりと冷たかった。
 「何で、生まれてきたんだろう……?」
 見れば、周りはほとんど闇に包まれている。
 広すぎる屋敷の、どこにいるのかもわからない。
 変な空間に迷い込んでしまったような錯覚すら感じ、寒さも相まってマルカは震えた。
 寂しかった。怖かった。でも、助けを求めて大声を上げることはしない。
 ハルを、満月を呼んで、誰も来ない事が何より怖かったのだ。
 (誰も、必要としていない……誰も、助けに来てくれない……)
 マルカは床に突っ伏して、静かに泣き続けた。
 とうとう彼女の心は、限界に達しようとしていた。
 「助けてよ……誰か……」
 人混みの中で言ったとしても、決して誰にも聞こえないような、小さい声だった。
 


 「風邪を引きますよ、マルカ」
 姉が、答えてくれた。
 「――――」
 夢か現実か考えるより早く、マルカはその胸へと飛び込んでいった。
 



 
 「本当に、馬鹿な子なんですから……」
 マルカの部屋まで運び、服を着せた満月は一人にしないように彼女を連れてキッチンへと降りてきた。
 暖房をつけてホットミルクを作り、椅子に座らせて彼女に手渡す。
 「貴女がいらない子なんて、私もご主人様も一回たりとも思った事はありません。全て勘違いです」
 呆れたような怒ったような悲しんだような声で優しくそう言いながら、いつものように頭を撫でる。
 少し落ち着きを取り戻したマルカは、それでも表情を曇らせたままだった。
 「でも、ご主人様は私に服を着ろって……」
 それを聞いた満月はポン、と手の平で軽く頭をはたく。
 「いつ、私達が貴方の価値はセックスだけなんて言ったんですか。ご主人様は、マルカの身体を大事にしようと思って言ったのですよ。それに……」
 一旦切って、少し考えて満月は続けた。
 「きっとご主人様は、マルカも自分と同じようになってほしくないのだと、そう思います」
 「同じように……?」
 そこでマルカはハルの言葉を思い出す。
 「『嫌なことがあっても……セックスに逃げるようにはなるな』……?」
 「はい。ご主人様は、心の病気を患ってらっしゃいます。性依存症、または色情症。そこらの年がら年中発情してるだけの男とは全く違います。れっきとした、精神疾患です」
 マルカはその言葉に少なからずショックを受けた。
 彼をただ性欲が強いだけの人物だと思い込んでいたからだ。
 「そう……だったんですか!? でも、何で……」
 「……もう、ご主人様も止めないでしょう。お話します。ご主人様の事、そして私の事も。
 部屋に戻りましょうか。お布団を被って、暖かい中でゆっくり教えてあげます」
 私とご主人様は幼い頃、近所に住んでいました。
 同い年で幼稚園、小学校と同じ……所謂、幼馴染と言う間柄でした。
 当時の私は『新月』。何をやっても失敗ばかりの、情けない女の子です。
 そんな私を、ご主人様……『ハルくん』は何かと気にかけ、助けて下さいました。
 ぐずだのろまだと心ない男子に虐げられていた時も。自転車で転び、泣いていた時も。
 私が授業中におもらしした時なんて、異変にいち早く気付いたご主人様が二階の窓を割って飛び降り花壇の花を片っ端から引っこ抜いて食べ始め、注目を引いて下さいました。
 そう……どんな時だって。あの方は、私を助けてくれたのです。
 当時は気付きませんでしたが、きっとあの時からずっと、私はあの方に惹かれていたのでしょう。
 
 小学校を卒業する日、私はご主人様から告白を受けました。
 私は家の方針により、中学からは私立校へ行く事を強制されたのです。
 ご主人様とは離れ離れ。それでも、恋人同士になればいつでも会う事ができるとお考えになったのでしょう。
 ですが、私は……それを断ります。
 私の家は父が大企業の社長で、裕福でした。親に生き方を決められていた私には、幼い時から既に許嫁が存在していたのです。
 『友達としてよくしてもらった事には感謝している。だが、それ以上の関係は許さん』
 そう言う父に逆らう事はできず……いや、できないのではありません。しなかったのです。
 父は厳格でしたが、私の事を心から考えてくださる人でした。
 本気で説得すれば。勇気を出してはっきりと『ハルくん』と生きたいと言えば。
 きっと父は相手方に頭を下げ、婚約を解消させてくれたことでしょう。
 私は……本当に愚かでした。自分の生き方一つ、自分で変えようともしなかったのですから。
 
 「そっか。そりゃ……残念だな」
 ご主人様の寂しそうな笑顔は、今も忘れられません。
 あの時あっさりと諦めた理由が、今になってわかります。
 ご主人様はきっとこう思われたのでしょう。
 「自分より、もっと幸せにできる人がいる」と。
 ……同じですね、マルカ。
 中学校に入り、私達は引っ越す事になりました。ご主人様は連絡を取ろうとはしません。
 私も、あまり執着すると父に怒られそうだと思い自分から連絡することも無くなりました。
 家庭教師を付けられた私は、どうにか難しい授業に付いて行きました。
 彼がいなくても頑張らなければ。そう思って、私は彼の影を心から消して勉学に励みます。
 こうして、一旦二人は離れ離れになりました。

 当時、私の家族は四人。
 母は妹の幻月を生んだ翌年に病気で亡くなったので、父と私、それに齢の離れた弟と妹で全員です。
 弟の残月……マルカより少し上くらいの子ですね。
 あの子は聡明で、私なんかよりよっぽど出来の良い子です。
 幻月はまだ八つの甘えん坊です。
 母の顔もほとんど覚えておらず、姉の私を母親のように慕っていました。
 最近は顔を合わせていませんが、二人はきっと元気ですよ。
 そう、二人は。
 父は、私が高校生の時に殺されました。
 専務を始めとする派閥……父を快く思わなかった者達が結託し、罠にかけたのです。
 彼は濡れ衣を着せられ、責任を強要させられて……自殺しました。
 『お前が死ねば家族は助かる』とでも言われたのでしょう。
 ……もちろん、そんな話はありませんでした。
 借金は実に十億円。高校生の小娘に、そんな額は身体を売っても到底手に入りません。
 当然、借り入れ先は真っ当な所ではありませんでした。利子だけでも返さなければ、残された私達は『路頭に迷う』では済ませれなくなります。
 父を謀殺した専務は既に、私を陵辱し兄妹を売り払う算段を立てていました。
 親の仇である豚のペニスを咥えさせられ。才気ある弟が、まだ就学もしていない妹が、心ない者の毒牙にかかる……
 それだけは。それだけは、どうしても嫌でした。
 せめて私がどうなっても、あの二人だけは。私の家族である残月と幻月だけは、真っ当な生活を歩んで欲しい。
 そんなささやかな希望すら、力のない私にはどうすることもできません。誰も、助けてはくれません。
 許嫁の約束をしていた家にすら、見捨てられてしまったのです。
 これ以上無いほどに、私は嘆きました。
 いっそここで心中してしまった方が、あの子達も幸せなのではないでしょうか。
 そう考えるほどに、私は追い詰められていました。
 でも。どうして私に愛する弟と妹を手にかける事ができましょう。
 私には、現実の残酷さを呪いながら泣くことしかできませんでした。

 ここで話は切り替わります。
 ご主人様の家庭も、かなり裕福ではありました。
 日本人のお祖父様がこの地で財産を築き上げ、こちらで育ったお祖母様と結婚なされたそうです。
 この屋敷は、そのお祖父様が遺したものと言うわけですね。
 ご主人様の家はお金持ちではあるものの、あまり子供にお小遣いを過剰に渡すことなどはしませんでした。
 これは自分で努力して成功したお祖父様を見習って、お金は自分の手で稼ぐようにと言う教育方針だったとのことです。
 衣食住に困ることなどありませんが、ご主人様の財布はいつもからっぽでした。
 お小遣いも少額、子供だからバイトもできない……そんなご主人様に、一つだけお金を稼ぐ手段がありました。
 賭け将棋です。
 物心ついた時から母方……日本に居る方のお祖父様の将棋を見ていたご主人様は、幼稚園生の時点で小学校高学年と互角に差す程の腕前でした。
 小学生時代は地元での戦いではほぼ負けなしとして、研修会と言う所へ入りました。
 プロになる気はさらさら無く、常勝無敗の真剣師……ギャンブラーになりたかった。
 日本各所を旅しながら金を稼ぎ、プロより金持ちになってやる、と思っていたそうです。
 ご主人様はお金が好きでしたが、お金そのものよりも、お金を稼ぐ過程が好きだった。そうおっしゃっていました。
 ……今は、あまり好きではないそうです。
 高校生のある日、ご主人様はアマチュアの大会で見事優勝なさいました。
 丁度その日はご主人様の一族全員が集う親睦会がありました。
 こちらに住んでいたお祖父様お祖母様やその家族達全員も呼んだ、豪勢なパーティーです。
 意気揚々と、既に始まっているパーティー会場の自宅へとトロフィーを持って帰るご主人様。
 もう家が見える所まで来て、彼は異変に気付きました。
 何故か、そこには人だかりが出来ていて。
 何故か、サイレンの音が鳴り響いてて。
 何故か、自宅が聳えているはずの場所に、炎の柱が立っていて――
 ご主人様がトロフィーを落とした音も、誰にも聞こえなかったそうです。
 放火、でした。
 「あのデカい建物でわいわいやってるのが気に食わない」。
 そんな下らない理由で、ご主人様はご家族を全員失いました。
 父も母も姉も弟も祖父も祖母も従兄弟も叔父も叔母も……他の親族も。
 全てが焼け焦げて誰がどの死体だかもわからないままに、ご主人様は財産を手にします。
 自分の手で稼ぎたかった大金より、遥かに多額の遺産を。
 ご主人様は酷く嘆いたそうです。
 「俺は、こんな金が欲しかったんじゃない」
 ……と。

 私はその事をニュースで知り、慌ててご主人様に連絡を取りました。
 電話の向こうでは心ここにあらずと言った様子でしたが、ご主人様だけは難を逃れたことに私は安堵します。
 その時既に、ご主人様は病気を患っていたそうです。
 家族を失ったPTSDによる、性依存症。
 ご主人様の身体は、精神は、とても寂しがっていたのです。欲していたのです。
 愛する人を。家族を。
 
 ご主人様の話を聞くうちに、私はあることを思いついてしまいました。
 『私が彼に取りいれば、二人は助かるのではないか』と。
 私は、最低の人間です。
 いえ、もはや人間とも呼べません。唾棄すべき、畜生以下の存在です。
 家族を全員亡くして不幸のどん底にいて、病気まで患っている人を。
 かつて私のことを好きだと言ってくれたにも関わらず、正面から向き合おうとしなかった相手を。
 自分のために利用しようと、考えてしまったのです。
 自らの薄汚さに吐き気すら催しながら、私はご主人様に言いました。
 「会って話をすることは、できますか?」


 
 私は、助からなくていい。いえ、助かってはいけない外道だ。
 それでも、あの子達だけは何をしてでも助けなければいけない。
 彼がどれだけ怒ろうと、罵倒しようと、殴ろうと、私は受け止めよう。
 それこそ性奴隷程度で済むならどんな事でもするし、どんな薬を注入されようと構わない。
 腹を掻っ捌いて彼が喜ぶなら何度でも刃をこの身に突き立てよう。
 私はその日初めてメイド服を身に纏い、彼と相対しました。
 久しぶりに会った彼は、どこか寂しそうな、あるいは悲しそうな顔をしていました。
 それが自分の境遇に対するものなのか、自分のことしか考えることができない私を哀れんでいたのか。私にはわかりませんでした。
 意を決して私は彼に跪き、懇願しました。
 「貴方を利用しようとする薄汚い私の事など、どう扱っていただこうと構いません。何でもしますし、何でも受け入れます。
 私の身体にそんな価値は無いのは重々承知です。ですが、利子だけでも返せるならあの子達は真っ当な人生を歩むことができるのです。
 どうか何卒、私を――」
 「新月」
 頭に、温かい感覚がありました。
 とても優しい、いつだって私を助けてくれた……ハルくんの、手でした。
 「良かったよ。何の価値もねぇと思ってたこんな金で、お前の助けになれるなんて。
 大丈夫だ。全部、大丈夫だから。俺がなんとかしてやるから、お前は二人と一緒にいてやれ。
 

 たった三人の……家族なんだろ」


 私はこの時、どんな顔をしていたのかわかりません。
 一つだけ思ったことは……私は、人生三回分の恩を……いや、この恩は何百回、何千回生まれ変わっても返しきれない。
 潤む視界の中で、私は叫ぶように呻きました。
 「今しばらく……少し、時間を下さい……私は必ず戻ってきて……未来永劫、貴方のものとしてお仕え致します……!!」
 その時の私は、既に『新月』ではありませんでした。

 彼は僅かな生活費を残した財産の大半……この屋敷も含んだほぼ全てを私にお貸し下さいました。
 ご主人様は渡したつもりでしたが、私は必ず返しますとそれをお借りしました。
 私は無事借金を返し終わり、父を陥れ殺害した専務達への壮絶な復讐……の話は聞かせるべきではありませんね。
 過去を清算し、私は弟と妹にいずれ家を離れねばならない事を伝えました。
 二人は寂しそうな顔をしました。ご主人様も一緒にいてやれとおっしゃっていました。
 私はきっと、人間としてならず姉としても失格です。それでも私には、やらねばならないことがあったのです。
 こうして真っ当に暮らしていけるのもご主人様のお陰です。その恩を返そうともせずにのうのうと生きることなどどうしてできましょうか。
 そう言って、二人に強く生きるように諭しました。
 代わりと言ったら失礼ですが、同時に旧友を雇いメイドとして家族に迎え入れます。
 面倒見のいい彼女のことです。きっともう一人の姉として、二人も接してくれることでしょう。
 そして私は、メイドの修行を始めました。
 家事にとどまらず、ありとあらゆる全てにおいてご主人様の支えになれるように。
 とりわけ性奉仕については重点的に鍛えました。
 貞操はご主人様に捧げるので他の男性に試せず修行は熾烈を極めましたが、処女にして修行を仮完了させました。
 これについてはご主人様と再会して更に研磨することになります。
 修行をしている私の精神は、既に常人とはかけ離れていました。
 そして私は貯めたお金で屋敷を買い戻し、残りのお金も倍にしてお返しすると同時に。

 「名前? そんなん別にそのままでいいと思うが……じゃあ、性格がまるで反対だから――」

 『満月』として生きる道を、選んだわけです。
 話が終わっても、しばらくマルカは何も言えなかった。
 驚愕の表情を浮かべて、満月の顔をじっと見続けている。
 嘘をついている顔では無かった。
 誇らしげに。そしてどこか、寂しそうに。
 満月は微笑んでいた。
 「そんな……事が……」
 二人もまた、自分と同じく心に闇を抱えていたのだ。
 いや、自分以上の壮絶な過去であった。
 「紛れもない事実です。ご主人様は……全てを、失われました。
 愛する人を亡くしてしまったご主人様の心は……人の愛し方を、お忘れになってしまったのです。
 マルカにはあの方が、ただ情欲のままに私とマルカを犯しているように見えるかもしれません。
 ですが……それは、違うのです。ご主人様は、あのお方は……」
 「ここかーっ!!!」
 バターンと扉を勢い良く開き、ハルが雪崩れ込んできた。
 寝間着一丁、スリッパも履かずに冷たい廊下をあちこち走り回っていたらしく、マルカの姿を見るや否や勢い良くベッドにダイブを決める。
 「ご主人様っ!?」
 「あー冷たい冷たい冷たい!! 満月!! 足冷たい!! あっためてくれ!!!」
 「かしこまりました。膣と肛門でよろしいですね」
 「普通に暖めろ!!! 手でええわ!! 」
 満月はもぞもぞとハルの足元に潜り、足を擦り始めた。
 ハルの方はおーさむちょーさむと言いながら、目の前にいるマルカを抱き寄せる。
 「ごめんなマルカ。……寒かったんだよな。先にしっかり捕まえてやるべきだったか」
 「私こそ、変な事言い出してすみませんでした。ご主人様の気持ちも知らずに、自分だけ不幸みたいに……」
 「……満月から聞いたんか。まあ、気にすんなそんな事。俺とマルカじゃ歳も違うしな。
 ったく、それにしても情けないったらありゃしねぇ。マルカを追いかけて見つけられねぇし恥ずかしい過去は暴露されるし……」
 「……申し訳ございません、ご主人様」
 足元から聞こえる声を、足先で突っついて笑う。
 「謝んな満月。よくマルカを……見つけてくれた。風邪引いちゃ可哀想だしな」
 「……はい」
 主人の足を、胸元で温める。
 その柔らかい感触も相まって、先程まで寒さで縮こまっていたハルの陰茎が膨らんでいった。
 「……ほんと、情けねぇ。格好もつかねぇよ。ボッキするタイミングじゃねーっつーに」
 「でも……ご主人様は、ちゃんと私を見つけて、抱きしめてくれたじゃないですか。
 とっても、あったかいですよ」
 嬉しそうに笑うマルカを見て、ハルの表情も綻ぶ。
 すっかり元通り……とはいかないが、さっきまで壊れかけていた少女は落ち着きを取り戻していた。
 「すまん……本当にこんなタイミングですまん。ちょっと満月に処理させるから待っててくれ」
 先程、一度マルカの裸体を見てお預けを食らっていたハルの体は、小さな体の温もりと柔らかい香りで獣と化していた。
 流石に、マルカに情欲をぶつけるわけにもいかない。この状況下で。
 「満月。早抜き頼む」
 「承知いたしました」
 満月はすっかり大きくなったそれを咥内が当たらないように大きく口を開いて奥まで招き入れる。
 それをゆっくりと閉じるとハルの陰茎を柔肉が隙間なく包み込んだ。
 いきなり絡みついたので頭がわかっていてもハルの体はびくんと驚き跳ねる。
 そして。
 「――じゅるぽっ」
 「ほうっ……」
 口淫にしてはかなり大きい、肉がうねり獲物を締め殺すような艶かしいと言うよりは生々しい音と、ハルの呻き声が同時に響いた。
 満月はむくりと頭を上げ、口の中にたっぷりと溜まった精液をいつものように一息に飲み干す。
 「ご馳走様でした」
 と彼女は満足気な顔をしているが。一方でワンアクションにて射精させられたハルはのけ反ってビクンビクンと痙攣していた。
 陸に上がったタラみたいだな、とはマルカの感想である。
 「きっっっっ……くぅぅぅぅ……」
 気持ち良さそうと言うよりは、苦しそうにすら見える。
 当然と言えば当然だ。
 三回分の射精を一発で絞り出される満月の淫技の一である。
 それは確かに天にも上る快楽ではあるが、男の体に負担が大きいのだ。
 ある程度鍛えられているハルで無ければ失神は確実。心臓が弱ければショックで文字通り昇天することすらあり得る。
 勿論、主人相手にそんな事は間違っても起こさないのが満月であるが。
 「……はいお待たせしましたお嬢様。これで馬鹿ちんこを黙らせたので真面目な話ができます。あ満ちゃん、足はもういいよ。こっちこいこっち」
 「む、無理しないで下さいよ……」
 満月がのそのそと這ってきて、マルカの後ろへとついた。
 すっかり定位置である。
 
 「いいか、よく聞けマルカ。
 俺はさ、満月に散々迷惑かけておいて……いや、迷惑かけてるからこそ、今幸せなんだ。
 絶世の美女で何でも言うこと聞いてくれるダメ人間製造機の満月に、どの穴に入れても痛くないくらい可愛い妹のマルカがいるんだ。
 しかもどっちも俺の事が大好きでさ、性のはけ口までなってくれるんだぜ。男として、これ以上の幸福はねぇよ。最高だ。
 ……でも。でもな。
 俺はふと思うんだよ。考えてしまうんだよ。
 この屋敷に俺の親父やおふくろ、姉貴に日向、じーちゃんやばーちゃんがいたら、どれだけ幸せなんだろうって。
 俺は欲張りだからさ、寂しいんだ。家族が死んだからこの幸せが手に入ったって言うのに、あの日に戻れたらって何度も考えちまうんだ。
 何度も、何度も……もう、戻れるわけねぇのに……」
 
 喋っている内に、自然にハルの頬から熱いものが伝って落ちた。
  
 「お前に欲情しといて何言ってるんだって話だが、お前はさ、俺にとって凄く大事な存在なんだ。
 俺の心は歪んでる。きっと、愛情も歪んでる。だからお前を傷つけるかもしれない。
 でも、お前が必要なんだよ。もうマルカを知ってしまった。お前がいなくちゃ寂しくて死にそうなんだ。自分の事をいらない子なんて言わないでくれ……」
 「ご主人様……ご主人様の愛情は、歪んでなんていませんよ」
 マルカはハルを慰めるように彼の頬を撫で、優しく口付けをした。
 「私はご主人様に、いっぱい愛情を貰って……凄く嬉しかったし、楽しかった……歪んでるなんて、言わないで下さい」
 ここに来てからの事を思い出す。
 たくさん遊んでもらって、たくさん抱きしめられて、たくさん愛してもらった。
 まだ月日はそれほど経っていないけれど。マルカにとってここでの生活は、とても心が安らぐものだった。
 人間として。家族として扱ってもらえた。
 「マルカ……頼む。俺の……俺達の、家族になってくれ……離れないでくれ……っ!!」
 涙ながらに懇願するハルに、マルカも眼の奥から感情が押し寄せてきた。
 「なに馬鹿なこと言ってるんですかぁ……ご主人様……!
 私は、拾ってくれたあの日から……お風呂で抱きしめてもらったあの時から……ずっと……
 二人の、家族ですよぉ……!」
 「……!」
 それを聞いた満月も、メイドの仮面が剥がれてしまいそうになった。
 愛しい妹を。ずっと離さぬように、後ろから包み込む。
 

 心の中の欠けた思い出を埋めることはできないのかもしれない。
 でも、新しい思い出を作ることは、きっとできる。
 ハルはそう信じ、今ある幸せを抱きしめた。
 どこにも行ってしまわないように。
 「ふむ」
 内視鏡の映像を見て、女医は言葉を漏らした。
 歳は二十代後半、ふんわりとした茶髪を編みこみカチューシャに纏めた、細い眼鏡の奥の目つきが悪い……もとい、鋭い女性である。
 ハルに拾われた時は、満月も彼女と大差ない冷徹そうな人物に見えた。もちろん、今ではそんな印象は全く無い。
 なので尚更、常に不機嫌そうな彼女の事がマルカは苦手だった。
 「見た目にはもう大丈夫そうだ。指を入れるぞ」
 「はい」
 内視鏡を抜き取り、手袋を付けた右手でマルカの膣を触診し始める。
 「痛いか?」
 「いえ、痛くないです」
 「気持ちいいんですよね、マルカ」
 「淫売は黙ってろ」
 緊張をほぐそうとした満月の冗談を、女医は不快そうに切り捨てた。
 「満月さん、お願いだからお外でそう言う事は言わないで下さい」
 屋敷のノリを持ち出す満月にマルカは恥ずかしそうに俯く。
 「ここは?」
 「痛くないです」
 触診が続く中で黙ってろと言われた満月は、
 
 『へっへっへ、嬢ちゃんここか、ここがええのんか』
 『ああっ……ヴェラ先生……そんなところを弄ったら頭が変になっちゃいます……』
 『うーむ、これは重症やな……しゃあない、私特製のぶっとい注射をぶすっとと打ち込んでやるさかい、大人しくしとれよ……』
 
 と何故か関西弁を喋る女医とマルカの痴態を無表情のままで妄想していた。
 「……嫌な視線を感じる」
 「へ?」
 「何でもない。よし、問題ないだろう。膣道はもう大丈夫だ」
 「本当ですか!?」
 ヴェラは指を抜き取り、マルカの性器を丁寧に拭った。
 手袋を外し、眼鏡をくいと上げる。
 「ああ。セックスでもスカルファックでも勝手にしろ。私は金さえ貰えればそれで構わない。あの頭に海綿体が詰まった変態ペド野郎やそこの気狂い淫乱サイボーグ肉便器が幼い少女をどうしようと私の知ったことではない」
 右手で雑に診断書を書き殴りながら、ヴェラは左手で引き出しを開けて請求書を取り出し丁寧に数字を綴る。
 ほとんど応急処置の様子見にも関わらず、診察料は他の病院と桁が二つ違った。
 取れる奴からは取る、が彼女の信条である。
 それに満月はバッグの中からポンと札束を置いて答えた。
 「バカの金持ちはふっかけても払うから便利だ。是非定期検診をおすすめするよ」
 本人の前で堂々と言い放ち、ヴェラは札束を懐にしまい込む。
 「あ、ありがとうございました……」
 「ああ、いつでも来い。金ならそこのATMから巻き上げるから怪我したらすぐ来い」
 「ありがとうございました、ヴェラ先生」
 満月の尊敬礼を無視して、ヴェラは思い出したかのように付け足した。
 「そうそう、なんなら性器の整形手術もしてやるぞ。まるで生娘のように整えてやることも……」
 「本当ですかっ!?」
 その言葉に、マルカは大きく反応を見せた。
 座ったままのヴェラに駆け寄り、縋るように跪く。
 「私の身体を……綺麗にすることができるんですか……?」
 「……!」
 マルカの必死な態度に、満月は僅かに動揺を見せる。
 自分もハルも気にしていないし、気にすることはないと彼女を励ました。
 それを聞いたマルカは恥ずかしがりながらも安心したように笑っていた。
 (あの男と女の件と言い、マルカは……)
 大丈夫な素振りを見せても、心の中では靄を抱え込んでいる。
 それを見抜けなかった自分が。心底から安心させてやれなかった自分が。
 不甲斐なく、思えた。
 「身体を綺麗に、か……。医者泣かせな台詞だ。まあ、外面はできる。外性器から内性器まで新品同様にな。だが、中身は専門外だ」
 「中身……?」
 よくわからなそうにするマルカの額と胸を、ヴェラは順につつく。
 「記憶と、心だ。お前が過去にどんな事をされたかは決して忘れる事はできない。
 例え見た目が無垢だった頃に戻っても、お前の身体に深く刻まれた傷跡は消えることはない。絶対に、だ」
 「……」
 少しづつ。ハルと満月……家族と一緒に過ごすことで、昔の出来事を思い出すことも減っていった。
 ハルの腕に優しく抱かれれば、男の裸に対する恐怖感も和らいでいった。
 満月の柔らかい身体に包まれて眠れば、悪夢を見ることも全くと言っていいほど無くなった。
 それでも。一人になるとふと思い出す。性欲を満たす物として扱われ、人としての尊厳を奪われ続けた日々を。
 血の繋がった両親に、金蔓としてしか見られてなかった事を。
 自分でも、理解していた。
 この闇が自分の中から綺麗に消失する事は、決してないだろうと。
 「そこを履き違えるな。私は外科専門ながらその気になれば内科や臨床心理士の真似事もできる天才医師だが、神様ではない。
 それをよく理解した上で望むのなら、そこの淫売にでもねだるんだな。高いクリスマスプレゼントを」
 「わかりました」
 返事をしたのはマルカではなかった。
 「マルカの気持ちが少しでも楽になるのなら金など惜しみません。好きな額を書き込んで下さい」
 バッグにしまった請求書を取り出し、机に叩きつける満月。
 「満月さん……」
 姉は本気の目をしていた。
 主人のものである財産を使う事に一切の躊躇を持っていなかった。
 当然である。
 ハルだって、ここにいれば同じ事をしている。
 「たまには良いことを言うじゃないか……淫売」
 ヴェラは口端を僅かに歪ませて、請求書にさらりと桁を書き加えた。
 日本円にして、五億の大金である。
 「それが聞きたかった」



 「……で、手術か。あの先生ホントブラックジャック好きな。未収録話のやつ借りパクされたし」
 「申し訳ございませんご主人様。許可も取らずに勝手な事をしてしまいました」
 「なんて悪いメイドだ。たっぷり罰を与えてやらんとな」
 「ああ……お許しくださいませ……」
 こんなやりとりも久しぶりである。
 マルカがいない間、二人は久しぶりに若干アブノーマルなプレイに勤しんでいた。
 「いくつ入ったっけ、最高で」
 「用意してあった1パック分は割らずに膣内に収まりました。子宮も使えばあと2,3個は入れられたかと」
 「やっぱお前ちょっと現実離れしてるわ」
 殻を剥いた茹で卵。元々は雌鳥から産まれたそれが、今人間の女性……寝転がって足を開いた満月の膣へとつるんと飲み込まれていく。
 ほとんど抵抗もなく、滑らかな曲線を持つそれが押し込まれ、雌の内部を圧迫する。
 「今日は3個しかなかったから新記録挑戦はできねーな。ま、手術の成功祝いに三人で食うか」
 「マルカには伝えない方がよろしいでしょうか?」
 「後から知って変なトラウマ植え付けてもアレだしな。産む所をじっくり見せてやろう。きゃーきゃー言うぞきっと」
 卵3つが収まった満月の下腹部は微妙に膨らみ、異物が挿入されている事を外見から伺える。
 その膨らみを、ハルが指の平で撫で上げた。
 「あっ……」
 「じゃ、たっぷり味付けしてくれよ。美味くなるように」
 「承知、致しました……」
 満月曰く、乱暴に扱っても構わない……流石に実際したことはないが、腹を本気で殴っても卵を割らないらしい。
 つまり。尻穴を穿った程度では品質上に全く問題無いと言うことだ。
 むしろ塩分が染みこんで深みのある味が出る事だろう。
 早速ハルは夕食の仕込みを始めた。
 
 手術が終わり、家に帰って、ハルの予想通り悲鳴を上げ、茹で卵抜きの夕餉を終える。
 マルカは『ハルの』蔵書室に赴き、読みかけだった漫画の続きを手にとった。
 (ロシア語で書いてあるの、これだけなんだよね……)
 そして、読み終わった。
 たまたま見つけた、全五巻の少女漫画。翻訳されてるのはこの一種類のみである。
 まともな教育を受けさせてもらえなかったマルカはかなりの時間をかけて読み切った。
 他は本も漫画も全て、背表紙に読めない言語の……恐らく日本語であろう文字が並んでいた。
 一応、他の部屋にはロシア語で書いてある本、ハルの祖父のものが山のように積んであったりする……が。
 義務教育も受けていないマルカにとっては、日本語の漫画の方がまだ理解できるものであった。
 「あ、ロリだ」
 入ってきたハルが、本棚に寄りかかって漫画の裏表紙を眺めているマルカに近づいてくる。
 「ご主人様、どうしてこの本だけ日本語じゃないんですか?」
 いやーロリはええわーと尻を触ってくるハルを振り払い素朴な疑問をぶつけるマルカ。
 「ああそれ日本だと絶版になってるんだよ。満月が昔読んでたやつなんだけど、こっちの本屋で偶然見かけたんだ」
 「そうなんですか……」
 「ロシア語の勉強にもなったしな。まあ大体読めるようにはなってたんだけど」
 基本的に二人っきりの時は日本語で喋るハルと満月だが、マルカがいる所では流暢なロシア語で会話をしている。
 日本語が聞き取れないマルカに疎外感を与えないように、と言う配慮だ。
 「わかんないんなら俺でも満月でも聞けば読んでやるぞ」
 「本当ですか?」
 「ああ、何でも読んでやるぞ。これなんかどうだ、『艶妻~昼下がりの情事~』」
 「いいです」
 明らかに官能小説である表紙を一瞥してマルカは即答した。
 「満月にこれを音読させながら俺の上に跨がらせて腰を振らせるとめっちゃ気持ちいいんだわ」
 「知りませんよ。普通の読んでください普通の」
 そう言われてハルは3メートル程もある本棚の列に目を通した。
 少年漫画、青年漫画、小説……様々なジャンルの本が並んでいる。
 「普通のねー。ガンツとかベルセルクとかは見せられないよな……」
 「えっちなんですか?」
 「まあエロくはあるけどお前の想像とは多分違う。絵本があればいいんだがな……くせにー(クセニア。マルカの部屋を生前使ってたハルの従姉妹である)のがどっかにあるかも。部屋には無いだろ?」
 そこまで子供じゃないですよ、と言おうとして口籠る。
 (……絵本なんて、読んでもらった事もなかった。一度くらい、満月さんの膝の上に座りながら読んでもらいたい……かも……)
 自分の中に残ったままの幼さに恥じらいを感じながらも、マルカはそれを否定しようとはしなかった。
 「お、いいのあるじゃーん……っても、これは満月に読んでもらった方がいいな。寝る前にでも読んでもらえ」
 そう言って、ハルは文庫サイズの小説をポンと投げ渡す。
 金髪の少年が小さな星の上に立っている、素朴な絵柄の表紙だった。
 「やっぱアレだな、読み聞かせは満月の方が雰囲気出るわ。俺はもっとアクティビティな遊びの方が向いてる」
 「あくてぃびてぃー……?」
 首を捻るマルカに、ハルは得意気に笑って指を立てる。
 「おままごとだ」



 ○



 「……さっきも言おうとましたけど、私そこまで子供じゃないですよ」
 「へーきへーき。俺お前くらいの歳でも余裕でヒーローものの遊びしてたし」
 改めて言い直すマルカだが、ハルの手は止まらなかった。
 倉庫となっている多数の部屋の一つ、クセニアが使ってた玩具がある部屋へと移動した二人。
 てっきりなにか理由をこじ付けてペニスを舐めさせてくるんだろうとばかり思っていたマルカの予想は外れ、ハルは部屋の奥をごそごそと漁っている。
 「俺怪人の真似凄まじく上手でさ、あっちこっちで引っ張りだこになったんだぜ。たまたま学芸会に来たスーアクの人に褒められた事もあったな……」
 (将棋の件といい、ご主人様って結構いろいろ特技あったんだ……)
 意外な過去の一面を耳にし、マルカはハルについて悲惨な過去以外ほとんど知らない事に気付いた。
 (満月さんなんて、昔は全然性格違ったって……聞いてみたいな)
 「あったあった、これだ」
 そう言って持ち上げたそれを運び、でんと下ろす。
 ブラウン管テレビほどの大きさの、小洒落た家である。
 犬小屋のような簡素なものではなく、精巧なミニチュアハウスであった。
 屋根を開け、壁を外して開けば、少女と少年の人形が寝転がっている。
 「ルビーちゃんとクリフハンガーくんだ」
 「そんな名前なんですか?」
 「いや今決めた」
 ハルは少年の方を手に取り、掴んだまま地面に立たせる。
 そして人形を揺すりながら裏声で喋りだした。
 「やあルビーちゃん! 僕とセックスしようよ!」
 「待って下さい待って下さい」
 マルカはルビーちゃんを動かすことなくおままごとを中止させた。
 「どうした?」
 「クリフくんの声と性格がおかしいです。多分その歳だとそんな気持ち悪い声は出ないと思いますし最初に言うことがセックスしようよってご主人様じゃないんだからあり得ません。こんなのクリフくんじゃないです」
 「お前がクリフくんの何を知っているッ……! クリフくんはなぁ、火事で一家全員を失ったショックでセックスでしか愛情を確かめられなくなってしまったんだ!」
 「それご主人様じゃないですか! やめて下さい、おままごとにそんな重い設定はいりません!!」
 「俺が演じるにピッタリのキャラ付けだと思ったんだが……」
 「ピッタリすぎて笑えないです。もっと普通の男の子でいいじゃないですか……」
 「仕方ない。初回なんだしソフトにいくか」
 「次からもハードにはいかないでいいです」
 気がつけばマルカも、おままごと自体は受け入れていた。
 すっかりハルのペースに乗ってしまった事も知らずに、マルカは人形を手に取る。
 「こんにちはクリフくん。私の家へようこそ」
 上半身は可動しないので、マルカはルビーちゃんを体ごとお辞儀させた。
 「ここルビーちゃんの家なの? 他に誰もいない家に男を招くとかルビーちゃん完全に誘ってんな」
 「違います!!!! 違います!!!!! ルビーちゃんはそんないやらしい子じゃありません!!!!!!」
 素でツッコミを入れるハルにマルカは怒りながら反論した。
 「お前がルビーちゃんの何を知っているッ……! ルビーちゃんはなぁ、元は社長令嬢だったのに母は病死、父は社内でのイザコザから自殺に追いやられて……」
 「それ満月さんじゃないですか! なんでご主人様は自分たちの重い過去をそう簡単にネタにできるんですか!!」
 「今となっては過去の話だしなぁ。日本人は自虐ネタ大好きなんだよ」
 「とにかく、ルビーちゃんもクリフくんも普通の女の子と男の子です!! ご家族は全員生きてますし性欲もありません!!! あるのは恋心だけです!!!!」
 「ありませんってのはおかしくないか。恋心だって転じれば性欲に」
 「ないんです!!!」
 「はい」
 マルカの剣幕に負け、ハルは渋々普通のカップルを演じさせられる事になった。
 だが。

 「平和に過ごしてた二人! だが突然開かれた扉から入ってきたのは怪人クマザラシであった!! クマー! 人間の雌だクマー!!」
 「なんでぬいぐるみを持ち出すんですか!?」 
 「連れ去られるルビーちゃん!! このままでは秘密基地に持ち帰られ肉便器として獣姦触手に人体改造のフルコースで廃人にされてしまう!!」
 「やめて下さい!! ルビーちゃんを助けて下さい!!」
 「くそう、こうなったら変身だ! 僕の正体は実はキャプテン・アメリカだったのさ!!(カチッ)」
 \アベンジャーズアッセンブル/
 「全然体格も人形のサイズも違うじゃないですか!! 普通の男の子設定はどうしたんですか!?」
 「キャプテンパンチ! キャプテンキック! ファイナルジャスティス!! DOGOOOOOON!!!」
 「別に窓から捨てなくてもいいじゃないですか!! クマザラシ木に引っかかっちゃいましたよ!?」
 「ルビーちゃん……無事でよかった……うっ……!? バタッ……クリフ君は過去に大怪我を負ってヒーローを引退したのだ。変身して戦う事自体自殺行為に等しかった」
 「知りませんよ!!!」
 「果たしてクリフくんの運命や如何に! 続く!」
 「続きませんよ!! 終わりですもう終わり!!!」
 マルカは怒鳴ってクマザラシを回収するために部屋から出て行ってしまった。
 一人残されたハルは。
 
 「うーむ、男なら完全に乗っかって来るのに。女の子の遊びはよくわからん」
 と首を捻るのだった。
 「そう言えば、マルカもうすぐ誕生日だったな」
 コントローラーを巧みに動かしながらハルは呟いた。
 「え、あ、はい。えっちできるようになる前の日です」
 負けじとコントローラーをカチャカチャさせながらマルカは答える。
 毎日のようにハルの相手をさせられた(もしくは自分からねだった)結果、マルカはハルと遜色ないくらいにゲームが上手になっていた。
 もともと将棋以外のゲームは『どうせ満月には勝てないし』とそこまでやり込む事が無かったハルに対し、マルカはゲームにのめり込み貪欲にプレイしていたので成長が速かったのだ。
 このままでは追い越される日も遠くないだろう。
 「おっと、その流れはアレか。誕生日プレゼントはご主人様のちん」
 「普通のでいいです」
 マルカは食い気味に言った。
 だがこれもハルの巧妙な作戦である。
 「ほう、普通のプレゼントか。何が欲しいんだ?」
 「え? えっと、それは、その……」
 細指の動きが精彩を欠く。
 何が欲しいかなど、考えもしなかった。
 まともに祝ってもらった試しさえないので、二人に祝福されれば十分幸せだ。それ以上に望むことなどない。
 誕生日が終わればクリスマスも近い。にも関わらず、マルカは全くプレゼントを貰う事を想定していなかった。
 これまでの生活で何も買ってもらえなかったせいで、物を欲しがろうとしなくなった。
 マルカが過去に言ってたので、ハルはそう思い込んでいた。
 しかし、今のマルカにとっては正確ではなかった。その理由もあるが、それ以上に。
 「……なんでもいいですよ。あんまり恥ずかしいことしなければ、ご主人様のおちんちんでも許してあげます」
 何よりも欲しかったものがすぐ近くにあるのだ。
 少しだけ照れるマルカに対しハルはゲームに集中しながら答える。
 「やれやれ。年端も行かない子供がちんこなんてねだるんじゃないぞ」
 「ご主人様が言い出したんじゃないですか!」
 「ちんことは言ってない。ちんすこうかもしれないしチンジャブかもしれない」
 「小学生みたいな事言わないで下さい!」
 「俺と満月はな、お前をかわいがって甘やかしたくて仕方ねーんだよ。折角可愛い可愛い妹ができたんだ、何でも買ってやりたいと思うのは当然の事だろ」
 「そ、そんなにかわいくはないですけど……」
 恥ずかしげに俯くその耳に、ハルは何度も同じ言葉を投げた。
 「いーやマルカは可愛い。うちの妹は世界で一番可愛い。マルカ可愛いマルカ可愛い可愛い可愛い超可愛い犯したい犯す妊娠させる出産させる子供生まれたら泣く赤ん坊の前で即もう一人仕込む」
 「やーめーてー!!」
 「シルベスタギムネマ茶」
 マルカが真っ赤になって食いかかる間にハルは見事勝利を収めていた。
 
 
 「ところでマルカ、誕生日プレゼントは何がいいですか」
 仕事が終わった満月を待ち構えてベッドに誘った先でも、同じ事を尋ねられた。
 「満月さんのおっぱいが欲しいです」
 顔を埋めながらそう答えるマルカ。
 「私の身体はご主人様のものなので千切るわけにはいきません。ごめんなさいね」
 「千切らないで下さい! 私はこうやって、満月さんに甘えて、ご主人様に遊んで貰えれば……それでいいです」
 健気で微笑ましい願い。だがそれは満月を満足させるものではなかった。
 「無欲ですね。もっと欲望を解放しなさい、マルカ。アパレル企業を乗っ取ってオーダーメイドの服を作らせて自分が専属モデルになるとか、製薬会社を買収して化粧品をプロデュースするとか、芸能プロダクションやテレビ局の大株主になり美男美女を侍らすドラマを制作する事も可能ですよ。何だったら少し時間がかかりますが小国を手中に収めることも」
 「野望が大きすぎますよ! ……じゃあ、ケーキ作って下さい。あと、ご馳走……はいつも食べてるか」
 「何を馬鹿な事を言ってるんですかマルカ。ケーキがない誕生日なんてあり得ません。そんなのはうちみたいな富裕層で無くても大前提、わざわざ頼むことでもありませんよ」
 自分なりにそこそこ大きな願い事をしたと思ったマルカは、あれ、と乾いた笑顔をこぼした。
 (そっかー……普通かー……)
 「それに、もうすぐクリスマスです。誕生日と近いからってプレゼントをひとまとめにしたりはしないので安心してくださいね」
 (クリスマスって本当にプレゼント貰えたんだ……)
 例え貧乏であっても、普通の家庭なら何かしら子供にはプレゼントを与えてやるだろう。
 これまで何度も貰えたはずのおもちゃ、洋服、携帯電話、アクセサリー。
 それら全てはマルカにとって遠い存在であり、買ってやると言われても手にするまでほとんど実感が沸かないのだ。
 「うーん……」
 心の奥底では、欲しいと言うなら何でも欲しい。それはわかっていたが、それを表に出すのは躊躇われるし、そこまで勇気がいるほど欲しいとは感じなかった。
 「まあいいです。プレゼントなど欲しくなったらいつでも、なんでも、好きなだけ買い与えてあげますから。また色々出掛けましょうね。今度はご主人様も一緒に。そのかわり」
 「……そのかわり?」
 「特別扱いしてあげる、と言うのはいかがでしょう」


 「なるほど。特別扱いか……」
 マルカは二人の間で規則正しく寝息を立てている。
 脅かす存在などどこにもいないといった様子で、安息の境地に至っていた。
 「はい。マルカは自由に振舞っているとは言え一応はメイドの身。スタンフォード監獄実験……囚人と看守の実験のように、立場を上にして上げることにより欲望を解放させてみるのは如何でしょうか。ご主人様にもお付きあいさせてしまいますが……」
 申し訳無さそうに言う満月の頭を掴み、ハルはペニスを強引に咥えさせる。
 「ふぐっ……!」
 「ご褒美だ。やっぱお前は頼りになるな」
 「……光栄の極みです……っ!」
 満月は、ハルにされる事なら何でも喜ぶ。
 恋人のように扱われても、物のように使われても。
 だからハルは愛情表現として、ありとあらゆる方法で満月とたわむれるのだった。
 「どう扱われるのがいいか、ってお前に聞いたところで……」
 「私はご主人様にならどう扱われようとも最大級の幸福です」
 「ってなるよな。どーするか……」
 満月の口を性処理道具として使いながら、マルカをどうしてやろうか考えるハル。
 腰がとろけるような刺激をたっぷりと愉しみながら思案して、そして。
 満月の喉奥に直に放つように、熱い精を打ち込む。
 どぷり。
 「~~~~~~!!」
 「よし、決めた」
 恍惚の表情で精を溜め込む満月に向かって、悪巧みするように笑う。


 「――にしてやろう」
 「?」
 マルカが廊下を歩いていると、トラックが何台か敷地内へと入っていくのが窓から見えた。
 「何だろ、あれ」
 一階へと降りると、何やら業者らしき人物にハルと満月が話している。
 見取り図のような紙を指さしながら、配置がどうこうと指示をしているようだった。
 「ご主人様?」
 「うお、マルカか。……ちょっと部屋の工事があるから、俺がいいって言うまで一階の向こう側は立入禁止な」
 呼ばれた瞬間、図面を見えないように隠すハル。
 向こう側、と指差す方は寝室とは反対側の、主に使っていない部屋が多い区域である。
 「工事って、どうしてですか?」
 「どーしてもこーしてもねーよ。いいから入んな」
 「いい子だから、向こう側へ行ってはいけませんよマルカ」
 「はぁ……」
 理由を言わない二人に疑問は残るが、とりあえずマルカは頷いた。
 それから二、三日の間、業者は出たり入ったりを繰り返し、館の中は少しだけ騒がしくなった。
 搬入と改装が終わったらしく、すっかり撤収した後でもカラーコーンとポールは置いたままで、マルカの侵入を拒んでいる。
 「……何なんだろう?」
 二人に聞いても、答えてはくれなかった。
 気になりはしたが、ハルと満月の行うこと。
 どうせまた自分には見せられないような倒錯的かつ難解な性交でもするのだろう。
 そう思ってマルカは納得し、気にしないことに決めた。



 そして、誕生日の当日。
 「うー、朝………………!?」
 マルカが目を覚ますと、ベッドの横に奇妙な人物が四つん這いで待機していた。それも、二人。
 悪趣味な全身真っ黒のラバースーツに身を包み、口だけ露出させた男女。
 首元には犬に付けるような首輪からリードが伸び、マルカの手元へと繋がっている。
 「…………ご主人様? 満月さん? ……何やってるんですか、それ?」
 こんなことをするのは――いやそもそも、この館には自分の他に二人しかいない。
 「おはようございます女王様、ご機嫌麗しゅう」
 「我らマゾ豚糞奴隷、誠心誠意真心を持って女王様のお誕生日をお祝いいたします」
 「さあ、なんなりとご命令を!」
 「まずは豚同士の醜い交尾をご覧にいれましょうか!?」

 マルカは黙って二人の脳天にチョップを振り下ろした。


 「お祝いありがとうございます。こういう冗談は二度としないで下さいね」
 「ごめんなさい。くそ、やはりハズレ選択肢だったか……女王様扱い」
 「このラバースーツは別の機会に使うとしましょう」
 ラバースーツを剥ぎ取り服を着せ正座させた二人に一応の礼を言うマルカ。
 二人の奇行じみた性的趣向の数々を知らなければトラウマものの光景であった。
 「改めてお誕生日おめでとうございます、マルカ」
 「誕生日プレゼントはちゃんとしたもん用意してあるから心配すんな」
 「……本当ですか?」
 疑いの眼差しを向けるマルカ。
 この二人の事だ。ピンクローターか何かを笑顔で差し出してきてもおかしくはない。
 そう思っていたが。
 「はい、これ」
 と言って満月が差し出す、ラッピングされた目覚まし時計ほどの箱。
 嫌な予感をひしひしと感じながら開封してみると……
 「これ……携帯電話ですか?」
 着せ替えができる、最新型のスマートフォンだった。
 想像よりあまりにまともすぎるプレゼントに、マルカは面食らう。
 「俺からはちょっと色々あるけど、まあメインはこれだな」
 と言って商品箱のまま電子辞書を差し出す。
 続いて、紙袋の中からノート、シャープペンシル、消しゴム、二色ペン……そして最後に、可愛らしいキャラクターものの筆箱を机に並べた。
 「そろそろお前も学校入る事考えないとな。とりあえずしばらくは俺と満月で教えてやる。外に出るとなると携帯も必要だろ」
 「外に、出る……」
 マルカは館から外出する必要性についてはあまり考えていなかった。
 たまに、満月やハルと買い物や遊びに行ったりできればいいくらいの思考。
 ここにいるだけで幸せだから。二人がずっとそばにいてくれるなら、館から出なくても構わないとすら思えるほどだ。
 「大丈夫ですよマルカ。不安なら私も学校までついていって差し上げます。いつでもどこでも半径5m以内に隠れてますから安心ですよ」
 「あ、俺も行く俺も。マルカを虐めるような糞ガキがいたら男子だろうが女子だろうが物陰に連れ込んで俺のちんこで屈服させたる」
 「来ないで下さい!」
 自分の不安感より、二人の過保護っぷりの方がどう見ても大きい。
 (……本当に学校行っても大丈夫かな、この人たち……)
 
 ハルに加えて、今日は普段ほとんど仕事をしている満月も、料理の時以外付きっきりでマルカの面倒を見てくれた。
 コントローラーを繋いで三人でテレビゲームの対戦をしたり。
 シアタールームで満月の膝に座りながらディズニー映画を鑑賞したり。
 ケーキの余った材料を身体に塗ったくり「私がケーキです、マルカ。たっぷりお食べなさい」といつもの調子の満月を、なんだかんだ言いつつも舐めたり。
 暖色系のロリータドレスを着せられて撮影会になり、興奮したハルに体中弄られたり。
 楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
 気が付けばすっかり日は沈んでいた。外は雪が降りしきり、窓から見渡す一面が青白く染まっている。
 「……お誕生日って、凄かったんだな……」
 明らかに作り過ぎた豪勢な夕食。満月の気合が入った料理の数々はすっかりマルカの腹の中に収まっている。
 今日はこれまでの中で、間違いなく一番充実した誕生日だった。
 こんなのが毎年あるなんて、今までどれだけ自分は損をしてたのだろうとすら思うくらいだった。
 「マルカ」
 片付けが終わったのか、満月が歩いてきた。
 「どうでしたか、今日は。楽しんで頂けましたか?」
 「はい! とっても楽しかったです!」
 満面の笑みを浮かべる妹が愛おしくて、満月も思わず笑みを漏らす。
 「そうですか、それは何よりです。ところで、もう一つプレゼントがあるのですが」
 「え、まだあるんですか……? 嬉しいですけど、そんなに貰うわけにも……」
 遠慮するマルカに、満月は先ほどとは違う含みのある顔で笑う。
 「そんな事気にしてはいけませんよ。とってもとっても素敵なプレゼントなんですから。きっと一生ものの体験になりますよ」
 そう言って薬瓶から取り出したのは、一粒の錠剤。
 アルファベットで何やら小さな文字が刻印してある、風邪薬にも似た薬であった。
 「お薬がプレゼントなんですか?」
 怪訝な顔をするマルカ。
 「はい、とっても幸せな気分になれるお薬ですよ。口をお開けなさい」
 「待って下さい! それまずいやつじゃないんですか!? 嫌ですよ麻薬なんて!!」
 「マルカ」
 満月は屈んで、マルカと目線を合わせた。
 「私がマルカに危険な薬を飲ませると思いますか?」
 とは言うもののその顔は悪戯っぽく微笑んでいた。
 「……それは絶対にないですけど、多分えっちなものではあると思います」
 「それは飲んでからのお楽しみです。大丈夫ですよマルカ。絶対に後悔はさせませんから」
 そう言って満月は自分の舌に錠剤を乗せ、マルカに顔を近づける。
 「んっ……」
 そして、口移しで薬を流し込む。
 マルカは戸惑いながらも、拒否することはなかった。
 満月の暖かくほんのり甘い唾液で、錠剤を嚥下する。
 「……飲みましたよ」
 口を離し、頬を染めながら言うマルカ。
 満月は優しく、彼女の口を撫でる。
 「飲みましたね。大丈夫ですよ、ネタばらししてしまうとただの睡眠薬ですから」
 「え、睡眠薬? なんでそんなものを飲ませたんですか? まだ寝るには早い時間ですけど……」
 「後でわかりますよ。効き目が出るまで少し時間がありますから、一緒にベッドへ行きましょうね」
 「はぁ……?」
 何だかわからないまま、満月に連れられて自室へ戻るマルカ。
 満月の膝枕を堪能している内に睡魔がやってきたので、仕方なく身を任せる。
 「眠くなってきましたか? おやすみなさい、マルカ。

 ……どうか、いい夢を」
 なにか含みのある言い方で囁く満月の声と共に、マルカの意識は溶けていく。










 お姫様は眠りについている。
 綿のように柔らかい、絹の肌さわりの天蓋つきベッドで。
 ずっと、ずっと、眠り続けている。
 いつか王子様がキスで起こしてくれる、その日まで――

 
 「………………夢、か」
 先ほど見た映画の影響か、おとぎ話のような夢に浸ってしまったようだった。
 意識がはっきりしないが、何か身体に違和感を覚えて目を開ける。と――
 「――――え」
 そこは知らない部屋だった。
 自分の物より大きく、豪奢で、身体が沈むほど柔らかい……夢に出ていたような天蓋つきベッド。
 その周りには館にあるものより遥かに大きく、月光で深みのある光沢が出ている、見るからに高そうな家具が並んでいた。
 部屋だけではない。自分の格好も、寝る前とは明らかに違っていた。
 それこそお姫様が着るような、雪のように真っ白いドレス。手袋は肘まで伸び、スカートは足先よりも長く、ボリュームがあるものだった。
 「えっと……? 何、これ……??」
 何がどうなっているのかわからない。
 目が覚めたら、お姫様へと変身していた。
 そうとしか、言いようが無かった。
 ひょっとして、まだ夢を見ているのだろうか。
 (そうだ、これはきっと夢……私がお姫様になんて、なれるわけ……)
 寝てしまおうと考えた所で、扉がゆっくりと開いた。
 そこから現れたのは――

 「ご主人……様……?」
 
 「お迎えに上がりましたよ――マルカ姫」

 少し軍服にも似た、肩当てとマントのついた正装。
 纏うは慈愛に満ちた微笑みを浮かべる、長身の美青年。
 映画で見たような。
 夢で見たような。
 王子様が、そこに立っていた。  
 「どうしたんですかご主人様、その格好……?」
 「ご主人様、とはお戯れを。貴女は姫君で、私は隣国の王子。決して結ばれぬ……はずの、間柄でしょう」
 いつものだるそうな様子とは全く違う、丁寧な口調で訂正しながら自称王子は歩み寄ってきた。
 ボサボサに乱れて海藻のようだった髪の毛は真っ直ぐに伸び、丁寧に揃えられて清潔感を出している。
 猫背気味の姿勢もピシっと伸びている。いつも半分寝ているような目はしっかりと開かれている。
 一挙一動に気品すら感じるほど――物腰が、まるで別人であった。
 そして、マルカとて当然知らないわけではなかったが――

 「今日は貴女を、私の伴侶にするべく参上致しました」

 ――真面目な時のハルは、満月と釣り合う程の美青年である。
 「……!!」
 息が触れ合う程の距離で、顎元を優しく掴まれ、くい、と上げられれば。
 「あ、あれ……ご……ごしゅじんさま…………ですよね……?」
 それだけでマルカは、彼の芝居に騙されてしまいそうになる。
 思考が定まらない。鼓動の高まりは止まらない。
 「――――っ!」
 あまりにも優しい口吻が、ダメ押しとなった。
 なんでこのような状況になったのかなど、考えられない。
 頭が真っ白になる。目に映る光景以外は、意識の外へと追いやられる。
 二人の口が離れて、マルカは少し涎を垂らしてしまった事にも気づかなかった。
 「目は覚めましたか、姫様?」
 「はぁっ…………はぁっ…………はい、お、王子様ぁ……」
 変貌してしまった。
 恋する少女に。物語のお姫様に。
 そんな姫君の腰に王子は手を回す。硝子細工でも撫でるかのように、柔らかく。
 「ああ、なんと言う美しさ……貴女の前ではどんな美女も、花々も、霞んで見える……夜空を照らす月だって、貴女の美貌の前では恥じらい、顔を隠すでしょう」
 「……!!」
 歯の浮くようなその台詞は、マルカにとって。
 世界で一番美しいと言われているのと同義だった。
 「貴女と、共に生きていきたい……いや、この美しさを目に欲望を隠すことなどできない」
 ほんの少しだけ力を込めて、マルカを抱き寄せる。密着させる。
 温もりの中で鼓動の音が聞かれるような気がして、マルカは息を荒く吐いた。
 「貴女を……私のものにしたい。ずっと、ずっと……いつまでも、愛で続けたいのです。
 姫様……私のものに、なってくれますか?」
 「…………」
 今ここで『はい』と言えば、もう後戻りはできないだろう。
 それは今この場に限ったことではない。きっと、完全にこの人のものになってしまう。
 この人の心と身体を求めるだけで、人生が終わってしまうだろう。

 (あいして、あいされて、あいをだして、あいをからだにそそぎこまれて……
 おかしくなっちゃうほどいっぱいいやらしいことをされて、きがくるってしまうほどひどくてはずかしいことをされて、なんどもなんどもきもちよくて、やさしくて、あったかいことを……ずっと、される。……して、もらえる…………)

 女である身体そのものが言っている。直感的に感じたのだ。
 堕ちてしまう、と。
 身体も、心も叫んでいた。
 堕ちてしまいたい、と。
 この人のものになりたい、と。

 「私、は……あなたのもの、です……どうか、私に、ずっと……
 甘い夢を、見させて下さい……」

 潤む瞳。舌がもつれそうなほどの、たどたどしい口使い。
 愛しいその少女を自分のものにするべく、小さな身体をドレスの上から指先で撫で上げる。
 背中に回していた手を上にゆっくりと滑らせる。襟から素肌の首筋に触れた瞬間、少女は絶頂を迎えたかのように急に身体を反らし、小刻みに震えた。
 「ふあぁっ……!!」
 うなじを往復するようになぞると共に、反対の手を彼女の腿へ下ろす。
 軽く突くように、とん、とんと叩くと、呼応するかのように少女の息が漏れる。
 吸い込む瞬間を狙って、また唇を盗む。
 そして目を見開くマルカの小ぶりな尻を円を描くように触った。
 (なに、これ……!?)
 触れられる度に身体が熱を帯びる。
 こんなに優しくされているのに、もう体中汗まみれになってしまっているのだ。
 こんな事はマルカの経験にはなかった。
 男女の交わりと言えば、嫌がる女の穴に男が棒を捩じ込み、苦痛と気持ち悪さの中で汚らわしい白濁液を吐き出されるだけだった。
 (こんなの、知らな――)
 既に股が湿り気を帯びている事にすらマルカは気づかず、未知の感覚に溺れる。
 そんな状態の中で。
 ハルはマルカの真っ赤な耳を唇で噛み。
 舌で軽く、中を愛撫してやった。
 「ひゃ、あ、あああああああああああああ!!!!!」
 悲鳴を上げながらマルカは身体を大きく痙攣させた。
 電気を流し込まれたような感覚が子宮から脳を貫く。
 何がなんだかわからないまま、快楽と恐怖と混乱で力の限りハルを抱きしめた。
 (すごい……わかんない……っ! なんなの……!?)
 服も脱がされることなく、性器を弄られることもなく。
 マルカは人生初のエクスタシーを迎えて、涙をぽろぽろと流した。
 脱力し、ハルにもたれかかるマルカ。それを、優しくベッドに押し返し、仰向けに倒した。
 「おや、イってしまいましたか。なんと可憐な姿でしょう……姫様、お洋服を脱がせますよ」
 「はっ……っ……はい……」
 まだ挿入はおろか性器を隠したままにも関わらず、この有り様だ。
 (セックスなんてしたら……本当に、頭が変になっちゃうかもしれない……)
 痴態を見られた事もあって、上気した顔でそんな事を考えた。
 しかし、やめると言う選択はなかった。
 (……変になってもいい。……ううん、きっと違う。変になってしまいたいんだ。この人に、溺れて……愛されたい……)
 するりするりと、流れるようにハルはドレスを脱がせていった。
 恥ずかしい一方で早く脱がせて欲しいと言ったように少しだけ抵抗するマルカの手。指先で触れると、その力はゆっくりと抜ける。
 しっかりと付け替えさせられていた下着に手をかける頃には、マルカはもうなすがままとなっていた。
 一糸纏わぬ姿になった姫を見て、王子が感嘆のあまり言う。
 「美しい……」
 「……!」
 その呟きが本心のように聞こえて、眼の奥が熱くなった。
 健康的で心安らげる生活を送れたおかげか、傷や痣もほとんどわからないほどに綺麗になっている。近いうちにも完治するだろう。
 女性器だって、自分で見ても惚れ惚れするほどに整っていた。
 一生のコンプレックスになるはずだったそれも、完全に治してもらったのだ。
 感謝しても、しきれない。
 「あり……がとう、ございます……っ!」
 そう言うので精一杯だった。
 もっと他に言いたいのに。何度も何度もお礼を言いたいのに。
 拾ってくれたこと。
 嫌がることはしないって言ってくれたこと。
 なんでもわがまま言っていいって言ってくれたこと。
 自分の部屋を与えてくれたこと。
 暖かくておいしいご飯を出してくれたこと。
 ご飯をおいしく食べるだけで喜んでくれたこと。
 温かい寝床で一緒に寝てくれたこと。
 一緒に遊んでくれたこと。
 傷だらけの身体でも好きだって言ってくれたこと。
 満月に甘えていいって言ってくれたこと。
 遊園地に連れて行ってくれるって約束してくれたこと。
 満月と服を買いに行かせてくれたこと。
 両親に利用されそうになって泣いてる時に慰めてくれたこと。
 自暴自棄になった時に、ちゃんと止めてくれたこと。
 飛び出していった自分を、裸足で探しまわってくれたこと。
 寂しい時に、ちゃんと抱きしめてくれたこと。
 可愛い妹がいて幸せだって言ってくれたこと。
 大事な存在で、お前が必要だって言ってくれたこと。
 プレゼントをいくつも買ってくれたこと。
 家族になってくれたこと。
 今この瞬間、夢の様な体験をしていること。
 
 「ありがとうございます……ご主人様……わたし……すごい、幸せ……です……!」
 もう一度、心を込めて。マルカはそう言った。
 ご主人様、と呼ばれてしまったハルは困ったように笑って、彼女の頬を撫でる。
 「まだ私のものになるには早いですよ、姫様」
 今度は自分の服を脱いでいく。ボタンを外し、ベルトを取って、下着を下ろす。
 崛起した男性自身がマルカの目に入った瞬間。
 (私、今……凄い興奮してる……)
 マルカの下腹部がきゅっと締まった。
 (あれが……おちんちんが、欲しいんだ)
 それが愛おしい。
 優しくされて、激しくされて、乱れさせられたい。
 マルカは生まれて初めて、自分が女であることを幸運に思った。
 「きて……きて、下さい……っ!」
 拮抗していた恥じらいと性的欲求は、ここでバランスを乱した。
 いやらしい女だと自嘲気味に思いながらも、自分の花弁を指で開いて、それが来るのを待った。
 もうしばらく胸や尻、性器付近を愛撫し、段階を踏んで気持よくさせてやろうと思っていたハルはそれに戸惑う。
 も。
 「はしたない子で、ごめんなさい……でも、お願いします……!」
 切なそうな瞳で見ながら、恥ずかしいのを我慢している少女の顔と。
 早く貫いてくれとひくひく歪動し、涎を垂らしている可愛らしい膣口に。
 焦らしてやるのは王子様の役ではない、とハルは判断した。
 「大丈夫、エッチな姫様も可愛らしいですよ」
 そう言って、ペニスをそこに密着させる。
 粘膜が少し触れるだけで、マルカはまたびくんと大きく反応した。
 恐らく、挿入した瞬間にまた絶頂してしまうだろう。
 (私、今日……何度いかされちゃんだろう……)
 不安と期待が入り交じる中で、マルカは密着部をじっと見つめる。
 「準備は大丈夫ですか?」
 優しく尋ねるハルの声に、マルカは息を飲んでから答えた。
 「いつでも、大丈夫です……好きなように、動いて下さい……」
 ハルは頷いて、行きますよ、と小さく呟いた。
 そして。   
        ・・・・・・・・・・・
 ハルの剛直が、マルカの処女を食い破る。
 
 「~~~~~~~~!?!?!?」
 二度目の、絶頂。
 マルカは天にも昇る気持ちよさの中に、破瓜の痛みがあることにひどく驚いた。
 (嘘……!? なんで……!? 私は、処女じゃ……!)
 結合部を見れば、確かに血が僅かに垂れている。
 快楽のあまり頭がうまく回らないマルカの耳元で、ハルが囁く。
 「確かに頂戴しましたよ、マルカ姫の純潔」
 「あ――」
 その言葉を聞き。何故処女膜があったかなんて、一瞬でどうでもよくなった。
 愛しても愛しても足りない人に、初めてを捧げられた。
 それだけで。過去の出来事の方が夢だったんじゃないかとすら、マルカには思えた。
 「痛く、ないですか」
 一突きで腰の動きを止める優しい王子様の言葉。
 マルカは涙をぼろぼろとこぼしながら、それにはっきり答えた。
 「痛い、です。けど、痛いのもすごい気持よくて、幸せで、大好きです。続けて下さい」
 ハルは微笑むと、ペニスを引き抜いて、もう一度。今度はゆっくりと、奥まで差し込んだ。
 「あぁ……っ」
 全身に波のように広がる心地よい刺激。僅かな痛みが膣口を締まらせ、快楽は更に深く、甘くなる。
 ハルは夢心地で呼吸するマルカの口へキスをして、舌を絡ませる。
 「んっ……んっ……」
 瞳をすっかりとろけさせ、自分から舌を動かして求めてくるマルカ。
 これまで全く触らなかった小さな乳首。それを弾くとすぐに動きが止まってしまう可愛らしい少女の舌を、ハルは優しくエスコートした。
 使い込まれて広がっていたはずの少女のヴァギナは、女医の手によって『全て』元通りにされてある。
 少し腰を動かすだけで亀頭にひっかかる、幼い穴。その味を愉しみながらも、ハルは自分より相手を気持よくさせることを優先する。
 と言っても。
 「好きっ……! 好きっ……! ご主人様、大好きですっ……!」
 すっかり女の顔になり自分から腰を振っているマルカは、もはや何をしても自分より快感を得るだろう。
 だからハルは一番奥に射精してやることに決め、少しだけ腰の動きを激しくする。
 「あっ、あっ、あっ、あっ……」
 その動きに合わせて小鳥のように高い声で鳴くマルカ。
 幸福の絶頂の中で、精を放たれる。
 「ああああああああああああああああああああっ!!!」
 女の奥に熱を持った愛を注ぎ込まれたマルカは、ハルの首に回していた腕にぎゅっと力を入れてそれを受け入れた。
 ハルもそのまま、マルカを抱きしめる。
 「……これで貴女は私のものです。ずっと離しませんよ、マルカ姫」
 「はぁ……はぁ……だ、だったら……んっ」
 マルカは息を切らせながらも、ハルの口にむしゃぶりついた。
 舌の動きで愛を伝えるように、口内をすみからすみまで味わう。
 そしてたっぷりと口を貪った後で。
 「はぁ……はぁ……好きなだけ、壊れるくらい、私の身体を、使って下さい……」
 まだ恥じらいを捨てきれないまま、そう言う。
 「でも、あの、激しい方がいいんですけど……ちょっとだけ、優しくしてくれると……嬉しい……です……」
 もじもじしながらどんどん小さな声になるマルカに、ハルは微笑んでキスを交わす。
 「お任せ下さい、お姫様」

 その日は夜が明けるまで、少女の嬌声が館に響き渡った。










 日が西に傾きかけた頃、マルカは目を覚ました。
 いつもの部屋で、いつもの寝間着のまま。
 「……夢……」
 ではない事はすぐわかった。下腹部に違和感を覚えたからだ。
 パンツを脱ぐと、そこには小さめサイズのディルドが挿入、固定されていた。
 「…………なにこれ」
 もう何が起こっても驚かないマルカがそれを引き抜くと、精液がどろりどろりとたっぷり溢れ出る。
 ディルドにはロシア語でこう書いてあった。
 『お誕生日プレゼントその3です。いい夢は見れましたか?』
 「………………」
 ありがたいようなげんなりするような微妙な気持ちで、マルカは風呂場へと向かった。

 「おはようございますマルカ。どうでしたか、プレゼントは」
 身体を洗い終わった後でリビングへ行くと、満月が微笑みながら歩み寄ってきた。
 「おはようございます。2つ目は最高でしたけど3つ目はけっこうぶち壊しでした」
 「あらあら。私が啜ってあげた方がよろしかったですか?」
 「…………」
 マルカはしらっとした目で満月を見るも、返ってくるのは嬉しそうな微笑みだけだった。
 「……2つ目は、本当に、最高でした」
 ちょっとだけ照れたようにそう呟くマルカを、満月は優しく抱きしめる。
 「そうですか。それは何よりです」
 「……」
 「どうかしましたか?」
 少し表情を曇らせるマルカ。
 申し訳無さそうに、顔を伏せる。
 「私、やっぱり、ご主人様の事が……でも……」
 自分がハルと結ばれたら、本来いるべき場所にいるはずの満月はどうなるのか。
 二人の関係を知りながら、満月よりハルのことを愛しているなんて言うことはできない。
 でも、自分の気持ちに嘘はつくこともできない。
 わかっていながらも、どうしても……自分が、ハルのお嫁さんになりたかった。
 「マルカ」
 満月が、言葉を遮る。
 「貴女は、幸せですか?」
 「はい。間違いないです」
 即答。
 胸を張って言える。マルカは今、最高に幸福だった。
 「前も言いましたが、ご主人様も私も、マルカの幸せを心から願っています。
 そして貴女が抱く全ての懸念は、私が振り払ってみせます。
 どうか私を、信じて下さい」
 「……!」
 そう。目の前にいるのは、誰よりも頼れる姉だった。
 これまで何度も支えてくれた彼女が信じろと言うのだ。
 信じなければ、これまでの恩に報いることができない。
 「遠慮など許しません。ご主人様に……思いを伝えてきなさい」
 「…………はい!
 私一人じゃなく、満月さん……お姉ちゃんも幸せになれるように……私も頑張りますから!
 お姉ちゃんの幸せは、私の幸せです!!」
 力強く頷いて駆けていく妹の背中を見て、満月は涙を流した。
 それは後悔の涙でも寂しさの涙でもない。
 「…………マルカ…………!」
 歓喜の、涙だった。

 「すー……はー……」
 ハルの部屋の前で深呼吸し、ドアノブに手をかける。
 「……失礼します、ご主人様」
 部屋に入ると、ハルは詰将棋の本を寝転がって読んでいた。
 いつものように上下スウェットで、ちょっとだけボサッとした髪型。
 昨夜の王子様と同一人物とは思えない。
 思えないが、そんなことはもはや関係なかった。
 「おうマルカ。夕べはお楽しみでしたね」
 「ご主人様だって楽しんだじゃないですか。あんなに優しくしたり激しくしたり……本当に死んじゃうかと思ったんですからね」
 その口調に全く怒りはこもっていない。
 恥じらいは、未だ残っているが。
 「いやー悪い悪い。なんせずーっとおあずけされてきたご馳走だからな。ロリの子宮に貯めておいた三日分の精液たっぷり出させて頂きやした。ごっぞさんです! マルカ先輩の処女まんこめっちゃキツくて最高っした!次はケツぶっ叩きながらバックで突きたいっす!」
 本当に同一人物とは思えない。最低の発言だった。
 最低だったが、マルカにとって彼は最高であることに違いない。
 「……ありがとうございました、本当に」
 「え、今の台詞に礼を言われるポイントあった……?」
 スルーしてマルカは続ける。
 「満月さんとも話しました。私、世界で一番ご主人様が大好きです。どうか私と……結婚して下さい」
 頭を下げるマルカに、ハルも寝転がった姿勢から起き上がる。
 ハルも行為の途中で大体は察していた。
 マルカを幸せにしてやりたいが為の芝居の結果。マルカは、最大の幸福をそこで見つけたのだと。
 「……そっか。それがお前の、一番の幸せってわけか」
 頭を上げる。その瞳に迷いは見られなかった。
 「はい。私の本心です。あんなことされたら、本気で好きになっちゃうに決まってるじゃないですか。責任はきっちり取ってもらいますよ」
 「大変だぞー俺の世話は。嫁になんてなったら、きっとうんざりするぜ」
 「大丈夫です。満月さんみたいにはなれないかもしれませんけど、できることならなんだってします。どんな恥ずかしいことや痛いことされても絶対に嫌いになんかなりませんよ。
 私は、ご主人様のものにされちゃったんですから」
 顔を染めながらも微笑むその顔は、姉にほんの少し似ていた。
 「満月じゃねーんだからよ。それに俺は知っての通り浮気症だから、満月はもちろん色んな女に手を出すかもしれないぞ」
 「いいですよ、別に。好きなだけ浮気して下さい」
 平然とそう言うマルカに、ハルは本格的に満月の影響を伺った。
 「でも」
 マルカは近づいて、ハルのスウエットを下着ごと下ろした。
 まだ小さいままのペニスに、ぱくんとかぶりつく。
 「おお、どうした急に」
 嬉しいサプライズに驚くハル。
 マルカは心を込めて奉仕し、それを勃起させると口を離して頬ずりする。
 「私と満月さんを毎日たっぷり可愛がってくれるなら、ですけど」
 「……ワガママ言うようになったもんだ」
 ハルは優しくマルカの手を引いてベッドに誘い込んだ。
 「ちょ、ちょっとご主人様! お尻はまだ早いです!」
 「よいではないかよいではないかー! 嫁になるならこの程度は序の口だぞ! ほーら嫌いになったか!」
 「ぜ、絶対に嫌いになんかなってあげないんですから! ひゃあああ!? おへそにおちんちんは入らないですよ!」
 「満月は入るんだなーこれが! キョーキョッキョッキョッキョッ! 貴様も俺のオナホールにしてくれる!」
 「きゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 
 その日も太陽が沈むまで、少女の悲鳴が館中に響き渡ることになった。
 





 
 「ま、どっちにしろちゃんと学校は行けよ。んでちゃんと友達作ること。いいな」
 「……はい。ねぇ、ご主人様」
 「どうした?」



 「ずっと……あの夜みたいに、甘い夢を見させて下さいね」

 「お任せ下さい、お姫様」























 それから。
 数年の時が流れた。
 「結婚かー。あたしにゃ縁がなさそーだ」
 ソフィアはマルカのベッドにだらしなく仰向けになり、淵から首を投げ出して重力に任せるようにしながら呟いた。
 膝を立てて寝ているものだから、短いスカートからは下着が丸見えのはしたない姿である。
 「ソフィアちゃんもすぐいい人が見つかるよ。美人なんだから」
 「せんぱいはいーよな。だんなはアホで変態でロリコンで出不精でアナルと小便が大好きなキモ野郎だって事を除けば言うことなしの金持ちイケメンだもんな。あと男を掘った後は自分のケツを掘らせるホモ野郎で」
 「ソフィアちゃん、なんで結婚を申し込んだのかわからなくなりそうだからそれくらいにしておいて」
 「へいへい」
 改めて事実を羅列されると、ハルは相当どうしようもない人物に思える。
 いつも満月が賛美の言葉しか言わないから、尚更だった。
 だが、マルカはハルの良い所を、満月に負けないくらい知っている。
 何だかんだと言うソフィアとて、彼が嫌いだったら館に居着いていないだろう。
 結局のところ、彼が本人自身を何と言おうと、法律的にどんな問題があろうと。
 マルカにとって、満月にとって、ソフィアにとって。
 ハルは恩人であり、愛すべき人物なのだ。
 「ま、いいや。せんぱい達が結婚した所で大して生活は変わらなそうだしね。だんなのちんぽも結構気に入ってるし、まだしばらくは寄生させてもらうわ」
 金髪をふわりと靡かせ、起き上がるソフィア。
 「……うん」
 嬉しそうに言うマルカ。
 すっかり身長は追い越されてしまったものの、ソフィアは唯一の後輩であり、最初の友達であり、可愛い妹である。
 できるなら、ずっとここにいて欲しい。そう思っている。
 「でもだんなと結婚したら、せんぱいの事何て呼べばいーんだ? おくさん? よめさん?」
 「別に、そのままでもいいと思うけど……」
 ばたーん。
 「『若奥様』か『マルカ様』が適切だと思われます」
 突然扉を開き何食わぬ顔で会話に乱入してきた満月に、ソフィアは苦い顔を浮かべる。
 面倒なのが入ってきやがった。明らかに表情がそう言っていた。
 「満月さん!? ……そんな、今まで通りでいいですよ。奥様なんて柄じゃないですもん」
 「いいえ、マルカ様は今日から私共の仕えるべきお方の一人。ご主人様と並んで忠誠を誓い致します」
 「私共、って言われてもあたしは誓わないけど」
 「ソフィア、後で地下室に来なさい」
 「うぇ!? や、やだよ! 拷問室だろあそこ!」
 「人聞きの悪い事をいうものではありません。おしおきにお尻クチュクチュするだけです」
 「それを一般的に拷問って言うんだよ!!」
 「ま、まあまあ、いいじゃないですか満月さん。そんなに堅苦しくされる方が嫌ですよ……満月さんはお姉ちゃんなんですから」
 と、マルカが宥めると満月の目つきも和らぎ、ソフィアの震えも収まった。
 「そうですか。ではこれまで通り、マルカ、とお呼びしますね……命拾いしましたね、ソフィア」
 「た、助かった……。また犯される所だった……」
 過去に何度も尻穴を弄くられたソフィアはほっとして臀部をさする。
 満月の事は嫌いではない、むしろある意味では大好きなのだが……彼女の口うるささと、おしおきと称するレズレイプには辟易していた。
 「この間は手首が入ったので、今日は両手でお尻の中をこねて差し上げようかと思いましたが」
 「あーうるさい! その話はもういいだろ!!」
 顔を真っ赤にして怒鳴るソフィアを見て、マルカはつい笑みを零してしまった。
 うーと低く唸る彼女の頭を撫でて、満月へ顔を向ける。
 「満月さん。満月さんは、幸せですか?」
 突然の質問。少々面食らったが、満月は優しく微笑んで答えた。
 いつものように、優しく。
 「はい。とても幸せです」
 「本当の本当に、幸せですか? ……ご主人様を私に奪われて、二人が小さい頃のような関係に、戻ることができなくて……」
 「はい。これ以上なく、幸せです」
 徐々に顔を伏せるマルカに対し、満月はきっぱりと、そう言い切った。
 「マルカ、実を言うとですね。ご主人様と私の関係は――幼少時から変わっているようで、本当は何も変わっていないのです。
 表面的な主従関係ではなく、もっと奥の、奥の、奥……一番の根本では、私達はお互い相手を思いやって、支え合って生きてきました。
 そこは、マルカがご主人様と結婚して変化が生まれたりはしません。強いて言うなら、二人とも同じくらい、マルカを思いやって、支えたくなっただけです。
 マルカはご主人様の一番の特別であり、私はご主人様の、また別の一番の特別です。だから奪われたなんて微塵も思ってません。それに」
 満月はゆっくりとマルカに歩み寄り、密着し、抱きしめて、唇同士を軽く触れさせた。
 「ご主人様は私の一番の特別で……マルカは、別の一番の特別です。マルカはどうですか?」
 「私も……満月さんのことも、どうしようもないほど大好きです。一番の、特別です」
 マルカの表情は晴れ、今度は自分から満月の唇を求めた。
 ハルの事を愛しても愛しても愛し足りないくらい思っているのと同様に、満月もまた、愛したくて愛したくて仕方のない存在である。
 この関係は、ずっと変わることはないだろう。

 「よかった。では今日は控室でたっぷりとNTRプレイをして差し上げますね。何度もイカせた後でローターを挿入し、式の最中はずっと付けていて貰います」
 「よくないですよ! て言うかそれ、いつものご主人様の仕込みですよね!? どうせ始まる前からご主人様がどこかで見てるんでしょ!?」
 「さあ、何のことやら」
 ……こう言う所も、恐らくはずっと変わらないだろう。
 「うっわ、レズキモいわー……」
 蚊帳の外であったソフィアが不快そうにポツリと零すと、満月は目にも止まらぬ速度でソフィアの背後に回りこみ、育ってきた胸を揉みしだいた。
 当然、半袖メイド服の袖からいつものように手を忍ばせて、下着の中へと侵入させた上で、だ。
 「ひゃわぁ! な、なんだよ突然!」
 「ソフィア。当然貴女にもプレイを手伝っていただきますよ」
 「は!? な、何であたしが! も、揉むな、絞るな!! 出ない出ない出ないって!!!」
 「嫌なら今から式が終わるまでずっと私のパペットにして差し上げますが」
 「恐ろしいこと言うな! わ、わかったよ! わかったから!」
 その言葉で解放され、息をぜーはーと吐くソフィア。
 「後で逃げ出したりしたら両手パペットの刑ですからね」
 「あ、悪魔め……せんぱいと扱いが違いすぎるだろ……」
 「だ、大丈夫? ソフィアちゃん……」
 「扱いを良くして欲しかったらもう少し普段の素行を良くする事ですね」
 無論満月も、ソフィアの事を深く愛している。さしずめ手のかかる娘と言った感覚であった。
 ソフィアの方も、ある意味では満月を一番愛している。そうでなければ、出て行ってやると飛びだして結局戻ってくる事を何度も繰り返したりしないだろう。
 結局のところ、ハルも満月もマルカもソフィアも、家族の一員なのだ。


 「おーいそろそろ支度しろー。遅れるぞー」
 そう言ってのそのそとやってきたのはハルだった。
 いくつになっても変わらない出不精だったが、今日は身だしなみくらいは整えていた。
 「満月、ローターはちゃんと持ったか? ソフィア、寝てないでとっとと服着替えてこい。マルカは……大丈夫そうだな」
 「はい、ここに」
 ブブブブブ。
 「どこに入れてるんですか! って言うかやっぱりご主人様の仕込みじゃないですか!!」
 「さーて、何のことやら」
 「おかしなマルカですね」
 すっとぼけるハルと満月。
 「あーい……」
 ソフィアはむくりと起き上がり、ゾンビのような足取りで自分の部屋へ戻っていった。
 「二人は車で行くからいいとして、俺達はもう出ないと遅刻だぞ。ほら立てマルカ、荷物持て」
 「え?」
 手を取り引っ張りあげるハルに、マルカは疑問符を浮かべる。
 「二人は車で、って……私達は何で向かうんですか?」
 「そりゃ、お前、あの時すっかり忘れてたものだよ」
 「???」
 部屋から出て、廊下を渡り、階段を降り、リビングを横切って玄関に向かう。
 靴を履き替えて外に出ると、空は二人を祝福するかのように澄み切っていた。
 日差しが反射して、白い毛並みに艶が出ている。それは玄関先で行儀よく、二人を直立不動で待っていた。

 
 「…………うま…………?」
 「馬」

 そう。
 この日のために借りてきた、式典用の装飾をした立派な白馬が、そこに四足で佇んでいる。
 よく訓練されているようで、ハルが騎乗しようとしても全く動くことがなかった。
 「ほら、王子様になってやった時あったろ? あの時すっかり忘れてたんだよ、白馬に乗ってくるの。まあ室内だから覚えててもちょっとキツかったんだけどさ」
 そう言って、ハルはマルカに上から手を伸ばす。
 マルカはハルが足を外した鐙に体重を乗せ、えいやっと飛び乗るように上がった。
 「う、うわすごい、生きてる。初めて馬なんて乗った……」
 「まあそりゃ生きてるだろーよ。じゃ頼むわファル公」
 名前を呼ばれた馬はゆっくりと動き始め、振動を伴って前へと進む。
 「え、こ、この子に乗って行くんですか!?」
 「おう。しっかり掴まってないと落ちるぞ」
 「えー!?」
 困惑の叫びを上げるマルカ。
 その顔は、不安感と心の底から沸き上がる期待で複雑な笑顔になっていた。
 「お前が言ったんだろ、甘い夢を見させて下さいって。馬から降りたら教会までお姫様抱っこしてやるから楽しみにしてろ。よしファル公ダッシュだ! ヘイストだ!」
 「わ、わたしもうそんな歳じゃないですよー! 速い! 怖いー!!」
 興奮したのは、手綱を引かれてスピードを上げる馬のせいか。それともハルの言葉のせいか。
 全くわからないまま。
 マルカは高鳴る鼓動の行き場を求めて、愛する人の背中をぎゅっと強く抱きしめた。



 (完)
sage