Neetel Inside ニートノベル
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短い小説集(iPhoneで投稿)
寂しい女

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仕事を終えて帰宅した。
ーーただいま。
帰宅の合図をしてから、部屋着に着替えてすぐに夕食の準備に移る。
通勤ルートの国道に隣接する大型スーパーで買ってきたカット野菜と豚バラ肉で簡単に炒め物を作る。米は予め買い置きしてあるパックご飯をレンジで温めるだけでよく、あとはフライパンの隣で沸かしている湯でインスタントのわかめスープをこしらえれば上等な食事の完成だ。
そう思い込むことにしている。

パックご飯は茶碗に移し替えられている。ご飯茶碗は二組、スープの入ったカップも、お茶の注がれたコップも二組。炒め物だけは大皿に盛られている。
テーブルは家族用の大きな物。椅子は二脚。片方にはパートナーが座っている。
ーー頂きます。
響く声は一人分。食べる音も一人分。
ーーごちそうさまでした。
食べ終えた食器はすぐに片付ける。水に浸しておく。

寝る前にシャワーを浴びる。自分の身体を綺麗に洗う。一日の汚れを洗い流す。
そして、パートナーの身体もボディソープで優しく撫でて、洗い流す。
ーーどう? 気持いい?
そう語りかけながら、適度な温度のお湯で泡を流していく。
気持いいなどと訊かなくても分かっているが、訊かずにはいられなかった。

シャワーを出て、自分とパートナーの身体を拭いて、自分より先にパートナーに服を着せる。自分の着替えは後でも良かった。そしてパートナーを布団に被せる。
歯を磨き、ようやく一日を終える準備が整った。
耳元で囁く。
ーーこうやってると幸せ。愛してる、とても。
返事が響くことのない愛の言葉を囁くうちに眠りに落ちる。

目覚め、テーブルに目をやる。寝起きは良かった。昨夜の食事が一人分丸々残っているので、すぐにそれらを温めて朝飯とした。何しろ朝は時間がないのだった。二人分の食器を洗って、歯を磨き、化粧をして、着替えなければならない。
独りの日々は退屈で、心が段々と摩耗していった。
パートナーと思って接しているそれが、人間の赤ん坊ほどの大きさの人形であっても、構わなかった。自分がそう思えれば、自分の中ではそれが正しい。ただそれだけのことなのだから。
しかし、忙しくしている時にパートナーを眺めると困惑することがあった。
ーー私、どうしてあの人形をこんなに大事にしているんだろ?

部屋の鍵を閉め、階段を降りて車に乗り込む。
部屋には静寂が戻る。
夕方過ぎて、鍵の開く音がする。
ーーただいま。
今日の夕食は鯖の塩焼き。大皿の上には二枚。

       

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