Neetel Inside ニートノベル
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短い小説集(iPhoneで投稿)
孤独な楽しい夜

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思えば少年時代、布団の中はワンダーランドだった。
小さな身体を布団で覆って、うつ伏せに膝を立てれば空間が生まれる。
顔はニヤついていた。
あの頃ハマっていたアニメに、ふんどしを締めた妖精が登場していて、主人公達のガイドであると同時にテントとなり寝床も提供するという万能ぶりだった。さらにギャグもこなした。
布団の中は誰にも見られない。妄想を展開し、ごっこ遊びをするにうってつけだった。
眠りにつくのが惜しくなるくらい、頭の中で遊んでいた。それは少年期にして苦痛を覚えていた現実世界に対抗する術でもあったかもしれないけれど。

中学生になると、布団に頭から被ることは少なくなっていた。
お年玉で買ったポータブルMDプレイヤーは様々な音楽を耳に流し込み、音楽を聴く気のしない時は、雑音混じりの東京の放送局の深夜番組が笑いを与えてくれていた。
福島でTBSラジオや文化放送を聴くのは至難の業だったが、アンテナの位置を工夫したりして何とかか細い電波をキャッチしていた。
ファミ通の連載から伊集院光が一介のデブタレントではないという真実を知り、そのままラジオに流れたのだった。ラジオはエッセイを遥かに超える面白さがありすっかりのめり込んだ。

夜更かしを覚え始めると、睡眠に興味を持てなくなってくる。
高校時代から、一日の睡眠時間は3時間もあれば足りると感じるようになっていた。
実際は眠気を覚えたり、集中力が切れたと感じることもままあるがさほど気にならなかった。
今更惰眠を貪る人生には引き返せない。

社会人となり、好きだと思える人も出来た。
その人は良く眠る人で、休みとあればアパートで眠るか、隣県の実家に帰って眠るかしかないような感じだった。
その人に合わせたくてこう言っている。
「いいっすね。俺は全然眠れないんで羨ましい」
嘘である。心の底から出ている言葉ではない。
よく眠る、なんて本当は馬鹿馬鹿しいと思っているくせに。
夜遅くまで一緒に映画でも観られればいいと願っているくせに。

したいことは変わらない。
夜は楽しく過ごしたい。意識が薄れてからすぐに朝がくるなんてもったいない。
好きなアニメの仮想空間を作り上げた夜も、音楽や笑いとともに深まっていった夜も、全て自分の思いに沿っていた。
しかし、それを共有する相手が少なそうなことは、ただただ寂しい。

明日の仕事におそらく差し支えると分かりすぎるほどに分かっていても、意識の途切れぬ孤独な楽しい夜は続いていく。

       

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