Neetel Inside ニートノベル
表紙

お前の命と引き換えに
日常の篇

見開き   最大化      

あれから二年がたった。

モテ男は自らの力については隠し続け、日常を保ち続けていた。
彼ならきっと他の道も選べていただろうに。

「ふぅ、まったくモテ男は辛いよ」

そんな彼は今年で高校二年生、花の青春野郎だった。

「モテ男くーん」
「キャーキャー」
「ウホッ」

校内ではアイドルなんて目じゃないほどの黄色い声援が轟く。
その声援は男女問わず大きい物だったという。

そんな中にいた今回の犠牲者はクラス委員のアンポンタン。
彼女は長い髪にメガネ、まさにアレである。

「モテ男くん、早くプリント出しなさいよね」

などと偉そうに言うあたりが無性に腹立たしい。

そんなこんなで放課後。

「モテ男くん、帰ろう」
さて、この仔はモテ男が少し本気な女の子。
タイプは幼馴染、産まれてからずっと一緒。
そんな彼女もモテ男に気があるようで。

「おう、行こうぜぃ」

そうして二人は帰路につく。
はてさて何が起こるのか、これは見所。

と、危機は突然に。
道路に子猫がニャーニャーと。
それを庇おうと幼馴染が行く。そこへやはりトラックが。

「危ないっ」

ここでモテ男はベルトを思い出す。
ここで使わずいつ使うのだ、すぐに手をかける。

はてさて生贄に迷う、しかし時間がない。
咄嗟に前の方の歩道にいたクラス委員を犠牲にしようと考える。

「クラス委員の命を引き換えに俺はあいつを救う」
そう言うと光が彼を包む。

「変身!」

モテ男はこうして最強のヒーローと化した。
腕は鋼鉄、足はバネのよう、飛んだ姿はまるで鳥。

瞬間移動にほど近いダッシュで見事幼馴染を救う、ついでに猫も。

「ありがと…?」

少し戸惑う幼馴染、しかしこれで一件落着。
気を抜いて変身を解除する。

しかしトラック、目の前の状況に焦ったか、先の歩道へと突っ込む。
そしてクラス委員はこれに潰される。

この事態にみな唖然。
警察もやってきてちょっとした騒動に。

後ほどトラックの運転手は無事だったことや、瞬間移動する少年だなんだ言っていて錯乱していたことなどが分かった。

さあこれからどうなる、モテ男くん。

     

彼はモテ男、最強の力を持つ男。
しかし彼にも弱点があったようで。

「鍋パーティだと」
「せや、みんなでやったら楽しソースやわ」

そんなことを関西弁風でモテ男の友人である雄二が提案する。
しかしモテ男は恐ろしいほどに猫舌であった。
いや猫そのものと言ってもいいほど熱いのが苦手。

「パスするわ」
「ちょ、お前が来ないと女の子も来ないやんか」

焦る雄二、それを見たモテ男はモテ男魂が燃え始め、ここは彼の誘いを断れない。

「しゃあない、いいよ、いくよ」
「ほんまでっか、サンキューモテ男」

しかし、これではモテ男は死んでしまう。
なんとか鍋を回避せねばならない。

「鍋じゃないとダメか」
「ダメや、鍋でいちゃこらしたいやん」

彼の眼差しはキラキラとしていて、どうにも考えは変えなさそうだ。
これは仕方ない、後で理由つけて食わずにすまそうとモテ男は思った。


時は流れ放課後。
雄二の家に男女比2:4集まった。
女子四人は完全にモテ男狙いだ。

「きゃーちょーヤバイんですけど、モテ男くんイケメンすぎー」
「まじチョベリグー」

若干引くモテ男。
しかし中には大人しい子もいたようで。

「あの、今日は呼んでくれてありがとうごさいます」

礼儀正しい良い子です。
名前は音無というそうで。

「さあ、鍋の用意はできてるで」

グツグツと鍋が熱く泡をたてている。

「まるで食材の灼熱地獄やー」
なんて雄二がつまらない事を抜かしている。

その様子を見てモテ男は焦る。
こんな物を食べたら本当に死ぬ。
そんな想像が脳裏をよぎる。

「ちょーうまそーなんですけど」
「まじチョベリグー」

みんな鍋を囲み食べ始める。
その熱さは異様で箸が若干溶けている。

「熱すぎー、どんだけー」
「きゃーきゃー」

どうしたらこんな鍋ができるのかはさておき。
みんなモテ男を見ている。

「モテ男、食べへんのか」
「食べなよーうましーだしー」

くっ、どうすれば。
そんなとき、ベルトを思い出す。
変身さえすれば、きっと食えるはず。

「ギャルの命と引き換えに、俺は鍋を食うっ」

あまりの恐怖にベルトを使ってしまった。
しかし、おかげで箸がすすむ。
箸が溶けてしまうと素手で食い始める。

あっという間に完食した。

「きゃー超凄いんですけどー」
「汁も全部飲みなよー」

と、ギャルの1人が鍋を持ち上げた。
しかし熱かったせいで手を離してしまい、残りの汁が全て彼女にかかった。

「ぎゃー熱いぃんでぇすけぇどぅぅぉぉお」

彼女の顔は溶け始めた。
泡を出しながらもジュワーと不気味な音を立てながら。

その場は騒然としていた。
すぐに救急車を呼んだがついた頃には死亡していた。

警察側では事故扱いとなり落ち着いた。
残ったギャル二人は泣きながら帰って行った。
音無さんの方はあまりのショックで何も話さなかった。

「まぁ、気にするな、お前のせいじゃない」
「せやけど、ウチの鍋が熱過ぎたせいやで」

残された二人の哀しみだけが病院をこだましていた。

     

モテ男がベルトを使ってから三日。
彼はその場の勢いで二人の少女を殺してしまった。

「くそっ、まさかベルトの効果が本物だったなんてっ」

彼は我に戻って気づいた、ベルトの恐ろしさに。
このままでは彼はモテ男では無くなる、そんな心配が心を支配する。

「なぁ、モテ男はん、あの事件から暗いでー」

そんなことはよそに雄二が明るく話しかける。
しかし、やはり様子のおかしいモテ男を見て雄二は真面目な顔をした。

「なあ、モテ男、お前の周りで二人も死んだ、なんか関係があるのかも分からん、だがな、お前はいつものモテ男でいてくれ、でなけりゃウチまで暗くなるわ」

この言葉にモテ男、自分を見つめ直す。

「あぁ、そうだよな、俺が、俺がなんとかしないと」

後悔しても二人の命は戻らない、あとは絶望ではなく希望を目指すしかないのだ。

「この力で世界を救う、これしかない、のか」

罪を滅ぼすため、未だ見ぬ悪と戦うため、モテ男は立ち上がる。
そんな姿を見て若干引く雄二。

「モテ男くーん帰ろう」
静寂を打ち破る声。
彼女は前々回現れた幼馴染、名前は染川。

「お、おう」

三人で帰路につく。
他愛もない会話をしながら。

モテ男は少し気分を持ち直していた。
いつも見ていた日常に帰れた、そんな気分で。
しかし、彼は気づいていなかった。
これから起こる長い長い戦いに。


「やっと見つけた、ベルトの持ち主」
不穏な影が彼の日常にポツリ。
「あれを我がブラックドロップスの物とすれば世界は我々の物も同然」
不気味な笑い声、いつか来る絶望。

次回、乞うご期待。

       

表紙

生搾り 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha