Neetel Inside ニートノベル
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奇才気取りの豚
鉄板落ちる

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 学校へ行く途中、空から鉄板が降ってきた。心地よい落下音が響き渡り、周りの人は迷惑そうにそれを避けていった。その錆びた鉄板を見下ろして、こうはなりたくないな と思う。そういえば昨晩食べた鉄板焼きの肉はまずかった、また安物の肉を買いよって なぞと考えているうちに、昨日のニュースの如く鉄板のことは忘れていった。

 学校に着き、下駄箱で靴を履き替え、3階まで上り、廊下一番奥の教室の扉をあける。いつもと何一つ変わることのない朝。あえていつもと違うことを挙げるならば、学校中のみんなが人間大ほどの芋虫のようなものへと変貌を遂げていることだ。誰が誰だか分からないが、みんなはいつも通り縄張りを作り自慢話と陰口に勤しんでいた。

 教室の入り口に突っ立っていると
「おう、おはよう」
 芋虫の一匹が話しかけてきた。私の仲間内だろうとは思うが、やはり誰かは判断つかなかった。
「おはよう。一限目ってなんだっけ?」
「えと、確か英語だったよ」
 この会話の為の仲間は何人もいる。


 席につき一息つく。朝からなんだか疲れてしまった。早く学校おわんないかな なんて日課のように呟いていると
「おはよー 今日も眠そうだなぁ」
 後ろの席に座る芋虫が小突いてきた。さっきの奴と何が違うのか
分からなかったが、それは人の姿でも変わらない事なので気にせず話す。
「おはよう、一限目ってなんだっけ?」
「数学だよー、超だりぃ」
 それ以外の仲間なんていたっけ?


 窓際の席にいた芋虫が一匹、急にもがき始めた。トイレにでも行きたいのかな と思い見ていると、それはうねうねと身体を丸め、粘土のような一つの塊となった。繭なんだと思う。周りの芋虫もチラチラと様子を伺いながら、だけれど気にしてない振りをした。
 そのうちに繭の中から一匹の玉虫がでてきて。玉虫は芋虫たちを一瞥すると、羽を広げ窓から飛び立っていった。
「あいつ玉虫だったんだ。すげぇな」
 後ろの席の芋虫が殺気だった目つきで呪詛のように呟いた。


 私は飛んでいった玉虫を見て、鉄板になって落ちればいいのに なんて思った。同時にどうしようもない不安がこみ上げてきた。
 私は周りの奴らとは違う。奴らには無い、何かを成し遂げる特別がある。私は周りに染まってなんかない、ちゃんと自分の顔がある。
 みんなとは違う未来があるんだ。
 思い込んで楽しんで。だけどどこかで諦めてて。
 私は吐き気におそわれた。


 トイレにいって色々吐いた。玉虫色の吐瀉物をみて、あぁ私には何にもないんだなって。うがいをするために洗面所に行き鏡を見ると、そこには錆びた鉄板がうつっていた。

 一限目が始まる。

       

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