Neetel Inside ニートノベル
表紙

ヒーロー・ばーさす
最終話:誰かにとってのハッピーエンド

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「初めまして」
「へっ!?」
 一瞬気が遠くなった。そして気づくと真っ白な靄のかかったような空間にいた。そして目の前にいた、人間のシルエットをしてるが全身真っ黒な何かが陽気に挨拶した。
「な――」
「はいはい、時間ないからちゃっちゃといくよ。ここは簡単に言うと精神世界。そして私はここの支配人」
「……なん――」
「君は選択を迫られてここにきました。その選択とは似ているようで似てないような、曖昧だけれど、どちらかに決めなければならないことです」
(そ――)
「それは、君が今後ヒーローになるのか、正義の味方になるのか、です」
「心の中の言葉まで食い気味にっ!?」
 支配人はからからと笑った。口も目も無いので、小刻みに揺れる体と声で判断したのだが。
「私はこの世界に支配者であるから、来客の君の思考や深層心理なんかも手に取るようにわかる。さて早速だが君はどちらを選ぶ?」
「どちらって言われても、違いが良く分からないし、第一決める理由が良く分からない」
「理由は省く。まあ簡潔に言えば君の今後の運命を左右するってことさ」
「なら尚更詳しく言え!!」
「だから時間無いの。もう無視して話すわ。まず正義の味方とヒーローの違いを話そうか。これは曖昧なもので、正直分ける意味はない。しかし違うもの」
 そう言うと、支配人はその容姿を変化させる。色こそ黒いものの、その姿は赤いおっさんや、緑のヒトのような、『正義の味方』だった。
「彼らは正義の味方と呼ばれている。正義とは、人の道に違わぬ意義を言う」
 今度は、赤いおっさんの変身前のシルエットへと変化する。
「赤い人は正義の味方になる前は教師だった。彼は常に自分の信じる教師としての正しさを生徒に向けていた。それが行き過ぎたことで教師を解雇され、正義の見方に目覚めた」
「なんで解雇されたから正義の味方に目覚めたんだよ!?」
「紆余曲折あったんだが、時間がないので省くよ。彼は自分の信じる正義で人を正そうとした。彼は更生と言っていたけど」
 おっさんにあった時の会話を思い出すと、確かにおっさんは蒼甫達の素行が悪いとして更生させようとする節があった。だが全体を見れば軸がぶれた狂言とも思える。それが教師を解雇された要因の一つとも思えた。
「ではここで質問。彼は煙草をすう未成年を更生させようと利き腕を折った。彼の行動は正しい?」
「え? えっと――」
「はい時間切れ。彼の行動はやり過ぎだという批判がでるのは最もだ。だが未成年の普段の素行を知っていた人からしたら、やり過ぎ位が丁度いいという意見もでるかもしれない。ようは彼の行動はとる人によって変わる。正義も受け取る側によって善にも悪にもなる」
「んー……?」
「地球を守ることが正義なら、人類を絶滅させて地球を守ることも正義ってことだね」
「はぁ!? 意味わかんねーよそれ。人を殺しちゃいけないってのは子供でも分かるじゃん。正義は人の道に違わぬ意義ってんなら、正義の味方じゃないじゃんそいつ」
「人は殺しちゃいけないの? 人類はこんなに増えているのに? それは自分たちを守るために決めたただのかせじゃないのか?」
「でもみんな駄目なことって知ってるし、なら人の道に反することなんじゃないのか?」
「だが、地球を守ることは正義だろう? 人を殺すことはただの過程だ。それに人が全員死んだら、人を殺すことを善か悪か判断する奴はもういない。意味の無い問だろう」
「そ、そしたらもう正義の味方は悪じゃないか?」
「君も以前は正義の味方だった。君は銀華という女の子に格好の良いところを見せようと正義の味方になった。あの時の君の正義は格好の良い自分であることだった。背負うものが小さいから、簡単に正義の味方を辞めることができたんだ」
「でも、悪いことはしてないし」
「彼らも同じことを思っている。それだけのことだ」
 支配人の体は更に変化する。今度は八巻の変身後の姿。
「ヒーロー、それは常人にはできないことを成し遂げた者。または物語の主人公。彼らは輝かしい存在だ。人々から羨望の眼差しを向けられる」
 ふう、と支配人は一息ついた。
「さて、どっちを選ぶ?」
「ヒーローそんだけっ!?」
「これ以上何を言えっての。ほらヒーローのが良さそうだろ? そっちにする?」
 今後の運命を左右する選択がこれとは俄かに信じがたい。しかし決めなければならない空気だ。ここで安直に選んだとして後に本当に後悔するのは嫌だし、かといって今の判断材料だけで選ぶとすれば自ずと答えは出ている。誘導尋問を受けている気分だ。裏を取ってなんて考えても、結局後に後悔が残る気がする。何か決定的な基準が欲しい。
「こういう時は直観も大事だぞ。ま、早くしないと君の大事な人が危ないよ」
 不意に、何もない空間に映像が浮かび上がる。そこには銀華と銀色の人が対峙していた。
「ほらほら、君の決定で彼女を生かすも殺すも決まるんだから」
「くっそ! 何なんだよこれって!!」
「言うなれば、文字通りの運命の『選択』ってやつだ」
 その時の蒼甫は何も考えられなくなっていた。ただ、本能のようなものが一つの選択を求めていた。何か物足りない日常を変えるモノ。自分を変えた人。目的は合致していた。
「俺は銀華を、あの日常を、守りたい!」
「君があの銀色の人に勝つ見込みはほぼないぞ?」
「それでも俺は……っ!!」
「それが君の選択か――」
 空間が凄まじい勢いで綻び始める。支配人は蒼甫に背を向け、ゆっくりと歩き出した。離れていく背中を掴もうと、蒼甫は右手を伸ばす。

 世界は戻り、目の前には銀華と銀色の人の姿。立ったまま一瞬寝ていたのかとすら思える程、その時の蒼甫の世界は曖昧だった。しかし伸ばされた自分の右腕、そしてそこに確かに光る腕時計が、ああ、こういう事かと、今度こそ本当の意味で現実に戻ってくる。
「変身!!!」
 光に包まれる刹那、銀華の悲しいそうな顔と、表情は分からない筈なのに笑ったように見えた銀色の人の顔を、蒼甫はただの景色と同様に捉えていた。

























 もし、あの時、選択を違わなければ、きっと違う結末が待っていたのだろうか。今となってはもうわからない。

おしまい。

       

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