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SF小説アンソロジー
Slaughterhouse New Spirits/1

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屠殺場の豚だと自らを宣言する男の脳裏は、改悪された遺伝子と、改悪された自意識が混在していた。
彼の遺伝子は遥か昔、(定義は不確定である)爬虫類の形をした宇宙人によって、多分に露悪を持って改悪された。
爬虫類宇宙人の思想の前提条件として、「生命は悪魔である」というのが奥底に存在していた。
彼はまずホモ・サピエンスに知恵を与えた。
ホモ・サピエンスは人間に近い生命体であり、さらに人間に近い生命体にネアンデルタール人という生命がいたが、彼らはホモ・サピエンスの悪意ある攻撃により壊滅的な打撃を受け、2014年には生命活動を維持できず消滅した、と定義されている。
ホモ・サピエンスの特異性は器用であること、性欲旺盛であること、そして集団生活の徹底的な順守である。
ホモ・サピエンスは群れを為すことでその絶大な力を発揮する。一頭のマンモスより、50頭のホモ・サピエンスの方が強い訳だ。

屠殺場の豚を自称する人間は思考を続けた。彼は人殺しに人殺しを重ね、血にまみれ生き残った人間の末裔であった。

万死に値する。

屠殺場の豚を自称する人間は思考を続けた。彼は嘲笑に嘲笑を重ね、露悪にまみれ生き残った人間の末裔であった。

万死に値する。

屠殺場の豚を自称する人間は思考を続けた。彼は慈愛をする自分が好きでたまらない、偽善にまみれ生き残った人間の末裔であった。

万死に値する。

屠殺場の豚を自称する人間は思考を続けた。彼は凌遅刑で処罰されるべきだ。

万死に値する。

ホモ・サピエンスにもピラミッド上の格差がある。
知識と経験と運動の素質だ。
よく賢く他者を排除できる人間が上であり、よく経験を摘み他人を蹴落とす術を学んだ人間が上であり、よく運動を行い他人を暴力で支配できる人間が上であった。

格差の頂点は王となった。
王の利用できるものは貴族となった。
貴族となった人間と、貴族にならなかった人間が産まれた。

これ以降は嫉妬と称賛と嘲笑が産まれる思考である。
慎むべきだ。飛ばそう。
王は軍隊を作った。
自らの権利を維持する為、他人の暴力の素質を資金で買った。
王に反発するものは軍隊で破滅させた。
王。王は頂点である。

屠殺場の豚を自称する彼は思考を続けた。思考を続けることは万死に値するが、続けた。

では爬虫類宇宙人は何のためにホモサピエンスを作ったのか?

王は軍隊を作った。
自らの権利を維持する為、他人の暴力の素質を資金で買った。
現在暴力の素質は実に容易く得ることができる。
ピストルである。

ピストルを売ればいいのだ。
王が権利を維持する為資金を惜しまないなら、その資金を奪えばいいのだ。
爬虫類宇宙人は武器の製造に人力した。各国に王はいる。王になる為武器を欲しがる人間もいる。
商売相手は豊富だ。
爬虫類宇宙人は毒ガスと核兵器も製造した。
核兵器は各国が所有している。爬虫類宇宙人は、核兵器を高値で売りさばき、莫大な利益を得た。

その利益で武器の生産性を高め、その資金で自らの正統性を維持するべき知識人を大量に囲った。

爬虫類宇宙人は地球を支配した。
爬虫類宇宙人は成し遂げたのである。地球上の全ての生物を屈服させたのだ。

屠殺場の豚を自称する彼は爬虫類宇宙人の陰謀を他人に話した。

彼は病院に連れ込まれた。
彼は薬を飲むことを嫌った。脳を麻痺させるからである。
彼は手足を縛られた。暴れられると迷惑だからである。
彼は監禁室に閉じ込められた。妄言を聞かされるのは、うんざりだからである
彼は出せと叫んだ。それは狂人であることの証明である、と書類には書かれていた。
彼はペンを取り上げられたので、仕方なく糞を使い壁に自分の思想をまとめた。
その日以降、彼は二度と手足を使えないよう、手錠をかけられた。
彼は発狂した。自由を奪われたからである。
小さな檻に閉じ込められ、死を待つしかない屠殺場の豚の様だ。

       

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