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江口眼鏡の奇書「探」読
黄金書

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 第一回目から汚い話で申し訳ない。とはいえ、これも読者諸賢の下ネタ耐性の向上に一役買うのだという気概を持ってこその暴挙であり、つまりは暴挙である。ふざけるな。

 さてこの『黄金書』(ピンインでは huangjin shu と読むようだが、なにぶん中国語には明るくないためあやしい表記をするかもしれない。ご容赦)であるが、原本は十七世紀に清で書かれたものらしい。正確な著者はわからないということだが、現在の中国浙江省周辺の農民たちによって共有されていた知識を、村の有力者が編纂したという説が妥当であろう。
 私の手もとにあるのは、中国書籍の出版では本国一と目されている書肆赤嶺が昭和三十四年に刊行した日本語訳である。書肆赤嶺と言えば東京帝大の中国語学者、山塚一郎が「漢学者の価値は蔵書中にある書肆赤嶺の数で決まる」と言ったことで有名だが、やはり漢籍やその翻訳書、解説書の類に関しては他の追随を許さない質の高さを誇っている。
 この『黄金書』もやはり仕事が細かい。本文を凌ぐ量の語註が書かれ、さらに解説まで読み通せば当時の清国農村における生活事情はほぼ概観できる。
 気になるその内容であるが、浙江省で今も食されているという「童子蛋」、つまり男子の尿で煮た卵に関するレシピ本、とでも言うべきであろうか。とはいえ童子蛋そのもののレシピは尿で鶏卵を煮るだけであって何の変哲も無い。では黄金書では何を解説しているのか。それは良質な童子蛋をつくることができる「尿」の作り方、つまり男子に何を食べさせたら良いのかということが事細かに載っているのである。一部を引用しよう。

……採取前一週間にわたって菜食させた男児の尿は甘味が強い。しかし少々強めの味で煮なければ卵に味がつかないのである。蛋臓(この当時は腎臓という器官がはっきりとは認知されておらず、ほぼ同等の活動を行うとされる蛋臓という器官があると考えられていた。)の健全な男児の尿は、野菜を湯で煮たときに出る甘みのような、あまり臭みのないものだとされていた。
(『黄金書』63ページより抜粋)

 童子蛋の栄養価については不明であるが、現在のわれわれ日本人の食文化とは相容れないものがあるだろう。興味のある向きは、浙江省で一度賞味したのち、この『黄金書』とゆっくり向き合ってみるのはいかがだろうか。

書誌情報
訳者:河合清一(アジア比較文化学者、京大人文科学研究所教授)
出版社:書肆赤嶺
出版年:昭和三十四年
定価:三千五百円
江口眼鏡の購入価格:二千円(函付き)

       

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