Neetel Inside ニートノベル
表紙

210 ~シェアワールドアンソロジー~
5.「乙女流星群」/ワイケー

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「いっけな~いっ! 血刻血刻~っ!」
 わたし、山田二一美(ふひみ)! 恋に恋する十五才です。
 皇極天皇(第35代)と持統天皇(第41代)を足して割った感じの美少女だねってよく言われます!
 今日も今日とて、お寝坊さんしちゃったの! だから慌ててレバペ(レバーペースト)を塗った食パンくわえて、学校へ急ぐ急ぐ~!
「わーん、大遅刻~! 学校終わっちゃうよ~っ!」
 顔は可愛いのに中身は残念な子、だなんて言われたくないのに~っ。
 走って走って、スタタタタ――ドン☆
 どさっ!
 曲がり角で誰かとぶつかって倒れたあたし!
「いったぁ~い、ちょっとぉっ、ちゃんと前見なさないよね~!?」
 ぷんすか立ち上がって、腰に手をあててみせる。
 ……あっ、でもこれって、恋が始まる王道パターン?
 転校生の男の子か何かと朝ぶつかって、その日のホームルームで出会ってめくるめく恋物語がはじまったりするあの感じ?
 やだ、王子様とこんなところで出会うなんて……と思ったら、男の子じゃなくて、見知った女の子だった。
 な~んだメスかぁ、と思ったけど親友だから笑みを浮かべるわたし!
「ユカコじゃん、おっはよー☆」
 すると彼女、ユカコは鉛を飲み込んだような顔になってわたしを見る。
「あ……山田さん。こ、こんにちわ……」
 も~、何その反応?
 何だかいっつもこんな感じ。ま、いつもちょっと暗いところがある女の子だけど。
 彼女は庄山由香子。わたしと同級生で同じクラスなの!
 学校では『最も苦労してそうな女の子ベスト1』に選ばれたちょっとかわいそうな子☆
 でもでも、わたしがず~っと仲よくしてあげてるから、きっと本人は気にしてないよね。
 ちなみにわたし、二一美はというと『最も関わりたくない女子ベスト1』に選ばれたの。失礼しちゃう! ぷんぷん!
 あれっ、ユカコがぎょっとしたようにわたしを見てる。どうしたの?
「山田さん? あの……どうして、制服、着てるの?」
「えっ?」
「今日、学校ないよ……っていうか、三週間前に卒業式したでしょ?」
 どっぎゃーん!
 はわわー! いっけなーい。わたしったらドジッ子さん!
「そうだった! 忘れてたよぉー。恋の悩みで毎日つらくって、頭の中の時系列があやふやになっちゃってた!」
「そ、そう……大変ね」
 うえーん、ユカコにかわいそうなものを見る目で見られちゃった! ひどい!
 ユカコ、はっとして、おずおずと聞いてきた。
「恋の悩みって……。もしかして。まだ、その、あの隣のクラスだった男の子のこと、追いかけてるの?」
「たっくんだよ? 『隣のクラスの男の子』じゃなくて。拓海だから、たっくん」
「はぁ……。っていうか、その、拓海くん? だっけ、迷惑してたって話じゃなかったっけ……」
「え~?」
「山田さん、その、彼のこと、一日中つけ回してるんでしょ? やめたほうが……」
「つけ回してるんじゃないよー? 好きな人の行動を把握するのは、恋する乙女の義務だもの!」
「……」
 あーん、照れながら言ったらドン引きされちゃった! どうして!
 でもそんなの気にしないわたし。
「とにかく、今日は学校ないこともわかったし、たっくんに会いに行くから! じゃーねーユカコ☆」
 わたしが走り出したら、ユカコがすごくほっとしたような顔してたの。
 休日にわたしの顔を見られてよかったって思ってるんだわ! かわいい子!
 って、そんな場合じゃない、早く走らないと~!

 拓海――たっくんを知ったのはつい最近。
 彼、陸上部で走っててすっごく格好よかったの。始めて見た時、ビリビリって体に電気が走って、それからわたしは恋に恋する美少女なの……。
 さっきは王子様とか変な妄想しちゃったけど、わたしはたっくんひと筋なの☆
 とにかく、恋を求めて走る走る!
 って……あーっ!? 曲がり角から、出会い頭に一台の車が!
 キキーッ! ドン☆
「GYAAAAAAAAAAAAAーーー!!!!」
 ゴロゴロゴロ。正面衝突されて、思わず下品な悲鳴あげちゃった! わたしってば女の子なんだぞ! ポカ☆
「うう~、でも、痛いよー。頭から血がどくどく流れ出て、これじゃあほんとうに《血刻》だよぉ……」
 車はタクシーだったみたい。あわてて運転席から降りてくる、ねずみっぽい顔のおじさん。
 あ、わたしの知ってる人だ!
「や、やべェ! 人轢いちまった! 大丈夫ッスか――って、何だ、山田さんじゃないッスか!」
「根津さんー! もぉ、ひどいよひどいよ、直に運動エネルギーぶつけてくるなんてぇ」
 彼は根津さん。見ての通りタクシー運転手。
 でもでも、すっごいちょうどよかった! わたし、立ち上がってお願いするの。
「根津さん、この件は不問でいいから、タダで乗せて☆」
 えっ、と眉をひそめる根津さん。
「っていうか山田さん、頭から血出てるッスけど……」
「大丈夫! 乙女はハンカチくらい持ってるんだよ!」
 血液をふきふき。赤茶色になった布はしまって、再度交渉。
「それで。たっくんが今日、病院の方に行くみたいなの。だからそこまでお願いします」
「たっくんて誰ッスか……。っていうか、山田さん自身が病院に入った方がいいんじゃ」
「いいからいいから、早く。タダでね☆」
 乗り込むと、何だか厄介毎に巻き込まれた見たいな根津さんの顔! もう、女の子とドライブできるのに失礼しちゃう!
 わたしを乗せて走り出す根津さんは、疲れたような声を出す。
「っていうか、山田さん、いつもタダ乗りするじゃないッスか……。勘弁してくださいよ。今回はまあ、俺の方に非があるッスけど」
「えー? わたしはお願いしてるだけだもの! 最終的にタダにしてくれるのは根津さんでしょ~?」
「だって、そりゃ逆らえないッスよ。山田さんのお祖父さん、あの山田莊一じゃないッスか……俺も上から言われてるし、怖いもんは怖いっすよ」
 あーん、お祖父さんの権力を笠に着てること指摘されたら、困っちゃう☆
「確かにわたしのお祖父ちゃん、市会議員で、いろんなところに顔が利くみたいだけど。気にしないでもいいのに!」
「いや、うちのタクシー、元々市営で、その頃色々あったみたいだし。莊一さんのお孫さんを困らせたみたいなこと広まったら、俺がやべえッスから。タダ乗りはいいっすけど、俺が轢いたとか言わないでください、お願いッスよ……」
「了解了解~!」
 お祖父ちゃん、神通力!

 ――けど。
 乙女の恋って長く続かないものなのね……。わたし、ブレイクハート。
 日も落ちて、暗くなったその時刻。
 病院の向かいの建物からNiconの双眼鏡でのぞいてたら、なんと……たっくんが、女の子といちゃいちゃしてるの……!
 入院してる女の子みたい。中もむつまじい感じで、信じられない、けど。
 二人が付き合ってるのは火を見るより明らか!
「あーーん、何よー! わたしとは遊びだったの?」
 屋上でじたばたするわたし。
「確かに隣のクラスの女の子たちに、彼には既に恋人がいるとか言われたけど、そんなの嘘に決まってると思ってたのに~」
「や、山田さん、さすがにまずいッスよ! このビル、立入禁止だし」
 根津さんが辺りを見回しながら言ってくる。うるさいもん!
「失恋した女の子に、もっと他にかける言葉はないのぉ~? うえーん」
「す、すみません。え、ええと。その男の子とは、いいところまでいってたんスか?」
「ううん、ほとんどしゃべったことはないよ」
「……。はあ、マジ災難ッス……」
 小さい声で根津さんが何か言った気がするけど、そんなのも気にならないわたし。
「でもわたし、こんな悲劇のヒロインで、どうすればいいの? しくしく」
 根津さん、処置に困ったような顔してる。
 うん、確かに、失恋した女の子の扱いって、楽じゃないよね。わたしも、悪かったかも。
「山田さん、もう帰りましょう。ね。ほら、もう少しで、流星群も来るッスよ」
「流星群?」
 そういえば、ニュースでやってた気がする。時間的には、そろそろ見頃になるんだっけ。
「でも、根津さん! 女心がわかってないのねっ。ぷんぷん」
「何ッスか、今度は……」
「ハートが壊れた女の子は、色気より食い気! 花より団子で、憂さ晴らしをするの! それが、年頃の女の子の過ごし方だよ~?」
「はぁ。食い気」
「ねんごろになってるお店があるから、そこまで運転お願い☆」

 行きつけのドーナツ屋さんに来ました! でもわたし、正面からは入らない。
 店の裏から入ると、従業員のお姉さんがぎょっとする。
「わぁっ! ……あっ、山田さん、か」
 泥水を含んだような表情されてわたしの方が困っちゃう。お姉さんはこわごわとわたしに声を潜める。
「え、と、ドーナツ食べます?」
 わたし、すっごく申し訳ないと思いながらも頷くの。
「うん。本当は買いたいけど……。でもわたしって、双眼鏡とか他の電子機器に投資しちゃったせいでお小遣い無いから……すみません☆」
 別に、商品をかすめ取るなんてまねはしません!
 廃棄される(直前の)ものをこっそりいただくだけだもん! でもやっぱり堂々とはできないから、こうやって店の裏でこっそりもらうの☆
 このお姉さんも、一時期お祖父ちゃんに金銭面でお世話になってたらしいから、こうやってよくしてくれるの! 店に来るたび、ドーナツくれるんだよ☆
 そうやって、袋一杯にドーナツもらっちゃった!
 よぉーし、今日はやけ食いするんだもん!

 でも、家に持ち帰ったら、お父さんとかにドーナツを多量にガメてるのがばれるから……。
 帰る前に食べちゃおっと!
 お父さんはわたしに厳しいから、わたし、こうやって不良少女やるしかないの。
 で、ドーナツを処理するなら、誰にも見られない、学校の裏山が一番!
 山に登って、雑木林の中で一人、食事の準備をするわたし。
 空を見ると……わぁ、既に、流星群がはじまってる! キラキラと綺麗な星が流れてく。
 失恋は悲しいけれど。星を見ながらドーナツも、いいよね!
「それで、ドーナツといえば紅茶!」
 わたしは茶葉そのほかを取り出す!
 道具一式は全部担いできたし、ここで紅茶入れながら優雅にすごそうっと。
 さて、ポットとかを準備したけど……ちょっと待って!


☆ココでポイント!☆
~紅茶をおいしく入れるテクニック~

 紅茶を入れるにしても、ただ入れるだけじゃダメなの!
 ちょっと気をつけるだけでずっとずっとおいしくなるんだからね。
 そこでポイントを整理しよう!

☆準備☆
①ティーポットは丸くて、できれば鉄製以外にしよう!
 鉄製だと紅茶のタンニンが鉄と反応して、味も色味も損なっちゃうんだよ~。

②使う水は軟水がいいな。できればくみたてがベスト!

☆手順☆
①まず始めに、水を沸騰させて! ボコボコって泡が出るくらいになったらOK!

②そのお湯でポットとカップをさっと洗い流して、温めておくの。

③ポットに入れる茶葉(リーフ)は一人ならティースプーン一杯分で。
 続いてお湯を入れて、すぐには注がず、蒸らすのが大事。

④蒸らすのは約三分。
 早く飲みたいのを、じっと我慢して!

⑤あとはポットを軽く混ぜたら、濃さのムラが出ないように、円を描くようにカップに注ぐの!
 最後の一滴まで注ぐのがポイント☆

~Fin~


「は~、やっぱりおいしいな♪」
 紅茶をすすって、ドーナツもぐもぐ、森の中。
 紅茶にドーナツに女の子、何だか異国情緒溢れて、絵本の中の世界みたい。
 空はすっかり流星群。キラキラと星が夜空を流れて、いつもより明るい夜。すっごく、素敵。
 灯りがついてる見たいに明るくて、何だか地面も明るくて……って、明るい?
「きゃっ?」
 持ち運びコンロの火が、切れてなくて……、周囲に火が燃え移ってる?
「あ、あつっ! あっづ! あつ……い、いいい?」
 いつの間にか、赤々とした風景。
 ……やだ、山が燃えてる……。
「大変~! 急いで消さなきゃ!」
 火を消そうと、慌てて水をかけようとするわたし。
 けれど……ボッ。服に燃え移った!
「ヴァアァアアアアァアアァァァアアー!!!!」
 思わず悲鳴を上げながら転げ回るわたし。
 でも火は消えない!
「アアアアアァアアアーッ!!!!!」
 紅茶もドーナツも放り出して思わず走っちゃう! だって皮膚にまで火が移ってきたんだもの!
 山を下りて学校を抜けて転げたり奇声を上げたりしているうちに……どこかわからない道にやってきた。
「え~ん、どこ?」
 見回すと、何だかアパートと神社っぽい影。いつも徘徊してるあたりに近い場所?
 でもでも、誰かいるなら火を消すための水もあるかも。
 で、そっちに歩き出したら……気付いた。体の火、もう消えてる!
 縦横無尽に転げ回ってたからかな。
「なあんだ、心配して損しちゃった。二一美のあわてんぼさん☆」
 山の方も、見ると、ちょっと山火事の跡っぽくなってたけど、沈下してるみたい。よかった~!
 でも服は燃えかすみたいになってるし、足は山を駆け下りてきたせいで乳酸が限界までたまっててがくがくしてるし……。
 やっぱり誰かに助けて欲しい、女心。
 ふらふらと敷地に入っていくと――空がまた明るい。
 流星群はまだまだ、終わりそうにないのね。でも、じっとそれを見上げていると……。
「綺麗……。何だか、星さんたちがみんなでわたしを祝福してくれているみたい」
 え? 何でそう思うかって?
 もぉ~詮索屋さん!
 だって……今気付いたんだけど。
 あっちの神社の方から……何だか、大学生くらいの、男の人が。わたしを熱い目で、見てる?
 間違いない。
 やだ、あんな目で見られたら、体の中が熱い……。
「はぁ……」
 空から星が落ちてくるみたいに、恋愛も突如、一人の女の子の目の前に現れるものなの?
 でも、それが運命なら――わたしは拒みはできない。
 きっとそれは、今日からはじまる。
 流星群の春、恋の春。

       

表紙

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Neetsha