Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
3 入城~公社の魔女達

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   3 入城~公社の魔女達

 〈公社〉の塔の直前にあった聖チャールズの像は、腕が無かった。
 モチーフはこの都市を築く英雄譚のハイライト、竜を倒し騎士団とともに勝鬨を上げる印象的な場面だが、天へ掲げられた剣がないのでは格好がつかないなと思った。
 塔へ入るとさっそく魔女達がぼそぼそと何かを話している。おおっぴらになにやら吸食しているものもいて、外と同じくらい煙たい。甘ったるい香りだ。彼女達は揃いの黒い、フード付きのローブを着ている。同じなのは服装だけじゃなくその顔つきだ。脱力し、なんとなく退屈の上に被せたような曖昧な笑顔を、一様に弛緩させている。
 俺はとっとと登録を終わらせ、地図作りの仕事を開始することとなった。
 入居者を書いて地図の空白を埋めていく地味な仕事だ。この都市では住人の流動は激しいし、建造物そのものが変化することだってしばしばあり得る。増築、改築、倒壊、そして〈向こう側〉がもたらす魔術的怪異で。なかなかきつそうだ。後ろ暗い住民が襲ってくる事だってあるだろう。イカれたヤツ、中毒者だっているだろうし、犯罪者は数え切れない。
 地図の束を持って外へ出ようとすると、ひとりの魔女が話しかけてくる。皮膚の異様な白さのせいで最初は吸血鬼かと思った。原因が薬物か単なる不摂生か、彼女の心臓に埋め込まれたもののせいかは分からない。頭髪も脱色したように生白い。薄暗くて判然としないが、単なる化粧かもしれない。目の周りは妙に赤黒い。
「ガラスの拳銃でひとの頭は撃ち抜けるでしょうか?」「は?」「ガラスの拳銃でひとの頭は撃ち抜けるでしょうか?」
 俺は先程広場で会ったフォガティ氏の言っていることが事実かもしれないと思った。まあ帝国での評判も同じようなものだったが、狩人も魔女も両方等しくイカれてるってのが真相だろう。
「ガラスの拳銃でひとの頭は撃ち抜けるでしょうか?」三度聞いてきたので、「撃ち抜く事はできない」と答えると相手は何も言わずに背を向けて歩き去った。俺は「その理由は?」と追加で聞いてくるものと思ったけど。最もこちらのほうがありがたいし、俺はその場を去ろうとする。すると魔女は再び現れ、「銀色と赤色はどちらが自由?」と聞いてくる、好きでやってるんだろうと思ったがあまり楽しそうではなかった、既に何らかの義務に変わっているのかもしれないが人生ってそんなのの繰り返し。

       

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