Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
7 都市の人々~親切な男コープランド

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   7 都市の人々~親切な男コープランド

 その日は八番地区の居住区を回って、地図に情報を書き込んだ。集合住宅の調査はとてつもなくだるい作業だ。魔術的歪みは少なかったが、人為的なやつが多かった。勝手に誰かが増築や解体を行って、区画の形状自体が変わったり道が増えてたり、建造物の壁をぶちぬいて二つの部屋を一つにしたりしてる。都市同盟はほとんどそうらしいけど、ここも屋内と屋外の区別がなくて、人ん家の廊下と目抜き通り、往来と秘密の通路、近道とどこにも繋がってない道が、交わりながらいびつに行きかってる。調査で訪ねた住人はだいたい愛想は良かったが、面倒くさそうな態度は伝わってくる。俺のだるいって態度が伝わったからかもしれないけど。
 変な人物がいた。集合住宅の調査が終わりかけたとき、そいつが自分から手招きして茶でもどうだい、と言い出した。にこやかなやつだった、優等生・エリートって感じの若い男だが、安心はでいなかった。それがイカれてないって保障にはならないのだから。
 茶菓子を大量に出してくれたし、高級品だという紅茶を振舞ってくれたが、笑顔がどうにも不安だった。帝都で五年くらい前にあった人肉食事件を思い出す。言葉巧みに家に客人を招き、地下室で殺して解体し、食べていた男がいたのだ。この紅茶に睡眠薬が入ってるかもしれない。俺はカップを手に取りはしたが飲まず、男が席を外した瞬間に窓から外へ捨てた。
 世間話。近海に海賊が出て海軍が戦ってるとか、〈公社〉の配給で出た質の悪い豆をうまく食う方法とか話しながら、俺は触媒として腰にぶら下げてた杖にわざとらしく何度か触れた。手袋の中に予備として金属の円盤を仕込んである。杖のほうに注意を向けておけば騙し討ちが可能かもしれない。
「兄さんは魔導師なんだね?」と、コープランドというその家主は聞いてきた。
「ああ、大した腕じゃないけど」
「そうなのかい」
「なので大学出て冒険者になるしかなかったんですよ」
「夕食食べてく?」
「ああ、そうですね……」考えてみるとどうも警戒しすぎかもしれないと思った。俺は人を信じることを知らなすぎるのかもしれないと。いっそ、毒が入っててそれで死ぬのも一興、と考えてみよう。「ごちそうになりますよ」
 豆のスープと乾いたパンだった。うまくなかった。

       

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