Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
12 汚職衛兵

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   12 汚職衛兵

 それからしばらく公社の地図作りと使い走りの仕事をこなし、発掘現場の護衛も始めた。ようやく俺の魔法使用許可証が生きてきた。とはいえ退屈至極だ、何時間もランプの明かりが照らす汚い通路に立っているだけ。この前のパトリックの気分が分かるってものだ。彼はあのときだけだったが、俺は数週間それだ。
 仕事が終わって集合住宅へ帰る間の道に、こじんまりとした酒場を発見し、通うことにした。ひたすら生ぬるいビールを飲む。料理は一回食べてやたらマズかったので二度と食べないことにした。
 そこは下っ端の衛兵達のたまり場らしかった。通い始めたころ、警備兵たちが仕事を終えて奥のテーブルに陣取ってだらだらと飲み始める。
「しっかしあの女態度シケてやがったわ」ショットガン〈カウント5〉を背負った、長身の男が愚痴る。「おれたちが都市を守護してやってるってのに袖の下があんだけってのはな」
「吝嗇家というのはどこにでもいるものですね」騎士然とした金髪の女が言った。「あの魔女からはもう少し搾り取れそうなのですが。我々ドロウレイス衛兵隊が舐められてはなりません」言葉から察するにどうやら帝国の出身らしい。
「教団の捜査隊に手入れをしてもらうぞと脅すかね」ゴーグル付きの鉄兜を深く被った男が言う。「あすこのベガ隊長の拷問をたっぷり味わうんだな、とね」
「悪くない良いアイデアじゃン」南部出身の耳の尖った女兵士だ。「あのサディスティックな隊長がやる気出セば、もっとアタシらの小遣いが増エるのにネ」
「へっへっへっ」黒眼鏡の陰気な男が笑う。褐色の肌と銀髪から、どうやらザザの人間らしいと分かる。彼は最後まで言葉を発することはなかった。
 通って人間観察を肴に飲んでるうちにだいたい分かってきた。彼らは第八階層の中でも治安の悪い吹き溜まりを担当し、そのうちにそうなったのか、最初からそうだったのか分からないが、ゴロツキを取り締まるはずの立場でありながらゴロツキそのものになっていた。
 長身の男は三十過ぎ、威厳を出すためか生やしている口髭はならず者のそれにしか見えない。彼はこの班のリーダーのシムノン軍曹といった。チンピラやこそ泥のポケットから小銭を奪うことしか頭になく、取り締まろうなどとは考えない典型的な汚職衛兵だ。
 女騎士風の人物はただ単にブロンディと呼称され、名前は分からなかった。誉れ高い貴人のような顔をしながら薄汚いアイデアを息をするように口走る。
 鉄兜の衛兵は節目がちで、呼称を纏めるとギルバート・クワインというのがフルネームらしかったが本名かは怪しいところで、常に入り口や客の顔に目を配っている。衛兵として注意を払っているというより逃亡者のようで、何か後ろ暗いところがあるらしい。彼は魔導師で、腰に銅製の杖を下げていた。
 亜大陸出身の人物はジョリーン・フッカー、どうやらこの中では一番年上のようだ。腰にはピカピカ光る装飾短剣をぶら下げている。カネが大好きでそれ以外は全部哄笑の対象って感じだ。
 最も怪しい黒眼鏡の男、彼はほとんど盗賊みたいで、店に入ってくるときも出てくときも、一団の最後部で影みたく動く。呼び名は不明だったが、一度だけ軍曹にマリオットと呼ばれていた。なぜあんな男が衛兵隊へ入れるのだろう。
 と思っていたが、毒を制するには毒ってのもあるな、と実感させられる出来事が、一週間くらいしてから起こった。一人の間抜けなコソ泥が、軍服を着たままの彼らから盗みを働いたのだ。正確には未遂だけど。
 そいつはフッカーの腰の短剣に手を伸ばし、掠め取ろうとしたらしい。気づいたときにはそいつはぷかりと浮き、天井にぶつかって悶絶していた。
 魔導師のクワインが〈念動〉か〈浮遊〉を使ったのかと思ったが、エーテルが動いた気配はない。どうやらフッカーが呪術を行使したようだ。短剣を手に取った様子はない。あるいは俺と同じくほかの触媒を手に仕込んでいるのか。呪術師について俺の知識は本で読んだのと、ウォーターズから少しばかり聞いた程度で、実戦の経験もない。彼らが敵になったら厄介だろうなと俺は思った。
 そうこうしている間にこそ泥は締め上げられている。また厄介ごとかと渋い顔の店主とは対照的に、衛兵達はにやにやとそいつを見下ろす。
「アタシは亜大陸ノ大樹海の出でね」短剣を抜いてフッカーが言う。「向こウじゃ盗ッ人に対シては指を切ることで購ってもラうことになってル」怯える盗賊は許しを請うが、「アァ、心配しなクてもここは大樹海じゃナい」一旦笑ってから「とは言エ、だ」女衛兵は男の手首を握り締め、「向こうニャこんな言葉がアる、『大樹海の民がイる所即ち大樹海ナり』っテな」
 短剣が盗人の手に向かって振り下ろされる。彼は悲鳴を上げるが、刃は指の間から床板に突き刺さっただけだった。
「おっとアタシとしたコトが、『指切り』は五百年くらイ前ノ法だッたわ」
「ふふふ、フッカー姉さんは本当にお茶目ですね」「五百年前に生まれなくて良かったってこったな!」「寛大なフッカーに乾杯」
 などと言いながらも全員が瞬時に抜刀し、銃を構え、男に向けている。明らかに過剰防衛だが……単なるゴロツキじゃなく、迅速なゴロツキのようだ。なお悪いか……

       

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