Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
15 不名誉の探査~交差点のロバート

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   15 不名誉の探索~交差点のロバート

 〈過客〉の礼拝堂へ来ると、以前と同じようにデイヴィス司祭がいて、読書に勤しんでいる。噴水の中のコインは少し増えたような気がした……もちろんそれも彼の貯金箱へ入ったようなものだろう。ジャズもここから盗めば良かったのに。
「おや、アニーとヴァーレインですか」司祭は相変わらず笑ったような顔をしている。そういう顔をしているだけで、実際に笑っているわけじゃないのだろう。仮にそうだとしてもそれは仮面みたく自分で貼り付けたものなのだろうなと俺はなんとなく思った。「また宿泊ですか?」
「何言ってんだい、私が今どういう状況か知ってんだろ?」「ええ、まあ」「調べて欲しいことがある。情報屋を紹介してくれないかい……吸血鬼のジャズってこそ泥を探しているんだ」「なるほど……七番階層の十三番交差点へ向かってください。向こうが待ってますよ」「なんだって?」
 司祭はこともなげに言う、「〈交差点〉のロバートって男です。カルムフォルド人ですが訛りはない。既に待機しているでしょう。彼に任せれば解決ですよ」
「待ってるってのは」俺は質問する。「どういう意味? つまり」「『ヴァーレインとアニー・スティグマが尋ねてきて吸血鬼ジャズの場所を聞くだろうから、連れてきて欲しい』と依頼されています」
「魔術師かい?」アニーが察して質問した。「知覚系は少なくないからね、私と同じ『占い』みたいな力かね」
 アニーが悪魔を寄生させることで得た力は、傷による予知だ。自分への危害を、左半身に現れる切り傷が暗示する。傷口と損傷を受ける箇所が対応しているわけではなく、すべてはアニーの経験則だ――彼女も結構な歳らしい。傷はすぐに癒えるが、そのとき流れる血でボロとはいえ一張羅を汚したくないがために彼女は布を巻いている。
「そのおせっかいな情報屋に挨拶してくるか。行くよヴァーレイン」
 誰がどんな情報を欲しがっているか事前に把握し、己の力を誇示するように導く。セールスマンが欲しがる能力だな。

 十三番交差点は工業区画の真上にある高架だった。ここも、もうもうと立ち込める蒸気で視界が悪い。天井の換気装置がフル稼働しているが、大して効き目はなさそうだった。
「しっかし十三番とは縁起の悪い待ち合わせ場所じゃないかい」「そう? 帝都じゃ幸運の数字だったけど」「そりゃどっかのへそ曲がりが言い出したんだろうさ。あるいはすごく迷信深い野郎だね。不運を分散させたがってるのさ」
 蒸気の向こうから誰かが現れる。正装の男だ。なんとなくこれまで見たカルムフォルド人と違い、力の抜けたところがない。帝国の銀行員かなにかのような律儀さを思わせる。
「さっそく始めよう。ジャズの居場所だが七番地区の北、城壁の……」
「ちょっと待ちなよ! あんた一体なんなの?」
「大体察してる通り押しかけ営業の情報屋だよ」
「押しかけっていう自覚はあるんだね」
「だがこれまで文句を言ってきたやつはいない。なぜならわたしの情報は正確、重要な鍵となるものだからだ」
「そう言うなら拝聴しようじゃないか」
 ロバートが話してくれた内容はかなり具体的で、こちらの動きを含め予言というより芝居の台本じみていた。
「……と、いうことになるだろう。情報料は五万サンだ」
「なんだって! 高くないかい?」
「だがお前は払うだろうアニー。そうすればわたしが今後、どうしようもないときに現れてどうすべきか導いてくれるんじゃないかと考えるだろう?」
「さあ、どうかね」
「わたしは実際そうする。客の中には私を預言者、神の化身などというやつもいるな。しかしわたしは単なる情報屋〈交差点〉のロバートに過ぎん。わたしの中の悪魔がささやいたことを話しているだけだ」
「悪魔がささやく? 年に何人かのドアホがその理由で連続殺人を犯してんだ。万引きの動機にそれを話すバカは一日で十人くらいいるかもな」
「アニーに関してはそれで終わりだが」彼女の皮肉を受け流し、ロバートは俺に向き合う。「ヴァーレインに対してのぶんが残っている。大した情報じゃないがお前が追う相手についてだ」
 俺は少しばかり意外だった。「俺はそこまで必要としてるわけじゃないよ、あいつに関する情報をさ」
「その通りだ。だが、これはわたしにも関する問題だ。お前が探す相手は因果の糸を強引に引っ張って、わたしやお前の運命を恒久的に変えてしまうんだからな。あいつへの情報はとっとと吐き出しておくに限る。報酬も不要だ」
「いったいなんの話をしてるんだい?」アニーが訝しげに聞いた。
「俺はさ」彼女に言う。「一応、ある相手を追ってファーゼンティアに入ったんだよね。言ってなかったと思うけど。アニーと違ってすぐにどうこうしなきゃって感じじゃないから」
「そのとおりだ。だがわたしの心臓に憑いた悪魔がうるさくてかなわん、今言っておけとな。いいかヴァーレイン。〈飛行船の魔女〉とお前はこの都市で一度会うだろう。そう遠くじゃない、夏が終わる前だ。もちろん今すぐ発つこともできる。分かるな?」
 俺は頷く。彼は蒸気の向こうに消えていった。
 俺はというと、あの魔女のことを思い出していた。
 曖昧ながらも俺の指針を決めた彼女が、帝都の赤茶けた空を背景に笑う場面だ。向こうがこっちと会いたいか分からないが、たぶんロバートの言ったとおり会うだろう。俺がなんとなくそうしようと思ってるから。

       

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