Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
21 降り始めた夕立~後輩冒険者

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   21 降り始めた夕立~後輩冒険者

 〈公社〉は都市同盟全域においてインフラ整備、武器の製造、〈黄金時代〉の遺物の管理・再生・その技術の転用などを行う巨大財閥で、その始まりは〈大災厄〉直後まで遡る。今日さえない俺たち冒険者は、当時は花形こそ騎士たちに譲りはしたが、治安維持、遺物の発掘、そして各地で騎士が倒した竜骸から生まれた〈異形〉の排除など、なくてはならない存在だった。かつてファーゼンティアを統治した旧ウィンター王家は、組織的に冒険者を束ね、竜から身を守るための城塞を築くため、〈公社〉を設立。それから二百年後、近縁のアンゼリカが魔導騎士を率いて南方に進軍したあとも、都市群を管理し、整備し続けてきた。しかし既に現在、冒険者ギルドとしての機能は形骸化しつつあった。
 〈公社〉が冒険者たちに代わって魔女たちを囲い込み始めたのは、〈銀の教団〉が力を強めていった、四百年ほど前の暗黒時代だ。都市によっては迫害と呼んで良い位の扱いを受けていた彼女達を救済という名目で雇い、武装させ、組織化し、軍隊さながらに力を高めた。教団への対抗策というのは明らかだった。〈公社〉総統にはじめて魔女が据えられたのもこの時期だったはずだ。
 俺が冒険者として働き始めてから顔なじみになった魔女がいくらかいた。
 初日からのつきあいの、〈道化〉のキャシーことカサンドラ。
 「カタツムリと鉛の相場は?」と今日も問答を繰り出してくるが、俺は気にせず、「ああカサンドラ、おはよう」と答える。
 彼女は微笑んで会釈する。
 藁色の髪の、癖っ毛の少女が話しかけてくる。「あー、ヴァーレイン」ひしゃげた三角帽子が目印の彼女はポーラといった。かつて帝都に住んでいた折に悪魔に取り憑かれ、傷心旅行でドロウレイスを訪れてそのままいついてしまった。吸血鬼のジャズと似た境遇だが、暗さや屈折はなく、歳をとらなくてツイてるって認識だ。
「なんかドロシーが探してたよ、新人の冒険者来たから誰かと組んで欲しいって」
「そうなのかい? 俺はでも、単独の仕事がいいんだけどな」
「いやー孤独気取るのもいいけど、たまにゃ集団行動しなって」
「そうかい」
「そうさ。なんか変な子なんだけど」
「そりゃ意欲を削ぐ情報だ」
 とはいえ、ほかに仕事もないならたまにはいいかと思ったら、蒼白い髪が目に入る。なんだ、新人ってシャーロットか……
 俺が受付へ行くと煙管で一服するスタッフ、ドロシー・スレッジがこちらに気づいた。彼女は魔女ではなく元冒険者で、ストームキープという西部の城塞から来てここで雇われてるって以外、素性はよく分からない。おそらく違法な、たぶん横流し等に手を染めていて、一回シムノン軍曹となにかこそこそと薬をやりとりしているのを見た。俺は何も言わなかった。
 ドロシーは見たところ、なんだか疲れているような感じだ。
「おー、ヴァーレイン。ちょっくらこの子に手かしてやってくんないかい?」長身のドロシーは俺を見下ろしながら、額にずらした眼鏡を一旦かけてからまた元の場所へ戻す。不可解な彼女の癖のひとつだ。「魔導師だってんで害虫駆除の仕事回そうと思ったんだけど下水路への案内すんのが捕まんなくてさあ」
「そりゃ臭そうな仕事だね」
「今更何言ってんのさ。どうよ?」
「ああ、いいよ。彼女が良いなら。実はこの前会ったんだよ、ここの場所聞かれて」
「そーなの? じゃあ好都合だね、シャーロット、それでいい?」
「……」
 しばしの沈黙の後、
「……都市の中だと天気が分からないですね」
「……ああ、そうだね。俺達帝国育ちには馴染みのない」
「……」
 俺はドロシーに会釈してから、
「じゃあシャーロット、行こうか?」
「……」
 なるほど。ドロシーはこれをずっと体験して疲弊したのか。
「……先輩は朝食になにを?」
「ゆで卵とトーストと、あと野菜があんまり入ってない野菜スープ」
「……」
「……」
 俺達は歩き出した。

       

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