Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
27 シャーロットの過去~霧の竜

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   27 シャーロットの過去~霧の竜

 シャーロットの生まれは帝国東部にある、ドーンフォートと呼ばれる城塞だ。
 古くからザザの水軍への要点として存在し、〈大災厄〉で吹き飛んで二百年後、アンゼリカ一世の軍が再建した。
 黎明海峡を臨む海岸に聳えるこの都市は、〈長姉〉の聖地として知られ、東側には巨大な聖堂が建っている。〈暁の長姉〉は主神〈火点し〉が空に放った炎――太陽の管理を任せた三姉妹のひとりだ。夜明けと幸運を司り、ここドロウレイスにも信奉者は多い。また、朝焼けが暗闇を掃うさまから、知識で未知を拓く学者の守護神ともされる。各地の冒険者ギルドにもこの神の像が安置されている――未知の領域を冒険することへの祝福が与えられるように。
 この都市で、幼い頃からシャーロットは魔法の才能で知られ、神童だの天才だのともてはやされたようだ。将来は帝国軍の英雄になるかもしれないと人々は期待した。しかし、彼女の父親はそうは思わなかった。
 デンジャーフィールド家は、アンゼリカ一世の率いた騎士団に続いて南下した、開拓軍人の末裔だ。
 たいていの場合、ソルシャードの民は自分達が栄光ある騎士の子孫だということを誇りに思い、彼らが使っていた堅苦しい言葉――今日の帝国訛りで話す。だが実際、俺を含めてほとんどの帝国人は、開拓が終わってからやって来た移民の後裔である。
 その中にあってシャーロットの一族は古く、誇り高い家系とされ、彼女の父親は栄光を夢見て軍人となった。しかし、この〈凪の時代〉において、戦うべき相手は街の悪党どもにすぎず、大敵である竜はほぼ大陸から駆逐されていた。
 だから、シャーロットが将来冒険者になりたいと言ったとき、帝国の多くの父親のように反対することはなかった。
 彼女の家には騎士を主人公にした冒険小説が数多くあり、幼少からそれに触れて育ったシャーロットは、杖一本で世界を巡ることを夢見るようになった。
 それが決定的となったのは、彼女が十歳のときだった。
 ドーンフォートの城壁を飛び越え、都市の外へちょっとした冒険へ向かう最中――当時の彼女の趣味だ――それに出会った。
 灰色の空の下、霧雨が降り注いでいて、田園地帯のただ中の今は動いていない風車に、一匹の竜が止まっていたのだ。
 そいつは〈先駈〉が乗る雲の騎馬よろしく、霧でできた竜だった。
 竜はシャーロットに語りかける。その内容はこうだ。
 ――お前は世界をかき乱す役割を負いし〈奏者(プレイヤー)〉だ。人間たちを動かす因果の糸を弾き、神を踊らせる音楽を奏でるのだ。もちろん、お前が臨まぬなら、この都市で一生を終えてもいいだろう。決めるのはお前だ。
 シャーロットは所望する冒険のために、〈奏者〉となることを望んだ。
 竜は、彼女に帝都へ向かうよう告げた。

       

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