Neetel Inside 文芸新都
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Arkяound 城塞都市の冒険者
35 水没区画~漂流種

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   35 水没区画~漂流種

 昇降機で下まで降りて、あとは古びた石階段を降りると、三課の狩人が一人いて、ぼんやりした顔でこっちを見て、
「ああ、あんたら。探検しに来たのかい? 危険区画に……あの音が聞こえないか? 水音だよ」背後を指差して、「地下水が漏れ出してんだ。そのうち海にまで繋がるんじゃないかって危惧してるやつもいる……そうなりゃこの都市は終わりさ……七百年くらい前に一度大崩落があったのを知ってるか? 今じゃ既に海に沈んだ場所にこの都市の前身があったってことを。そして言うまでもないけど悪魔がバンバンいる。局地的な歪みも放置してるんで、角を曲がった瞬間〈向こう側〉へ入ってるかもな……暗いほうへはいくな」
「冒険者の男が来なかった? 名前はクライヴ・ディグル」
「ああ、なんだ、あんたらもやつを探してんのかい?」狩人は怪訝そうな顔になった。「そんな重要人物にゃ見えなかったがな。素寒貧って感じだ……まあ探すなら勝手にすれば」
「あんたらも、って言ったな」ジャズが指摘する。「わたしたちのほかに誰か来たのか?」
「ああ……ちっこいガキが来たんでさすがに追い返そうとしたら、自分は成人してるって抜かすんで、通したよ。〈漂流種(ドリフト)だったんだ。目を見たら分かったよ。悪魔を狩るためにしばらく滞在してんだと」
 ジャズが言う、「珍しいな。うちのヴィンスといい、同じ都市に留まる漂流種なんて」
 彼らは亜大陸人と同じく、尖った耳を持つが異なる特徴を持つ。茶色の髪と薄い青色の目――彼らに言わせればこれは大地と空の色だってことだが――を持ち、子供の姿のまま一生成長することはない。そして、同じ場所には居つかず、生涯旅人として暮らす。
 その誕生に関して多くの伝説が存在する。神代の昔、カルムフォルドに存在した盗人の部族が〈過客〉の外套を盗もうとしたために呪い――種族そのものにかかる〈大呪〉だ――を受け、子供のままどこにも辿り着くことのない肉体に変えられたのだという説。かつてこの領域に移り住むさい〈箱舟〉に密航するため、自ら子供の姿に留まり、それを治すための探索を続けているという説。彼らは古代の王の命令により、大地の呪いをその体に移し変えるため世界を放浪し続けている罪人だという説――いや、自らその使命にあたっている救済者なのだという説。あるいは、彼ら自身が世界に呪いをふりまくため動き続けているのだという説。
 実際彼らに聞いてみたところで、話をはぐらかされ、からかわれるのが落ちだ。
 だから帝国では、彼らはトリックスターである〈過客〉が、空と地から産んだ自らの似姿であるという説がもっとも有力だし、彼らとしても、どうやらそう考えている者が多数であるようだ。
「別に珍しいってわけじゃないさ」アニーが言う。「竜が千年前からどんどん小さく弱くなっているように、やつらの放浪しなきゃいけないって性質もどんどん弱くなってるのさ。だから都市に移住するのも増えてる。やつらはちっこいから、場所は取らなくて済むしね」
 侵入者は〈風雪連合(ウェザード・ブラザーフッド)〉の一因と名乗り、紋章を見せたが、狩人はそれを知らず、深く考えずに通したそうだ。
「〈連合〉がまだ存在してたのか。とっくの昔に全員のたれ死んだと思ってたぞ」ジャズが意外そうに説明する。「冒険者ギルドのひとつなんだけど、どこかの都市じゃなく、北部大陸全域で魔物を狩るんだ。野外でも〈向こう側〉に接続してる場所があるから、そこを潰したり、野獣を狩ったり、盗賊を退治したり。確かアンゼリカ一世の軍の残留者がはじめたものらしいが、性質的に漂流種とは相性がいいから、彼らも多数参加してるらしい」
「じゃあ先に行ったやつが、悪魔を全部やっつけてくれてるんじゃないのかい」
 だったら楽なのだが、いずれにしてもこんなところまで来るなんて、随分酔狂な人物もいたものだ。
「なんだ、あんたら結局行くのかい? まあどっちでもいいが……死にそうになったらすぐ逃げて来るこったな」狩人はそう言ったが、死にそうになったら逃げることなんてできず、そのまま死ぬだけだろう。ともかく俺達は先に進むことにした。

       

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