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魔物の巣窟の、森の奥深く。
帝国臣民の血税で魔法を習得した魔術師の少女エーコが、せっせと魔物たちに補助魔法(攻撃力・防御力向上)を施していた。
<<言っておくが、おかしなマネしたら、すぐ首はねるからな>>
大きな斧を持った立っている魔物が、エーコの耳元で凄みを効かす。
「わ、わかっております!!」
エーコの補助魔法が自分たちにとって有用なものだと認識した魔物たちは、彼女を当面の間、生かすことに決めた。
とは言うものの――
(粗暴で低級で下等な魔物のことだから、いつ気が変わって殺されるかわからない……。隙を見て早く逃げ出さないと……)
しかし、一日中斧を持った魔物が最低一匹は監視についている。右を見ても左を見ても魔物だらけである。おまけに、補助魔法を詠唱するとき以外は魔杖を取り上げられてしまう。
魔杖が無ければエーコなどそこらの村娘と、そう違いはない。さてどうしたものかと考えていると、首筋に斧があてられる。
<<おい、手が止まっているぞ……>>
「わーッ!!すいません!!すぐに続けますぅー」
慌てて詠唱に専念する。
(……ま、しばらくは様子見ですかねー)
しばらく命を取られる心配は無いと見たエーコは、臆面も無く人類に対する裏切り行為を続けることにした。
「ハイ、貴方は施術完了です!ではお次の方、どうぞー」
万が一にも機嫌を損ねまいと、ニヘラニヘラと卑しく媚びた笑いを浮かべながら、エーコは次々と補助魔法を魔物たちに施していくのであった。
○
その夜、その魔物の群れは人里を襲撃した。
補助魔法の恩恵を受けた魔物たちは、いつもの何倍もの人間を殺し、何倍もの家畜を略奪することができた。やったね。