Neetel Inside ニートノベル
表紙

学者が助走をつけて殴るレベルの「古事記」
第六章「天孫降臨編-そして伝説へ…」-その1

見開き   最大化      

 さて、いざ出雲に旅立とうとしていたニニギとアメノウズメですが、ここで問題が生じます。
「ところで、アメノウズメちゃんは、出雲までの道がわかってるんだよね?」
「ニニギ様がわかってるんじゃないんですか?」
「えっ」
「えっ」
「……僕は、アメノウズメちゃんが連れて行ってくれるって聞いてたんだけど」
「私は、ニニギ様について行けばいいって言われてました」
「えっ」
「えっ」
 そうです。二人とも、肝心の、出雲まで続く道を知らなかったのです。
 とはいえ、ニニギもアマテラスに堂々と「出雲を任せて欲しい」と言った以上、今更「道がわかりません」とは言えません。アメノウズメもまた、護衛を任された以上、道がわからないという体たらくがバレてしまえば、神の間でいい笑いものです。これには二人とも参ってしまいます。

 そこに、突如、光が降り注ぎます。ニニギとアマテラスは何事かと驚いて、光の方を見ます。
 そこには、一人の青年神が座り込んでいました。
「……誰だろう、あれ?」
「さぁ……聞いてみたらどうですか?」
「えー、やだよ……怖いもん」
 実際青年は、難しそうな顔をして座り込んでいます。ニニギに限らず、どんな神でも「機嫌悪いのかな?」と思って声をかけるのをためらうレベルです。
 しかし、そこは気の強いアメノウズメです。そんな青年の佇まいを恐れる事なく、ずかずかと歩み寄りました。
「ちょっと、アンタ。そんなところで何してるの?」
「何だお前、いきなり話しかけて来たと思ったら偉そうに……」
 青年神は、頭をぼりぼりと掻きながら、面倒臭そうに質問に答えます。
「……出雲に行くまでの道を照らしてたんだよ。ここは暗いからな。並の神じゃ迷っちまうんだ」
 青年神の言う通り、ここ一帯は、青年神が光を照らしてくれるからこそ、ようやく明るさを維持出来るくらいに暗い場所でした。
 しかも、よく見れば、青年の背後の道は、何と八つに別れているのです。これでは迷っても仕方がありません。
「この道は、天之八衢(あめのやちまた)って言ってな。俺は、うっかりここに入って迷う神がいないように、ここで見張ってんだ」
「見張られてちゃ困るのよ。私達、今から出雲に向かおうとしてるんだから」
「お前らが、出雲に?」と、青年神は眉を顰めます。「……駄目に決まってんだろうが。道も知らないくせに」
「な、何で私達が道を知らないって決めつけるのよ!」
「決めつけるも何も、さっきそこでそう言ってたじゃねぇか」
 うっ、とアメノウズメは言葉を詰まらせました。どうやら、先ほどのニニギとのやり取りを聞かれていたようです。
「だ……だったら、アンタが案内してくれればいいじゃないの!」
「何で俺が? お断りだね」
「ここにおわす方を誰と心得るの? あのアマテラス様のお孫であり、出雲を統治なさる、ニニギ様よ?」
「知らねぇよ、そんなの。大体、何でそんな偉い神様が、出雲までの道を知らねぇんだ? どの道、そんなうかつな奴らを通すわけには行かねぇ」
 そうだな、と、青年神は考え込んで、再びアメノウズメを見ました。
「どうしてもって言うのなら、度胸を見せてみろ。この険しく惑う道を乗り越えられるだけの度胸と気概を見せてみな」
 むむむ、とアメノウズメは考え込んでしまいます。
 度胸と言われても、確かにそれを示す方法はあります。しかしそれは、まさに自分がこの任に抜擢された理由であり、そもそもそれは不本意であり、しかしそれをしなければ、道は開けないのであり……。
「……わかったわよ」
 と、アメノウズメが、決心したように、青年神に言いました。
「脱ぐわよ」
「えっ」
「どいてくれないなら、ここで脱ぐ」
 青年神は、目を丸くしてフリーズです。それも当然でしょう。はっきり言ってマジキチです。
「上等じゃないの! この芸能の神と言われた私の威勢のいい脱ぎっぷり、見たけりゃ見せてやるよ!(震え声)」
「おい馬鹿やめろ! この度胸試しは早くも終了ですね!」
 言うや否や、不本意とか言ってた割には実に慣れた手つきで脱ぎにかかるアメノウズメ。青年神が止めたその時既に、胸と股は全開でした。痴女です。立派なものです。
「ほれ、見ろよ見ろよ。ほれ、ほれ」
「やめてくれよ……(絶望) わかったわかったよもう! 案内するよ、すればいいんだろ!」
「……やめてとか言ってる割には、顔真っ赤にして鼻まで伸ばしてるじゃないのよ、この変態! ド変態!! 変態大人っ!!!」
 アメノウズメの言う通り、青年神の顔は真っ赤に染まり、鼻は長ーく伸びています。やっぱ好きなんすねぇ。

 こうして、青年神が、渋々と言ったようにニニギとアメノウズメを先導する事になりました。ちなみにニニギは、一部始終を笑いながら見ているだけでした。
「じゃあまず、名前を教えてくれるかな?」と、ニニギが青年神に問います。
「……猿田毘古。猿田毘古之男神(さるたひこおのかみ 以下:サルタヒコ)」
「猿って、あのサル? ……変な名前」
「うるせぇ、痴女」
「誰が痴女よ! ブッ飛ばすわよ!」
「場所問わずいきなり脱ぐ奴は痴女だろうが!」
 ニニギ、アメノウズメ、サルタヒコの出雲への旅が、こうして幕を開けます。ちなみに道中、サルタヒコの顔はずっと真っ赤で、鼻も伸びっぱなしでした。

       

表紙

六月十七日 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha