Neetel Inside ニートノベル
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エロスの戦乙女
第4話 ダークエロスの乙女

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「おはようございます」
 7時半、会社に到着。高橋はいつものように朝の挨拶をし、自分の机についた。
「おはよう高橋君」
 一番に高橋に声をかけてきたのは、課長の島だった。彼は高橋よりひとつ年上であり、恐ろしいスピードで係長から課長へと昇進したエリートで、いずれ社長とかにもなるのではと噂されるほどの人物である。
「おはようございます島課長」
 そんなエリートサラリーマンが何か用でもあるのだろうかといぶかしがりながら高橋はスマイルで挨拶を返した。
「うん、実はだな、今朝会議の資料のコピーをとろうとしたらこんなものが詰まっていてな」
 そう言って島課長が高橋に差し出したのは、紛れもなく高橋のエロ同人のコピーだった。
「こ、これは!」
 高橋は顔面蒼白になり、手渡されたエロ同人のコピーを握りわなわなと震えだした。
「い、一体誰がこんな破廉恥なものを会社のコピー機で!」
 今の高橋にできることは小手先のごまかしだけだった。コピー機のつまりは解消されたはずなのになぜ自分の同人原稿があるのかはよくわからなかった。
「高橋君、何を言っているんだ。これをコピーしたのは君ではないのか? んん?」
 高橋に詰め寄る島課長。もはや逃れようはなかった。島課長は知っていたのだ、高橋がこつこつとエロ同人を描いていたことを。
「『来夢(らいむ)れもん』……これはきみのペンネームじゃないのか? 私が去年の夏コミで目にしたサークル『くり~むれもん』のブース、そこには『来夢れもん』こと高橋よしのぶが座っていたが? んん?」
 島課長の言葉による精神攻撃は絶大な威力を発揮した。高橋は限界まで追い詰められ、嫌な脂汗がじっとりと背中を濡らしていた。
「くっそお……島課長が夏コミに来ていたなんて想定外ですよ……!」
「認めるのだな? 君がくり~むれもんの来夢れもんだと! そして会社のコピー機でエロ同人をコピーして紙を詰まらせたことを!」
 圧倒的だった。これがエリートサラリーマンのやり口なのだ。金銭やその他諸々の都合でコピー誌しか出せない作家は踏み台にしのし上がる。高橋はそのことを身をもって知った。
「認めます! 僕がくり~むれもん代表の来夢れもんです! そして会社のコピー機でエロ同人をコピーして紙を詰まらせました!」
 高橋は椅子から転げ落ちるように床に座り込むと、そのまま土下座した。机の足回りにたまった埃が目にしみた。
「そうか、認めてくれればそれでいいんだ。もう会社のコピー機でエロ同人をコピーしたりするなよ、女子社員の目に触れでもしたら大問題だからな」
「はい」
 高橋は土下座体制のまま、島課長が自分の机に戻るのを待ち続けた。それはあまりにも長く、一秒が一時間に感じられるほどだった。
「おっと、それからもうひとつ」
 机に戻るかと思われた島課長は踵を返すと、未だ土下座し続けている高橋を静かに見下ろした。
「君の元にピュアエロスの乙女が現れているはずなんだが、彼女はどこだ?」
「えっ」
 思わぬ言葉に高橋は頭を上げた。ピュアエロスの乙女……まさか、アンリエッタのことを島課長が知っているのだろうか。だとしたらなぜ?
「なぜそれを」
「やはりな。マスター高橋、君にはここで死んでもらうぞ!」
 島課長はにやりと笑うと、高級ブランドスーツの内ポケットから一枚の紙を取り出し、コピー機へと滑り込ませた。
「まさか、エロ同人の原稿!?」
「そのとおり」
 島課長が言うが早いがコピー機は暗黒の瘴気に包まれ、その暗闇からセクシーボンテージを身にまとった乙女が姿を現した。
「これは、どういうことです島課長!」
「こういうことだよ高橋君!」
 島課長が突き出したエロ同人の原稿は、高橋も見覚えのあるものだった。それはエロ同人界の重鎮、サークル『クリームゾーン』の原稿に違いなかったのだ。
「まさか島課長がクリームゾーン先生だったんですか!?」
 高橋も何度もお世話になったことのあるエロ同人、クリームゾーン。くやしい、でも感じちゃう乙女の痴態はエロ同人マニアでなくとも知っているほどだ。
「もう隠し立ての必要もないな。そう、私がクリームゾーンだ。エリートサラリーマンと有名同人サークルの二足のわらじは正直かなりきつかったぞ。だがそんな生活も今日で終わりだ! 高橋君、君を倒し世界をダークエロスで包み私は新たなるエロの王として世界に君臨するのだ!」
 コピー機から現れた第二の乙女、ダークエロス、超有名同人サークルクリームゾーン……すべて高橋の理解の範疇を超えていた。
「頭大丈夫でしょうか」
「私は正常だ。行け、エリザベス!」
 島課長の掛け声とともに、ボンテージ姿の乙女は手にした鞭を床にたたきつけた。
「ピュアエロスのマスターはどいつだい? お前だよっ!」
 エリザベスと呼ばれた黒髪の乙女は容赦なく高橋に鞭を振るい始めた。高橋がすばやく身をかわすと鞭は空を切り机の上にあったパソコンを粉砕した。
「くそっ! 僕にはSMの趣味なんかないぞ!」
 高橋は攻撃をかいくぐりコピー機まで走ると、自分のエロ同人の原稿をセットしてスタートボタンを押した。まもなくコピー機はまばゆい光に包まれ、その光は部屋中に満たされていった。
「マスター!」
 凛とした声が響き、間一髪で高橋を襲う鞭を銀色の剣がはじき返した。
「アンリエッタ、この女王様が僕たちの敵なのか?」
「はい。彼女はダークエロスの乙女、私たちが倒すべき敵の一人です」
 対峙するアンリエッタとエリザベス、相対する二人の乙女。ダークエロス、そしてピュアエロスとは一体?

       

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