Neetel Inside ニートノベル
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エロスの戦乙女
第8話 クッキンアイドル

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 即売会のセッティングを終えたところで、続々と一般客が入場してきた。どいつもこいつもふたなりが好きそうな顔をしておる。リュックサックに眼鏡とよれよれのTシャツ、クッソダサいジーパン姿の大きなお友達が集まる姿はさぞ異常に見えるであろうが、高橋にとっては見慣れた光景であった。当の高橋はオタク色を微塵も感じさせないパリッとしたシャツにネクタイ、さらに皺一つないベストといういでたちである。変態紳士たちの中ではキングオブ紳士の異彩を放っていた。
 実は普段はラフな格好でイベントに参加していた高橋だが、アンリエッタにそんなユルい服装はマスターとしてありえないと叱咤され、紳士的服装を強制されたのであった。
「マスター、私はいかがいたしましょうか」
 売り物をテーブルに並べ終えたアンリエッタが高橋に聞いた。高橋がニヤリと笑う。
「君には売り子をしてもらう」
「売り子?」
「俺の漫画をじゃんじゃん売ってほしいんだ。買ってくれた人には先着順で缶バッヂをおまけにつけること。あとペーパーも渡してくれ」
「マスターはどうされるのですか?」
「俺は隣で立ってるよ」
 高橋は即答した。つまりアンリエッタの美貌で同人誌の売り上げを伸ばそうと考えているのだ。実際大きいお友達がアンリエッタを見つけて目を輝かせている。
「大きいお友達が待っているぞ、がんばれアンリエッタ、これも修行だ」
「はい!」
 純粋無垢なハートを持った乙女であるアンリエッタを利用するとは高橋も罪深い男である。
「300円になります、こちらはおまけです。ペーパーもお持ちくださいませ。ありがとうございました」
 アンリエッタの接客は最高であった。特に笑顔が最高であった。これにはオタクたちも大満足である。
「写真撮らせてもらってもいいですか」
 リュックサックポスター君がおどおどとカメラを手にしてアンリエッタに尋ねた。
「写真? マスター、いかがいたしましょうか」
「かまわん撮らせてさしあげろ」
「ではどうぞ、お撮りになってください」
 アンリエッタが笑顔で返事をすると、リュックサックポスター君は天にも昇る気持ちでシャッターを切った。
「あああありがとうございました」
「どういたしまして」
 そのやり取りを見ていたオタクたちがいっせいに高橋のブースに押し寄せた。
「写真お願いします!」
「剣を構えてもらえますか?」
「キリッとした顔でお願いします!」
 アンリエッタは困り果てて高橋に視線を移した。
「漫画だ、漫画を買っていただくんだ。ペーパーはこっちで配ろう」
 高橋が格好つけて言い放った。
「ええと、まずは漫画を買ってくださいませ。その後は写真をお撮りになってくださっても結構です」
 アンリエッタの一言で漫画は亜音速で完売し、撮影会が始まった。コスプレOKのイベントならではのことである。
 聖母のように優しく微笑むアンリエッタ。麗しき騎士のごとく剣を構えるアンリエッタ。まとめサイトでたびたび騒がれるロシア人美少女のコスプレがかすんで見えるほどである。

 イベント会場の別の場所でも同じように会場を騒がせる撮影会が始まっていた。
「いいんですか? マスター」
「かまわんじゃんじゃん撮らせてさしあげろ」
 たくさんの野菜が張り付いた大きな帽子に白とピンクのひらひらした服を纏った美少女が、オタクに囲まれ写真を撮られていた。
 配るペーパーがなくなった高橋はようやくそのことに気付き、撮影されている美少女とマスターと呼ばれた金髪の男を遠くから確認するように眺めた。
「あれは……まさか! なぜあいつがここにいる!」
「どうしたのですか、マスター」
 ひとしきり写真を撮られたアンリエッタが興奮する高橋に気付いた。
 高橋と目が合った男は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。
「やあ、来夢れもん……いや、マスター高橋とお呼びしたほうがいいだろうか」
「後堂(こうどう)エム! なぜお前のような奴がここにいる?!」
 男をねめつけて高橋は声を荒げた。
「ふたなりに興味はないおまえがなぜここにいる? ロリっ子を孕ませヤク漬けにしてアヘ顔ダブルピースさせるおまえがなぜここにいるんだ! 早くアメリカに強制送還されろ!」
「OMG! 私は君に会うためにわざわざ興味のないふたなり漫画を描いてまでここに来たんだよ。これがどういうことかわかるかな?」
 大げさに肩をすくめて見せる男――後堂エムに対し、高橋は怒りの拳を机にぶつけた。
「ダークエロスのマスターなんだろう? おまえからはダークな邪気しか感じないからな」
「フハハハハ! ならば話は早い、来い、マリン!」
 マリンと呼ばれた美少女は床を一蹴りし、高く飛び上がってオタクの輪を抜け後堂の元へ駆けつけた。
「あなたがマスター高橋……そしてそちらの方がピュアエロスの乙女、アンリエッタですね」
 高橋と対峙する美少女は、まだ中学生そこそこの少女であった。
「子供じゃないか! このロリコンペド野郎め!」
 まさかダークエロスの乙女が中学生とは。高橋も認めがたい事実だった。中学生以上はババアという説もあるがそれはそれこれはこれである。
「ノンノン、もう食べごろは過ぎている。女は小4までだ。それに若いのは外見だけだから合法ロリだ」
 高橋よしのぶと後堂エム、アンリエッタとマリンの戦いが今始まる。

       

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