Neetel Inside 文芸新都
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クソ小説アンソロジー
風呂入れよ

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 肩と、尻が痛い。
 きっと先ほどJC正式名称女子中生ないし女子中学校生とぶつかってしまったのが原因だ。
 これじゃあ今日の体育、いや入学式だから体育はないのか、むしろ入学式って四月二日じゃありませんでしたっけ、そんな事はどうでもいいですか。
 とにかく今日のイベントやらはなんか上手くいかない気がするな。僕は嘆息した。いや、俺でしたっけ。そもそも僕の一人称って俺でしたっけ。その概念は、輝きは。色々考えた。

「みんな、今日から皆さんの担任になるタンニンと申しますにんにん」
 教室に入って三十分後に担任のタンニンさんがそんな事を言いそういえば今朝の朝食でタンニンを多分に含んだ茶カテキンとその没食子酸エステル誘導体の関係性はとかどうでも良い事を考えた。
「次はゆっきーの番だよ」
 ゆっきーと呼ばれハッとした。そうか、ゆっきーとは僕の名前もとい小学校時代のあだ名であったのだ。いやしかし何でもう既にそのあだ名を知っているのだ担任のタンニンよ。僕の名前田中太郎ですよ。小学校時代のイジメが原因で中学は昔の知り合いが誰もいないところに来てますし。そもそもそのイジメの原因と言うのが僕のあだ名の由来でもありああもう何か僕の設定が湯水の如く。
「ゆっきーの自己紹介の番だよ」
 担任タンニンは尚も言う。いつの間に自己紹介などしていたのだ。流れが読めない。仕方ない。僕は立ち上がる。
「どうも、田中太郎です」
「ああっ!」
 突如として叫び声が上がり僕がその方向を見るとなんと驚いた事に今朝ぶつかったあの女子がいた。
「あんたは今朝の!」
「君は……」
 僕は思い出そうとした。彼女とのやり取りの中で果たして彼女が名乗るシーンはあっただろうか。覚えていない。前のページをちゃんと読んでいないので覚えていない。
「たしか、全身に目玉さんとか言いましたっけ」
「誰がよ!」
「あれ? 二人は知り合い?」
「そうなんです。担任のタンニン先生」
「いや、知り合いじゃないでしょ!」
「それもそうでしたね。全身に目玉さん!」
「誰が目玉や!」
「仲いいね、二人とも」
 ヒュー、とクラスから黄色い声が上がる。僕はなんだか照れくさくて頭を掻いた。するとぐちゃりと世にも奇妙な感触がする。恐る恐る手を見ると肉片が付着していた。
「なんじゃ、こりゃあ……!」
 僕もとい俺の肉体は腐敗していたのである。超展開やんけ。
「ゆっきーめっちゃ怪我してるやん!」タンニンが叫ぶ。
「もしかしてそれ、今朝私がぶつかったから……?」
 恐らく長らくお風呂に入っていない弊害がここで生じたのだろうと思われたがその様な自己管理も出来ない男だとクラスメート達に思われたくはなかったので僕は「きっとそうだ」と頷いておいた。そもそも僕がゆっきーと呼ばれ虐められたのは僕が長らくお風呂に入らず頭にまるで雪のようにフケが生じたからであり、本日はカラースプレーで白いフケを黒くしているがためにまだ誰にもばれていないのです。にんにん。
「いますぐ病院に行かないと!」
「いや、それにはおよばないよ。こんなのホンのかすり傷さ」
「脳みそ出とるやん!」
「FPSではよくあることですよ」
 僕がアハハと笑うと全身目玉さんもクスっと笑みを浮かべた。その独特に世界を蔑んだかのような歪んだ笑みに、思わずドキリとする。いや、違う。僕はM属性ではあるが真性のマゾではないはずだ。この様な微笑に心揺らめくなど。
「今朝はごめんなさい。あなた結構おもしろいわね。とにかく、これからよろしく」
 彼女は右手を差し出してくる。僕は腐った脳みそと肉片が張り付いた左手を使いたかったので両手でシェイクハンドした。


 ──つづく

       

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