海の縁 終
それから、何年か経った。
少女はいつしか年頃の女性になり、
少し山に入ったところにある隣村の男へ嫁いだ。
鳥居のたもとで別れた少年のことは、
もうぼんやりとしか思い出せなかったが、
彼女はいつも実家の村の神社に参拝していた。
子宝に恵まれるように、と。
山の安産の神に参るように亭主が勧めても、
微笑んで首を横に振るのだった。
「あたしには、海の縁があるんです。」
ある日彼女は、
朱色の鳥居と、ぬれた土と杉の幹の
においを思い出す。
笑っていた顔も、鮮明に。
彼女は、自分の胎内に懐かしい命の宿ったことを知る。
凛とした、柔らかな空気が海を渡っていった。
海の上の離れ小島に、子どもの影はもういない。
その子どもは今しがた、母親に見守られて、
浜辺への道を元気良く駆けて行くのだった。