Neetel Inside 文芸新都
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そのひと 二

私とそのひとは、はじめ同じ人間の形をしていたが、
そのうちに、私のほうだけがだんだんと姿が
変わっていってしまった。

ある日、視界も思考もまっ白になって、
高い空のように広々とした場所へ行ったようで、
遠くの方でそのひとの声を聞いた。


もう行くのか、早いなぁとそのひとは言った。
私は、別に早くないよ、と答えた。
すぐにまた会うでしょと言うと、
あ、そうかといつもの調子で言った。

行ってらっしゃいと、聞こえた気がしたので、
行ってきます、と呟いた。
私の意識はどこかへ急激に上昇していったようだった。

そのまま、明るい、やはりどこまでも透明な
海を泳いでいった。

泳いでいるうち見おろす海の深い底のほうは、
砂と、青やエメラルドグリーンの小石ばかりで、
生き物は何一ついなかった。

巨大な、シンプルな造りのボートが一艘、
海底に沈んでいる、その真上を通り過ぎて、
どこかの砂浜にたどり着いた。

砂浜のすぐ上は夏の小高い丘で、
私はただ懐かしい思いに駆られて、
崖に掛けられた木のはしごを
登っていった。

一度だけ振り返ったが、もう、振り返った自分しか、
見えなかった。

       

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