Neetel Inside 文芸新都
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渚にいる。
海の縁

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海の縁 一

昔々、小さな漁村に、子宝に恵まれない夫婦がいた。

夫婦はお互いだいぶ年を取ってしまったのを焦り、
その村の外れにある岬の神社に熱心に参拝し子を願った。

そこの神社に座す祭神は、海に出る漁師の
航行の安全を守るので忙しかったが、
氏子を不憫に思い、子を授けることにした。

祭神は、この女房の腹に宿すための子の魂を用意した。
しかし、何の偶然か、祭神がその子を授けるほんの少し前に、
夫婦には子どもが出来てしまった。

祭神はせっかく用意した子の魂を持って
途方に暮れたが、ほどなくして諦め、
その子を岬から離れた海の上にぽつんと
ある岩の小島に捨ててしまった。

波が打ち寄せる岩の上で、
人の形を成さないそれは黒い霧の
ようにわだかまっていた。

       

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