海の縁 二
それは長いことそこにうずくまっていたが、
何年か経つとふいに人の形を取り始めた。
ちょうど小さな子どものようで、
遠目に見ると岩盤の上に子どもが
立っているように見えるのだった。
夫婦のかつての念じ方が強かったために
子どもの姿は輪郭こそはっきりと人の形をしていた。
しかし、細部はぼんやりとしていて、ちょうど
真夏の日差しで生じる濃い影のようだった。
ある日ふとその影は、岩肌を降りて音もなく海におりた。
そのまますっと滑るように海面を移動して、
村のほうまでやって来た。
影の子に感情らしきものはなかったが、
ただ、夫婦の子どもに乗り移ろうとやって来たのだ。
本来自らがいるべき場所へ納まろうとしたのだった。