海の縁 四
その年の夏の終わり、村祭りの日に、
少女の両親は日ごろ懇意にしているということで
村長の年長の娘のお古の浴衣を貰い受けた。
藍色に染め抜かれた生地に紫のハナショウブの
模様をあしらった浴衣だった。
それなので少女は、それを着てずっとにこにことしていた。
神社の境内へ登る階段は、大小さまざまなちょうちんで飾られた。
ともし火は夢のように揺れて、波の音が
お囃子の笛太鼓に紛れて遠く聞こえている。
影は、明るい境内から少し離れ、静かな林の暗がりにいた。
少女はひとりで、影を探し境内にたどり着いた。
境内はかがり火が炊かれていたが他に人はいなかった。
影はじっと少女を見ていたが、ふと、
手招きをした。
少女は近づいて立ち止まった。
ゆっくり手を、伸ばした。
突然、影は少女の細い腕をガッと掴み、辺りは霧に包まれた。