Neetel Inside 文芸新都
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海の縁 五

昼間だろうか。
雲が覆っているのだろうか。
空の白い、とても静かな場所にいた。

濃い、黒に近い緑の、背の高い杉の巨木が
どうやら遠くまで広がっているようだ。
雨が降ったあとのような、しっとりとした森のにおいがした。

小さなふたりの子どもの目の前には、
巨大な朱塗りの鳥居が佇んでいた。
古びて、なおも厳粛な鳥居の向こうは質素な木の橋で、
更にその向こうには、道が続きながら、
杉の並木林の中へと消えているのだった。

いっさいの空気は動いていないかのように、
何の音もしなかった。

少女は、隣に立つ少年を見た。
自分とそっくりな目つき、顔つきをしていた。
人間だったら一緒に悪ふざけをして遊べそうな、
子どもらしい顔で笑っていた。
とても、満足そうだった。

「じゃあな。」
少年が言って、鳥居をくぐろうとする。
その調子は、夕方に家路につくために
道端で別れる友達とまるで変わらない。

少女は、とっさに少年の手を握った。
温かかった。近しい魂だった。
「あたし、」
少女はそう言って、少年は少女に向き直った。

柔らかな雨上がりの風が、杉林を吹き抜けていった。

「あたし、忘れたりしない。」
幼いが凛とした、この自分と良く似た子に、
少年はもう一度笑って頷くと手を静かに離して、
鳥居の向こうの橋へ、駆けていった。

やがて、林へ少年の姿は見えなくなって、
辺りがだんだんと霧が立ち込めるように感じたところで、
少女は我に返った。

お囃子の音色が聞こえる。
辺りはかがり火だけが明るい、暗い夜空で、
少女は林に向かってぼんやり立っているのだった。

       

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