Neetel Inside ニートノベル
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「おお、いい感じアルネ!」
     新しい装備に身を包んだナルゲンを見てヒーヘンは感嘆の声をあげる。
     要所要所を守るように作られたレザーアーマー、新調したばかりの皮ブーツに皮の手袋。肘と膝には鉄のプロテクターが身に付けられている。
     ナルゲンはその場で跳躍、肘膝を曲げて体がしっかり動くか確認する。
「ヒーヘンさん、こいつはすげぇや」
「当たり前アル、ワタシが持ってた防具のなかで一番いいやつ、アナタにあげた」
      素材は動物の皮ではなく、強力な魔物の皮から作ったものらしい。値段にしてセットで50ケイン。とてもではないがナルゲンでは手を出せない品物であった。
「では、行くアル!」
       荷物を積み込んだ馬車にヒーヘン、ナルゲンが乗り込む。馬車の運転手はヒーヘン。ナルゲンは積み荷と一緒に揺られることになる。
「アイヤ」というヒーヘンの掛け声と共に馬車は走り出した。
 
       シャーケイを出てからしばらくすると、向かい側から歩道を邪魔しない配慮のためか、縦二列に大勢の人間が歩いてくる。ほとんどのものが同じ鎧を着けていることからこの国の兵隊であろう。先頭には甲冑鎧を見にまとい、赤い馬に乗る男が見える。ヒーヘンは馬車を止め、ナルゲンに声をかける。
「降りるアル!将軍様がお見栄になられたアルよ」
      ヒーヘンに言われナルゲンは外に降りる。するとヒーヘンはその場に膝まずき、ナルゲンにも同じようにするように小声で指示をする。
    馬が地面を蹴る音、鎧の音が近づいてくる。
「おお!貴公はヒーヘン殿ではないか!」
      男の声がする。ナルゲンは声の方向に顔を向ける。そこにいたのは、先ほど馬に乗っていた将軍様である。馬に乗っているのと、甲冑を着ているせいか、かなり大きく見える。馬に降りたとしても、ヒーヘンと同じくらいあるのではないかと思ってしまう。顔立ちは三十代くらいであろうか、顔立ちは険しく所々に傷がある。髭だけでなく、髪も綺麗に剃られていた。しかし、ヒーヘンをみるその目は優しかった。
      尚もヒーヘンは膝まずき、頭を垂れている。
「アイヤ!この間は恩にきたアル。シャーケイで商売できたこと、全部将軍様のおかげ、そして初めてあったときの無礼、本当に申し訳なかったアル」
ヒーヘンは声を張って感謝の言葉を将軍に言った。将軍は笑いながら「いいんだ、いいんだ」と返した。
「ヒーヘン殿、体を上げてください。あなたがシャーケイに来てくれたことで私たち人間が持っていた魔人に対する偏見、それを払拭してくれた。それにあなたが私に売ってくれたこの鎧に馬、本当に気に入っている」
将軍が着ている鎧と赤い馬はヒーヘンが仕入れたものらしい。将軍は続ける。
「それに、頭が高いといかりだしたのは我が家臣。私は一切気にしていない。それに、もしあなたが今立ち上がったとしても今なら問題はない。なぁ、ヨンギ?」今将軍に名前を呼ばれた男は渋そうな顔をしている。ヒーヘンは頭をあげたものの、膝まずいたままである。
「して、またトン村に行くのであるか?」将軍はヒーヘンに問う。
「そうアル。ワタシ、トン村に行って商売スル。そのために人をまた雇った、今度こそトン村にツク」
「そうか、なら気を付けろよ。そうだ、ついでにこれをトン村の村長に渡してくれ。読んでくれるかどうかはわからないがな。では、私はシャーケイに戻るとする。全軍前へ進め!」
号令と共に将軍達はシャーケイに歩いていった。


あとからヒーヘンに聞いた話によると、将軍の名前はヨンプといい、シンセイの国の、国民的英雄らしい。何でも、先の戦争では、絶望的な戦局でありながら、一騎当千の働きで味方の部隊を救出、反撃のきっかけをつくったり、敵の将軍を何人も討ち取ってきたらしい。
    「将軍様はいい人アル。ワタシ達、魔人にも優しい。シャーケイでのんびり仕事できるの、将軍様のおかげ」
と、何回も言っていたのが印象に残った。
 
  さらに道を進んでいくと海……ではなく、湖が見えてきた。あまりに広いため、初めてここを訪れた物は海と勘違いするらしい。ナルゲンもその一人だった。
「ハハハ、仕方ないアル」と笑うヒーヘン。
「でもここから気を引き締めてほしいアル。ここでワタシの友達、殺された」
その瞬間、湖から五つの影が飛び出した。
「ナルゲン、仕事アル」
ナルゲンは積み荷から降り、先ほどの影の正体を確かめる。そこには三人の魚人と二匹のカエル型の魔物が道を塞いでいた。
ヒーヘンの方を見る、ヒーヘンは鋭い視線で道を塞ぐものたちを見ていた。
一対五、状況は厳しいかもしれない。

       

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