Neetel Inside ニートノベル
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「おう、止まれやにいちゃん達」
  魚人の一人が声を荒らげる。
  ナルゲンは相手を観察する。普通魚人は、見た目は人間そのものである。しかし、今声を荒らげた魚人は上半身こそこそそうであったが、下半身は魚のそれ、顔は鯉であった。後ろの二人はまさに人間そのものであったがちょっと違う。
肌は鱗のようなもの……いや、鱗であろう。それに被われている。一人は男でもう一人は女。人間であるナルゲンが見ても。鯉男とは対照的に、彼らの容姿は良いものだった。
彼ら二人を守るようにカエルの魔物がそれぞれに付き添っている。男の方には毒々しい赤と黒の斑模様を持つカエル。女の方には緑色をしたカエル。
「今ある荷物を全部おいていくんや。そうすれば命までは奪わへん」
鯉男はヒーヘンとは違う訛りでナルゲン達を脅す。
「お前らに渡す物はないヨ」
ヒーヘンが反論すると、魚人の男女はクスクス笑い出す。
「そういって大切なお友だちをこの子達の餌にしたのは誰かしら?」
「まだ懲りてないなんて信じられないよ」
「ん?何の話や?」
鯉男は頭に?が浮かんだような顔をしている。一方に女魚人のいう『この子達』はぴょんぴょん跳ねている。
ナルゲンは左手のみで剣を構えた。今はこの状況を切り抜ける事。それがナルゲンの意思であった。

「にいちゃん、ええ度胸やんけ!」
かかれ!という鯉男の号令と共にカエル達が襲いかかる。
   ナルゲンはカエル達は魔法を使う必要な相手ではないと判断する。
「みどりの!これでも喰らえ」そういうと、右手でみどり色のカエルにナイフを投げる。運悪く腹部をかすったのみで……否、カエルにとっては運悪くかすってしまったというのが正解だった。ナルゲンに勢いよく飛び付いた筈の緑色のカエルは突然失速。その後は地面についたと思えば泡を吹いて仰向けに倒れた。
「一匹なら大したことない!」口を開きながら飛び付くカエルの喉に剣を一突き、しばらく足でもがいたかと思えばそのまま動かなくなった。それもそうだ、剣は喉から入り背中を貫いている。虫でもない限りは、または運がよくない限り絶命は避けられない。ナルゲンは剣を一振りし、カエルの亡骸を湖と回りの人間から遠ざけるように捨てた。カエルが貫かれた場所には血溜まりができており、ナルゲンの剣にもどっぺりと、それがついていた。
「兄ちゃんやるやんけ!次はワイの出番じゃ!」
「いや、やめておけ。あんたしにたくないだろ?」
「は?何いうてんや?」
「なら、 実験の時間だ」
ナルゲンはまだ息のある緑色のカエルに、剣に付いた血を、一滴垂らす。
その瞬間、カエルはこの世のものとは思えない断末魔をあげ苦しそうに体をじたばたさせるものの、その数秒後には息絶えた。
「……アカン」鯉男は恐ろしさで震え上がっている。
「ちなみに後ろの二人はもう逃げたよ。どうする?それでも戦う?」
鯉男はどこから出したのかわからない白旗を振っている。

「とにかくワイは何も知らへん。あの二人にちょっとだけそそのかされただけや」
先ほどの鯉男、魔物であり、種族マーマンのモーガンは必死に弁解した。
モーガンの言い分はこうだ。たまたま賭けに負けてむしゃくしゃしているところに先ほどの魚人、男の方の名前はカノー、女はローズ。その二人に「ここで通せん棒をしていれば商人が通る、そうすれば今回負けた分は取り返せるはず」と言われたらしい。
「腕には自信があったんやが、いやぁ、あんさんも強いのぉ」
どうやら反省はしていないらしい。
ナルゲンはヒーヘンに問う。
「ヒーヘンさん。こいつをどうしますか?」しかしここで意外な答えが返ってくる。
「雇うアル」 
「え?」信じられなかった。下手をすれば殺されていた相手に対しての処置ではなかった。
「たぶん、アル。この先も危険いっぱい。ナルゲンだけ、心細いのが本音」
「だったらシャーケイで人を集めれば……」
「ダメ、シャーケイにワタシ守れる人いない感がいってる」
「感ですか……」直感で魔法を使えるようになったナルゲンはこれ以上何も言わなかった。これも一種の魔法なのであろう。
「じゃあワイは……」
「採用アル。でもまだ給料出せない、働きぶりで判断するアル」
「……まぁ、ええか」
一行にまた仲間が加わった。魔人に魔物に人間のパーティー。
「そうだ、ヒーヘンさん。瓶と予備の手袋ってありますか?」
「アルよ。」
ヒーヘンはナルゲンに瓶を数個と皮の手袋ニセットを渡した。
「助かります。さっきの赤カエルの血は猛毒です。しかし、それゆえに武器に使えるんで」
「何でそんなことしってるんや?」
「たまたま発見したんだよ。自分の体で。おかげで人からもらった鎧がお釈迦になったよ」
「へぇ、大変やったんやな」
モーガンは他人事である。
「とりあえずモーガン、カエルの血を集めるの手伝ってくれよ」
「え?嘘やろ?」
しかし、ナルゲンの目はマジだった。

       

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