Neetel Inside ニートノベル
表紙

旅人伝 ナルゲンの魔法研究
始まり~ナルゲンという男

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青々とした木々、澄んだ青空、照りつける太陽、吹けば涼を感じさせる風。
ここトキマの国、ネマリの町は農業、商業が発達し、ここの特産品を買い付けるために多くの商人が市場を賑わす町である。そんな町の入り口の警備所にひとりの男が居た。というよりは机に突っ伏して居眠りをしていた。見た目は若く、細身ではあるが、程よく筋肉質。頭には何も被らず、軽装ではあるが、要所を守るための皮の鎧を身につけている。足元には本来は被らなければいけないのであろう皮の兜が転がっている。
机上は悲惨なことになっており、ペンタブは倒れペン類は書類の上に、町を出入りした人間の名前をや書くのであろう帳簿の上に顔をおいて横を向き、気持ち良さそうによだれをたらしているせいでインクが滲んでいる。かろうじて最初のアの字はよめるのだがそれ以外はもう無理だった。



よっぽど平和なのであろう、そこから1時間がたち、よだれが「ア」の字を侵食しようとしたときに怒声が響いた。
「バカモノ!さっさと起きろ!」その声と共に若者は椅子と共に後ろに倒れた。その拍子に兜を蹴飛ばしたのか怒声の主の足元に兜が転がっていく。
「金を貰いながら居眠りができるなんていい身分だな」痛みで頭をおさえている若者に追い討ちをかけるこの男、体格は若者より一回り大きく顎髭を蓄えいかにも兵隊、しかも強そうな体をしているが、身につけている服は品があり、ある程度の地位を築いていることがわかる。
「でもポレスさん。1人でここの警衛はきついですよ」「それは真面目に働いている人間の言葉だ」若者の反論は一瞬にして飛ばされた。
大男ポレスは悲惨な机上に目を写す、はたからみて更に機嫌が悪くなっていくのがわかる。若者は兜を締め休めの姿勢でその様子をおっかなそうに見ていた。
ポレスの視界に帳簿とその上に出来上がった湖をとらえた瞬間、右のストレートが若者の顔をとらえる。
若者は後ろに吹き飛び鼻からは血を流していた。「ナルゲン貴様!アルトマンの旦那の名前が消えてるじゃねぇか」先ほど、ナルゲンという若者のよだれによって滲んでいたのは人名だったらしい。それにすかさず「ギリギリ読めますよ!」とナルゲンは反論するも、左のアッパーを食らい失神、意識を失ってしまった。
「悪いところはいくつになってもかわんねぇな」ポレスは呟くと伸びている不真面目な若者を担ぎ上げ町に入っていく。

しばらくすると別の人間が警衛所に入っていく。変わりの人間が来たらしい。

     

「お父さん、またやったの!」ポレスは申し訳なさそうに大柄な体を縮ませていた。「いくらなんでも今回はやり過ぎよ、ナルゲンさん伸びちゃってるじゃない」
「しかしこれには訳が」
「聞きたくありません!」大男ポレスは娘には頭が上がらないらしい。ふぅっと大きな溜め息をし髭を意味もなく弄っている。「いくら体だけが丈夫なナルゲンさんでもお父さんのパンチを食らったらいつか体を壊しちゃうわ。」はい、とポレス「ただでさえうちの町は衛兵不足なのに……ナルゲンさんでも貴重な戦力でしょ」そうです、と空返事「そもそも頭に来たからってすぐに人を殴るなんて最低よ」
「いやあれは……」
「いやもなにもない!」その時、先ほどまで意識を失っていたナルゲンが起き上がった。殴られた辺りを抑え、口を大きく開いて閉じて。まだ痛そうである。
「ナルゲンさん、よかったぁ。痛くない?」
「うん……大丈夫だよユニ」大男ポレスの娘はユニというらしい。黒く、艶のある長い髪を1つにまとめている。顔にかんしては美人といよりは可愛らしいと言う言葉が似合う。どうもポレスとは似ているようには見えない。この2人が親子と言われたら大抵の人は驚くであろう。
「さっそくだけど明日の天気予報をお願いそれにカプスさんが農場を手伝ってくれって」ユニは笑顔でナルゲンに頼む。がナルゲンは不満そうである「今起きたばっかりなんですが……」
「そんなの関係ない!さぁ、外に出るわよ!」痛い痛いと訴えるナルゲンの手を引っ張り部屋を出ていくユニ、それを安堵の表情で見送るポレス。玄関が開かれた音がすると同時に、ナルゲンを急かすユニの声が聞こえる。「お父さん!いってくるわよ!」
「ユニィ待ってくれぇ」扉が閉まる。
嵐が過ぎ去った部屋に1人残されたポレスは「やれやれ、行ったか」と呟くと本棚に向かった。政治や、法律、兵法に関する本のなかからそれらとは全く関係のない、ノートと論文、資料集を取り出す「さて、研究の時間だ」勉学とは縁が遠そうな大男は机に向かい始めた

     

「あーした天気になーれ」のかけ声と共にユニのサンダルが宙を舞う。何回か空中を回転し落下、地面を転がり、止まったとき、サンダルは正しい形になった
「わーい!明日は晴れだ!」と無邪気にはしゃぐユニを尻目にナルゲンは農場の周りを観察していた空は雲ひとつなく、
燕は高く飛んでいる。
「明日は晴れだよね?」その質問にナルゲンは億劫そうに頷いて答える。
その態度が気に食わなかったのかユニが食ってかかる
「ねぇ、晴れなの?雨なの?どっちなの?」
「晴れですよお嬢さん」ナルゲンはそっけなく答える。
「あたしのサンダルがそう示したから?」
「そんなわけないだろ、子供じゃないんだから」
「あーっ!また子供扱い、あたしと2つしか違わないのに!それに今年で二十歳になりました!」
「その言動が子供なんですけど……」
その後もユニは突拍子もないことを延々としゃべり続けた。それにたいして、ナルゲンは適当に相槌を打ち、意見を求められたならば適切に返していた。
しばらくしてもおしゃべり娘は口を止めない「そういえばナルゲンさんってあたしの話を聞いてなさそうでちゃんと聞いてくれるよね」
その言葉にナルゲンは突如むせる。
「いきなり何を言い出すんだよ」
「え?何で動揺してるの?」
「別に」
「他の女の子には積極的に話すのにあたしとふたりきりになったとたん冷たくなるし……」
「そんなことない!」これにはユニも驚くがすぐに「何むきになってるの?」と面白そうに茶化し始める。それにたいしてしどろもどろのナルゲン。

どれくらいの時間がたったのであろう、日は傾き始め、先ほどまで青々としていた草原がは朱に染まっていた。
整備された道を2人は 歩く
「農場の仕事、すぐ終わっちゃったね」
「まぁ、薬を撒くだけであいつらは逃げていったからな」
「ナルゲンさんはすごいね、天気もわかるし、害虫や害獣から作物を守る薬を作っちゃうし」
「昔は農業が仕事だったし、天気予報も、薬の開発もただの趣味だよ」「……何で今迄旅をしていたの?」返事は帰ってこなかった。

日は落ち、彼らを照らすのは多くの星と1つの満月となった。ビュンという音と共に二人の間に風が吹き込む。木々や草がかすれあい、虫たちは音楽をかなでる。
「ユニは、この自分が住んでいる町から出ていきたい、と思ったことはあるか?」
「ないけど何で?」
「俺も出ていきたくなかった。でも……」
「でも?」
「出ていかなければいけなくなった」
「……借金?それとも仕事で失敗したの?」ユニはあどける。
「ユニ!お前、人が深刻な話をしているのに!」
「……悲しそうな顔はナルゲンさんには似合わないよ」はっと我に帰るナルゲン、そして「すまん 」と一言呟いた。
「ほんとはこの町も長居をするつもりじゃなかったんでしょ」
「だれから聞いたんだ?」
「……ごめんなさい、ナルゲンさんとお父さんがはなしてるところを」
「盗み聞きしたんだな」再び沈黙が続く。

ユニの家が、見えてきたところでナルゲンが口を開く。「ユニ、俺って怖いか?」あまりにおかしな質問にユニは吹き出し「そんなわけないじゃない」と返した。

彼女がこの質問の本当の意味を、この質問をした意図を知るのはそう遠くはなかった

     

「さて、ナルゲン、お前がうちに来て3ヶ月になる。そろそろ」
「嫌です」
ポレスの話を最後まで聞かずにナルゲンは拒否をする。
「何度も言いますが俺は魔法には興味はありません」
「しかしだな、お前以外に頼めるやつはいないんだ」
「衛兵のリオス君なら腕っぷしがいいじゃないですか」
「奴は頭が悪すぎる」
「だったら学者のシーボルさんは?」
「年をとりすぎている、それにひ弱すぎる」
うーん、とポレスが唸る。
「それにしてもお前は不思議な奴だ。昔はあんなに魔法に興味を持っていたのに……」
「それは僕がまだ新兵の時の話ですよ。」
「直属上司の机から魔法研究の資料をくすねる熱心さはどこにいったんだ」ポレスは呆れていた。
「え?そんな話があったの!?」
2人の会話が気になったのかソファーに座っていたユニが会話に入ってくる。
ナルゲンは頭をかきながら答える。
「六年も前の話だよ」
「そう、まだわしとナルゲンが軍にいたときのことだな」
「お父さんが分隊長で、その部下にナルゲンさんがいたんだっけ?」
「そうだな」ポレスは続ける
「とんでもないやつじゃった。偵察訓練はサボるは、監視につかせれば居眠りをしだす。しまいにはわしの机から菓子と一緒に魔法の資料を持ち出すわ大変だった」
「今とたいして変わってないわね」
2人が話に夢中になっている間にナルゲンはそっと席をたち逃げ出そうとした瞬間
「まだ話は終わってないぞ」と止められるも
「とにかく嫌なんで。じゃあいってきます」と言って出ていってしまった。

「いっちゃったわね」
しばらくの沈黙を破るため、ユニの口からやっと出てきた言葉がそれだった。ポレスは腕を組み、ふぅっと息をはく。
「全くわからん。久しぶりにあったらこれだからのう」愚痴をこぼすも、そのなかには落胆、悲しみが混じっていた。
「そういえばお父さん、ナルゲンさんはどこにいったの?」
「最近凶暴化した大熊のボスの退治じゃ。」
「え?」っとユニは信じられないと言ったようすでポレスを見つめる。
「また……1人で?」ポレスはこくんと頷く。
「遊ぶ金がほしいとか言って農協組合の依頼を受けおった。」ナルゲンが1人で凶暴化した動物や危険な魔物の討伐にいくことは珍しくなかった。
「失礼だけど、ナルゲンさんって剣の腕はそこまでよくないでしょ?」ユニは心配そうにポレスに尋ねる。それもそのはず、ナルゲンは以前行われた武闘大会では1回戦敗退という微妙な実力であるしかも相手は少年であった。
「だから、そんな危険な仕事で金を稼ぐならわしと一緒に魔法の研究をしよう。と誘ったのにあいつと来たら……」
また愚痴をこぼすも、いかんいかんと呟き、ポレスは自分の書斎に戻った。1人残されたユニは、「はぁ…」とため息をはき再びソファーに腰をおろした

     

「遅すぎる」ポレスは部屋のなかをうろうろしていた。椅子に座れば貧乏揺すり、とにかく落ち着きがなかった。近くにいたユニも同じだった。
「もしかしてナルゲンさん……」
「それ以上言うんじゃない!」
ナルゲンが熊退治に行くと言って今日で5日目、普段は、長くても3日で帰ってくる男が今回は帰ってこない。回りの人たちは、「ナルゲンに限ってそんなことは」と口を揃えるも、ポレスとユニは気が気じゃなかった。

日が落ち、夜を迎える。ポレスはもう我慢の限界だった。
「明日調査隊をだす」その言葉と同時に玄関の扉がノックされる。や否やポレスとユニは玄関に急いで向かっていった。ポレスは鍵を明け、扉を開く、そこにたっていたのは……
無傷のナルゲンであった。若干血生臭く、服は雨と血でびしょびしょである。
「良かった!無事に帰ってきてくれて。お風呂、沸いてるわよ!はやくはやく!」
ユニはナルゲンの手を引っ張り、風呂場にに連れていく。その間ナルゲンはユニにたいして「靴をちゃんと脱がせろ」だの、「ゆっくりさせてくれ」だの、「風呂場までついてくるな」だの不平不満を垂れている。

「では、熊退治の成功、ナルゲンの帰還を祝って、乾杯!」ポレスの乾杯の音頭と共に3つのグラスが音をならす。テーブルにはほどほどの酒と、3人の食事にしてはすこしばかり多すぎる量の食べ物が並べられていた。
「これ全部ユニが作ったのか?」
食事にがっつきながら、ナルゲンは聞く。
「ええ、そうよ。」ユニは答えるもナルゲンはうまい、うまい、といいながら食事に夢中である。
「喜んでくれて嬉しいわ」
「さすがはわしの娘じゃ」ポレスは図体、顔に似合わず、品よく、肉をナイフで一口サイズに切るとそれを口に入れた。

ほとんどの皿が空になり、ユニは後片付けを始める、酔ったナルゲンは武勇伝をポレスに聞かせていた。
「まぁ危なかったですよ、下手してたら今回死んでたかも」「そんなに危険だったのか?」
熊は手強かったらしい、ナルゲンの話の内容はほとんどが苦労話である。
「まぁそれに今回は雨が降っていたんで」
「向こうでは雨が降っていたのか?」その時、ナルゲンはしまったと言わんばかりの顔をしたと思ったら、
「いや、あはは」とごまかす。
「ほら、足場が悪くなるじゃないですか?それで……」急にナルゲンの歯切れが悪くなる。ポレスは怪訝そうにナルゲンを見つめる。恐らく雨が降ったのは本当のことであろう。服は確かに雨と血で濡れていた。熊の討伐が嘘というのもあり得ない。ナルゲンはそう言うせこいことをしない人物であることをポレスは知っていたからだ。なら何を隠している?ナルゲンは思い出したかのように喋り出す
「ほら、雨だと薬の効果が落ちちゃって、それにちょっと熊の肉が食べたくて……」
「ならば解体してこっちに持ってくれば良かったであろう」「あの、いや駄目なんですよ、たまたま袋を……証拠用の1つしかもって来てなかったんです、調味料を忘れたから保存もきかないですし」
「熊の肉を調味料なしで食ったのか?」
「そ、そうですね」
「調査隊を呼べば良かったであろう。」
「いや、もう火葬しちゃったんで……」
「火葬だと?」そう、口にしたとたんナルゲンはしまったとばかりに青ざめる。
「あの、ほら!熊の死肉にハイエナが集まるじゃないですか。それでまた変なのよんだら不味いじゃないですか」
「ここら辺にハイエナがいたなんて初耳だぞ?」
「え?あぁ念のためですよ、やだなぁ」
ナルゲンの言動や態度は怪しいものがあるが、嘘はついていないようである。まぁ明日になれば何かわかるだろう。

     

「確かに首のない熊は、ナルゲンが討伐したであろう熊は焼かれていました。ただ…」
「ただ?」
「ちょっと火力が異常何です。ナルゲンは当時油を持っていなかったはずなのにそれを使ったかあるいは、それ以上の火力で熊を焼いているんです」
「気合いでどうこうできる問題ではなかったのだな?」
「……まあそうですね」
調査隊長からの報告を聞きながらポレスは考え込んでいた。(油がないのに油以上の火力を出す方法といったらあれしか……)そんなことを思っていると調査隊長が喋り出す。
「さらに不可解なことがあります」
「不可解なこと?」
「はい。まず熊の死体なのですが、剣により、切られたのではく、何か槍上のもので貫かれた後があります」
……ナルゲンは槍を持っていないはずである
「さらにナルゲンは、私たちが熊の調査に向かうと言ったところかなり動揺して、調査をやめるように訴えてきました」
調査隊長は続ける「最初は熊の討伐が行われていないか、或いは代行を疑ったのですが、そうではありませんでした」
「いくら金のためであろうと、そんなことをするようなやつではないからな。」
「とりあえず、今わかっていることはこれだけです引き続き調査を続けます」
そう言うと、調査隊長はポレスに深々と頭を下げ、調査隊の教練、回れ右をして部屋を出ていった。

「はい、何ですか町長殿」ナルゲンは不機嫌そうにポレスをみる。
「……町長命令だ、しばらくは事情聴取を受けてもらう」
「つまり……俺を逮捕するんですね?」
ナルゲンはポレスをにらむ。
「……お前がこのまちに来たときもそんな顔をしていたな」
「俺はやましいことは何一つしていません」
「なら、潔白を自分の口から証明してくれ」
ナルゲンの顔は怒りと悲しみが混じったなんとも言えない表情をしていた。暫く続く沈黙。ナルゲンは重い口を開いた
「なら、俺はこの町から出ていきます。元々ここには長くいるつもりはなかったですし」
「それでいいのか?」ポレスは続ける。
「わしに隠し事はしないでくれ、すべて話すんだ」
「それができないから!」怒号と共にナルゲンは机を叩く。ふたりに緊張が走る。ポレスは眉ひとつ動かさずナルゲンを見つめる。当のナルゲンはそれができないから……、と何度も、何度も、小さく、小さく繰り返した。

「ポレスさん先程は失礼しました。それと迷惑をかけてすみませんでした。この町での暮らしは楽しかったです。」
ナルゲンは革の鎧に身を包んでいた。背中には小さめの背のうを、そのなかには薬の材料とすこしばかりの食料と衣類が入っている。
「本当にこれでいいのか?」
ポレスは残念そうだった。4年振りに再会した昔の部下、とんでもない大馬鹿者ではあったが、息子のように接してきた。別れはつらい。
「まさかポレスさんに娘がいたとは思いませんでしたよ、しかもにてないし」娘と全然似てないことをからかわれ、ナルゲンを殴ったことを思い出す。

「……たっしゃでな」
「そっちも、お体に気を付けて、無理しないでくださいよ。町長さん」
行く宛のない若者はこの町の門を目指して歩みを進めた。2、3 歩歩いて思い出したかのように「ユニにもよろしく伝えてください」と誰にいったのかも、独り言かもわからないように呟いた。

ナルゲンはこの町の出口辺りまで近づいた。長居をするはずではなかった。住み慣れた町を、村を出るのはつらいものがある。初めて自分の故郷を捨てたときもこんな気持ちだった。もうあんな思いをしたくない。そのために放浪をしていたのに。門が見えてくる。相変わらず衛兵の仕事は暇そうだ。今日の衛兵は壁に寄りかかって眠っている。(ここを通れば……)そんなことを思っていると後ろから自分を呼ぶ声がする。
「待ってくれぇ!ナルゲンさん」顔馴染みの衛兵が自分を引き留める。どうしたのか聞こうとした瞬間だった。
「町が……町が盗賊に襲われている!」見ると普段は閉じられているはずの門が開いている。平和な筈のネマリの町に、ナルゲンに緊張が走る。

     

「おい!そこのお前!起きろ、町が襲われているぞ」
ナルゲンは壁に寄りかかって眠っている衛兵を起こしに行くが彼は眠ってなどいなかった
「ヒッ!死んでる」隣にいた衛兵は情けない声をあげる。死体は心臓を一突きされており、何が起きたのかわからないといった表情であった。開いた目を閉ざす。死者へのせめてもの情けであり礼儀だ。
「いそぐぞ!」ナルゲンは衛兵に声をかけ町に向かった。衛兵も「あぁ、かわいそうに」と一言呟き、ナルゲンと共に向かった。町からは黒煙が上がっていた。

「ナルゲンさん、それにボッツ!助かったぞ」
先程の衛兵、ボッツと共に町の入口で、盗賊に苦戦していた同僚の手助けをした。
「今回の相手は規模がでかい100人近くはいるぞ」ヒゲ面の男は汗をぬぐいながらナルゲンに状況を説明する。
「情けない話だがたぶん全部の門の衛兵はやられたここで最後だな」
ネマリのまちは北、南東、南西の方向に門があり、そこから道なりにすすむと町に着く。盗賊が最初に攻撃を始めたのは南西の市場入口。ここは北の方角ということもあり、敵の進行が遅れたのであろう。
だが、わからない点がある
「奴らは、盗賊はどこから入ってきたんだ?」ヒゲ面は答える
「奴ら、積み荷の中に隠れてやがったんだよ」
状況としては、まず何人かは荷物に紛れ込んで町に侵入、そこから3~4 人が一旦町からでる、その後、門の内側にいる衛兵を殺害、門を開き外にいる仲間を呼び寄せる。それを繰り返したらしい。
「内側と外側、両方から攻撃してくるし、盗賊もどこに隠れているのかわからないったらありゃしないぜ」
そんなことをいってると近くの木箱から魔物が飛び出しヒゲ面を襲う!が間一髪、魔物の槍が届くよりも早く、ボッツが魔物を一刀両断していた。
「ふへぇ、助かったぜ。サンキューボッツ!」ヒゲ面は再び汗をぬぐう。その部下たちはボッツを称賛する。胴と足が離れた魔物を見てナルゲンは「魔物までいるのか」と嘆く。
「南西の方では鳥人もいやがったぞ」
「それは本当か?ならなおさら急がないと……いくぞボッツ!」ナルゲンはボッツと共に町の中心部へ向かった。

道中は悲惨であった。親とはぐれ泣いてる子供、身ぐるみを剥がされた上に惨殺された商人、身を呈して戦ったのであろう、腕や足のないものや魔物によって人の形ではなくなってしまった衛兵や、盗賊の死体が転がっていた。中心部に近づけば近づくほどそれは増していき、女、子供、老人の変わり果てた姿も散見された。ここでの戦闘は終わっているようであり、衛兵たちが残党狩り、また喋れるものは人であろうと異人であろうと逮捕、捕縛をしていた。
「今は庁舎を拠点に生存者の救助、手当てを行っています。現在敵は農場に進出中です。それにともない町長率いる衛兵隊主力も農場に進出中です」
聞くところによると盗賊の目的はこの町の特産品である調味料が目的らしい、確かに高く売れるし、何より肉の保存に役立つ。
「あと残念な情報が……」
「なんだ?」
「町長の娘が……ユニさんが人質に」信じられない、信じたくもなかった。


「さぁ?出すのか?出さないのか?はっきりしろ!」農場前ではいかにもな男が気を失ったユニを人質に交渉をしていた。数で言えば町長率いる衛兵隊が完全に有利。偵察、監視要員であろう鳥人や奇襲要員の魔物、そして盗賊の死体が転がっていた。対して衛兵隊は怪我人はいるものの死者は出ていないようである。戦力差は絶望的である、しかし盗賊側は圧倒的なアドバンテージを持っていた。人質である。しかもただの人質ではない、町長様の大事な大事な愛娘である。
「さぁ、早く馬車と調味料、それを入れる木箱を持ってくるんだ。でないと?」
左手に持ったサーベルをユニの喉に近づける。

その様子を少し離れたところから、ナルゲンとボッツは見ていた。
「あぁ、このままだとユニさんが……」
「縁起でもないことをいうな」ナルゲンはボッツの頭を殴る。
「痛てぇ、ナルゲンさんは最近町長に似てきたよ」聞こえてないふりをする。
「ボッツ、お前弓を使えたよな?」
「まぁ百発百中の自信はありますね」と小型の、本当に小さめの弓を取り出した。ボッツの趣味は狩りとまとあてである。
「なら、あの盗賊……狙えるな?」しばしの沈黙。先に口を開いたのはナルゲンだった。
「なんとかいえよ」ボッツは恐る恐る口を開いた。
「嫌ですよ。もしはずしたりなんかしたら……」外したときの結果は想像したくない。それに戦犯は誰だって嫌だ。
「でもここで当てれば英雄だぞ、それに誰が弓矢をぶちこんだのか俺以外わからないって」
「だったらナルゲンさんがやってくださいよ!」小声で怒鳴るボッツ。が本当にナルゲンが弓をボッツからとろうとした瞬間またもやボッツが「駄目です、絶対駄目です!」と拒否をする。
「競技会で弓矢全部外す人に弓は貸せません」
「馬鹿!隣の的には当てただろ!」
「尚更ですよ!ユニさんを殺すつもりですか?」関係ないがナルゲンは弓矢競技会に出て全弾隣の的の5点圏内に打ち込み0/50点という得点を叩き出している。
「じゃあお前やれよ」
「じゃあって何ですか!じゃあって!」
お互いがイライラしている。ユニを助けたいのはお互い一緒である。だが、片方はちょっとの度胸、もう片方は圧倒的な実力が不足してた。どうすればいいのか、どの行動がベストなのか、それはおのずと答えが出ていた。
ボッツが弓を構える。
「おっ!やる気になったのか!」
「黙っててください!気が散ります」
ボッツの頭はいろんなことが巡っていた。敵の距離、風の強さ、方角、敵の動き、弓矢を放ったことを敵に気付かれたら終わること、味方は自分たちの存在に気づいてないこと、上空からの偵察はないか、外したらどうなるか……
弓を構えグッと引く、その時、「もし変なことをしたらこの娘はどうなるかわかってるだろうな?」自分にいってるように聞こえる。身体中から汗が吹き出す。
「天国にいる俺のこぶんたちにたっぷり楽しんでもらうぜぇ~」
……こいつは何をいっているのであろうか?ボッツは急に冷めた、そもそも悪逆非道な連中が本当に天国に行けるのであろうか?というかお前天国にいくつもりだったの?地獄に顔パスで行けそうなお前が?近くでかわいそうなことになってるかえる型の魔物のほうがまだ可能性あるぞ。隣でナルゲンが小声で「気にするな、リラックスしていけ、お前ならできる」と励ましを送ってくる。正直うざかった。
この時ボッツは今までにないほど集中していた。集中しながらもある程度のことは考えられる。よく指導者に、集中しろ、リラックスしろ、何も考えるな、少しは考えろと指導されてきた。今まではその並立は無理だと思っていた。しかし、無意識のうちにそれができている。
ヒュン、弓矢を放つ。ただ何となく、しかし、絶対当たると確信を持って。
矢は親玉の頭にめがけ、吸い込まれるように…………当たった。
「グッ」という唸り声と共に親玉は倒れる、数刻の間、回りは時が止まったかのように動けずにいた。
「やったぞボッツ!」一番最初に口を開いたのはナルゲンであった。我に変えるボッツ。しばしの困惑のあとボッツが喜びを爆発させる。
「やったぁ、やったぁ!」
「すげぇぞ、すげぇな!」
二人の男は茂みから出てきてまだ状況のわからない両軍の間に入っていった。
「ポレスさん!助太刀に来ましたよ」
「お、おう」ポレスはまだ状況が読み込めない。先にことの重大さに気づいたのは盗賊の方だった。腰が抜けて動けなくなるもの、我先にと逃げ出すもの。
「逃げた奴らは一番隊、二番隊が追え」ポレスの号令と共に残党を追いかける。
「わかっちゃいねぇ」腰を抜かしてうごけない盗賊はさらに続ける。
「このお方の、本当の恐ろしさを」突如、先程まで倒れていた親玉が起き上がり出した。頭に刺さった弓矢を引っこ抜くと「いてぇよー!」の一言共に矢を投げそれが先程の盗賊の頭にささる。それにはあきたらず持っていた。サーベルで一刀両断、原型がなくなるまで切り刻んでいく。あまりにむごい光景にナルゲンは「こいつ……悪魔か?」と呟く「誰だ?今俺を悪魔といったやつは?俺はれっきとした人間様だぁ!」普通の人間であればもう死んでいるはずである。奴は普通の人間ではないらしい。
「さんざん俺をこけにしやがってこの娘はころーす!」
いきなりであった。親玉はユニにサーベルを降り下ろす。
「あぁ、間に合わない!」ボッツとポレスが嘆く。

とにかく夢中であった。ユニを助けたい、その一心だった。心の奥にしまっていた秘密、誰にも真似できない、自分が求め、そしてすべてを失った原因。こんなものに出会わなければよかった。そう思いつつ、誰も見ていないところでこっそり使ったそれを。
「あぁ!腕が、腕がねぇ!」突如、ナルゲンの方から、否、ナルゲンから強い風が吹いたかと思えば、親玉がサーベルを握っていた腕、左腕が吹き飛んでいた。
ナルゲンはユニが無事であることを確認すると、親玉に向かっていく、そして左手をかざし……
にわかに信じがたいことが起きていた。ポレスが求めてきたものが、身近にそして、意外な人物が持ってきた。彼の左手から火球が飛び出したかと思うとそれが親玉の顔面を直撃、顔面を抑え、苦しむ親玉をそのまま一刀両断。

「ナルゲン……お前」
「……すみません黙ってて」彼の顔は人質を助けた勇敢な若者の顔ではなく、罪を犯し、裁判にかけられているものの顔だった。

     

「何から話せばいいですか?」
ナルゲンは困ったようにポレスにきく。
「できれば全部だ。どのような経緯で魔法を使えるようになったか、どうすれば魔法を使えるようになるのか、最後に、なぜお前は村をでて放浪の旅をしていたのかだ。」
ここはポレスの家、現在ユニは庁舎で治療を受けている。代わりにユニの席に気まずそうに座っているのがボッツである。
「あのぅ、僕は関係ないんじゃ……」
「仕事サボって狩りに行ってた奴が何をほざく!」
「ヒィ!すいません」
「……が今回は娘の件で許してやろう」フゥっとボッツの安堵のため息もつかのま、ポレスの眼光に気を張り直す。
「とりあえず、これまでのいきさつを話します」というとナルゲンは自信について語り出した。ポレスの菓子を盗んだ時に見つけた魔法の資料に心を引かれたこと、戦争が終わり、自身も、農業をしながらも、趣味の農薬開発と共に魔法の研究をしたこと
「ポレスさんの論文には、魔法を使うのには、そのために必要なエネルギーが必要と書いてありましたね?」
「そうじゃが?」ポレスの考えはこうだ、人、または異人には魔力というものがあってその魔力を消費して魔法を使う。数字に置き換えると、自分の魔力が2だとするそして火の玉を出すのに魔力が3必要である。その場合は自分の魔力より、火の玉を出す魔力(必要な魔力)のほうが大きいため魔法を使うことができない。元々人間は異人に比べ魔力が圧倒的に少ない。だから、異人は魔法をバンバン使えるし、人間は全く使えない。というのがポレスの意見。というよりは現在の魔法学の主論となっている。そのため、魔力のある魔物、異人を食して魔力を得ようとする試みを試したものもいる。
「あれ、嘘です」ポレスは何も言葉に出来なかった。自分やその回りが長年信じていたことが否定されたからだ。
「ポレスさんの今の気持ち、100年前の科学者と同じ気持ちだと思いますよ」ナルゲンはこう続ける。
「まず前提として俺は異人、魔物といった魔力を持つもの、あるいは可能性のあるものは食していません。まぁ現時点での話ですけど」
「次に俺は人間であること、祖先に異人がいないこと、回りに俺以外魔法に興味を示していた人物がいなかったことここ数年、魔物や異人との交流、接触がなかったことがあげられます。これにより、周辺環境から魔力を得たという仮定は消えます。」
ナルゲンは魔物や異人を見たのは(親玉は人でカウント、異人は鳥人の死体のみ)今回が初めてである。
「次に俺が魔法を使えるようになった経緯なんですけど……」ポレスは生唾を飲み込み真剣に聞いている。ボッツは気持ち良さそうに眠っていた。
「なんとなく雷落とせるかな?て思ったらホントに落とせたことがきっかけです」なんだと!というポレスの大声にナルゲンは耳を抑え、ボッツは椅子から転げ落ちる。
「そんなに興奮しないでください。そのあともなんとなく火の玉出せるかなぁとか、風おこしできそうだなとか、氷の槍作れそうとか、なんとなくの感覚でした」
「あ!それ今日の僕の感覚見たいですね!なんとなくこのタイミングだったら当てられそうだなぁ的な!」嬉しそうにボッツが言う。
「貴様はなんとなくで人質を、わしの娘の近くにいたあいつを射ったのか?」ヒィ!っとボッツは怯える。
「まぁいい続けろ」ポレスに促されナルゲンは話を続ける
「そのあと色々試しました。その結果わかったことがあります」
「それはなんだ?」
「それは……魔法は天候の力を借りて、一つのエネルギー体に凝縮し、発生させるということ。ある程度であれば強さを変えられるということです」さらにナルゲンは続ける
「さっき天候の力を借りて魔法を使うと言いましたね?まずはそこから説明します」ナルゲンの行った実験はこうだ、暑い、そしてくもひとつない快晴の日に涼もうと思って氷の魔法を使おうと思ったが不発、なら炎の魔法ならばと使うと
「好きなところから人一人は呑み込める火柱を出すことができました」恐ろしさにポレスはいきをのんだ。
「逆もまたしかりで、吹雪の日に暖まろうと思っても火の玉は出せないその代わり」
「好きなところに氷柱を落とせるようになったんじゃろ?」
「……まぁそんな感じです。」ポレスはまとめる「つまりは、魔法はその日の天候によって使えるか、使えないかが変わる。それを感じとるセンスによって魔法を使うことができる。ということか」
「概ねあってはいます、しかし魔法はその人の才能やセンスではなく、ある程度の訓練を積めば誰でも使うことができるというのが俺の仮定です」
「何故そう思う?」
「いや、そっちの方が夢があるかなって……」ある意味ナルゲンらしかった。
「あと、さっき天候の力を借り て魔法を使うっていったじゃないですか?あれには例外があるんですよ」口をはさんで来そうなポレスをなだめ、ナルゲンは続ける
「魔法はその日の天候だけでなく、次の日の天候の影響も受けるんです」ナルゲンはさらに続ける。
「というのも、熊を見つけ、討伐したのは3日目の夕方、その日は晴れだったんですが、その日の夜から雨が降るのと、それが次の日まで続いたんです。そのときは行けるかなぁなんて思ったんですけどダメでした」
「だから火の玉の代わりに氷の槍を?」
「はい、それで、結局炎の魔法が使える5目まで待ちました。その日も朝から降ってたんで、出せるのには出せるんですけど火力が弱くて……で結局帰りが遅くなったというわけです」
「次の日の天候にも気を配らなければいけないのか」
「そうです。ちなみに、次の日の天気は技術を持った天気予報士、または自分で予報しないといけないのがネックなんです。あくまで、これこれこういうわけで、ああだから、明日は晴れ!と当てないと行けません」
「なんとなくじゃダメなのか?」
「一回試したことがあります。まずは、雨の日に自分で天気予報をしつつ、間違った答えを出す。雨なのに、晴れ!って結果は、炎の魔法が使えなくなると同時に、雷の魔法の威力が落ちました。次に、そこら辺の子供に天気予報をしてもらいました。明日天気になあれってやつですその日は晴れ、次の日も晴れと出ていましたそのあと魔法を使ってもどれも効果が変わりません。そのあと自分で天気予報をして雨と予報。すると雷の魔法の威力が上がりました」 ポレスは再びまとめる
「つまり、魔法はその日の天候だけでなく次の日の天候の影響も受ける、しかしそれを予報しなければならない、理論に基づいて予報をしなければならない。外れた場合ペナルティーを負う」
「更に……」ここであわててポレスは止める
「待ってくれ、流石に頭がこんがらがる」ナルゲンは少し考え込み、次は出したい魔法の強弱の調整について喋りだした。真剣にポレスが聞くなか、ボッツは安らかな寝息をたてていた。

     

「魔法の強弱についてなのですが……」
「手短に頼むわしはもう疲れた」ナルゲンは了解したとばかりに頷き続ける。
「上限は日によって変わるんですが、下限はないです。だから、限りなくエネルギー量が0に近い炎をだすことができますし、日がよければ魔法で料理をすることもできるので、薪の節約もできます」
「なかなか現実的じゃの」
「とまぁ、魔法に関してはこれで以上なんですけど……」ナルゲンは一旦頭を掻くとまた話し出す
「では何故俺が研究をやめたのか、また、魔法を使えることを隠していたのか、それをお話しします」
ナルゲンが魔法を使うことができるようになったのは2年前、そのときもこっそりと実験を行っていた。しばらくすると、魔法の法則性、天気が関係することを発見する。魔法が安定して使えるようになり、論文もまとまり、国にその事を報告しようとしたその前日、盗賊がナルゲンの村を襲いにきた。もちろんナルゲンは村の男たちと一緒に盗賊に抵抗した。そのときに魔法を使った。氷の槍に貫かれるもの、火の玉を受けるもの、風のやいばで刻まれるもの、盗賊にとっては恐怖であった。
戦いが終わり、朝を迎えた。盗賊を深追いしたため、遅れて村に戻ったナルゲン。ただ、だれも、彼を歓迎するものはいかなった。「悪魔の子」「惨殺者」「戦闘狂」あらぬ罵倒を受けた。ちらっと見えたのは自警団に連行されていく自分の両親。
自分が追い求めていたもの、未来につながると信じていたものを否定され、故郷を追い出された。
その後は魔法を封印、忘れてしまおうと思っても駄目だった。魔法を使う快感、新たな好奇心が芽生えてくる。一つの町に居続ければいずれ魔法のことはばれてしまう。そう思い点々とする毎日。食い扶持のために傭兵稼業を行っていたこと。
そして新たな仕事を求めてこのまちにきたこと。自分が魔法を使えると知った人間が回りからいなくなってしまうのでは?という恐怖があったから、魔法について詳し過ぎるとポレスに思われるのが嫌だったことから、魔法の研究に非協力的であったこと。とにかく話せることは全部話した。

「とりあえず今話せることはこれで全部です」というとナルゲンは大きく息を吐いた
「結構苦労してたんですね。普段の態度からそうは見えないのに……」いつの間にか起きたボッツは悪態をつく
「とにかくいろんなことを話してくれてありがとう、しかし今までの研究が間違っていたとはな」ポレスは残念そうにうなだれる
「ポレスさん、それは仕方がありません。俺も最初はポレスさんの、一般論がすべてだと思ってましたし。それに……」一拍おいて続ける。
「自分の考えもどこかが間違っているかもしれません」
言葉がなくなった。お互い何を話せばよいのかわからなくなったというのもある。

ポレスはある思いをナルゲンに伝えようとした。しかし、彼は引き受けてくれるのだろうか?今までのそれとは全く違う、もしかしたら彼にとっては重りになるかもしれない。
ポレスは葛藤した。だが自分のエゴには勝てなかった
「ナルゲン、図々しい願いをする嫌ならば拒否してもいい」「なんでしょうか?」ナルゲンはこのあと何がつづくかわかってこう聞いているのであろう。なんとなく、なんとなくポレスはそう感じた
「魔法研究の基礎を確立してきてくれ」あまりにも大きく、しかしナルゲンにとっては身近なものであった。




「いいんですか?こんなに良い鎧をこしらえてもらってしかも大量の金まで……」ナルゲンはいつもの安っぽいかわのよろいではなく、ある程度立派な、そして実用性のある鎧を身に付けていた。
「いいんだ、近いうちに英雄としてここに帰ってくるのだからな」
「ははは、とりあえず行き倒れには気を付けますよ」
「ほんとはユニも見送りたいといっていたんだが……」
「仕方ないです今は安静にしてる方が」ナルゲンはふと目線を変えてボッツの方をみる「お前は来ないのか?」その質問にボッツは笑顔で「嫌です」と答える

若者は二人に見送られて旅に出た、そう、果てしなく大きく、終わりの見えない旅に……

       

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Neetsha