Neetel Inside ニートノベル
表紙

テイルズ・オブ・オレガカク
03.一角獣

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 キャンプが開けた。俺たちは旅立つ。
 街道を超えて、尾根道を行く。ちょっと高いから、カルナははしゃいで草地をゴロゴロ転がっていくし、アージィはあんな性格で高所がダメらしくまっすぐ歩いている。
 俺はというと、朝っぱらから頭痛が抜けずに、剣の柄を握り締めて痛みを誤魔化している。
 なんかほんと、ダメな剣士だなあ……
 季節もよくない。俺は初夏は例年いつもダメなのだ。羊を追う元気もなくなる。よく日陰で休んでいると地元の連中にからかわれたり蹴っ飛ばされたりしたっけなあ。まあ、元気になったらやり返してたわけなんだけど。
 みんな元気かなー……
 村を出て半年ちょっと。なんかもう、何年も前のことに思える。村の連中の顔も思い出せなくなってきた。
 ……俺って薄情?
 眠り病になってから、毎日があっという間なのに、過去が随分遠くなった気がする。
 なんか、もう百年は生きてるよーな、そんな気分。
 アージィたちとバイバイしようと決めた矢先、なんかもう、一人になったらそのまま野垂れて死にそうな気配もする。
 生きるために村を出たはずだったのにな……
 しかし、今はとにかく、前衛剣士としてアージィの精獣探検の旅をフォローしないとな。

「隙ありっ」
「げふっ!」

 いきなりぶん殴られた。いてぇ。

「なにすんだ?」
「暗い顔してっからよ」

 励ますことが殴ることってどんな過酷な幼少期を過ごしてきたんだ。こええよ。
 俺は腹をさすりながら、草地を転がり続けるカルナに「あんまいきすぎんなよー」と声をかける。あいつこのまま山降りるんじゃねーか。

「カルナー?」
「…………」
「カルナ?」

 返事が戻ってこない。俺とアージィは顔を見合わせて、走り出した。

「カルナッ!」

 ほとんど尾根から降り切った先の砂利道に、カルナと、そして魔物がいた。
 一角獣だ。馬に似ているが、頭部から角が出ている。
 御伽噺のそれと違って、現実の一角獣は凶暴で野蛮だ。特に女や子供を狙って串刺しにする。おそらくカルナの気配が奴を呼び寄せてしまったのだろう。だが、カルナは悪くない。
 魔物はどうせ避けられない。
 倒すしか、ないのだ。

「伏せろ、カルナっ!」

 俺はその場にしゃがみこんだカルナを飛び越えて剣を抜き、回転斬りを放った。

「《旋天撃》!」

 一角獣の角を浅く打ったが、剣が弾き返されてしまった。固い。
 一角獣が低く野太く嘶いた。普通の馬とは違う。

「ぐっ……」

 俺は頭を抱えた。こんな時に頭痛が増すなんて……吐き気がして、とても剣を振るえるような気分じゃなかった。一角獣が警戒して距離を取ってくれてよかった。

「アージィ、援護……」
「……密集せよ! 《ライト・ビー》!!」

 アージィの手元から光の蜂が飛び出して、一角獣に襲い掛かった。

「グォォォォォ……」

 怯んでいる。顔のあたりに蜂がタカったら魔物だって嫌だろう。俺はかなりしんどかったが、なんとか剣を構え直して、一撃だけ決めてから下がろうと思った。踏み込む。

「そ――《双撃衝》!!」

 一角獣がノックバックする。ぶるるっと嘶いて俺への敵意をあらわにする。
 俺はいよいよ吐き気がひどくなって下がった。

「すまん、もう無理……」
「いいから下がってて」

 俺はカルナのあたりまで退いた。カルナは魔導書を片手に詠唱を始めている。俺は片膝をついて、居合切りの姿勢を取った。これで、カルナに魔物が集まってきたりしたら、対応しよう……片目を閉じる。両目を開けていられない。太陽がまぶしい。
 死ぬかもしれない……だが、倒れるわけにはいかない。
 俺がやられたら誰がカルナを守るんだ?

「うぷっ」

 俺は口を出て押さえた。
 神経に堪える、悪寒がする……

「……鮮烈なる光の中で、蠢きしものを浄破せん、かの者の名は……《ゼスティルド・ガーナスカ》!!」

 カルナが片手を挙げて、稲妻を放った。しかし、弱い。カルナ……? 一角獣も、怯んだだけで、こちらをまだじっと見ている。
 カルナは俺の手を引っ張った。

「逃げよう、ザンク!」
「えっ?」
「アージィ! 撤退してっ!」
「わかった!」

 アージィが精獣をばら撒きながらこっちへ逃げて来る。

「待てよ……あいつ、から、逃げ、たら、城へは、いけない……」
「ザンクがこれじゃ、どうやったって城へはいけないよ……私たち、パーティでしょ?」
「カルナ……」
「アージィ、いったん近くの休憩所まで逃げよう。ザンクが限界だと思う」
「……そうね、そうしましょう。ザンク、肩貸すわ」
「待てよ……俺はまだやれる……うぐっ」

 俺はこめかみを棍棒で一撃されたような痛みを覚えて、倒れ込んだ。
 そのまま意識を失った……

       

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