Neetel Inside ニートノベル
表紙

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  手紙を書き終わって、ミレアは一息付く。この腐った職場ともあと3日でお別れ、最後の仕事は胸糞の悪いものであったがもう自分には関係ない。地元に戻り、親の仕事を手伝うか、自分の店を開く。うまくいかなかったとしても、蓄えはある。しっかりやりくりすれば一度や二度の失敗をしても生活には何の支障もないだろう。もちろん今回のことは墓場に持っていく。誰にも知られたくない。寝床に就こうとしたとき、ドアがノックされる。こんな時間に誰だ?ドアの向こうにいる人物に声をかける。「申し訳ありません、急用でなければ明日にしてもらいたいのですが」ここで渋れば下手したら明日にもこの部屋を出られるだろう。そんな考えが頭をよぎる。
「すみません、急用です」
   少女の声が帰ってきたことに驚く
「なら、支度をするので、ドアの前で用件をいってくれませんか?」
    どうでもいい要件であればかえってもらうつもりだった。
「いえ、直接お会いしたいので。とりあえず私の方から開けさせてもらいますね」
    事を理解する前に、理解させられた。いや、若干意味がわからなかった。鍵を掛けていた筈のドアは開かれ、太刀を持った少女が、部屋に入ってきた。声が出ない。口を動かすが声にならない。助けを呼ばなくては。
「あっ、今の気持ちわかりますよ。私も殺される前もそんな気持ちでしたから。わかってくれて嬉しいですよ。アニス殺しのミレアさん」
    「アニス殺しのミレア」という言葉に全力で否定する
「違う!私は!」
「何が違うんですか?あなたも歴とした共犯者ですよ」
「それよりあなたは誰ですか?」
「あら?殺した女の子の顔もわからないの?」
    一気に血の気が引いていくのがわかる。まさか……嘘だ。
「あなたたちのおかげで晴れて魔女になることができました。そう、あたしは復讐の魔女アニスよ」
倒せるか?相手は魔女だ。しかし、少女だ。増援は必要か?
「あっそうそう。残念ながら仲間は来ないわよ。この空間はあたしの魔法で隔離してるから、あなたの悲鳴や叫び声は一切届かないわよ。あたしも余計な犠牲者は出したくないし」
「くっ、教会騎士団を舐めるな!」
    ミレアはアニスに躍りかかる。しかし、勝負は一瞬でついた。アニスの太刀の一振りが、ミレアの剣を砕き、彼女を壁に飛ばす。
「あら?教会騎士団ってこんなに弱いの?」アニスが近づいてくる。
「お願い!助けて!私は何もしてない!」必死に助けを乞うしかなかった。妙な仕事を引き受けたばっかりに、あと3日、あと3日遅ければ……
「だめ、あたしが受けた苦しみ、あなたにも味わってもらうわ」
髪を掴まれ、服を脱がされる。泣き叫ぶしかなかった。何度も助けを乞うた。遥かに年下の女に敬語まで使う。
「お願いします、許してください。せめて命だけは」
「あたしさ、鞭を打たれたからさ、その言葉をいったよ。でも、止めてくれなかったよ」身体すれすれに剣を振り下ろされる。
「あはは、ごめんね。でもあたしはさ、今のあんたの気持ちだったんだよね!でもね、痛いのやめてくれなかったし、パパとママは結局殺されちゃうし」
    涙と鼻水が混じる。早く終わってくれ。
「まぁ、安心して、あんたはあっさり殺してあげる!もちろんきれいな姿でね!」
「お願い!辞めて!死にたくない!」
「なら……そうだ!ねぇ、あたしを殺した理由とさ、その犯人を知ってるんでしょ。それを話してよそしたら考えてあげる。でも、あたしがもう知ってることを話したら即殺すからね」
「話す、話すわ」
    ミレアは事の一部始終を話した。自分が助かるなら、犯人がクレアということも、そしてクレアはアレンの弱味を使って、アニスを魔女に仕立てさせたことも。
「へぇ、そういうことだったんだ」
「これが私の知っていることです」
「うん、ありがとう話してくれて。ミレアさん大好き」
     アニスが自分を抱き締めた。本当はいやだったが恐怖で身体が動かなかった。
「でも、残念!アニスちゃん、今の話全部知ってました!」
    背中に、なにかが刺さる感触がする。それが下に下がり、それが引き抜かれる。血が溢れる。
「あっ……嘘つき……」
血を止めなくては、近くに布がないか探すが見当たらない。視界は暗くなっていく。アニスがなにかをいっているが、なにをいっているかわからない。
    嫌だ、死にたくない……、涙が頬を伝っていき顎まで来たところで意識がなくなった。

       

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