Neetel Inside ニートノベル
表紙

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恐らくアニスだ。アレンは肉塊とかした、クレアを見て思う。なぜクレアが殺されたのかはわからない。ただ、廊下を通っていった見覚えのある姿。あれは間違いなくアニスであった。
「あぁ、神父様!」
「くそ、ミレアまで殺されている!」
疑惑が確信に変わった瞬間だった。
「ヒッ!ア、アニスだ!こっちに向かってくる」
     (くそ、殺される!)アニスに見つかる前にアレンは教会を抜け出し、夜の町を駆けていった。

    どれくらい逃げたであろう。いつの間にか森の中に入っていた。とりあえずここで夜を明かすことになる。よさげな場所を選定しようとしたとき、聞きなれた声が自分を呼び掛ける。
「アレン、見つけたよ」
    声のする方向を見ると、服を血の色に染めたアニスが立っていた。
「好きだったのに、酷いよ」
    何を言われようと仕方ない。自分はそういう人間だ。いや、彼女が言っていた通り悪魔といった方がいいのかもしれない。
「すまない、でもこれもいきるためだ」
    アニスに剣を構える。
「すまないな、魔女よ。今殺してやる」
「……酷いよ」
彼女と剣を交える。技術こそはないが、力で押してくる。これが魔女の力と言うのか。鍔競り合いから、間合いを一気に取る。一瞬でも油断をしたら殺される。力だけは人間離れしている彼女を見ながらアレンは剣を構え直す。
「アニス、これ以上続けるのであれば容赦はしないぞ」
    勝てる見込みは正直ない。しかし、ここで弱味を見せたら彼女の太刀の錆になってしまう。
「だめ、アレン、あなたは私を殺したのは。償って」
    残念だが事実だ。しかし、俺は彼女よりも自分の家を選んだだけ。俺は家を守るために生きる。再びアニスに斬りかかる。アニスは防戦一方だった。心なしか反撃には先程の脅威は感じられなかった。

    紅蓮の聖域で復讐の魔女、ヒルマ=アルビーチェはアニスの復讐劇を観賞していた。"感情こそが世界の答え"と刀身に彫られた太刀は使い手の純粋な悪意によって力を得る。純粋な悪意しかないアニスはそれを使って愉快な見世物を演じてくれた。途中までは。
(どうした、アニスよ……なぜあの男を本気で殺さない?) 届くはずのない念を送る。一人言のつもりだった。
(ごめんね、ヒルマさん、あたしあの人のすべてを見てしまったの)
(おまえ、私の声が聞こえるのか!?)
    ヒルマは少女の進化に驚く。人間が魔女に変わる。それは希なケースだ。魔女として長くこの世界にいるヒルマでも噂で聞いたことしかなかった。皮肉にも、自分と同じ復讐の魔女と称する彼女は太刀の力に溺れず、それを使いこなす。ただの人間なら太刀の力に溺れ、壊れてしまうのが普通だった。復讐を終え、虚しさと罪悪感、そして太刀の力によって人間が壊れる様を見るのがヒルマにとっては最大の趣味であった。
(アニスよ、この期に及んで同情だと?それは許さんぞ。)
(ごめんね、身勝手なのはわかるの。でもね。やっぱりあの人を殺せない)
身勝手だ。だがそこが面白いぞ人間よ。なら、まだまだ楽しませてもらおうか。
少女が復讐を終えようが、終えまいが、はたまた返り討ちに合おうが、ヒルマにとってはどっちでもよかった。ただ、今回のショーはヒルマの長い魔女人生の中で最も愉快なものになっていた。

       

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