Neetel Inside ニートノベル
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生贄の旅
プロットナンバー2.75.『修行』 筆者:ノンストップ奴

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「久しぶりだな、ディシリア」
「こちらこそ。久しぶり、ジャスバル」
  ボロボロのジャスバルに優しく微笑み、抱きつく。彼女の目から涙がこぼれ落ちる。
「ジャスバル、あたしねいっぱい頑張ったよ。足手まといにならないように、ジャスバルにばっかりつらい思いをさせないように」
「ディシリア……俺もだ。お前を死なせないために俺は頑張ってきたぞ」
  後ろの方では、ミレイと3匹の魔物たちが見守っていた。





  ザードは背中に背負っていた風呂敷を地面に置き、それを広げる。中からは折り畳み式のテントが2つと小さめの空の入れ物2つ。それと3日分の携帯食糧にスコップと大量のちり紙。年季の入った、鉄製の入れ物が姿を表す。
「さて、ルーキー戦士君。明日から1週間ここで俺と修行してもらうからな」
  現在彼らはクリアスの町から少し離れた森の中にいる。そこまで木が生い茂っている訳ではなく、場所によっては開轄しているところもある。彼らはまさにその開轄した地域にいる。ザードは言う。
「その"ルーキー"って言うのやめてくれないか?一応これでも元猟師で腕には……」
「師匠に泣かされ、冒険の初戦闘でこっぴどくやられたガキんちょがなんだって?」
  ジャスバルは反論できず、そのまま悔しそうに悪態をつく。
「さて、今回はここにテントをたててもらう。一応携帯食料を持ってきたが、これは食うなよ。非常用だ。普段はそこら辺の生き物を食べて暮らしていく。なに、安心しろ。ここら辺は生き物がうじゃうじゃいる。勿論食えない奴から、危ない奴までな」
  ああそれと、なんていいながら入れ物から鉛筆とメモ帳をとりだし、それをジャスバルに投げつける。
「ほれ、プレゼントだ」
「これ、何に使うんだよ」
「まあまて。これからこの修行の目的と、お前が達成しなければいけない目標を示してやる」
  ザードはジャスバルと同じようなメモ帳をとりだし、読み上げる。その内容はこれだ
  ステップ1、ジャスバル自信が己の弱点を見つけ出す。
  ステップ2、実戦に耐えうる魔法を身につける。
  ステップ3、時間の許す限り、ジャスバルの戦闘能力をあげる。
「つまり、このメモ帳はステップ1をクリアするために使えと?」
「それもそうだが、今日から毎日何かしらメモに書いてもらう。それも1ページ全部埋まるまでな」
  ジャスバルはメモを開く。そこには約5ミリ間隔で24行ほど横線を引かれていた。

  テントを建て終えた頃は夕方だった。すぐさま猟に出かけて帰ってきたころはまだ明るかった。それから料理を始める。解体から調理、火起こしまでジャスバルが行う。
  料理が出来上がったのが、太陽の代わりに月が現れた頃。ザードには遅いだの、要領が悪いなどとなじられる。それから片付け……
「ジャスバル、今夜はもう寝ていいぞ。見張りは俺がやってやる」
  ジャスバルは無言でテントに入る。
「あっ、メモが……」
  だが、すぐに眠りにつくことを優先した。明日の朝やって終わらせればいい。相棒エアルドにおやすみと一言かけると、すぐに眠りについた。

「起きろジャスバル!魔物だ」
  ザードの叫び声を聞いてあわてて飛びだし、エアルドを構える。が回りにはなにもいない。日は上り始めた頃だった。
  不満そうなジャスバルに対してザードは嬉しそうにいい放つ。
「よし!合格だ。呼び出しに対する反応、武器の携行、そしてすぐに戦闘体制を整える。俺から教える必要はなにもないな」
  ジャスバルはいきなり誉められてポカンとしていたが、次の質問に顔を青ざめる。
「さて、昨日の分のメモを見せてもらおうか」

  ジャスバルが1ページ埋めるのに、3時間ほどかかった。内容は反省文だった。ザードはそれに目を通し、メモをジャスバルに返す。
「いいか、これ以上舐めた真似をしたらどうなるか覚えておけ。あと、昨日と今日の分のメモ書きを朝イチで持ってこい。わかったな」
  ジャスバルは、「はい」っと一言。左手はザードに蹴られた脇腹を押さえる。

  今日の訓練内容は朝から晩まで実戦形式で組み手という内容だった。これはジャスバルの戦闘能力が平均よりは上の方であることからそうなったらしいが……
「おらぁ!どうしたこのままだと殺されちまうぞ」
  戦いというよりは弱いものいじめというのが正しかった。ジャスバルが頭を守れば脇腹に蹴りを、ガードを固めれば背負い投げ。ジャスバルの動きに対して的確に、そして怪我をさせない程度に技を出す。そして剣を握る手が緩めば容赦なく叩き落とす。
「てめぇこれで何回目だ?」
  ジャスバルはひゅうひゅう呼吸をするだけだった。相棒はザードの足元に落ちている。
「武器は何が何でも落とすな、敵に奪われるな、忘れるなって最初に教えたよな?」
  ザードが初めてエアルドを拾い上げる。それと同時になにかを叫びながらジャスバルが体当たりをしてくるがそれを軽くかわす。
  一瞬。ほんの一瞬ザードの動きが止まるが、すぐさまジャスバルに向かっていい放つ。
「てめぇ、こいつを取ってこい」
  ザードは森の奥にエアルドを思いっきり投げ込む。
「相棒を拾ってくるまで帰ってくるんじゃねぇ、飯は自分でどうにかしろ。じゃあな」
  ザードはエアルドを投げた方向とは逆の方に歩いていった。
  幸いエアルドをすぐに見つけることができた。名前を呼べば応答してくれる武器。これほど便利なものはない。もしそうでなければ今頃はまだ森をさまよっていたかも知れないし、武器が見つからないとザードに泣きついていたかもしれない。
  キャンプに戻るもザードは帰って来てはいなかった。

「お前はどんくさい奴だな」
  焚き火を前にして肉を食べるザード。その向かいには大量の小石の上に正座させられているジャスバル。
「俺が戻ってこなかったらどうするつもりだった?そのままずっと待つのか?え?」
  ジャスバルはうつむいたまま何も答えない。
「まあいいよこれを食え」
  渡されたのは串に刺さった、何かの幼虫の丸焼き5本だった。生命力が強いのか、未だにぴくぴく足と首を震わせている。
  流石に食えない。と思った瞬間だった。ザードは一本とり口のなかに含む。長く、味わうように咀嚼し、一気に飲み込む。
「うーん、クリーミー」
  信じられない感想を言い出すザードにジャスバルは目を丸くする。串焼きに目を移す。串に刺さった芋虫のうち、1匹が早く食べてくれと言わんばかりにこちらを見つめている。気がした。
  おそらくザードはこのあと猟に出させてくれないだろう。そうすると選ぶべき手段は1つ。背に腹は変えられない。ジャスバルに対して積極的に自己主張している串焼きを一本とり、口に含みかぶりつく。口の中で柔らかい液体のようなものが流れ込む。
「ん……旨い」
「な?食わず嫌いはするもんじゃないぜ」

  正座から解放されてすぐ、寝ろと指示をされる。が、メモを書いていない。メモが書き終わったらでいいかと聞くも「駄目だ」という答えが帰ってくる。 ジャスバルは仕方なくテントの中で、僅かな光を頼りに2日分のメモを書く。
「くそ、理不尽だらけだ」
「なら、もうやめるか」
  エアルドがジャスバルの愚痴に反応する。一瞬考えるも、すぐに自分の頬を両手で叩く。
「いや、駄目だ。自分で選んだ道だ」

「てめぇなんだこれは」
  今日もザードの罵声から1日が始まる。彼が爪で示したのは、メモ書きの最後の行のたった1文字入るか入らないかのスペースだった。
「全部埋めろっていったよな?」
  たった1文字くらい、理不尽すぎると思った瞬間だった。
「嫌なら辞めていいんだぞ?まぁ、3日続いたんだから上出来なんじゃないか?」
「嫌です!続けます」
「やる気は?」
「あります!」
「嘘つくんじゃねぇ!」
  ザードは、ジャスバルが今まで書いてきた分のページを引きちぎり音読し始める。
「戦闘訓練が辛かったです。ガードが甘いのかザードにぼこぼこにされました。剣を捨てられたので焦りましたがすぐ見つけられたのでよかったです。白い芋虫は気持ち悪かったですが食べてみると美味しかったです。こんな適当なことを書いてる奴にやる気があるとは思えねぇな」
  そういい放つと、破いた分のページを粉々に引き裂く。ジャスバルはそれを黙って見るだけだった。
「そもそもお前自信が今回の目的を忘れてるんじゃねぇのか?だったら思い出せ。そしてその目的を達成するのにどうしたらいいのか考えろ。受け身になるな以上」

「これが昨日食った白蜜芋虫だ」
  ザードが掴んでいるのは昨日彼らが食べた虫だった。
「生では食えないのか?」
「おっ!いい質問だ。答えはノー!こいつの体液には若干毒が含まれていて、体内に取り込んだら3日はお腹を下すな」
  ジャスバルはそれを聞いてすぐにメモをとる。
「おっ!休む度に動きがよくなってるな」
  昨日までの一方的な暴力ではなく、ある程度は組み手の形になってきていた。剣を落とすこともない。ジャスバルは休憩の度に、ザードから指摘されたことを箇条書きしていき、それの対策を隣に書いていく。
  夕飯もなるべく効率よく、短時間ですませるために、小型の鳥類の肉と、昨日食べた白蜜芋虫を調達し、作業に取りかかる。この日ザードはなにもいってこなかった。空いた時間に今日の感想をメモに書いていく。ザードが寝ろと言う指示を出す前にはメモを書き終えていた。

「ほほう、1日でこんなに変わるなんてな」
  メモ帳を見たザードが顔をほころばせる。
「師匠それと、自分の弱点を見つけました」
「おい、師匠なんてやめろい。恥ずかしい。で?なんだ、いってみろ」
「まず、俺は物事を軽く考えます。"後でやればいい"、"誰かに教えてもらえる"そんな気持ちがまだありました。それと、頭に血が昇ると何も考えずに突っ込みますそれと……」
「ああ、もう大丈夫」
  そういうと、メモ帳のあるページを開く。
「よく頑張ったよおめでとう」
  赤い文字でステップ1合格と書いてある。メモ帳を閉じ、それをジャスバルに渡す。
「今日は魔法を教えてやる」
「はい、師匠!」

「まず、魔法はな、イメージをすることが大切なんだ」
「イメージ?」
「そうだ。"口から火の玉を出したい"とか、"電撃を帯びた爪で相手を攻撃する"とかな。見本を見せてやる」
  ザードがそういうと、まずは口を大きく開 き火炎弾を遠くの岩に向けて放つ。火炎弾が岩と衝突すると同時に轟音が響く。火炎弾があたった箇所は軽くへこみ、黒い焦げができていた。
  次にザードは大木に向かって構える。すると爪は電気を帯びる。すぐさま大木に斬撃と雷撃の両方を浴びせる。大木は倒れこそしなかったものの、ザードの爪痕と、その回りには黒い焦げが残っていた。
「まあざっとこんなもんよ。大切なのはカッコいい自分を想像すること。俺には魔法の才能がない。失敗するかもしれない。そんなことは考えなくていいぞ。まあ、やってみろ」
  ジャスバルはしばらく目をつむり考え込む。そして、なにかを決心したかのように自分と同じくらいの高さの幼木に向き合うと、「はぁ!」と掛け声を出しながらエアルドを一振りする。しかしなにも起こらない。
「恥ずかしいかも知れないが、技名を叫ぶと上手くいく傾向にあるぞ!やってみろ!」
  ふぅっと息を吐き、集中する。
「真空!」
  そう叫ぶのと同時にエアルドを横に振り抜くと、横に長い真空波が、幼木に襲いかかり、上下真っ二つにする。中に浮いた幼木が地面に着くか否かのとき、ジャスバルが、幼木に飛びかかる。
「雷撃!」
  電撃を帯びた剣が幼木を叩き割り、地面についた瞬間、本来上から下に落ちてくるはずの雷が下から発生し宙に消えていった。幼木はどこにも存在せず、その回りには炭とかした何かが心細く燃えていた。
「いやー、派手だね。」
  ジャスバルの魔法を見て思わず口にする。
「予定変更。こいつはもっと強くなるぜ」





「嫌です……もうやりたくありません」
  シギーナが魔法の勉強を始めようとするともディシリアは拒否した。
  事件は昨日起きた。新たな魔法を覚えさせるために必要な知識をディシリアに教育するのがシギーナの使命だった。言われたことを素直に受け取り、一生懸命頑張る彼女だったが、どうしても魔法の発動が上手くいかなかった。最初は明日こそ!と張り切り、シギーナもあらゆる手段を尽くすも効果が出ず、そして100回目の発動失敗でとうとうディシリアの心はおれてしまった。"もうやりたくないです"涙を流しながら懇願する彼女になんて声をかければ良いのかシギーナにはわからなかった。しかしこのままでは埒があかない。一か八かの賭けに出るしかなかった。

「あのぉ、どこまでいくんですか?」
  町を出て森に入ったところでディシリアはシギーナに聞いた。するとシギーナは立ち止まる。それにあわせてディシリアもあゆみを止める。
「ここならいいでしょう」
  振り返りざまに拳銃を抜き、引き金を引く。ぽんっという音と共に、ディシリアは粉に包まれていく。
「うう、なんですかこれ。からだかおかしいよぉ」
  足下がおぼつかないディシリアにシギーナはいう。
「これは錯乱剤です。"味方を攻撃する"という症状が出るように調合しました」
しかしもう彼女の意識はないようだった。目を虚ろにして手のひらをシギーナに向け、氷のつぶてを放つ。
「やればできるじゃないですか」
  猛スピードで飛んでくる氷を正面で受け止める。白衣が破れるが、自分自身には直接の被害はなかった。

「お目覚めですか?」
  ディシリアが目を覚ましたのは、森のなかであった。さほど時間がたっていないのかまだ明るい。回りを見渡すと、木が何かにネジ切られたかのようなかたちで倒れているものがあったり、表面が焦げているものもある。
「あの……シギーナさん、私は一体」
「はい、魔法をハチャメチャに使って大暴れしてましたよ」
  そんなこと覚えてない。記憶を辿る。確かシギーナにここにつれてかれ、拳銃向けられてそれから……
「とにかく、貴女が魔法を使ったのは紛れもない真実です。もう一度見せてください、貴女の魔法を」
  ディシリアは恐る恐る、腕を伸ばし、左右の手首、親指、小指をくっ付け、指先は自分の見る方向にあるひとつの大木に向ける。
「アイシクル」
  そう唱えると、彼女の手の中から白い光が溢れると同時に、細長い氷柱が大木に向かって飛び出し、突き刺さる。氷柱は大木に貫通せず、そのまま砕け散った。
「やればできるじゃないですか」
  ボソッとシギーナが呟いた。





「お熱いところ申し訳ないんだけど、そろそろ大聖堂に向かうわよ」
  ミレイは抱き合うカップルに声をかける。我に帰った男女は赤面する。
「青春だな」
「ですねぇ」
  遠くから黙って2人を見つめるメックスの横で、ザードとシギーナは言いたいことをいっていた。
「あの、師匠たちはついて来ないんですか?」
  ジャスバルがザードに聞くが変わりにミレイが答える。
「残念だけどそれはできないわ。このまちの大聖堂に住む人間は余所者には厳しいし、ましてや魔物の彼らを連れてったら殺されちゃうわ。まぁ元々決まり上、最低3人で聖獣に挑むのが、この旅のルールなんだけど。文句があるなら、昔の人か、聖獣に言って頂戴。それと……」
  ミレイはニヤニヤしながらザードに叫ぶ。
「ザード、あんたいい身分になったわね」
「まあなぁ!」と叫び声が聞こえる。
「じゃあ、いくわよ。一個目の大聖堂に!」
  勢いよく竜車に乗り込み、大聖堂に向かう3人を、3匹の魔物は後ろから見送った。

       

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