Neetel Inside ニートノベル
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生贄の旅
プロットナンバー2.『バトルビースト』 筆者:ノンストップ奴

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「今日はなんともなかったが、いっつもこうとは限らないわ」
  ミレイは食事中のジャスバル、ディシリアに向かって言った。
「その時はその時さ。まぁ、腕には自信があるんだよ」
ジャスバルは自信満々に言い放つと鳥の丸焼きにかぶりつく。
その光景を見てミレイは頭を片手で押さえながらため息を吐く。ちらっとディシリアのほうを見ると彼女は小さく寝息をたてている。
  辺りはすっかり闇に包まれており、辺りにはまばらに木が生えてるのみで見張らしはよいが、あいにく空は厚い雲が星々と月を隠していた。三人は舗装された町へと続く道路から少し離れた草原で焚き火を囲んでいる。その近くには彼らが乗ってきた竜車がおいてある。
「あなた、このあとのことは考えているの?」
「なにが?」
「食料、金、町までの経路のことよ」
  ジャスバルはうーん、と唸る。
「言っておくけど、今回の旅による国の支援は今、竜車に積んであるものだけよ。それもあと一週間もすればすっからかんになるわ」
「は?」
「まず、この子たちの餌ね」
ミレイが指した先には体が細く、お世辞にも強そうには見えない2頭の地竜が眠っている。
「そして私たちのごはん。さっきみたいに大型の獣や食える魔物がいればなんとかなるけど、そういかない場合もあるわ。そのために保存食が必要になるわね。それもいまは充分だけど……あと水もか」
「それに気候にあわせて服装をかえなきゃいけないし、今使ってる防具もボロボロになったら買いかえなきゃいけないし。あと弾薬も……」
ミレイはさらに続ける。
「もし、毒を受けたり病気になったらその治療薬が必要になるわね。値段はピンキリ」
「え?魔法でなんとならないのか」
ミレイは呆れ顔をするもすぐに納得したように返す。
「ああ、呪いと毒の違いもわからないのね。まぁ田舎者なら仕方ないかも」
  ジャスバルが反論使用としたとき、ミレイは静かにというサインを作り、ジャスバルの口元に持っていく。
「後で説明してあげる。とりあえず巫女様を起こさないと」
  するとミレイは手をメガホンの形にしてディシリアの耳もとまで持っていく。
「おきろー!」
  何事かとディシリアは飛びはねる。

「では、なにかと浮き足立っている若き旅人達に冒険の心得というのを教えてあげる」
  まるで小さい子どもに勉強を教えるかのようだ。まずミレイはジャスバルを指差し質問する。
「まず、そこの君。もし、遠くに魔物が見えたらどうするべきか?答えて」
「先手必勝。切りかかる」
「あんた死ぬわよ……正解は、なるべく相手を刺激しないこと。野生の魔物でもこちらから攻撃してこない限りはなにもしてこない相手はいるわ。それに戦ってもあまり特をしないことが多いわね」
「でも、そしたら俺たちの腕は上がらないじゃないか」
「あくまで今みたいに町から町へと移動してるときの話。勿論次の町に着いたらバンバン鍛えてもらうわ。勿論巫女様にもね」
  ミレイは眠りかけてるディシリアを起こすように最後の言葉を強調した。一方ジャスバルは不満そうだ。彼を無視して次はディシリアに質問する。
「さて、巫女様。あなたはどれくらいの魔法が使えるのかしら?」
その質問にディシリアは元気よく答える。
「今はメディだけです」
  ミレイの顔は一瞬にしてひきつる。
「あれ?おかしいな。最低でも、それに加えて適当な攻撃魔法を2つは身に付けておけと言われてたと思うんだけど……」
「ちょっと時間が足りなくて……」
「ねえ、あんたたち。舐めてるの?」
ミレイの態度が豹変する。先ほどまでとはちがい今度は軍隊の教官のような鋭い目付き、威圧するようなドスの聞いた声。ジャスバルは何が起きたのかわからずキョトンとし、ディシリアはあわてふためき、どうすればいいのかと語りかけるような目でジャスバルを見つめる。
「ねぇ、ジャスバル。あなたの剣はいまどこ?」「荷台だ」
と言い終わる前にミレイの投げたナイフがジャスバルの肩の上を通過する。
「もし、ここで襲われてたらあなたは人質になって足手まといになるかそのまま殺されるか」
  その様子を見ていたディシリアは今にも泣き出しそうになりながら地面にへたりこんでいる。ミレイは彼女を見下ろすように目の前に立つ。
「ねぇ、あなたは戦闘が起きたらどうするつもりだったの?」
「え?」
  ディシリアの目には涙が溜まっていた。ミレイは彼女の胸ぐらを掴み捲し立てる。
「どうするつもりだったって聞いてるんだよ!役立たず」
  怒りの声をあげて突っ込んでくるジャスバルを、ディシリアの胸ぐらを掴みながらすね蹴りをする。ジャスバルは頭から地面に倒れる。後頭部にひんやりとした硬いなにかを感じる。
「その程度の腕だったのね、残念。今からでも撃ち殺す」
  ディシリアはとうとう泣き出した。それを見たミレイは舌打ちし、彼女を仰向けになるように地面に叩きつける。背中に衝撃を受けたディシリアはうめき声をあげる。涙で曇るなかで映っていたのはジャスバルの後頭部を片足で踏みつけ自分に銃を向けるミレイだった。
「3数える間に私を攻撃しなさい。でなければあなたに危害を加えるわ」
「む、無理です……」
「3……2……1…………」
  ディシリアはなにかを懇願するようにミレイを見つめている。
「ゼ・ロ」
落胆した声とともに放たれたのはまたもナイフだった。ナイフはミレイの頬をかすり、地面にに刺さる。かすり傷からは血が流れ出した。
「いい?これがあなたたちの実力。私がいなければ確実に死ぬわ」
  ミレイはジャスバルから足をどかし、一歩一歩ディシリアに近づき、地面に刺さったナイフを抜き取ったあと、手の甲で血を拭きとり、優しく語りかける。
「あなたの頬の傷はあなたのメディの魔法で意図も簡単に治せるわ。それと、あなたは馬鹿げた儀式のせいできれいな黒髪を失ってしまったでしょ?だったらその代わりに死ぬほど魔法を鍛えなさい。じゃないと格好つかないわよ」
ディシリアはこくっとうなずく。
「ジャスバル。あなたは今すぐ竜車から剣をとってきなさい。あと顔を洗ってきなさい。それが終わったらこっちに戻ってくること」
  ジャスバルは無言で立ち上がりふらふらっと竜車の方へ歩いていった。ずずずっと鼻水をすする音、目の辺りを手の甲でこすっている。ミレイはジャスバルが倒れていた場所を見る。
「漏らさなかっただけよしとするわ」
ミレイは誰にも聞こえないように呟いた。

「どうしたジャスバル」
  エアルドは普段とは様子が違うジャスバルに問いかける。
「俺が弱くて、世間知らずだったってことを教えられたってだけさ」
  それだけいうと、エアルドを担ぎ、ミレイのもとへ戻っていった。



「おかえり、よくバックレなかったね」
「あんたとディシリアの前でそんなことはできないからな」
  ジャスバルは強がっていたが。目は充血しており顔は真っ赤であった。それに気づいたミレイはクスッと笑い二人に語りかける。
「いっておくけど、あたしより強い魔物はうじゃうじゃいるわ。そしたら聖獣ってどれくらい強いんでしょうね。ということで、まずはあなた達を鍛えてあげる。最初は簡単な夜の見張り。ふたりで交代してもいいし、どちらかが夜明けまでずーーーっと起きてるのもいいわよ。じゃあおやすみ」
  そういうとミレイはそのまま眠ってしまった。

  竜車の従者は昨日と違い、2人から1人に変わっていた。もう1人はというと、荷台で寝息をたてている巫女と共に倒れ込んでいた。
「とりあえずおめでとう。次は一回も殴られないように頑張ってね!」
  明るい声でいい放つミレイ。ちなみに彼女は恐らく一睡もしてない。それを知っているのはジャスバルと、彼の相棒エアルドである。
  昨日の夜中は最悪だった。本来はディシリアと、ジャスバル。お互いが決められた時間に起きて見張りをし、片方は仮眠をするといった方法で夜を明かす計画をたてていたはずだった。が、ディシリアは見張りの最中に眠ってしまった。というのをミレイから聞くと共に蹴りを右脇腹に一発もらう。1時間に一発ねじ込む。と彼女にいわれる。その後1時間経過。ディシリアを起こし、こう告げる。
「俺が少し頑張るからお前は30分だけ見張りにつくだけでいい」
  仮眠に着いたその1時間後らしいときに次は左脇腹に衝撃を受けて目覚める。それから夜明けまでずっと起きていざ出発というときにとうとう倒れてしまった。"次は1回も殴られないように"その辺りでジャスバルは眠ってしまった。



「さて、これで呪いと毒の違いはわかった?」
  昼の道中で同じ話を30回も聞かされた。次は問題ないだろう。
「じゃあ、質問するは。その1、なぜ動物による毒は治療薬で解毒することができるのに、魔法では解毒できないのか、または魔物による毒は魔法で解毒することができるのに、薬では解毒することができないのか?」
  その質問にジャスバルはこたえる。
「毒の性質が違うからです。動物による毒は純粋な自然界の毒です。主に神経系などにダメージを与えます。対して魔物の毒は1種の呪いです。呪いは生き物の心にダメージを与え、それを脳が錯覚する現象です。次に薬と解毒魔法の効能です。薬は神経系にダメージを与える物質を除去し、しばらくの間は神経系を防護します。解毒魔法は1種のお払いです。人に居着いた悪しきものを除去し、心を正常にします。この事からわかる通り、薬と魔法では、ケアーする場所が異なるため、薬での呪いの治療、魔法での病気や毒の治療はできない」
  一字一句すべてが模範解答だった。なにせ、それ以外の解答をミレイは認めなかったからだ。
「じゃあその2、さっきのものには例外がある」
  ディシリアは素早く「なし」と答えてこう補足する。
「例外はないが、その研究はされており、簡単なモデルではあるが解毒に成功しているケースがある。が、ごく少数であるのと、不確定であるため、現在この国では例外はないと言うスタンスをとっている」
  ミレイはにっこり微笑み最後の質問をする。
「あなたたちは呪いと毒について完全に理解することができた」
  今度は2人揃ってこたえる。
「答えはノー!いまだに毒と呪いについての研究は発展途上である。今までの常識を覆すこともある。それをすべて知ったかのように振る舞う人間は今すぐこの道から身を引くことを考えてもらいたい」
「すごーい。完璧ね」
  わざとらしく感嘆の声をあげるミレイ。


太陽が一番高いところから少し降りてきた頃だった。なにやら3つの影が見える。ミレイは竜車を止めて、懐から双眼鏡を取りだし確認する。相変わらず単調に続く道。それを塞ぐようにして、三体の魔物がいる。
  「ジャスバル、ディシリア、戦闘準備よ」


   ミレイ達と魔物達はお互いが向かい合うようににらみあっていた。竜車はそれより少し後方に、ミレイ達が確認できるところに置いてあり、それを地竜が護衛する形になっている。
「ばはははは!俺たちにここをどけだと?」
  3匹の魔物のうち真ん中にいた動きの邪魔にならなそうな胸当てを着けた赤いとかげ型の魔物が下品に答える。そのちょっと後ろ、ミレイたちから見て右側には、サングラスをかけ、口をスカーフで覆い、白衣で身を包むカエル型、左側には槍と青い大盾を持った青い甲羅を持つ亀型の魔物が。
「そうね、できれば無用な争いは避けたいの」
  隣で聴いてたジャスバルは落ち着かない様子だった。もしかしたらいきなり襲いかかってくるかもしれない。しかも車の護衛についている地竜はさほど強くなく、あくまで気休めに近い処置。その後ろには震えながらじぶんの後ろに隠れるディシリア。
「だったら、貰うものは貰っていかないとな。でも……?」
「それは無理」
「なら、戦って奪うしかないな。なに、俺たちだって鬼じゃないし命は惜しい。ここは決闘ルールでいこうじゃないか」
「それも無理。1人は戦えないものということで、乱闘形式でやらせてもらうわ」
  とかげは驚いたように聞き返す。
「おい、下手したら死ぬ可能性もあるぞ」
「そのときはそのときよ」
  言い終わると同時に拳銃を構え、トカゲに雷撃を3発撃ち込む。慣れない銃声にジャスバルとディシリアは震える。一方魔物の方はというと。
「ほほう、下手したら死んでたかもな」
  トカゲが胸当てにはまった弾丸を爪で軽くいじっていた。
「避けれた弾丸をなぜ受け止めたの?」
  ミレイはトカゲに聞く。
「あ?、こいつの性能を試すためだよ」
  と胸当てをたたく。
「う、嘘だろ」
  下手な魔物だけでなく、人間の命さえ意図も簡単に奪ってしまうものに対してそれほど恐怖心を抱かない魔物に恐怖を感じていた。
「まぁ、実験は成功みたいです。念のため防具にかけたものと同じ魔法を僕たちにもかけてみましたが……うん、これなら魔法なしでも」
「我の出る幕もなかったようだな」
  恐怖心を押し殺したつもりでジャスバルはトカゲに斬りかかる。トカゲは刃を先程より長くした己の爪で受け止めた。
「へぇ、なかなかやるじゃねぇかガキんちょ」
トカゲはジャスバルに押されながら一歩ずつ引いていく。
  「では、僕たちの相手はあなたたちになるわけですね。やりづらいです」
  カエルが手で十字を切ると周辺が優しい光に包まれる。
「残念ながら、貴女と僕とでは相性が悪いみたいですよ」
「あら?武器は拳銃だけじゃなくてよ?」
  ミレイは左の太ももについてるケースからナイフを一本引き抜きカエルに投げる。がそれは亀の大盾によって弾き返された。
「降伏するなら今のうちだ。もうお前たちに勝ち目はない」
  ミレイはジャスバルの位置を確認し視線を戻したときはぁっと溜め息をはき両手をあげる。
「ごめん、降参」
  視線の先には拳銃を構えたカエルが居た。


「おい、ガキんちょ。回りを見なくて大丈夫か?」
  トカゲはふっと横にずれると、ジャスバルは体勢を崩しそのまま地面に倒れる。すぐさま起き上がりトカゲに構え直す。トカゲのはるか後ろにディシリア達と別の魔物が向かい合っているのが見える。
「入らぬ心配ありがとよ」
「なぁ、もしかしてお前魔法が使えないのか?」
「だからどうした!」
  威勢よく吠えるジャスバル。
「覚えておけルーキー。時にはハッタリも必要だぜ」
  そう言い終わるとトカゲのもう攻撃が始まった。怒涛の爪攻撃のラッシュにジャスバルは防ぐだけで精一杯だった。
「どうした!ガキんちょ!さっきまでの威勢は!」
  レベルが違いすぎると思った瞬間だった。体勢を崩され仰向けに倒れる。
「足元がお留守だぜ。ルーキー」
  喉元に爪を突き立てられる。ジャスバルはちからなくうなだれ、降伏のサインをした。


「ジャスバルゥ、ミレイさん、疲れたよぉ」
「バカヤロー!手ぶらで歩いてるくせしやがってこんなことでいちいち喚くんじゃねえ!」
  べそをかくディシリアは地竜をあやつるトカゲに叱責される。それを隣に座っているカエルにまぁまぁとたしなめられる。
「ディシリア、命があるだけ感謝しなさい。本当なら私たち殺されてたかもしれないんだから」
  ミレイは嬉しそうに言っている。それを見たジャスバルは不満そうに言った。
「そうだな、まさかあんたの"お友だち"を俺たちの実力を図るためだけに呼び出しただけだからな」
「まぁ、これで己の弱さを確認できただろ?世の中は広いんだぜ。なぁハク、コク?」
  トカゲが地竜にそういった瞬間ディシリアはぷくっと頬を膨らませる。
「あぁ!勝手に名前つけないでよ!」
「いや、あってるわよ。ディシリア。ちなみに彼、ザードは竜と会話ができるのよ」
  ディシリアは目をぱちくりさせてザードと呼ばれたトカゲをみる。
「ほら、またひとつ面白いことが覚えられたな!これだから旅はいいぞぉ。なあ、シギーナ、メックス」
  緑色のカエル、シギーナはそうですねと頷くが、青い亀のメックスは返事をしなかった。
「僕たちはですね。ミレイさんの弟子なんですよ。戦いかたや、知識を教えてもらった」
「では、その師匠をたおした感想は?」
  ミレイはあどけながらシギーナに聞く。
「3人いるから勝てました。タイマンだったら負けてましたよ」
「だってよ!足手まといのルーキー達」
  竜車の上でバカ笑いをするザード。それにつられて笑うミレイ。それをなだめるシギーナ。
「まあ安心しろや!次の町で戦い方や簡単な魔法くらいは教えてやるさ。それまで歩ききれたならの話だがな!」
  人数が増えて賑やかになった一行は、日が沈む方向に向かって歩みを進めていった

       

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