Neetel Inside ニートノベル
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生贄の旅
プロットナンバー8.『騎士の務め』 筆者:ノンストップ奴

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  「ねぇ、いつになったらここから出してくれるの?」
  ミレイは民族衣装に身を包んでいる、若い男に聞くも。返事は返ってこない。手ぶらではあるが恐らく彼がここの看守なのだろう。髭は剃られ、 坊主頭。顔は岩石のようにゴツゴツしていて、お世辞にもカッコいいとは言えないが、素朴な印象を与える。
  今日から明日の見えない生活が始まる。薄いTシャツにハーフパンツに着替えさせられ、武器と防具は没収。幸い手足は縛られなかったものの、看守との間には鉄の柵でが存在している。加えてここは地下。穴を掘って脱出も考えたが、どうにも無理そうだった。
「あーあ、大人しく捕まらずに抵抗すればよかったかなー」
  看守に聞こえるように独り言をいうが、反応しない。その後もあーだこーだ看守に向けて文句をいい続けるもいっさいの返事は返ってこない。ミレイはとうとうふて寝を始めた。


看守は一切変わらなかった。たまに食事を持ってくる以外は、ミレイに付きっきり。居眠りをしていることさえあった。辺境の少数民族に関わらず捕虜の扱いが丁寧であることにミレイは関心する。その事を皮肉ともとれるように看守を誉めるが、やはり一切の反応はなかった。
  それからミレイの牢獄生活は3日間続く。唯一の話し相手は何を言っても反応しない。寝て、起きて、食事、寝るを何回か繰り返し、飽きてきた時にミレイは看守に提案する。
「ねぇ、ここから出してよ。いいことしてあげるからさ」
  Tシャツの首の出口から肩を覗かせる。彼女が考えた"色っぽく見える"仕草だ。看守はミレイの方向に顔を向け、眼があった瞬間顔を真っ赤にして捲し立てる。
「な、なにをやってる!小娘」
「え?こういうの初めて?」
  そういうと、次はTシャツをめくり、へそを出し始める。
「ねぇ、もっとみたい?」
  看守の意外な反応をミレイは楽しみ始めた。看守の方はというとさらに顔を真っ赤にしてなにやら訳のわからない言葉をミレイにぶつけてきた。
  ノリノリでズボンを下ろそうとしたとき、人が階段から降りてきた。
「騒がしいぞ、ガレット」
  男の声だ。看守はすぐさま階段のほうに向かってあるきだし、入り口で誰かを迎え入れる。
「はっ!族長。実は女が突然わたくしを誘惑してきて……」
「そう!"やらないか?"ってね」
「きっ貴様ー!」
「もういい、事情はわかった。まぁ下銭のものの罠に引っ掛からなかっただけお前を誉めてやる」
「まぁ、捕虜に手を出すのは人として最低だしね」
  ガレットと呼ばれた看守は黙れという目でミレイを睨み付ける。ミレイはわざとらしく怯えた振りをしておちょくる。
「まぁこの緊張感のなさからすると、近いうちに処刑されることを知らないようだな」
「大人しく捕まってあげたのに情状酌量の余地はなしなの?」
「ほう、ここまで言っても無駄口を叩けるのか。ちょっと顔でも見てみるかな」
  ガレットは声の主を制止しようとしたがすぐに諦めた。男はミレイと対面する。
「ほほう、ただの小娘ではないか」
「あら、世界は広いわね。あなたと同じような世間知らずをあたしは知ってるわよ」
  ガレットが吠えるが、男は黙るように促す。
「お前、闘えるのか?」
「ええ、"そこまで強くはない"けどね族長さん」
  ボソッと女の癖に生意気だな。と声が聞こえる。
「なら、予定は変更だ。ガレット、俺と一緒にこい、明日は祭りだ」
  男はそういい残すと階段を登っていった。それにガレットが続く。
  1人残されたミレイはふぅっと息を吐き、寝そべる。
「まさかジャスバルのそっくりさんがいるなんてねぇ」


「起きろ、女」
  ガレットの声に目を覚ます。地下にいるのでどれくらい時間がたったのかわからなかった。
「喜べ、今日から檻からでれるぞ」
「あぁ、とうとう殺されてしまうのね」
  わざとらしく泣いた振りをするミレイにガレットが冷ややかな目線をおくる。
「まぁ、そうかもしれないな。今からお前には族長と戦ってもらう」
  およ?っと目をぱちくりさせるミレイを無視してガレットが続ける。
「勝てば、ここから解放だ。負けたら……」
「負けたら?」
「どうなるんだろうな」


  いつもの防具に身を包み、幅広の小振りの剣を携える王宮騎士ミレイはコロシアムの真ん中にたっていた。回りからは彼女に対する野次と、王族批判が飛び交っていた。
  しばらくして、ガレットと黒髪赤目であること以外はジャスバルとそっくりの族長が出てくる。
「みなさん静粛に、これより第210回、武闘大会を始めます」
  ガレットが開会の言葉を述べると、回りがさらに盛り上がる。次に他のギャラリーと同じような民族衣装に身を包んだ族長がしゃべり始める。
「みんな、集まってくれてありがとう。そして今回のルールを説明する」
  ルールは簡単。武器は剣のみで、魔法の使用は自由。この半径15メートル内の円形闘技場でどちらかが倒れるか、降参するまで戦い続けるというものだった。
「もし彼女が勝てば自由を、負けたならば、はるか昔に生きた我らが祖先の憎しみをすべてぶつけてやろうではないか!」
  大歓声のなか、ギャラリーは手にした武器を高々とあげる。
「はるか昔に居た勇者さんも泣いてるわね」
ミレイは誰にも聞こえないようにつぶやいた。
「女、何か質問はあるか?」
  族長が聞く。
「その、"女"って言うのやめてくれる?」
  頬を膨らませて抗議する。
「気を悪くしたならすまないな。名前は?」
「ミレイよ。ミレイ・ザーンガルド。あなたは?」
「……この戦いが終わったら教えてやろう」
「なにそれ……」
  ガレットの「準備はよろしいですか」という言葉で、お互い剣を構える。
「始め!」
  会場には歓声が響く。
  先に仕掛けたのは族長だった。剣をななめに振り下ろし、真空波を発生させる。それをミレイは剣を盾代わりにして防ぐ。真空波は剣にぶつかると同時に消えた。
「あら?しょぼいわね」
「ふん、ただの小手調べだ」
  すると、族長はミレイを串刺しにするために猛スピードで突っ込んでくる。それをミレイはギリギリでかわす。振り返り様に右手を広げ、族長のいる方向へ火炎弾を3発撃ち込む。3つの爆発音が発生し、黒い煙と埃が舞い上がる。会場はどよめきに包まれる。
「やった……わけではなさそうね」
  煙から人型の影が現れやがてそれが姿を表す。そこには無傷の族長がたっていた。
「流石、魔物を連れて歩いてただけあるな」
  意外な発言にミレイは狼狽する。
「あら?どうして知ってるのかしら」
「それも含めて教えてやろう。俺にかてればな!!!」
  叫び声と共に族長の剣は赤い炎に包まれる。炎をまとった剣でミレイに襲いかかる。それをミレイは受け止めると同時に白い煙が2人を包み込むと会場は異常な冷気につつまれた。
「バカな!ここで氷の魔法だと?」
「あら、意外だった?」
  煙がはれたとき、会場の人間が衝撃を受けた。2人は首から下が氷漬け。のみならず、ミレイが族長を抱きしめる形で氷像と化しているからだ。
「捕まえた!」
「何をするやめろ!」
  さっきまで激しい戦いを繰り広げてた男女は一変。ミレイが族長の頬に自分の頬をあてている様子は、はたからみればカップルのようになっていた。
「こんなもの、俺の炎で溶かしてやる」
  その刹那、氷像に電流が走る。族長は叫び声をあげる。
「私も辛いのよ、だから降伏して」
「断る」
  再び電流が走り、族長の悲痛な叫び声のみが闘技場に響いた。
「ねぇ、これ以上は無理だと思うわよ。みとめなさい」
  しかし族長は未だに抵抗を続ける。
「諦めるものか!火力最大で溶かしてやる!」
  族長はいかりの混じった雄叫びをあげている。しかし何も起こらない。族長の叫び声は徐々に弱々しくなる。
「はい、残念。あなたの負けよ」
  その言葉と共に氷は溶けていき、辺りは再び白い煙に包まれた。
  やがて煙がはれてそこに現れたのは、地面に両膝を着き戦う意思を失った族長と、剣を高々と捧げ笑顔で群衆を見渡すミレイであった。
「こ、この勝負捕虜の勝利……」
「訂正!ミレイ・ザーンガルドの勝利よ!」
  ガレットに、変わってミレイが声高々に宣言する。闘技場はどよめきに包まれ、歓声があがることはなかった。


「まさか、勇者の一族の末裔である俺がやられるとはな」
「しかもこっちはいつもと違う武器だからね」
  お帰りと一言つぶやき、相棒の拳銃をホルスターにしまう。
  ここはこの村の族長の家。土の壁で覆われたこの家は昼であるにも関わらず薄暗かった。
「なあ、教えてくれ。なぜお前はそんなに強い。そしてなぜ魔物とつるむ」
「1個目の質問に関しては、それがあたしの仕事だから。そして守るべき人がいるからかしら。2個目の質問に関しては……」
  一瞬ミレイは考えた。が思ったことを正直に口にする。
「彼らも話せばわかるから。それに今の時代彼らをあたしたちの敵として見るのはとても時代遅れだと思うわよ」
「そうか、変わってるな」
「食わず嫌いは損をするって言うしね」
  もうここにはいる必要がない。そう思ってここから出ようとしたときだった。
「待て!なぜ俺たちがお前をとらえたのか、魔物を連れていることを知っていたのか聞く気はないのか」
  ミレイは族長を振り替える。
「時間がないの早く教えて」
「預言者カサシンだ。星落としの少女と呼ばれている」
「あ、そう」
  族長はミレイの素っ気ない態度に驚く。
「聞いてくれ!奴は危険なんだ」


「さて、世界を救う巫女様たちに追い付かないと」
  村の出口でミレイは気を引き締める。
「で、なんであたしについてくるの?もしかして惚れた?」
「バカ言うな道案内をしてやるまでだ」
  民族衣装に身を包み、背中にはナップサック。肩に小型のハンマーを担いだガレットが悪態をつく。
「まぁ、いいけど。では道案内よろしく。騎士様」
「ふぅ、ジャスバル様もこんな小娘にやられるとはな」
「何か言った?」
  2人は、第2の大聖堂に向かって歩みを進める。巫女を守るために。そして世界を救うために…… 

       

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