Neetel Inside ニートノベル
表紙

魔物封印生活
現れる者

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 俺は東雲和也。
年は15歳。
普通の中学3年生だ。
 今日もいつものようにソファに座り、朝のつまらないテレビ番組を見ている。
何もかもがいつもと同じように感じられるが、1つだけいつもと違うものがある。
それは
『ふむ、今の人間たちは不思議な物を持っているんだな。』
 魔王の存在だ。
不思議なものって、テレビのことか?
『この四角い箱はテレビというのか。』
ああ。
といっても家のはブラウン管テレビって言って、少し古いやつなんだけどな。
『このテレビという物にも古いものと新しいものがあるんだな。』
『新しい物に取り替えたりはしないのか?』
まあこのテレビは小さいころから使ってて、思い入れがあるから、壊れるまでは使い続けるよ。
『ふむ・・・。』
『ところで、学校とやらに行く時間ではないのか?』
――え?
 テレビを見てみると、もう7時50分になっていた。
・・・デジャブを感じる。
昨日と同じだ。
 俺は昨日と同じように部屋に戻り、時間割を揃え、リュックを背負い、制服に着替え、足早に部屋を出る。
ああ、本当に何も変わらない。
まるで魔王との出会いが無かったかのように、時間が進んでいる。
靴を履き、玄関のドアを開け、走り出す。
 ところで、魔王は俺以外の人間の体に入ることはできないのか?
『俺は一度人の体に入ってしまうとしばらく他の人間の体の中に入ることができないんだ。』
しばらくってどのくらいだ?
『1、2年ってところだ』
1、2年か・・・。
中々長いな。
『まあお前が魔物を全員封印するころにはお前の体から離れることができるようになっているだろう。』
そうか・・・。
 とにかく今は学校に急ごう。
見慣れた通学路を走り、学校へと急ぐ。
――何かが・・・おかしい・・・。
何かの視線を感じる。
俺の後ろに・・・誰かがいるような・・・。
『よけろ!』
俺はとっさに地面に倒れこんだ。
一体何が起こったんだ?
『魔物だ。』
魔物・・・ついにはじめての魔物との戦いが始まってしまったのか。
魔王、俺はどうやって魔物と戦ったらいいんだ?
『俺の魔力を少し貸してやる。』
『それでどうにかするんだな。』
どうにかってお前・・・。
 とりあえず体を起こして、後ろを見ると、そこにはいかにも魔物らしいと言える魔物が佇んでいた。
赤黒い肌、一糸も身に纏わない姿、白い角、真っ赤な翼、黒と赤の入り混じる目、指先に光る鋭い爪。
どこを見ても魔物要素しかない。
『あいつは、魔物にしては人間らしい魔物だな。』
『低級悪魔ってところだろうな。』
 低級悪魔であんなに恐ろしい見た目をしているのか。
とにかく、魔力ってどうやって使ったらいいのか教えてくれ
『体の中の気を手の平に集める感じだ。』
気を手の平にか。
俺は体の中に微かに感じる"気"らしきものを手の平に集中した。
すると、サッカーボールくらいの白い塊が、手の平に出来ていた。
よし、これならいけそうだ。
 目の前をもう一度確認すると、魔物の姿が見えなくなっている。
一体どこに消えた?
 上を見上げてみると、魔物が翼を大きく広げて羽ばたいている。
まずいな。
手の平の気を魔物に向かって投げつける。
しかし、魔物はいとも簡単そうに気をよけた。
そして俺を目掛けて急降下し、爪を振り下ろしてくる。
危ないな。
俺は寸でのところで爪をかわし、もう一度手の平に気を集め、至近距離から魔物に気をぶつける。
今度は手ごたえありだ。
魔物は今の一撃で気絶したようだ。
さすが魔王の魔力。
威力が段違いだ。
『当然だろう。かつては世界を支配するほどの力を持っていたのだからな。』
やっぱり魔王ってすごかったんだな。
 で、魔物を封印するのって、どうすればいいんだ?
『魔物の頭をつかんで、そいつを吸収するってイメージするんだ。』
俺は魔王が言ったとおりに、魔物の頭をつかみ、吸収する。
俺の体の中に、魔物が吸い込まれていく。
何故だか体に力が溢れてくる。
『魔物を吸収することによって、その魔物の力を引き出すことが出来るようになる。』
『これも魔王の力の為せる技だ。』
魔王の力って便利だな。
 よし、これからは、ばりばり魔物を捕まえて、どんどん強くなるぞー!
『強くなるのは結構だが、時間は大丈夫なのか?』
あ。
やばい!遅刻だ!
俺は全速力で走って学校に向かう。
 学校の時計は8時25分を指していた。
少し遅れたが、まあ大丈夫だろう。
俺はいつものように下駄箱に行き、靴を上履きに履き替え、階段を上り、教室の席についた。
 そこからはまた、いつもと変わらない平和で退屈な日常だった。

 授業の終わりのチャイムが鳴り、俺は帰り支度を済ませ、家に帰ることにした。
正門をくぐり、帰り道を歩く。
ところで魔王、魔物の力ってどうやって引き出したらいいんだ?
『魔物の力を引き出すのは簡単だ。』
『魔物の身体的特徴を真似ることも出来るし、純粋な力を取り出すことも出来る。』
『想像すればいいんだ。魔物の姿を、流れる力を。』
想像・・・。
さっきの魔物の姿を想像する。
赤黒い肌、長い爪、真っ赤な翼・・・。
特徴を想像すればするほど、俺の体が魔物のような姿に変わっていく。
翼を生やせるのは便利だが、肌の色のことは極力想像しないようにしよう。
 俺は元の自分を想像し、元の姿に戻る。
面白い。
 色々と試したくなった俺は、早歩きで家へと急いだ。
家に着いた俺は、いつものように鍵を開け、靴を脱ぎ、手を洗い、制服を脱いだ。
今日はパンツ一丁ではなく、ちゃんと部屋着に着替えた。
俺はリビングで魔物の力を引き出す練習をすることにした。
 まずは完全に魔物の姿になってみよう。
魔物の姿を想像する。
魔物の姿を鮮明に想像すればするほど、俺の体が魔物の姿へと変化した。
 伸びた爪でどれくらいのものが切れるのか気になったので、冷蔵庫の中にある野菜を切ってみることにした。
まな板の上に大根を置き、力任せに腕を振り下ろす。
すると、まな板ごと大根が真っ二つに切れた。
こ、これはすごい切れ味だな。
 もしあの時寸でのところでよけられていなかったら、今頃俺はこの野菜のように真っ二つになっていたのか・・・。
そう考えると、少し身が震えた。
 もう少し色々と調べてみよう。

 一通り魔物の体を調べた俺は、自分の体に戻ることにした。
自分の体・・・。
自分の体って、どんなだっけ?
魔王、自分の体に戻れなくなったんだが、どうすればいいんだ?
『最近撮った写真でも見て、自分の体を想像すればいいんじゃないか?』
最近撮った写真か・・・。
確か生徒手帳があったと思うが・・・。
 俺は部屋に戻り、リュックの中を確認する。
無い。
どこをどう探しても、リュックの中に入れておいたはずの生徒手帳が無い。
どうやら学校においてきてしまったらしい。
しかしこの体で生徒手帳を学校にとりに行ったら、絶対にまずい。
でも元の自分にもどれないのはもっとまずい。
 俺は意を決して学校に忍び込むことにした。
俺は玄関のドアを開け、靴を履こうとするが、足の爪も鋭くなっていたため、靴が履けない。
 仕方が無い。
裸足のまま飛んで学校に向かうことにした。
玄関のドアを開け、人に見られないように空たかく飛び上がる。
翼を扱うのには慣れていないので、少しぎこちない動きになっているが、中々心地がいいな。
 学校まで飛んで行き、自分の教室の窓まで急降下する。
窓から中をのぞいてみると、どうやら誰もいないらしい。
窓を開けようとするが、鍵が開いていない。
 仕方ない。
実力行使で行くか。
俺は鋭い爪で窓を切り裂き、中に進入した。
割るのと違って音が出ないからいいな。
とりあえず自分のロッカーを覗いてみる。
あった。
生徒手帳を手に取り、写真があるページまでめくる。
生徒手帳に載っている自分の写真を見て、自分の姿を想像する。
・・・どうだろう。
俺はトイレに行って鏡を見ることにした。
見慣れた廊下を歩き、男子トイレに入る。
鏡を見てみると、15年間見続けてきた馴染みのある顔が映っていた。
戻っている・・・。
見慣れた自分の顔を見るだけで、ここまで安堵する日が来るとは夢にも思わなかった。
 なんだか元に戻ったらどっと疲れが出てきた。
早く家に帰るとしよう・・・。 

       

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