Neetel Inside ニートノベル
表紙

魔物封印生活
4増える者

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俺は東雲和也。
満身創痍の中学生だ。
両腕と腹に包帯を巻いて、ソファに座っている。
今日の朝は何だか体が重い。
 ところで魔王、昨日俺はどうやって家に帰ってきたんだ?
『俺が少しの間お前の体を支配して、動かした。』
『俺がいなかったら今頃お前は死んでいたぞ。』
そうだったのか・・・ありがとう。
『まあ死にそうになったらどうにかするといったからな。』
そういやそんなこと言っていたな。
あ、あと昨日戦っているときに痛みを感じなかったのは、魔王のおかげなのか?
『ああ、それは俺じゃなくてお前が無意識のうちに痛覚を止めていただけだ。』
無意識のうちに痛覚を止める・・・!?
『お前はどうやら魔力を扱う才能があるらしい。』
才能か・・・。
魔物は2人封印できたけど、あと何人くらいいるんだ?
『あと18人ってところだな。』
うへえ・・・。
あと18人も封印しなきゃならないのか・・・。
『まあこの調子で頑張ればすぐだ。』
『がんばるんだな。』
ああ、がんばるよ。
『そういえば、お前が頭を蹴飛ばしたから、ウィンドが怒っているぞ。』
ウィンドって、あの風の魔物のことか。
あ、あれは不可抗力と言うかなんというか、こっちも必死だったから仕方が無いだろう。
『少し不満はあるが、まあ許してやる、だそうだ。』
俺だって腕とか腹とか散々えぐられたのに・・・。

 もうこんな時間か。
テレビの時計が7時50分を指している。
今日は金曜日だ。
張り切って学校に行こう。
俺はいつものように部屋に戻り、支度をし、制服に着替える。
昨日の血のせいで制服が汚れているので、ジャージで登校する。
リュックを背負い、家を出る。
 昨日の風が嘘だったかのように、全く風が吹いていない。
日常に戻ってきてしまった感じがするが、この両腕と腹の傷がある限り、日常は非日常であり続ける。
俺はいつもと変わらない、日常というものが、嫌いだ。
面白くない。
日常は、俺を安らげてはくれない。
日常は、俺を信じてはくれない。
日常は・・・いや、考えていても仕方ない。
歩くことに集中しよう。
足に魔力を集中させ、追い風を吹かせる。
ふおお、いつもの3倍くらい早い気がする。
って、まずい。
早すぎて曲がり角を曲がれない。
 そう思ったときには、時すでに遅し。
俺は曲がり角を曲がりきれずに、壁に激突する。
腹の傷が開きそうだ。
顔も痛いし、鼻血が止まらない。
魔力を日常に使ってはいけないということがわかった。
「あの、大丈夫ですか?」
「え?」
俺が後ろを向くと、一人の少女が立っていた。
黒く長い髪、華奢な四肢、貧相な胸、俺の学校と同じ制服。
ウィンドに顔が似ているな・・・。
「これ、よかったら使ってください。」
そう言って彼女は俺にハンカチを差し出す。
「ああ、ありがとう。」
俺はそのハンカチを鼻にあて、顔を上に向けた。
「ありがとう。」
「ハンカチは洗って返す・・・よ・・・?」
 いつの間にか彼女は姿を消していた。
一体なんだったんだ今のは・・・?
って、まずい。
学校に急がねば。
 俺は尻のポケットにハンカチをしまい、再び学校に向かって走り出す。
正門が見えてくる。
時計を見ると8時15分だった。
ぎりぎりセーフといったところか。
今日もいつもと同じように下駄箱に行き、靴を履き替え、階段を登る。
廊下を歩き、教室の扉を開けると、周りの人達がざわめきはじめる。
「昨日腕の傷を一瞬で直したのってなんだったのー?」
クラスメイトの女が一人、俺に話しかけてくる。
「目の錯覚じゃないのか?」
まずはとぼけておこう。
こいつら野次馬は、面倒なことにいちいち首を突っ込みたがるから、あまり好きじゃない。
「でも私この目でちゃんと見たし・・・。」
女がそう言った直後、チャイムが鳴り、担任の教師が教室に入ってくる。
クラスメイトたちが急いで席に戻っていく。
俺もリュックを机のそばに置き、椅子に腰をかける。
担任は来て早々、面倒くさそうに口を開く。
「えー・・・今日は転校生を紹介する。」
「入って来い。」
扉を開け、一人の女の子が教室に入ってくる。
あいつは・・・朝のハンカチの女か・・・。
ハンカチの女は黒板にさらさらと字を書いていく。
字を書き終わって一言
「安部翼です。」
「今日からよろしくお願いします。」
簡単な挨拶をした。
俺の隣にはずっと人がいないが、それも今日で終わりか。
「じゃあ安部、窓際のあいてる席に座ってくれ。」
 安部がこちらに向かって歩いてくる。
途中俺と目が合うと、俺に微笑んできた。
阿部は俺の隣に座ると
「今日からよろしくお願いしますね。」
と、俺にもさっきと同じ挨拶をしてきた。
「ああ、よろしく。」
適当に返事をして、前を向く。

 朝のホームルームが終わると、案の定転校生を物珍しがって、大量の人間が群がってきた。
別に安部に近づくのはどうでもいいが、俺の机に座るのはやめてほしい。
ちょうど窓も開いていることだし、俺は風を吹かせて机の上に座る不届き者をどかすことにした。
 俺は腕全体に魔力を集中させ、一気に風を吹かせる。
机の上に座る人間は、バランスを崩し、机から離れる。
すかさず俺は腕を広げ、眠る。
これで俺の領域は守れたわけだ。

ぐっすり寝ていると、いつの間にか放課後になっていた。
ああ、よく寝た。
友達がいないので、どうやら誰も俺を起こさなかったようだ。
伸びをして、ふと隣を見てみると、安部がまだ残っていた。
安部の姿に驚きつつ、時計を見ると、もう5時半になっていた。
「一緒に帰りませんか?」
安部が口を開く。
「ああ、別にいいけど、なんで一緒に帰ろうと思うなら、俺を起こさなかったんだ?」
「疲れてそうでしたから・・・。」
ああ、こいつはそういう人間なんだな。
「とりあえず、早く帰ろう。」
「はい。」
俺はリュックを背負い、安部にあわせ少しゆっくり目に教室から出る。
廊下を歩き、下駄箱まで行き、靴を履き替え、校舎から出る。
「安部、朝はハンカチありがとうな。」
「気にしないでください。」
こいつは、よくわからないな。
なぜ俺に近づいてこようとするのかが、理解できない。
正門をくぐり、少し歩く。
「朝の風って、東雲さんが起こしたんですか?」
「・・・なぜ、そう思ったんだ?」
意外と鋭いな。
「東雲さん、いやそうな顔してましたから。」
「もしかしたら!と思いまして・・・。」
もしかしたら・・・か。
「風が意図的に出せるなら今頃超能力者としてテレビにでも出てるさ。」
「で、ですよね・・・」
少し歩くと、分かれ道に着いた。
「あ、私こっちなので。」
「じゃあな。また明日。」
「また明日。」
安部と別れ、少し歩く。
 安部と一緒にいたときは気付かなかったが、魔物の気配を感じる。
・・・上か!
上から誰かが降ってきた。
俺はリュックをそこらに投げ翼を広げ、上からの攻撃を防御する。
そのまま羽ばたき、上から敵の姿を確認する。
黒く短い髪、幼い顔、低い背、半袖半ズボン・・・まるで小学生だな。
だが魔物とあれば、見た目が小学生でも容赦はせん。
 俺は地面に向かって急降下し、腕に魔力を溜める。
風で刃を作り、魔物の胸を貫こうとするが、かわされる。
 魔物の周りに風の壁を作り、身動きを出来なくさせる。
そして羽ばたき、風の壁の上空へと移動する。
手に気をため、上から落とす。
気は魔物の頭に命中し、魔物は倒れた。
・・・これで終わりか?
あっさりしすぎな気もするが、まあいい。
そう考えていると、後ろから誰かに殴られる。
「がっ・・・!?」
バランスを崩し、一気に地面に落下する。
一体何が起こったんだ!?
慌てて魔物の方向に目を向けると、同じ魔物が2人いる。
「おいおい、増殖するとか聞いてないぞ。」
体を起こし戦おうとしたが、腕が動かしづらい。
どうやら傷口が開いてしまったらしい。
ちょっとまずいな・・・。
 俺は短期決戦に持ち込むことにした。
体全体に魔力を集中し、一気に風で周りを切り裂く。
魔物の体がどんどん切り裂かれていく。
肉を削り、骨をも削っていく。
・・・また、後ろから気配を感じる。
いったん風の放出を止め、後ろを向く。
まただ。
また魔物が増えている。
今度は5人になっている。
まさかさらに3人も増えるとはな・・・。
だが今ので2人動けなくした。
俺は残り3人を動けなくさせるべく、爪を伸ばす。
足に魔力を集中させ、地面をけり、魔物の内1人の心臓を切り裂く。
 人で無いとはいえ、人型の生物を傷つけるのは気分が悪い。
魔物の1人が、こちらに向かって走ってくる。
真っ向勝負とは、愚かな奴だ。
爪で心臓を切り裂こうとするが、もう一人が俺の足を後ろから払ってきた。
 全く予期しないタイミングで足払いをしてきたことで、転びそうになるが、とっさに風を発生させ、体のバランスを保つ。
そしてそのまま風の勢いで加速し、魔物の心臓を爪で切り裂く。
・・・あと1人だ。
 最後の一人を見てみると、完全に戦意喪失している様子だった。
俺は最後の一人の頭に手をかけ、吸い込む。
すると、ほかの4人も、同時に吸い込まれていく。
 なんだろうか。
今回の魔物は増えるというだけで、あまり強くは無かったな。
さて、帰るとしよう。
投げ捨てられたリュックを拾い、家に向かって歩き出す。


       

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