Neetel Inside 文芸新都
表紙

コンビニのアンパンマン
コンビニのアンパンマン

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第一話


狭いアパートを出て、駅まで徒歩十分。
会社に務めて五年が経ち、慣れもしたが飽きもした。
今日も会社に向かう憂鬱と戦いながら、駅への道を歩いている。
そのちょうど中間辺りに、どこにでもあるコンビニが立っている。
僕は毎朝、このコンビニに立ち寄って、アンパンと缶コーヒーを買う。
だけど、毎朝、同じコンビニ寄ってるのは朝食の為だけではない。


『お会計は250円です』
僕は事前に用意していた250円をポケットから取り出し、手をレジの前に出す。
通い始めて三ヶ月経つが、まだ名前も知らない女性店員がお釣り受ける為、手を少しばかり重ねてくれる。
そして、ちらりとお金を確かめて。
『はい!250円ちょうどですね。お預りします。いつもありがとうございます!』
そう言って、彼女は少し笑う。
『いや。こちらこそありがとう。いつも元気な挨拶で、僕も元気を貰ってるよ』
僕は内心、汗をかきながら言った。
『いえいえっ?!私はそんなお礼言われるような事してませんよ?!』
彼女慌てて、バタバタと手と頭を振る。
一緒に揺れた黒髪が朝日を散らす。
その姿に、僕は少しの間、見惚れていた。
『最近はアンパンばかりですね?』
少し頬を染めながら、彼女は聞いてくる。
『そうなんだ。最近、アンパンとコーヒーが一番合うって気づいてね。朝食はずっとこれにしようかなと思ってるんだ』
あらかじめ作っておいた言い訳を僕は言った。
もちろん、彼女に覚えて貰う為の言い訳だ。
『それじゃあ。アンパンマンですね?』
彼女は笑って、言った。
僕も嬉しくて笑った。

直後に、ドンと肩に誰かぶつかって。レジにジャムパンが置かれる。
横を見ると、おじさんが不機嫌そうな顔で立っていた。
『あっ!すいません!!』
彼女は慌てて、商品をレジに通す。
『長話して、ごめんね』
謝る僕に、彼女は笑って会釈した。

コンビニを出た僕は、申し訳なかったような、嬉しいような気分で駅へと歩く。
(もう少し仲良くなったら、名前を聞こう。アドレスなんかも聞けたらいいな)
そんな事を考えながら。
浮かれた足どりで、僕は駅へと向かった。


第一話
アンパン食べて、元気100倍!!
終わり。第二話に続く

     

第二話


それから何日か経った。
僕は毎日少しずつだけど。
アンパンマンネタや世間話をして。彼女との会話を楽しんでいた。
『今日もアンパンですね』
『アンパンマンだからね』
『共食いになっちゃいませんか?』
『ジャムおじさんやバタ子さんがいないから、自分でアンコを補給してるんだよ』
こんな話をしたり。
『あ。同じ物をよく購入する人といえば。あのおじさんもジャムパンよく買いますね』
『じゃあ、あのおじさんがジャムおじさんな訳だね』
『そんな事言ったら怒られますよー?』
こんな話をして。
ほんの少しの笑いを取って、彼女の笑顔を楽しむ。そんな浮かれた何日かが経った。


そして、ある朝。
コンビニを訪れると、店内は騒々しかった。
『なぁー、チカちゃーん。一回だけでいいからさー、俺とデートしてよー??』
『…今は仕事中だから…。ほんとにそういうの困ります…』
学のなさそうな男の声と、困った彼女の声が、レジから聞こえた。
見ると、ピアスを嫌ほどつけた金髪のガングロ男が彼女に絡んでる。
隣では、ドクロのプリントシャツと指輪をつけた金髪の男が、ニヤニヤと笑っていた。
どう考えても、二人とも彼女の友達とは思えない。
『いやいやー。困らせる気はないんだって。チカちゃんが俺とデートしてくれる、って約束してくれれば、すぐに帰るしさー』
無遠慮にガングロ男は、レジに腰をかける。

彼女は怯えながら。
『他のお客さんの迷惑になるし…。お願い。帰って下さい…』
消え入りそうな声で話す。
その時、男達の後ろから、怒声がなる。
『そうだ!お前らみたいなのと違って、こっちは忙しいんだ!迷惑だから、とっとと出ていけっ!!』
おじさんが叫んでいた。その振り上げた拳にはジャムパンが握られている。
『あんだよ?おっさん…、関係なくね?お前、この子の親父かなんかかよ?』
ガムを噛みながら、ドクロ男はジャムおじさんを睨みつける。
『…親ではないが…。私は…君達に公共の場での常識と言うものをだな…』
戸惑いながら、説得を試みるジャムおじさんの胸ぐらをドクロ男は掴んだ。
その手にはドクロの指輪がギラギラと光っている。
『おっさんさぁー。公共とか常識とか難しいこと漢字言う前にさぁー。他人の恋路を邪魔する奴はなんとやらっ、て話し、知らねぇのかよ?!』
そう言って凄むドクロ男を前に。ジャムおじさんは、ジャムパンを落として目を伏せる。
『なんだよ?さっきの威勢はどこいったんだよ?関係したくないなら、話してくんなよなぁー!』
ドクロ男はジャムおじさんを突き飛ばした。


第二話。
頑張れ!ジャムおじさん!!
終わり。第三話へ続く。

     

第三話


レジの奥で、震えて泣いている彼女に、ガングロ男は言う。
『俺はさぁー。チカちゃんを困らしたくは、ほんとないんだぜ?ほんとマジで。マジで。デートしてくれるって約束貰えたら、ほんとに帰るからさー。ダメー??』
恐怖と困惑の表情の彼女は、座り込み泣き始めてしまった。
その泣き声を聞いたドクロ男は、イラつきながら、ガムを吐き捨てる。
吐き捨てられたガムは、落ちているジャムパンにくっついた。
『もー。マジで、だりぃなー!ほんとマジでさぁー…。なぁ、ここじゃ話なんねぇし。そいつ、こっから連れ出したら、いいんじゃね??』
ドクロ男の誘拐拉致宣言に、ガングロ男は。
(お前、賢い!それ、いただき!)
みたいな感じで、指を鳴らして、ウインクをする。
そして、ガングロ男はレジ横の出入り口に手をかけた。

(このままでは、彼女が攫われる!)
本当に危機感を感じ。
(なんとかしないと!男達を殴ってでも止めないと!!)
そう思う僕の足は震えていて、立っていることすら、やっとだった。
(情けない!動け、動けよ!僕の足!!)
自分の勇気のなさに、歯ぎしりし涙が出そうになった。

『いやっ!離してよっ!?』
叫ぶ彼女の声。
『別に虐めたりなんかしないってー。大丈夫大丈夫ー』
言いながら、下卑た笑みを浮かべるガングロ男。
涙が溢れた彼女と目が合った。
怖くて、無意識に目を逸らしてしまった。
もう一度彼女を見る。
(助けて…)
声にならない彼女の声が聞こえる。
ギュッと奥歯を噛み締めて。そして、その後、大きく息を吸って吐いた。
(アンパンマンは…、僕だっ!彼女を助けるのは、僕だっ!!)
心の中で僕は叫んだ。
僕は走り出した。本当のアンパンマンみたいに、愛と勇気を持って。
レジ内から彼女を引っ張り、連れ去ろうとするガングロ男の前に、僕は飛び出した。
『やめろっ!!彼女を離せっ!』
僕は仁王立ちして、叫んだ。


第三話。
助けてっ!アンパンマンー!!
終わり。第四話へ続く。

     

第四回


目の前に立ちはだかった僕を、男達は怪訝そうな顔をして睨みつける。
僕も負けじと男達を睨み返す。
『はぁ?あんた、だれ??』
ガングロ男が僕に問いかける。
『彼女が嫌がってるだろ!離せよっ!!』
僕は再び叫んだ。
『はぁー。もう、そういうのいいんだって。さっきやったから。マジだるぃんだけどー?さっさと、どけよ??』
ドクロ男が手を振り、指輪をギラつかせて言う。
(血が出たって、骨が折れたって、どくものか!)
僕はそう心に決めて、足に力を入れる。
『彼女離して、お前ら出て行くまで、どくもんかっ!!』
そう叫ぶ僕に。
『なに?あんた、正義の味方かなんか気取ってる訳?』
ガングロ男は少し笑いながら言う。
僕は少し目をつむってから。
『そうだ!』と答えた。

一瞬、空気が止まる。
そして、男達は大声で笑い出した。
『何がおかしいっ?!お前らみたいな悪い奴らの好きにさす訳ないだろっ!!』
僕の言葉で、男達は笑うのをやめた。
そして、男達は今にも人を殺しそうな目つきで、僕を睨みつける。
『なんだ。こいつ?ほんとウザいな…。ぶん殴ろうか』
小言で呟き、ドクロ男は僕に近づいてくる。
周りの皆は、固唾を呑んで、僕を見ている。
その時、僕は。
殴られたら、どう攻撃仕返せばいいか。
どうすれば、男達を無力化できるか、必死で考えていた。
(殴りにきたら、昔習った柔道の一本背負いを…。そして、すぐに彼女を掴んでるガングロ男腕を攻撃して…。きっと、きっとできる!僕はアンパンマンだ!!)
頭の中で、悪者を退治するイメージ作り上げる。
ドクロ男は手が届く距離まで近寄ってきた。
『なぁー、おっさん。マジでどく気はないの??』
ドクロ男が睨んでいう。
『ない!!!』
僕は言う。

そう言うが。
言うが先か後かわからないタイミングで、ドクロ男は僕を蹴った。
ドクロ男の足が、みぞおちにめり込んだ。
息が上手く出来ない。
身体がくの字になる。
だが。僕はドクロ男に必死でしがみついて。
高く掲げた拳を掲げ、そして、振り下ろした。

拳を振り下ろしたが。
またも、先か後かわからないタイミングで。
ドクロ男の膝が、僕のみぞおちにまためり込んだ。
そのせいか。
僕の渾身のパンチは擦り傷を負わせるだけの成果しか残せなかった。
僕は完全に呼吸困難に陥って、その場に倒れた。

周りから悲鳴が聞こえる。
彼女も悲鳴をあげてる。
(ちくしょう…。ちくしょう…!アンパンマンが負ける話なんてあるかよ。ちくしょう…。だせぇ。泣いてる彼女を守れもしないなんて…。ほんとのアンパンマンなら、こんな時、新しい顔で戦えるのに。絶対のピンチでも逆転勝ちするのに…。僕は苦しくて、起き上がることも出来やしない…)
悔しくて、苦しくて、涙がボロボロと溢れた。


第四話。
アンパンマン、ピンチ!!顔が濡れて力が出ないよ…。
終わり。続く。

     

第五話


僕は、陸に揚げられた魚のように息ができず、床の上で身もだえするしか出来なかった。
その時。
涙が溢れ、ぼんやりとした僕の視界に。
何かをひらつかせた茶色て大くて人影が見えた。
『アンパンマン』
声にならない声で僕は言った。

涙を拭う。
コンビニの入口に、茶色く日焼けした筋肉質の男が立っている。
開いたドアからの風で、腰に巻いた作業服が揺れていた。
『お前ら、何してんだよ。そいつ、離せよ』
低く大きな声、でも穏やかに彼は言った。
皆、その男が事態を好転してくれる事を期待した。
『なんだよ?!またかよ!ほんとうぜぇな!!』
ドクロ男が殴りかかる。
作業服の男は避けようともせず、ドクロ男の拳を片手で受け止める。
その手を外そうと、もがくドクロ男が何度か彼を蹴りつける。
ドクロ男の蹴りにびくともせずに、彼はドクロ男のアゴを殴りつけた。
ドクロ男はその場に倒れた。

道端に落ちてるゴミを、ひょいと避けるかのように、ドクロ男の横を彼は歩く。
僕の横も同様にして通り抜け。
そして、彼は。ガングロ男と彼女の前に立った。
ガングロ男は青ざめて固まったまま、彼を見ている。
腕を掴まれたままの彼女が、泣きながら言った。
『助けて…。あっくん…』
『おぅ』
小さく答えて、彼はガングロ男の腕を捻りあげる。
ガングロ男は悲鳴をあげた。
悲鳴をあげるガングロ男の口を、もう片方の手で塞ぎ。
彼はドスを効かせて、こう言った。
『次、俺の女に手ぇ出したら、どうなるか…、わかるよな?』
そう言った後、彼はガングロ男を離してやった。
『わかったなら。さっさと床で寝てるそいつを連れて、どっかにいけよ』
そう言われて。
ガングロ男はよろめきながらも、ドクロ男のを連れて、コンビニから出て行った。

かくして。
真打ちアンパンマンの登場により、勧善懲悪劇の幕が降りて。
コンビニから、良かった良かったと歓声が起こる。
『無事で良かった』
小さく彼の声がする。
涙を流しながらも、笑う彼女を見た。
(良かった)
僕もそう微かに言った後、意識が薄れていった。


第五話。
それいけ!僕らのアンパンマン!!
終わり。次回最終回。

       

表紙

五月雨時雨 先生に励ましのお便りを送ろう!!

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Neetsha