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「ドン亀のヨーチン」
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=16891



2014年9月30日に連載開始。
2015年1月22日で完結。
乙であります。
いや、甲種合格か!?
連載当初から見守っておりましたが、ツイッターでは良く反応がもらえないとぼやいていたこともありました。
その度に、「何を言っているんだコイツは・・・」という気分になっていましたw
正直、この題材でこれだけの反応がもらえていたら上等じゃないかと。
この感想企画でしつこく私が褒めていた効果があったのかなかったのか。
作品の持つ本来の力がようやく評価されたのか。
ここ最近はコメントの伸びも顕著。
超絶の「コメント数の推移」を見れば一目瞭然でしょう。
通常、漫画でも小説でも「初回更新」で読者を掴めなければ、その後は苦戦するケースが多い。
でも本作は尻上がりに伸びています。
実はこれは凄い事じゃないでしょうか?
徐々に評価されてきた「隠れた名作」というポジションなのですから。
前置きはそのあたりにして…。
本編の感想をしたいと思います。
前回、感想を書いたのが12月3日で、7「金髪の乗客」まで読んでおりました。
その続きからになります。

■8/眼上の敵
黴煙草を吸うシーンが良い。

>「黴ていようと新鮮な空気の下で吸う煙草は美味しいですね」
>「空気が刺身だとするならば、煙草は山葵だ」

面白い例えだし、ニヒルに笑う登場人物達の表情が伝わってくる。
前々からそうですが、戦闘シーンより幕間の日常的なシーンの方が本作では魅力的に感じる事が多い。
と言うのも、やはり生身の人間同士の戦いではないというか、敵味方による互いの主義主張や感情のぶつかり合いというシチュエーションがないので。
戦闘シーンが「自分達との戦い」の範疇のようでした。
一方で、相手の顔が見えないので平気で残酷になれてしまう。
8話はそれを良く描けていたと思う。
北中支の軍人・バルマ、少数民族サジ族出身のヒルン。
2人の敵側人物が出てきました。
バルマは天照人を猿、ダイマン人を豚と呼び、敵の大量殺戮に躊躇が無い。
ヒルンもそんなバルマを支持するのは、サジ族がダイマンの迫害を受けていたという事情から。
このあたりの人物描写がステレオタイプとコメント欄で指摘されてたのかな?
分かりやすい描写だとは思うけど、戦記物では定番ってぐらいで…。
むしろこういう分かりやすい敵、敵国ネームドキャラ自体が初登場。
もう8話なのに。
それこそテンプレな展開でない事の証左ですよ。
バルマに関してはいかにも第二次世界大戦で「ジャップ!」とか言ってたアメリカ軍人っぽい。
でもヒルンはサジ族の事情なども絡めてますし、敵には敵の正義がある事をしっかり描写している。
それで十分というか、癖のある変化球は、この先幾らでも出せるでしょう。
まずは直球を見せるので良いと思います。
一方、主人公・鱶爾は、代用珈琲の味に文句を言う貴族出身のフィナリアに嫌味を言う。
冗長になるかもしれませんが、代用珈琲がどういう原料でできていて、どういう味がするかも詳しく描写して欲しかった。
黴煙草と同様、世界観の広がりが感じられると思うので。
寒村出身で丁稚奉公に出された鱶爾に対し、もう少し感情移入ができればと思います。
フィナリアに嫌味を言いっぱなしでフォローもなしでは、単に嫌味なやつで主人公らしくない。
匹腹は鱶爾に注意するだけじゃなく公私混同っぽいけど鉄拳制裁しても良かったと思う。
兵卒ごときが同盟国の士官に嫌味を言うなんて問題行動も甚だしいし。
8話では看護兵の見せ場がまったくなかったし…。
上官の佐治潟や匹腹の方が主人公していました。
士官が兵と一緒に缶詰食べてるのはかっこいい。
でも逆はアカンというか、兵が立場を弁えずに士官に文句を垂れるのはみっともない。
一方、何かと足手まといだったフィナリアも砲撃戦で役に立ったし、匹腹とのやりとりも可愛らしくて良かった。
敵溺者へのゐ五八の残酷な対応について。
胸糞悪い限りですが、中世の騎士道などがあった頃のどこかのどかな戦争の時代と違い…。
感情の入らない機械による大量殺戮、愚かしい戦争の時代を良く表現できていますね。
第二次世界大戦って、まだギリギリ騎士道の残光があったと思うのですが、完全にそれがなくなった時代でもあります。
バルマかヒルン、できればヒルンあたりを生かしたまま、しもつき1号の捕虜にできれば良かったのですが。
そうすれば敵側の感情の代弁者ができ、もっと人間ドラマに深みが出せたかもしれません。
尺の都合でカットされたのかもしれませんが。
あと、北中支・ダイマンの人種的背景が気になる。
天照人は日本人がモデルと分かるけど、北中支もダイマンも西洋風の名前なので、モデルの国家があるなら暗示してくれるとイメージしやすい。
いや、ファンタジー世界だから敢えて詳しくは出さないというのも賢明ですが、設定&歴史好きとしては物足らないところもあります。

■9/武島の娼婦②
フィナリアをダイマン軍に引き渡すシーンは中々良かった。
彼女の株は大分上がりましたね。
父親がダイマンの司令長官だったのは何となく予想通りでしたが、名前にフォンがつくってことはドイツモデルの貴族なのかな?
フォルモリアって同盟国がドイツモデルだと思っていたが…。
鱶爾と美禰のやり取り。
あっさりしすぎでは?
もう少し感動の対面となっても良さそうというか、五銭硬貨縫い付けた人形を渡したり、美禰はもう少しデレていたような…w
辛気臭いという性格だからこんなものなのかな。
でも料金以上の金額を払った事に対して怒っているのは良し。
娼婦には娼婦のプライドがあるよね。
規定の料金以上を払う成金みたいな真似は余りよろしくないというか、娼婦としては面倒な客になる恐れがある。
美禰にとって鱶爾が客でなく情夫になっているなら、金を払うのは逆に失礼になってしまう。
鱶爾の立場が客から情夫に変化するかしないか微妙なところなので、彼の対応は難しいところ。
これから死ぬ可能性が高い訳だし、これ以上美禰の心に踏み込むべきではないという気持ちもあるでしょうしね。
うん、良いやつです。

■ /若き決死隊
話数が振られていないが10話で良いんだよね?
うわぁ、人間魚雷か…。
遂にそういうのが来ちゃったか…。
史実でもあったよね、伏龍とか回天とかいうのが…。
こちらは紋龍と名づけられてますが、実際には回天のようです。
前回の感想時でも戦況が逼迫してるんじゃないの?と思っていたが、嫌な予感が当たってしまった。
これを冒頭、鱶爾の昇進・叙勲式とセットで描写しているのが秀逸と思う。
一等兵から三等兵曹になるが、新たに配属されてきた人間魚雷の乗員二人も三等兵曹。
勲章とか昇進とかまったくもって無意味である。
死ねば二階級特進でしょうけど、本当に無意味。
使い捨ての人間魚雷乗員二人が幼いのもまた哀しいところ。
美禰との逢瀬を重ねる機会を得る鱶爾だが、ここは今までで一番主人公らしい。
軍人や戦争に対する考えが語られる。
ここは作者の代弁でもあるだろう。

■ /空母「ペヂィキン」を撃沈せよ!
11話、あらゆる箇所で息苦しさが伝わってくる文章でした。
作者も息苦しかったのか、これまで余り見られなかった誤字も少し。
しもつき1号の乗員全てが全力を尽くし、最高の戦果を挙げるまで。
間違いなく、これまでで最大の緊迫度だった。
そして絶望感も半端ない。
潜水艦の戦いは狩人・狙撃手の戦いに似ていると思っていたが…。
ある部分ではそうだが、自らを危険に晒さなければ攻撃できないあたり、狙撃手より過酷だ。
人間魚雷・紋龍は決死の兵器だったが、しもつき1号もそれに近いものがある。
つくづく潜水艦には乗りたくないものだ。
敵を倒すうんぬんの前に、酸欠で死にそうになるのは本当に真っ平である。
また、潜水艦の戦いの全てが凝縮された密度の濃い話だった。
極端に言えば、序章と同様、潜水艦の戦闘描写だけならこの話単独で読んでも問題ないだろう。
最後、沈み行くしもつき1号。
ここも序章と同じですね。
滅びの美しさすら感じる。
主人公達の容赦の無い死を描写する事が多いヤーゲン節の集大成でもあったと思う。

■終/ヨーチンの帰還
生きてた!?
しかも説明無しかよ!!!!!
酔っ払った美禰の夢か幻覚か?
五銭硬貨縫い付けた人形が化けて出てきたのか?
ご都合主義すぎて納得できない。
戦争の勝敗も語られていませんしね。
他の乗員らはどうなったのか?
鱶爾だけが生き残ったのか?
色々と疑問は残るが、はっきり死んでいるのは佐治潟と皐月雨だけ。
他はあくまで生死不明だし、海底潮流に上手く乗ってどこかに打ち上げられたとか?
「ふしぎの海のナディア」でも絶対全員死亡しただろうっていう描写でフェードアウトしたノーチラス号乗組員が全員生きていたことだし…。
読者の想像に任せるということかな?
それとも続編への布石?
またはあとがきで色々語られるのか?
そっちも期待したいところです。
と言うのも、説明もなく生きていた事にしてハッピーエンドにするのは、これまで徹底したリアリティを追い求めてきた本作には似つかわしくないと感じたから。
鱶爾の遺影を胸に涙する美禰が、自分の命があるのは鱶爾のおかげだと思いながら強く生きようと決意する…とかでも良かったような…。
まぁ、最終回で主人公は生死不明、どう考えても死んでるだろうけどあいつが死ぬはずがない!…で、主人公の生存をにおわす形で終わっている作品は他にもある。
アリと言えばアリなエンディング。
ということで、ある意味、沈没を偽装したりする潜水艦らしい最終回でした。
完結お疲れ様です。

       

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