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「マッド・トルネコ」
http://neetsha.jp/inside/comic.php?id=13695


ブッコロ大魔王先生作品。
長期連載で文章量もかなりのものになります。
「漫画のアリキリは好きでも、こんな長い小説読めるかよ!」って読者も多いでしょう。
という訳で、かいつまんでそのエッセンスをお届けしたいと思います。

■粗筋
魔王デスピサロ討伐後のドラクエ4の世界。
軍をリストラされたライアンは、職安(ダーマ)で不思議なダンジョン探索の冒険者となる事を勧められる。
ダンジョンに詳しいかつての仲間トルネコを訪ねると、彼もまた商店や家庭から見捨てられ、最低な生活を送っていた。
二人は一発逆転人生を目指し、ダンジョンへ潜る。
モンスターを虐殺し、略奪し、恨みを買う。
良いところまで潜ったが敗退したトルネコは、かつての仲間達を召集する。
アリーナ、クリフト、ブライ、マーニャ、ミネア。
そしてトルネコの息子ポポロ。
それぞれが悲惨な境遇を抱え、人生逆転を志し、再度ダンジョンへ潜る。
だが、待ち受けるモンスター達にも様々なドラマがあり…。
という感じです。

■暴力、混沌、そして孤独感
同じ作者だから当然ですが、漫画におけるブッコロ大魔王先生の特徴は、小説においても遺憾なく発揮されています。
いや、むしろ小説だからこそ、その臭いは強くきついものとなっている。
これは、私が絵より文章からの方が強いイメージを受けるからというだけではない。
ブッコロ大魔王先生の漫画同様、小説も素晴らしいからでしょう。
暴力、混沌、そして孤独感。
暴力と混沌については言うまでもないですが、ここでキーワードとなるのが孤独感です。
漫画「新・アリとキリギリス」においてもそうでした。
虫達は集団生活を営んでいるものの、様々な危険によりいつ命を落とすか分からない。
頼れるのは自分だけ。生きる時も死ぬ時も一匹きり。
本作序盤でトルネコとライアンがパーティーを組みますが、一緒に魔王を倒した仲だというのに決して信用し合っていません。
むしろ内心、互いに毒づいている。
商店や家庭から捨てられたトルネコ、軍から捨てられたライアン。
社会の底辺に落ちぶれた彼らですから、そういう性格に捻くれるのも仕方がないのでしょう…。
ここで感じるのが「RPG版闇金ウシジマくん」です。
人は誰もが孤独。
信じられるのは金だけ。
世界は奪うか奪われるか。
勇気や愛なんてケツを拭くちり紙ほどの価値しかない。
最低だが最高でもあるショーへの期待が高まります。

■多人数一人称形式・丁寧すぎる書き込み
本作の特徴は、膨大な登場人物を出しながら、彼らほぼ全ての一人称が随所で出てくる事です。
最初に出てくるトルネコとライアンだけではなく、彼らと戦うモンスター達にまで。
中盤ではかつての仲間達であるクリフト、ブライ、マーニャ、ミネア、アリーナも合流。
トルネコの息子のポポロも加わります。
人間側だけで8人、更にその章ごとに関わってくるモンスター達も余すところなく心情をきっちり書いてくる。
「ソナタ」でも思いましたが、複数の登場人物を一堂に出して描写するのは相当な力量がいります。
そこを本作は多人数一人称視点で何とか乗り切ります。
破綻しそうでギリギリで破綻しない絶妙なバランス。
やっぱり所々、読みづらいのは仕方ないですが…。
同じシーンでも時系列を戻してまで、その場に居合わせたトルネコ達とモンスター達それぞれの視点で描く。
かなりの労力が必要だし、ストーリーを進めるのも遅々とします。
でも丁寧に、辛抱強く、むしろ粘着質に。
ブッコロ大魔王先生の描かれる漫画とそっくりです。
本当に細部に渡り、脇役一人一人に至るまで余すところなく、しっかり書き込まれています。
やはり漫画と小説とフォーマットは違えど、同じ作者さんだなぁと感じました。
読むのは疲れますが、読後は程良い充実感があります。

以下、各話感想です。


■旅の準備
原作であるゲームのドラクエ4。
戦士ライアン・商人トルネコ。
若者揃いの勇者達の仲間の中でも加齢臭漂う中年男性という事もあり、恐らく多くのプレイヤーから省みられる事がなかったのでは?
(ブライはまだバイキルトが使えるから出番はある)
ドラクエ4では1章がライアン、3章がトルネコとそれぞれ単独主役である。
1章ではホイミンが、3章では傭兵が数人仲間になるが…。
別に彼らを仲間にしなくても章のクリアはできる。
基本的に彼らは最初から最後まで孤独なのだ。
そう、孤独。
軍をリストラされるライアン。
商店ではネネに実権を奪われ、家庭的にも見放されたトルネコ。
彼らの孤独感・闇の深さが非常に際立って漂っている。
彼らを主役に据えたブッコロ大魔王先生の好みが伺える。

■そしてダンジョンへ
雑魚モンスター達を虐殺するトルネコ。
武器は2番アイアンや近代兵器。
ゲームの世界観と現実がごちゃごちゃになっているカオスはあるが…。
アリキリでも蟻達が何故かライフルなどの近代兵器を使っていた。
余り細かい事は考えない方が良いのかもしれないw
モンスター側の視点でトルネコ達が描かれると、やはりえげつなさが際立つ。

■さらにダンジョンの奥へ……
ドラクエに加え、ハガレン・シレンの世界観とも一緒くたになってますなw
何とも混沌とした世界観です。
カレーのくだりが狂いつつも笑えますwww
家庭から捨てられた既男と、元から一人の毒男の侘しい食事風景。
哀切漂いまくりですわwww(涙)
そして食事の後、変化の杖でモンスターを女性にしてレイプ三昧。
欲望全開すぎるだろ。
そしてライアンはショタホモかよwww
いやぁ、実にえげつない。

■特殊階層
トルネコ、ライアンがメインだが、時折モンスター視点も入るし、一人称がころころ変わるので読みづらいところが出てきました。
バーサーカーがどんどん強くなっていくのは不気味ですが、ゲームをした事がない人にはどういう仕組みなのか分かり辛いでしょうね。
ここまで読めたなら、ブッコロ大魔王先生の文章のノリにもそろそろ慣れてくるでしょうから、まぁ読めます。
ドラクエを基本的な元ネタとしつつも、ブッコロ大魔王的世界観が非常に強いですし。
ただ、できれば原作を知らない方でも読みやすいようにしていって欲しいです。
印象深いシーンとして、ライアンがモンスターハウスに入ってしまって、戦闘しながら述懐するくだりが良かった。
動きのある戦闘と心理描写を両立させ、テンポ良く感じます。
あと、トルネコがサブマシンガンをバーサーカーに対して乱射するシーンも。
ライアンは軍人として、トルネコは商人として、それぞれの経歴から来る物の見方と戦闘思想が見えて面白い。
トルネコの使う近代兵器は少々チートすぎやしませんかねw
勿体つけた口上を垂れているゾーマに火炎放射器浴びせるあたりとか、モンスター側に同情しますね…w

■黄金の弓
主にモンスター側の視点でトルネコ・ライアンの虐殺行為が語られる。
勇者一行の戦闘描写が途中で出てくるが…。
これは過去の回想?
やはり視点がころころ変わるので、読めない事もないがちょっとだけ読みづらい。

■新たなる敵
緊迫した戦いである。
悪魔神官にキラーマシンにアークデーモンの恐るべき連携。
いずれもドラクエでは高レベルモンスター。
それでもトルネコ・ライアンを倒すには至らない。
トルネコの肉の壁分厚すぎるだろwww

■そして復讐へ
スライムの罠にハマるトルネコ・ライアン。
キラーマシンやらを倒してきたというのにこのざまwww
ここまでずっとモンスター側の事情も描写されてきただけに、さすがにスライムを応援してしまうw
リリパットの族長は復讐で周囲が見えなくなってるな。
案外冷静なスライムと違い、まさに老害だ。

■かつての仲間たち
クリフトが一番悲惨な件www
様々な厄介事を押し付けられ、酒と麻薬に溺れ、狂人とならざるを得なかった姿には涙を禁じえない。
まとめるとこんな感じですね。
・トルネコ…家庭と仕事から見放されている
・ライアン…軍からリストラされる
・クリフト…酒と麻薬中毒者
・ブライ…国と教会の負債
・アリーナ…勇次郎
・マーニャ…ギャンブルで負債
・ミネア…マーニャの負債
・ホフマン…開拓町の実権をネネに奪われ失意のバイト生活
落ちぶれすぎだろみんなwww
世界を救ったはずなのにどうしてこうなった…。
と、勇者の現在が不明ですね。
回想では一番えげつない人でなしのように描写されてますが、一人だけハッピーエンド中なのか?
さて、勢いで読めているのですが、これだけの人物をまとめて描写するのに無理があるところも。
大体は口調などで分かりますが、時々誰が喋っているのかわからない時がある。
せめてもう少し一人称で語る人物は絞って欲しいところです。

■グリード・ラビリンス
バーサーカー怖すぎですな。
それもどうも彼はドラクエ3の勇者の仲間だった模様。
道理で強いはずだ。
それがゾーマのしもべとしてドラクエ4の勇者の仲間達と戦うとは…。
モンスター側の事情もまた面白いんですよねぇ。
バラモスゾンビとのやり取りは結構笑いましたw
次々と襲われ、死んでいくトルネコ軍団。
ホラー映画のようでした。
ただ、冗長です。
面白いんですが、流石にくどい。
登場人物が増えた事でやむを得ないですが、トルネコ軍団だけでポポロ含めて8人。
バーサーカーなどのモンスター側の視点も入る。
しかもパーティーがバラバラになり、追うべきシーンが多い。
そりゃ長くなりますね。
時系列も時折どうなってるのか分からなくなる事があり、ちょっと理解するのが辛かった。
ぶっちゃけ本筋だけ追えば4分の1ぐらいにカットできると思う。

■グレイト・ヴィレッジ
ここまでと違い、三人称で客観的に書かれています。
誰の視点でもないのはこれが過去の話だからでしょうね。
ポポロがグレイトドラゴンとギガンテスを使役するようになるまでの話のようです。
三人称でモンスター側の話が中心、しかも童話のように語られているので、アリキリのような印象を受ける。
更新の時系列的に、アリキリの作風に少し引っ張られていたのかもしれないですね。
大自然と一体化のくだりとか特にwww
それにしても、ポポロはおっそろしいガキんちょです。
村の内部に入り込んで内部崩壊させていく様がありありと描かれていて。

>その表情は、親子だからだろうか、トルネコの表情に似ていた。トルネコが虐殺のときに浮かべる、あの表情に。

ゾッとしますね。
結局は親子なんだなぁ…。
トルネコの物理的な虐殺に対し、ポポロのは精神的な虐殺ですね。
私はドラクエは本編しかやった事がなくて、モンスターズの方は良く分からないんですが…。
ブラック過ぎますね、魔物使い。
ドラクエ5から出てきた魔物使いですけど、仲間にする方法が「魔物使いを含むパーティーでモンスターを倒すこと」だったので。
何となくだけど、「拳と拳で語り合って友情が芽生えた」という解釈をしていたんですよね。
でも本作における魔物使いというのは…。
うう~~ん、ブラック。
微糖すら許さない苦々しいブラック。
内容的にも文章的にも、このグレイト・ヴィレッジ編が一番好みです。
長かったけど一番読みやすかった。
常に三人称でしたが、終盤でシーザー、ギーガ、ポポロ達の一人称に切り替わるんですがそれも効果的。
ぞっとするマッド・トルネコ世界を存分に堪能できました。
まさかポポロの過去を書くのに、ここまで丁寧にやるとは…。
シーザー・ギーガ・ドラキー達が哀れでならない。
生き残り組であるネックとスラ吉にもこんなドラマがあったなんて…。
やっぱり人間側がどうしようもなく鬼畜で、モンスター側に感情移入してしまう。
で、こんなにモンスター側に感情移入させておいて、バッサリとポポロの思惑通りに大虐殺ですよ。
諸行無常を感じますね!
本当にこの章は素晴らしかった。
次回以降、バーサーカー、ライオネック、バラモスゾンビ達の逆襲に期待したい。
アリキリだって69号が最後くたばったんだから、主役死亡エンドだって十分ありえますからね。

       

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