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「壁の中の賭博者」
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顎男先生作品。
この企画で様々な顎シリーズを拝読してきました。
これが最後かと思うと感慨深いものがあります。
まぁ、企画が終わっても顎作品はまた読んでみたいと思うものが多かった。
滅神、天敵、パル夏、稲妻…。
その中で作品として良くまとまっていて完成度高いのは天敵かなぁ…。
でも好みなのは稲妻。
方向性が違う作品だから比べられるものではないけど。
さて、本作はどうでしょう。

■樹畑錬という主人公
あとがきを読む前、「樹畑は顎男先生の素面に最も近い主人公」と感じていた。
なので「俺は主人公がとても嫌い」って書いててマジかよってなった。
嫌いなタイプのキャラを主人公に据えて一人称で書けるものなのかなと思うんですよね。
樹畑のどこが嫌いなんだろう。
弱いところ?
世界から拒否され続け、愛されたいけど愛されない。
性格捻じ曲がっちゃうのも仕方がない。
どこまでも報われない樹畑ですが、もがきながらも戦う。
その姿は割とマジでかっこいい。
やはり、樹畑は顎男先生の一部だと思います。

■屑ばっか
全編通して読んでいて辛いな、と感じる。
賭博で勝った時でさえ、カタルシスは一度も得られない。
主人公の樹畑含め、殆どの登場人物が屑ばっかです。
アキト、アヤカ、凍理先輩はまだちょっとましですけど…。
それ以外はかなり酷い。
まったくラノベっぽくないというか、読者を楽しませようという意図が感じられない。
屑は屑でも愛すべき屑ではなく、笑えない屑です。
いや、屑というだけなら敵として出てきて、弐倉のように倒せた時はちょっとスッとします。
でも敵としては出てこず、単に「主人公に対して優しくない」ってだけの人物が多い。
意図的なキャラ造形なんでしょうが、読んでいる方としてはストレスが溜まります。
主人公に自己投影して読むと、この世界の理不尽さに憤慨してしまいますね。

■作品全体を通して
あとがきも読みましたが、「失敗作」というのも頷けます。
でもところどころ、印象深いシーンもある。
ゲーム部分はまぁそこまで分かりづらいものではない。
麻雀やらない私でもこれは亜種麻雀だし雰囲気は良く伝わりました。
ストレスを感じてしまう時点で、エンタメとしては確かに失敗作でしょう。
三人称で書かれていたらもうちょっと面白く感じられたかもしれない。
でも樹畑の心情を書くには一人称でないといけないと思う。
ひりひりする空気感、樹畑のやるせない感情。
そういうものが強く伝わってきて、賭博小説というだけではなくて…。
一人の屈折した少年がもがく様としては、心に迫るものがありました。
だから読後感も悪いものではない。
心に焼き付くという意味では、他のあかるい顎シリーズよりも優れている。
読んで良かったと思います。


以下、各話感想です。


■01.樹畑錬
一人称小説ではより作者の性格がそのまま現れていることが多いけど。
樹畑はこれまでで最も強く顎男先生の分身、素面、本音のようなものが出ていると思う。
稲妻の真嶋慶が「かっこつけてる顎」
本作の樹畑錬が「かっこつけてない顎」
…じゃないかな~とw
文章がとても簡潔だからでしょうか、より凝縮された顎っぽさが出ている。
壁殴るところとか、自己評価は低いなりに負けん気は強そうな主人公。
うん、やはり顎男先生だ。

■02.善悪選別ゲーム
簡易麻雀でしょうか。
これは良いですね。
麻雀のルールを知らない読者にも興味持ってもらえる。
天使は間違いなく性格悪い。

■03.〈ダスト〉
ひゃー。
ヒロイン()
ちょっとこりゃないよー。
どうすんのこれw
可憐な美少女からの醜い末路。
容赦ないなー。

■04.死者は還らず
樹畑家の家庭の事情、重いなぁ…。
月島ちゃんが発狂するのと、錬が働きたくないと発狂するのとが被る。
つまり顎先生も死ぬほど働きたくないんですね、分かります。
そして知野や弐倉。
何なんでしょう、このまったく好きになれないキャラクター達。
暗いストーリー。
サクサクノベルで読みやすいのですが、ちょっと心が痛くて辛くなってくる。

■05.弐倉
ゲームの行方よりも、樹畑と弐倉のいがみ合いが面白い。
子供、生徒、それも劣等生の立ち位置から弐倉への恨みつらみを述懐する樹畑。
大人、教師、それも嫌味な教師の立ち位置から樹畑を批判する弐倉。
どっちもどっちという感じではあるw
そして弐倉に勝利し、文字通り地獄に叩き落し、得た一億円。
だが知野にも、両親にも「ありがとう」と言ってもらえない。
救われないなぁ…。

■06.黒夢
樹畑が顎男先生の素面に一番近いように思える。
…と言いましたが、どんだけ鬱屈してるんだろう、闇が深い。
読んでて辛いっていうか、胸が痛いよーーー。
生きていても地獄と変わらない。
冷蔵庫にカップ麺とか本当にこの世界狂ってますね。
だが樹畑の不器用な生き方が、時間はかかったけどここにきてようやく好ましいものに思えてきた。

■07.凍理先輩
人格破産者って言い回し良いですね。
人格破綻者じゃなくて破産者。
ギャンブラーに相応しい。
そして凍理先輩と双葉とミカヤ。
いずれも美少女っぽいし、やり取りが軽妙です。
何だかんだでラノベしてきました。

■08.片端者
孤児院で餓死者がバタバタと出るくだり。
ここは日本なのか…恐ろしい。
アキトの仇をとったのに、やっぱり「ありがとう」と言ってもらえない樹畑。
心に木枯らしが吹きすさぶエンドです。
虚しいなぁ…。
でも、樹畑は苦しみもがきながらも生きていくのだろう。
顎男先生も頑張って下さい!

       

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