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「私の部屋と不思議な穴」
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火呼子(ひよこ) 先生の長期連載作。
まるで藤子不二夫の「SF(すこしふしぎ)」な漫画を読んでいるかのような面白さ。
二日かけてじっくりと読ませて頂きました。
実に楽しい読書体験をありがとうございます!

■第一部 第一話
タイトルそのままの内容です。
主人公の名前はないが若い女性の一人称小説。
「わたし」は高校卒業後、早く自立したくて就職したものの、周りの元友人達が結婚したりする中、急に自分には何もない事に気づき、ふつりと働く気が失せてニートとなってしまう。
ゲームや本を読んだりというインドア派の彼女は、ひたすら実家の部屋で無気力にゲームばかりして過ごす。
そんなある日、彼女は部屋のカーペットをめくったところに不思議な穴が空いている事に気がつく。
自分の部屋から別の世界への扉が開かれている!
主人公は穴を観察する楽しみに取り付かれる。
そして干渉してみたくなるが、意図せず、穴の中の世界の住民に酷い事をしてしまう。
まるで「ドラえもん」の映画「宇宙小戦争」の冒頭のようなワクワク感があります。
商業の他作品を例えにするのは私が好む表現ですから気にしないで下さい。
文章力は高く、誤字も見当たらず、内容も独自性がありますし、続きが物凄く気になる。
何もかもレベル高くて、一気に惹きつけられました。


■第二話
穴は最初一つだけだったが、いつの間にか五つまで増殖していた。
一つ目、最初に発見した穴、謎のふわふわ毛玉「ピンクちゃん」が住んでいる。
二つ目、妖精のカップルがいた。
三つ目、暗闇の中、僅かな明かりと女の顔がついた歩く植物「プラちゃん」が住んでいる。
四つ目、何もない洞窟。
五つ目、不明
穴はいずれも小さく浅い。ゴルフホールよりも小さい。
でも中を覗くと広々とした異世界が見える。
そして遂に、穴を覗いている内に、プラちゃんの世界へ入ってしまう主人公。
成り行き任せに行動していたが、意図せず穴の中の世界を救ってしまう。
惹きつけられると言いましたが、穴の中の世界に引き込まれるものがありますね。

■第三話
先が読めないワクワク感。
不思議な穴世界では次に何が起こるのか?
二、三行先の事も分かりません。
不思議の国のアリスのような…。
こちらの世界とは違う物理法則や常識で動いているようです。
「プラちゃん」の穴は、主人公がその世界を救済したからか、徐々に小さくなって遂には消えてなくなってしまう。
逆に、残り四つの穴の内、五つ目の穴は他の穴より徐々に大きくなっている。
最初は二センチ程度の穴だったのが、今や五センチ程度の大きさに。
主人公は五つ目の世界を覗いてみるが、そこは海草が揺らいでいるだけの水槽の世界だった。
水槽の向こう側には人間の研究者らしき人影が。
主人公は思い切って水槽世界の穴へ飛び込む。
すると水中なのに息ができる。
海草は姿を変え、何と別の穴で見た「ピンクちゃん」に変身する。
まったくもって面白すぎるw

■第四話
水槽の世界の「ピンクちゃん」は現実世界にもついてきてしまう。
そしてそのピンクちゃんを伴って一つ目のピンクちゃんの世界へ。
謎現象、理解できない流れに翻弄される主人公。
また、やはり穴の中の世界と現実世界では時間の流れが違う模様。
ピンクちゃんの世界でほんの僅かな時間を過ごしただけだったのに、現実世界では二十時間も過ぎていた。
ピンクちゃんの描写は何と言うか微笑ましいですね。
主人公にしかピンクちゃんは見ることができず、同居してる母や父には見えない。
もしや主人公は、現実逃避する余り、幻覚でも見ているのではないかと疑いたくなる。
そしてそんな主人公は、話の成り行き上、仕事探しをしなくてはならなくなってしまう。
せっかくニート生活にも理解のあった両親なのに…w

■第五話
穴はその中の世界を救うごとに消滅している。
そしてある世界で手に入れたアイテムを別の世界へ持ち込むことにより、その別の世界を救うことができる?
また、異世界の中の主人公には、目をこすれば視力が良くなり、足をこすれば歩いた疲れが取れる…といった能力が備わっている。
まるでレベルアップしながらロールプレイングゲームをクリアするように穴を攻略していく主人公。
洞窟の世界もピンクちゃんの世界で手に入れたピンク色の小石を持ち込むことで攻略。
毎回思っていたけど、穴世界の描写がこの話は特に素晴らしい。
これで残るは妖精の穴だ。
でも第五話まで来たが、なぜ主人公の部屋に穴が空いたのかとか、肝心の謎は明かされていないw

■第六話
遂に妖精世界も救う主人公。
何とも不思議な旅の連続でした。
異世界を五回も救った主人公は、もう無気力なニートではありません。
前向きになり、バイト探しを始める。
が、バイト面接に行く途中、謎の睡魔に襲われる。
デジャブというか前も現実としか思えない夢を見ていたが、今回も同じだった。
これは第二部への明らかな伏線ですね。
バイト面接から帰って、部屋で寛いでいると、部屋に謎のひび割れを発見。
母親に見せるが例の穴のように見えていない…。
これってまさか…。
次の冒険が始まるようですねw
というところで第一部完。
第六話で主人公の人間的成長も感じられ、第二部への引きとなる良い落ちでした。
構成素晴らしい。

■第二部 第七話~十二話
主人公が異世界体験を通じて成長し、脱ニートを図るまでの第一部。
そして第二部は友達作りがテーマのようでした。
面白すぎてページをめくる手が止まらず、第二部は一気に通して読みました。
ひび割れの世界は、並行世界でもう一人の自分がいた。
主人公が自分を見つめなおす良いきっかけとなっていましたね。
もう一人の自分は、主人公とは違う選択をして、穴の事、友達の事、状況が微妙に異なっていた。
主人公は異世界を救ってきて成長している。
友達作りにも積極的になれるのだ。
退職した会社の後輩ちゃん、高校の頃の友達マリリン。
友達が増え、バイトも始める。
まっさらな予定だったのが嘘のように現実世界が充実していく。
でもその一方で、部屋に出現した新たな穴にトキメキを感じず、むしろ厄介ごとにしか感じなくなってしまう…。
うーん、読ませるなぁ。
実に面白い!
何だかね、私いつもあらすじを書きながら小説の感想書いてます。
でも、それってやっぱり「攻略本を先に読んでからゲームを攻略する」って感覚に近いのかな?
このドキドキの読書体験は、実際に読んでもらい、まっさらな脳内でイメージしながら読んだ方がいいでしょう。
…という感想ですw
まぁ、それだけじゃ何なので…。
二十代の女性の等身大な姿を書くのが上手い。
主人公が特にそうだし、後輩ちゃん、マリリンとのガールズトークなんか凄く自然体。
主人公は恐らく二十六歳で胸も薄いらしいのに、凄く可愛らしい。
後輩ちゃんはもっと可愛い。
現代的な女性キャラを書く上で、非常に勉強になった。
名前は全然出て来ませんけど、キャラクターの好感度は全員非常に高い。
そう、嫌なキャラクターが一切出てきません! 驚くべきことに!
癖のある悪役や嫌なキャラを出さなくとも、十分ハラハラドキドキさせられるのです。
この作品、未読の方は勿体ない!
これまで読んできた文芸作品でも、間違いなく上位の傑作ですね。
少なくとも「読んで損は無い」レベル。
いや、個人的には「読むべき」レベル。
第三部は通して読みたいので、楽しみは後に取っておきたいと思います。


       

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