Neetel Inside ニートノベル
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村から「肉の館」までは、鬱蒼とした森が続いていた。
高く伸びた木々が陽の光を遮っていて、
昼間なのに薄暗い。
葉の腐った臭いと土の薫りが鼻腔を満たした。
枯れた落ち葉が、靴の裏でキシキシと滑る。

「気持ち悪ぃ村だなー、あれ」
道すがら、kiriaが呟く。
太っている彼は、汗だくで、歩くのが少し辛そうだ。

「明らかに俺らを警戒してた感じだよな。
なんなんだあいつら」
akiraも同意した。語気が強く、怒っているように見える。

「所詮、都会の文化も知らん、土人共なんだろ。
滅多に人来ないから珍しがってんのかな」
「akira、”土人”ってお前・・・」
僕はakiraの言葉遣いを諌めようとする。
だがakiraの怒りは収まらなかった。

「社会の常識も知らんような、あんな奴らは
土人って呼んでいいんだよ。
ここら辺、部落の奴らが沢山いるっつってたけど納得だわ。
本当にB級人間しかいないんだな。
知らない人に会ったら挨拶しろってガッコで習わなかったのかよ」

「まあ確かに、やたらジロジロ見られるのは気になったな。
怖かったもん、通り歩いてる時も」
「”田舎に泊まろう!”なんて嘘だな。
田舎があんなにフレンドリーな訳ねえじゃん」

akiraがヒートアップし始め、
「田舎が実は陰湿論」を語り始めようとしたので、僕は話題を変えた。

「でもあんなに家古いのに、
停まってる車は高級そうだったよな。レクサスとかあったぞ。」
「部落の奴らだから、補助金とか貰ってるんだろ。」
「本当にあんのかな、そういうのって?
部落出身だったら簡単に地方公務員にも入れるとかって噂もあるよな」

kiriaは「え、それマジで?」と驚いた。
職を転々としているkiriaにとっては、就職を斡旋してくれる
という噂は、耳に響いたらしい。

「いや噂だけどね。
今まで差別してきたお詫びに、ボーナスしますよって事じゃない?」
「めっちゃ羨ましいじゃん、それ。マジ俺も部落になるんだったわ~」
「今はそんな特権も無いって聞くけどね。
部落の人らも普通に働いてるし、区別つかないって感じらしい」

akiraは
「部落って在日の奴らが多いんだよな、マジ害悪だわあいつら」と呟く。
その辺の話題に触れると、akiraの逆鱗に触れそうな気がしたので、
僕はそれ以上入っていかなかった。

スマートフォンを立ち上げ、「肉の館」のページを読む。
黒い背景に赤い文字。
足を運んだ人のレポートだ。
ページを作成した人の、恐怖体験が綴られている。
実際に体験した出来事という体で書かれているが、
中盤からの展開が飛躍しすぎていて、僕は創作だと感じた。
電源ボタンを押し、スマホをポーチに戻す。

「屠殺場って、動物の霊が出るとか、あんのかな。
牛とか豚の霊が出ても、全然怖くなさそうだけど」

akiraとkiria、どちらに言うでもなく、呟く。
答えたのはakiraだった。
「大学の同級生から聞いたことあるわ。出るっつってたぞ」
「出るって、豚とか牛の霊が?」
「いや、人らしいぞ。人の形で出てくるらしい」
「人ぉ?殺されてんのは動物な訳だろ」
「俺も詳しいことは知らんけど。でも畜産とかやってる奴らは
めっちゃ見るっつってたな。常識らしい」

牛や豚の霊じゃ体験談としてインパクトに欠けるから、
人の霊が出た、という事にしたのだろうか。
僕はそう推察する。

「鶴の恩返しの逆バージョンだな」
そう呟く。ボケたつもりだったが、
akiraは突っ込む訳でもなく「そうだな」と簡単に返した。

「けど屠殺ってのも、なかなかきつい職業だよなあ。
毎日、牛とか豚を殺さなくちゃならん訳だろ?
相当精神的にクると思うんだけど」
「やってる奴らはそんな意識も無いんじゃないか?
もう動物じゃなくて肉塊としか思ってないんじゃねえか」
「そう割り切れるもんかね。離職率は高いって聞くぞ。」

akiraは思い出すように上を見上げる。
「俺も前にyoutubeで観たわ、豚が捌かれるヤツ。
ナイフがスッて豚の首を通って、血がバーッと出て、
目ェ開けたまま豚が死ぬんだよな」
僕はその絵を思い浮かべた。首の辺りがヒヤリとする。

僕は話を受けて、続ける。
「まあそれも、ひと思いにやってる訳だから、
まだ人道的な方法だろうな。
牛とかも残酷らしいぞ。空気銃で眉間を打ち抜くんだって。
それですぐ死ぬ牛って、そんないないから、
大抵の奴らは、血を流しながら暴れるって」
「いやだなそれ。痛くないようにはできんのかね」
「一応麻酔とかはあるけど、
高くてどこも使わないっていうのは聞くな。
ホントに使ってんのは、道楽で畜産やってる金持ちだけだろうな」

しばらく歩いたが、まだ「肉の館」には着かない。
kiriaは「ちょっと休憩」と言って
岩に腰をかけ、炭酸飲料を飲み始めた。

「意外と遠いもんだな」
適当な休み場が見つからなかったので、僕は中腰になった。

akiraは心底辛そうな顔で「喉めっちゃ渇いたわ」
と呟く。どうやら飲み物を買い忘れたらしい。

「心霊スポットに行こうとか、よく考えるよな」
少し呆れたような声で、akiraが僕に言う。
「肉の館」へ行こうと提案したのは僕だった。
「ネットで公開しようと思ってて。なんかネタになるかなって」
「2chとかに書き込むのか?
”不気味な集落に行ってきたんだが”みたいなタイトルで。」
「まぁそれもいいけど、ニート社のニノベってとこで書こうと思ってて」
「ああ、前なんか言ってたな。ワンパンマンとか載ってるところか」
「今はニート社、抜けてるけどね、ワンパンマン。
あそこはすぐ反応貰えるから面白いんだよ」

その後僕は、乱立する小説家志望サイトについて、色々と文句をつけた。
どの小説も異世界に行ってハーレムやってるヤツばっかりで
独自性が無いだとか、願望丸出しで気持ち悪いわとか、
ほとんど愚痴に近い、批評を行った。
ただkiriaやakiraはネット小説というのをあまり読まないようで、
あまりピンときていないようだった。

それらの議論は僕にとって面白く、
森に漂う鬱屈とした雰囲気が幾分が和らぐような感じがした。

       

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