Neetel Inside ニートノベル
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丘には階段があって、
その先に目的地らしき建物があった。

墓に取り囲まれるようにして、「肉の館」は建立していた。
コンクリートで作られた非常に簡素なつくりで、
建物の形状としては、殆ど四角形で構成されていた。

蔦が窓や屋根から伸び、血管のように外壁を這っている。
また、外壁は黒く煤けており、年月の重みを感じさせた。
窓の中は真っ暗で、何があるのか伺い知れなかった。

kiriaが「まいったな」という顔で
「アレかぁ・・・いかにも廃墟って感じの所だな」と言う。
「何で墓に取り囲まれてるんだろうな。
殺した動物とかを弔ってるって事かね?」
「そんな一匹一匹弔ってたら、
どんだけ時間あっても間に合わないだろ。
お前、肉食う前、いちいち動物を弔ったりするか?」
「そりゃしないよ。じゃあやっぱあの墓って、儀式的なモンか?」

kiriaは「わからん」と言って、階段を登り始めた。僕も続く。

「ここまで来て言うのもアレだけどさ・・・あんまり行きたくねえな。」
kiriaが呟く。
「もう来ちゃったんだから最後まで行こうぜ。」
「いや、あの建物が怖いって言ってるんじゃないぞ。
ただなんか雰囲気的に、あんま足を踏み入れたらいけない場所っぽいじゃん。
後で村の奴らから怒られないか心配だわ」
「大丈夫だろ。サイトに載ってるくらいだし、俺らの他にも
結構行ってる筈だって」
「大体、なんでここがいわくつきの場所なんだ?
屠殺場って別にどこにでもあるじゃん。
恐怖エピソードっていうか、そういうのあるの?」
「ああ、あるね。サイトに書いてあったよ」

kiriaは足を止め、
「どんなの」と僕の目を見て言う。

「屠殺場っていうのは本来動物を殺す場所だろ。
豚とか牛を仕入れて、それ捌いて、肉屋とかに運ぶっていう仕事を
請け負ってた訳じゃない?
けどここが違うのは、
動物じゃなくて人間を殺してた可能性もあるって事だよ。
色んな肉に紛れて、人間を殺してたっていう噂があるらしい」
「大方予想はしてたけど、やっぱそういう事かよ。
で、その怨念が祟ってる的な事か?」
「そういう事だろうな。殺された人の怨念が」

kiriaは「マジかよ」と言って前を向き、再び階段を登り始める。
彼はグロテスクな映画などには耐性があったが、
心霊的なものはあまり得意ではなかった。

「肉の館」の前に着いた。
正面玄関らしき所から侵入を試みる。
コンクリートで囲まれた廊下は暗闇であった。

気になったのは、地面に紙が散乱している事だった。
しゃがんで、何の紙が散らばっているのか、まじまじと見てみる。

一枚は、昭和の時代に作られたであろう、求人広告だった。
印刷の方法が非常に古く、字体は手書きのようだ。
時給も非常に安く、現代との貨幣価値の違いを感じさせた。

他の紙を見てみると、成人誌の紙片であったりとか、
怪しげな宗教団体の広告も散らばっていた。
全体的に古く、紙の質が、現代のものではないと感じさせた。

廊下を抜けると、厨房に着いた。

ステンレス製の台が並んでいる。
天井には、かつて動物を吊り下げていたであろう、パイプが伸びていた。
パイプには可動式のフックが付いてある。
動物を吊り下げる為の装置だろう。

壁のタイルには幾つもの「染み」があった。
血痕が壁に染み付いたものだと思われる。黒く浸透している。
ここで屠殺を行っていたに違いなかった。

「動物の悲鳴が聞こえてきそうだな」僕は呟く。
akiraが「やめてモーってか?」と返す。

kiriaは「なんかいわくつきとか言ってたけど、入ってみると
意外と普通だな。どこでにでもある解体場って感じじゃないか?」
と言って、少し安心したようだった。
「けど壁に血とか付いてるじゃん。
こういうの見たらやっぱりちょっと怖くならない?」
「そりゃ屠殺やってるんだから、血が付くのは当たり前だろ。普通だろ」

シンクにはノコギリが置いてあった。
刃先がボロボロで、上の部分が無くなっている。
無数の動物を切り刻んだノコギリだろうか。

シンクの棚を開けてみた。
すると、手帳が中に入っていた。

これもかなり年季が入っている。
カバーが革製で、水分と泥でページ同士が張り付いていた。
ページの中で、比較的張り付いていないページをめくってみる。
中にはメモが書かれていた。
「里崎参加× 洗浄? 琵琶湖誰を向かわせるか
臭いが酷いので要洗剤 」等と、
意味のよくわからない言葉が並んでいた。

akiraに「何だろうなこれ」と言って手帳を見せる。
「書いてる奴しかわからんのじゃないか。
個人的な内容だろこれ」
「ぽいよな。琵琶湖って何だろ」
手帳をスマートフォンで撮影し、棚に戻す。

akiraが「んでさ、なんかネタになりそうなものはあったか?
今見た限りじゃ肩透かしっていうか何もなさ気だけど」と聞いてきた。
「うーん、いや、特にないっぽいな。
俺の編集技術で何とかするわ」

スマートフォンで厨房のあちこちを撮影する。
帰って、パソコンで編集して、アップロードするつもりだった。

       

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