いくらなんでも、今日が7日だなんてありえない。
「思い出せ、俺。」
何があったのか。
ちゃんと、きちんと。
「あ、あっああぐ…。」
頭がひどく痛んだ。
痛くて痛くて痛くて。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
頭と胸がまるで誰かに締め付けられているようで、ひどく苦しい。
考えてはいけないような気がする。
身体が自分の行為を拒絶しているのだ。
「はぁっはぁ…。」
疾うの昔に完治したはずの喘息が再発したかのようだった。
よう、久しぶり。
オレは知ってるぜ、お前の苦しみを。
全部オレに任せるんだ。
そう、まずは呼吸を整えて、慣れた手順でさ。
なあに心配するなよ。
今までだってずっとそうしてきただろ?
自分の中に閉じこもって周囲を拒絶した。
お前はずっとそうしていれば良いんだ。
オレが言う通りに。
そうしてりゃ、オレだけは見捨てないでいてやるよ。
だから今は休め。
そいつは残酷なくらい優しい。
そいつの存在に安堵している自分がいることを俺は恨めしく思った。
そこは満開の桜の下。
僕のお母さんはやさしかったんだ。
すっごくすっごく。
お母さんがいたから、僕たち家族はわらっていられたの。
「お母さんに、会いたい?」
僕は…平気だよ。
いっぱいお勉強をしてね、それからね、えっと。
僕ね、お父さんにわらってほしい。
「お父さん?」
お母さんがお星さまになるまえみたいに、あはって。
お母さんに怒られてえへへって。
「お父さん、好き?」
僕ね、わらっているお父さんが大好き。
無邪気な子供の体には小さな痣があった。
ピンポーン。
とあるアパートの104号室の鈴が鳴る。
「すみません、鞄を忘れてしまったみたいなんです。ドアを開けてくださいませんか。おーい。」
バタンと扉が開き、そこから男が顔を出した。
「もう、乱暴に開けちゃ…ダメ、ですよ…?」
「ああ、ごめんね。なんだ直子ちゃんか。」
「え…あの、えっとその…。」
女は自分の直感が告げる違和感に戸惑っていた。
「直子ちゃんなら、良いよね。」
そう言いながら男は女の唇を自分のそれで塞いだ。
女は暫し硬直をしたが、状況を理解すると顔を真っ赤に染めた。
「なんてことをするんですか!!変態!最低!!貴方なんて、知りません!!」
パシーンと頬を平手打ちされる男。
が、それくらいでは怯まない。
「ひどいな、キスぐらいで。」
「なにがキスぐらいですか!!初めてだったのに!!」
女はひどく取り乱している様子だ。
「ごめん、ごめん。オレが責任取るからさ?ね?」
女と比べると男がキスなどに動じていないことは明らかであった。
「お断りします。信じられない、こんな人が本当にいるなんて…。」
「ひっどいなー。こんな色男、オレ以外にいるわけないって。」
首をかしげながら、男はやれやれとジェスチャーをしてみせた。
「そういう意味で言ったんじゃありません。誰ですか、貴方は!!」
どうやら女は男の言動に呆れてしまったようで、地団太を踏みながら105号室へと戻っていった。
「へぇ。珍しいタイプだな。用心しとかねえと。」
また邪魔されたらたまらねぇよ、と男は心の中で呟いた。
やっと桜がいなくなったのに。
次はどうしてやるべきか。
「迷うな。ははっ。」