Neetel Inside ニートノベル
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椅子にもたれて天井を見上げる。
チクタクと秒針が進む音。
時間は絶対に止まってはくれない。
そうだ。
タッパーを洗わなきゃ。
これ、やっぱり返した方が良いよな。
とりあえず流しに立つ。
洗い物をするなんて久しぶりだ。
引きこもりを始めてからは特に洗い物をする必要がなかった。
弁当を頼んでいたから、ゴミを捨てるだけで良かったのだ。
しかし流しには洗剤とスポンジがある。
いつ購入したのかは自分でもよく分からない。
多分気まぐれだったんだと思う。
過去の俺の心情を今の俺が完全に理解出来るなんて有り得ないことは言わないが、それでもそいつは俺なのだ。
昔も今も俺は俺という一人の人間であることに変わりはないのだから。
ところで、この時間になっても弁当が届いていないのは何故だろうか。
いつもなら大体11時くらいに玄関のチャイムが鳴っていたように思う。
まあいいか。
人間は何も食わなくても約1ヵ月は生きていけるらしい。
水分を取らなければ3日。
弁当をほんの1日食わなくたって問題はない。
このまま1ヵ月放置されるのもそれはそれで面白いのだが。
掃除はほとんど終わってしまったのでやることが無くなってしまった。
本を読もう、そう思って本棚に向かった時。
ピンポーン。ピンポーン。
弁当が届いたんだろう。
玄関へ急ぐ。
ドアを開けると強い日差しが差し込んで思わず目を閉じた。
部屋の中は恒常的にカーテンで覆われていて、何もかもを遮断する。
その居心地の良さに俺は酔っている。
ずっとここにいたい。
俺をどうか見つけないでくださいどうか僕をミツケテクダサイ
「今日は良い天気ですね。そんなに目を閉じたら勿体ないですよ。」
誰かの声がしたせいでつい瞳を開いてしまった。
「こんにちは。タッパーの催促に来ました。」
向日葵のような笑みを顔に貼り付けた女がその場にいた。
ああ。
こいつは、田村直子だ。

       

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