Neetel Inside 文芸新都
表紙

書き散らし駄文録
虎神様の話

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高い高い崖の上白く大きな体を震わせて、虎神様は叫びます。

眼前に迫る、もっとも偉大で、もっとも勇猛な神
自らの親友であった、竜神へ向けて
虎神は叫びました。


決着はすでにつきました。


竜神に抵抗した神は噛み砕かれ、引き裂かれ
同調する神々は増えつづけました。

人間もよく戦い、古き神の数柱も人間に滅ぼされました

長い戦いの後、お互い退くことのなかった両陣営は壊滅し
残っているのは、竜神と虎神だけといっても過言ではありませんでした

「竜神よ、貴様は神の時代を終わらせて何をするのだ」

虎神は吼えつづけます。
体中が傷つき、自慢の牙もへし折れた満身創痍の。
目だけが爛々と輝く竜神へと、怖れをこめて吼えました

「虎神、君こそ人間を滅ぼし何を作ろうとしたのだ
 我々に従順な新しい人をつくり、また反抗の態度を見せれば滅ぼすのか。」

「それの何が悪いのだ!」

かつての親友であった二人は高い崖と空中で睨み合いました

「所詮、裏切りの神はこのようなものか、同朋を殺し
 尚も詭弁を止めようとしない。
 そのような者に私は負けるわけにはいかない。
 引導を渡そう、親友であった私が
 君を増長させてしまった原因である私が!」

虎神は白い体を震わせると、一目散に竜神へと飛びかかりました
竜神は長い体を鞭のようにしならせ、飛びかかる虎神を打ち据えます。 

虎神は崖へと叩きつけられ、そのまま眼下に広がる森へと落下していきます
高い崖が衝撃で崩れ、土砂虎神が落ちたであろう場所へと降り注ぎました

竜神はなおも、虎神がいるであろう場所を睨みつけました
虎神はこれぐらいで倒せる相手ではないとわかっていたからです
虎神はもっとも力のある神の一柱で、もっとも古い神の一柱です。

彼に力で対抗できるのは、竜神か、蛇神か、鳥神しかいませんでした。
ですが、蛇神は傍観を決め込み、鳥神は既に滅びました
彼とまともに戦えるのは、この満身創痍の竜神本人しかいなかったのです。

突然森が燃えました。竜神は急に燃えた森に一瞬気を取られました
その隙を虎神は見逃さずに竜神の体を爪で切り裂きました。

「余所見している暇があるのか?竜神よ」

虎神は勝ち誇ったように、嘲るように吼えました
今のタイミング、殺ろうと思えば殺れたタイミングでした
虎神は、傷ついた竜神では相手にならないとアピールしたかったのでしょう
傷は深いですが、致命傷にはなっていません。

竜神は炎を吐きました。
といってもけん制にもなりません
虎神はすばやい動きで森を駆け
崖の上に現れ、そして竜神の体を引き裂いていくのです

そのたびに、竜神は苦悶の表情を浮かべるのですが
決して痛みに叫ぶようなことはありませんでした。

「竜神よ、神々の中でも最高の力と謳われた君が
 こんなに他愛のないのでは、楽しみ様が無いじゃないか」

虎神は嘲ります、が、瞳は何故か哀しい色を湛えていました。
竜神もまた、その瞳は涙を湛えていました。

そして、竜神の涙が、零れ落ちた刹那。

二柱の神々は最後の勝負に出ました。

トスッ

マヌケな音が、やけにクリアに聞こえました
二柱の神々のぶつかる直前
虎神の体へと羽根が突き刺さりました。

そして、虎神はそのまま竜神の爪に切り裂かれると
糸の切れた人形のように、森へと落ちていきました。

目もうつろな鳥神が、最後の一撃を見舞ったのです。
鳥神もまた、森へと落ちていきました。

竜神は状況が理解できずに、しばらく呆然としていました。

そして、すべてを理解すると
竜神は大声で泣き始めました
それは世界の全域に隅々まで広がり

生き残った人や、神や、動物や
そのすべてが竜神の泣き声を聞いたのです。

戦いは、終わりを告げました。



戦いの後、命の短いことを悟った竜神は
自分の出来ることを探しました。
死せる神々の残した呪いは強く
人がその世界で生きることは難しかったのです。

生き残った神々は、竜神へと同調し
人を生かせる方法を模索しました。

世界は呪いで溢れましたが
唯一、呪いの届かない場所がありました。
虎神の死んだ森です。
虎神は、呪いの念を持たずに死んだのです。


木は枯れはて、血の川が流れ
大地は砂へと変わっていく大地を捨てた人間は
竜神の導きで森へと入っていきました。

そして、竜神は体を横たえると、虎神の横で眠りました。

おしまい。

       

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